リコーブラックラムズ東京(D1 カンファレンスA)
“パパ初勝利”へ。感謝の思いをラグビーに注ぐ男が勝利への使者となる
2週連続でホーム・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場でのホストゲームに挑むリコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)。相手は花園近鉄ライナーズだ。
前節の反省はセットピース。東京サントリーサンゴリアス戦で取られたスクラムペナルティは片手では足りない数だった。
「フロントローがパニックになってしまった」
そう正直に話したのは、BR東京のプロップ(1番)を務める西和磨である。
「僕は1番。後ろから力を押してくれる4番・6番とは意思の疎通ができていたけど、反対側(3番)でどんなトラブルが起きていて、何が原因でやられてしまっているのか把握できなかった。2番・3番へ具体的な改善策が提示できなかったこと、それが僕の反省点です」
「エナジーアップする言葉しか掛けられなかった」と悔やんだ。
「7人が頑張っても、1人のベクトルが異なったらやられてしまう。そういうところで、セイムページに載れなかった」。スクラムはフォワード8人の呼吸が合わさって初めて渾身の集合体となるのだ。
西がラグビーを始めたのは、小学2年生のとき。富山県でサッカーのクラブチームに加わると、その練習初日に加入したばかりのチームを辞めた。泣きながらグラウンドをあとにする西少年に声を掛けたのは、グラウンドの反対側で練習していたラグビースクールのコーチだった。「どうした? 一緒に遊ばないか?」。その一言で楕円球と出会った。「鬼ごっこの感覚でした。本当に楽しくて」。そのラグビースクールは、未就学児から社会人までが所属するマルチカルチャー。ゆえに、中学時代の練習相手が社会人だったこともある。
高校は親元を離れ、京都成章高校へ。大学も強豪・帝京大学から声が掛かった。大切にしている「報恩謝徳」は、小・中学生のときにラグビーの楽しさを教えてくれたコーチたち。そして高校・大学と親元を離れ、ラグビーに専念する環境を作ってくれた両親への感謝の気持ちを表す。
そんな西は、つい3週間前、父となった。
「子どもに恥ずかしくないような男でありたい」。親へ抱く感謝の気持ちを自身の子に還元する立場となった。
「まだ、息子が生まれてから勝利の報告ができていないんです。今週末こそ、絶対に勝ちたい」
前節のホストゲームから解禁された、声出し応援。「めちゃくちゃ聞こえています。本当に力になりました」。
信じ、応援してくれるファンのために。そして、父として。今週末こそ息子に待望の勝利の報せを届ける。
(原田友莉子)
花園近鉄ライナーズ(D1 カンファレンスB)
頼もしい男のカムバック。スーパーアスリートが初勝利へ導く
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 第9節の交流戦。花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)はリコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)とのビジターゲームに挑む。リーグの折り返し地点となった前節は埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)に力負けし、いまだに連敗街道から抜け出せない花園L。しかし、「スクラムは確実にドミネート(支配)できていたので、そこは次の試合でも武器になると思います」と水間良武ヘッドコーチが語ったように、チームは少しずつではあるが5年ぶりのディビジョン1の水に慣れ始めている。
けが人が相次ぎ、苦しい台所事情のチームに前節、頼もしい男が帰ってきた。
腰を痛めて昨年4月以来ピッチから遠ざかっていたワイマナ・カパがナンバーエイトのポジションで存在感を発揮した。
U20ニュージーランド代表経験を持つワイマナ・カパだが、192cm、108kgのフィジカルを生かしたパワフルさに加えて、チームの課題でもあったラインアウトでは美しささえ感じさせる強みを見せる。
ワイマナ・カパにとってディビジョン1デビューとなった埼玉WK戦では「試合に出られるだけでうれしかったです。実際は緊張していたんですけど」と本音を口にしたが、チームメートからの信頼は厚い。
キャプテンの野中翔平は言う。「彼は派手なプレーヤーじゃないですが、特にラインアウトではスキルが高いですし、ラインアウトのリーダーとして統率力もある」。
今節対戦する、BR東京は現在10位。ただ、前節は東京サントリーサンゴリアスに対して粘り強い守りで対抗しており、簡単な相手でないことは言うまでもない。
今季2試合目の先発となるワイマナ・カパは「相手は大きいチームなのでフィジカルのところで負けないことが必要になりますね。セットピース、ラインアウトのところとエッジ(タッチライン際)でボールがもらえたらそこでも活躍したいと思います」と攻守両面での活躍を誓う。
語り口は穏やかだが、内に秘めるのは試合への渇望と勝利への意欲――。ニュージーランド生まれのスーパーアスリートへの期待が高まる。
(下薗昌記)