NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(交流戦) 第9節
2023年2月26日(日)12:00 秩父宮ラグビー場(東京都)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 26-33 NECグリーンロケッツ東葛
劇的勝利を手繰り寄せたのは“1-3-3”。新しい陣形でこじ開けた堅牢
シーズン後半の初戦、NECグリーンロケッツ東葛(以下、GR東葛)が三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)に逆転勝ちを収めた。
一進一退の攻防で、どちらに転んでもおかしくない展開だった。同点で迎えた後半40分、GR東葛の攻撃6フェーズ目、レメキ ロマノ ラヴァが左サイドのスペースに出したキックパスで数的優位をつくって試合を決めた。
レメキが「まぐれ」と謙虚に振り返るプレーには、“戦術変更”というバックグラウンドがあった。
「フォワードがしっかりリロード(ブレイクダウン後にすぐに立ってもう1回アタックできる態勢をつくること)して、パンチを続ければ(パスの動作時間を短くすること)、どこかに穴ができる。そのチャンスにバックスが勢いをつければトライを取れる。 “1-3-3”の新しいシェイプ(陣形)がキーポイントになったと思います」(レメキ)
GR東葛は、「シンプルにアタックしていく」(ロバート・テイラー ヘッドコーチ)戦術をチームワークで完遂し、相模原DBの堅い守備に対して “水滴石穿”を果たした。
相模原DBの鶴谷昌隆バイスキャプテンは「最近の試合、相模原DBの強みである個々のタックルのレベルが後半に下がっています。今日の試合でもその部分からGR東葛さんに弱さを見せてしまい、最後のトライを取られました」と振り返る。
粘り強く守備をして終盤に攻勢をかける戦い方は今季の相模原DBの勝ちパターンでもある。GR東葛の「勝利への思いの強さ」を讃えつつ、選手たちは悔しさをにじませた。
4連敗からの立て直しをどう図るか、安江祥光は「昨季、9連勝から3連敗で入替戦に回るという状況を克服してきたように、われわれには修正能力があります。自分たちがやってきたことに自信を持って、それぞれの仕事を全うすれば勝てるということを、練習から意識付けすることで勝負の大きな境目を乗り越えられるはずです」と語る。
相模原DB は1トライ差で惜しくも敗れたが、課題だったラインアウトが安定し、ラインアウトモールから宮里侑樹が連続トライを奪ったことは自信につながるだろう。
「引きずらないこと。もう1回、自分にベクトルを向けてしっかり反省して、自分たちが一個一個成長していくことが大事です」(岩村昂太キャプテン)
(宮本隆介)
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「試合当初からずっと勢いが変わり続ける試合で、こちらが勢いを持っているときもあれば、相手が勢いを持っているときもありました。NECグリーンロケッツ東葛(GR東葛)さん、本当におめでとうございます。最後に勢いを持っていたのはGR東葛さんでした。大事な場面で両チームがアタックをやろうとしていた、イーブンな試合だったと思います。自分たちは最後の2、3分のところで相手を止めることができませんでした」
──今日はハンドリングミスが目立って、無理をしたような部分がありませんでしたか?
「おっしゃるとおりです。特に自分たちがいいキャリーをしたのにノックオンしたところが、前半でも5回くらいありました。それはハーフタイムで話しましたが、後半、残念だったのがスタートのプレーでまたノックオンしてしまったことです。もしかしたら、プレッシャーを感じていた、頑張り過ぎていたところがあったのかもしれません。自分もそれを見てびっくりしました。そういうところは今季、あまり見ていなかったので。修正しなければいけません」
──いま、序盤戦からチームはどういうふうに来ているのでしょうか。それを受けて、これからどうしていきたいとお考えですか?
「昇格したチームとして、毎日、毎週、学びが多いシーズンになるということはみんな、わかっていました。その例として、前半最後に自分たちがモールでラインを越えているように見えて、ペナルティを取られて戻され、惜しくもトライにならなかったところがあります。自分たちがモールで相手に圧を掛けていたところで、選手たちはもう少しペースを上げようとクイックタップのプレーを選びました。しかし、そういうところでは、自分たちがいま有利になっているモール、ラインアウトにまた行くということを選手たちは学んだと思います。自分たちはディビジョン1とディビジョン2の違いを毎週、いろいろと感じています。選手も悪くないし、そういうことを経験していろいろ学べることがあって、それが自分たちの成長につながると思います。自分たちのチームの歴史を見ても、こんなにいい状況にいたことは過去にないので前向きに楽しんでいますが、どういうリーグなのか、どういうプレーをしなければならないのかを学びながら進んでいきたいと思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「試合をとおして良いところ、悪いところ、たくさんあったのですが、その中でも最後はNECグリーンロケッツ東葛さんのほうが勝ちたいという気持ちが強かったのかなと。そこの気持ちの部分で負けたのかなという印象です」
──予想外に重圧を受けて、精度の悪さにつながったのか。実際にゲームで何か予想外の状況があったのでしょうか?
「イエローカードなどもあったのですが、先週、その改善策をしっかり全員で意思統一してきました。ただ、シンプルに個人のスキル、遂行力が足りなかったのだと思います」
──冒頭で、「勝ちたいという気持ちが相手のほうが強かった」とおっしゃいました。当然、勝ちに行っていると思うのですが、どういう理由でそのように感じられたのでしょうか?
「最後、一人ひとりがしっかり自分の役割を遂行できなかった。そういうところがプレーに表れたのではないかと思います。勝ちたいという気持ちが強ければ、そういったインディビジュアルなエラーもなかったと思います。そういったところが、本当に悔しいですけれど、出てしまったのかなと思います」
──今後、どうしていきたいと感じていますか?
「一番大事なのは、今後も試合は続くので、引きずらないこと。もう一回、自分にベクトルを向けてしっかり反省して、自分たちが一個一個、成長していくことが大事だと思います。ただ、絶対にやりたくないのは引きずること、同じことを繰り返すことです。それはせずに一個一個、成長していきたいと思います」
──勝ち越してから最後の15分のところの流れを取り切れなかった要因は、フィールドにいてどう感じましたか?
「個人のタックルミスもありました。14人になった状態で、今回はしっかりと『同じ絵』を見ることができて、先週よりは改善できたと思います。ただ、やはり最後ディフェンスしたときに、15人であったのに、ああやって裏のスペースをとられてスコアされたというのは、最初にも言ったのですが、一人ひとりの役割をしっかり遂行できなかったのが要因かなと思います」
──NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23ディビジョン1はディビジョン2より試合数が多くなっています。いま、シーズン中盤を越えて、先ほど、ヘッドコーチがおっしゃった、ディビジョン1はこういうリーグだというのを感じているところだと思います。そこで選手たちの疲労や負けが込んでいる中でのいまのチーム状態はどうですか?
「疲労がないと言えば嘘になります。ただ、メンバーに選ばれた23人は、そんなところで言い訳はできない。疲労があってもグラウンドに立った選手たちはしっかりハードワークし続けること。シーズンはまだまだ続くので、しっかり全員がハードワークをしていくこともそうですし、プレシーズンから16試合あるということはわかっていた。それに向けてハードワークしてきたので、全員でやり切りたいと思います」
NECグリーンロケッツ東葛
NECグリーンロケッツ東葛
ロバート・テイラー ヘッドコーチ
「まずはファンの方々に感謝を述べます。ありがとうございます。そして、選手たちがこれまでずっとハードワークをしてきたことを誇りに思っています。ここ数試合はチャレンジングなことばかりで、そこからよくするためにどうしたらいいかを考えながら練習をして、育んできました。今日の勝利は自分たちが“賞(reward)”として受け取るべきものだと思います。
前節の試合は勝ちそうな試合で、そこからいろいろな学びを得ました。それは落ち着いて、プランに基づいたゲームプレーをするということです。そのことをしっかりともう一度みんなで考えたことが勝利につながりました。ファンとプレーヤーにとっては喜びの“賞”をもらったと思います。最後に、レメキ ロマノ ラヴァ キャプテンはチーム全体をまとめてくれて、そのキャプテンが最後のトライを決めた。彼自身にとっても“賞”だということで、本当にうれしく思います」
──シェイプを1-3-3の形に変えた狙いは?
「簡易的にアタックしていくようにしたことによって、強度を上げ、そこにフォーカスをすることができるようになりました。それによってセットピースやアタック、クイックボールを出すといったところでも質を上げることができた。それがいい違いを生んだと思います。選手たちは向上心があるので、常に解決策をどうすればいいのかを考えてやっているので、次節もレビューをして臨みたいと思います」
NECグリーンロケッツ東葛
レメキ ロマノ ラヴァ キャプテン
「本当にひさしぶりに試合に勝って、8試合ぶりに勝てて本当にうれしいです。前節、(ロバート・テイラー)ヘッドコーチが言ったように、勝てる試合に負けて、たくさん学んだ。チーム、特にバックス、個人もそうですが、エリアマネジメントというより何でも勝負したい。何でもランしたいと思っていました。しかし、今日はずっと我慢していた。蹴って、蹴って、蹴ってエリアでプレーしたら、最後に勝った。初めてそういう勝ち方をしたから、うれしいです。チームとしてこの勝利は本当に大きい。10節、11節とホーム戦が続くので、これで自信を持って2試合とも勝てたら、来季も(NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1に)残れる。うれしいけれど、これがスタートです」
──最後のシーンは、しっかり見えた上での判断だったと思いますが、実際どんなことを考えてのプレーですか?
「その3つくらい前から、すべて外に仕掛けて、内に来て、内に来て、内に来て、相手もそうしていたけれど、最後のプレーはカウンターで、尾又寛汰選手の声も聞こえたし、内にフェイクして外に行きました。左足はあまり得意ではないけれど、左足で蹴ったら、外というよりも中に転がる。簡単に言えば、“まぐれ”でカウンターをとって、トライを決めた。コールが聞こえたから自信を持って蹴りました」
──負け続けていました。キャプテンとしてどのような苦労をされていますか?
「いつもどおりにやれば、みんなが意外と僕の話を聞いているし、スタッフも何かあれば僕から伝えたほうがたぶん、みんなが聞くと思います。ずっと試合に負けていると、バラバラになってくるから、オフなどで集まる機会を作っている。ゲームが入ると、ゲームドライバーがいるので、そんな話はしないけれど、オフのほうがみんなちゃんとまとまる」
──ニック・フィップス選手がずっといいプレーをしていると思うのですがどうでしょうか?
「すごくいい選手です。ワラビーズで(オーストラリア代表)72キャップだけあって、ワークレート(仕事量)がとても高い。普通のスクラムハーフより、体が大きいし、タックルやジャッカルが速いし、ずっと動く。同期だけど、とても元気な人。彼は練習でもオフでもスタンダードの高さをずっと維持しているプロフェッショナル」
──最後のキックの前10分くらい敵陣で攻勢を掛ける時間帯が、ロマノ選手の突破を含めてあったと思うのですが、あのあたり、ビハインドでチームの雰囲気はどういう感じでしたか?
「ボールキャリーすると前に出る。シェイプ(形)は前節から1-3-3に変わった。うちのやりたいラグビーは1-3-3のほうが、たぶん、やりやすい。それまでのシェイプだと、60分まではたぶん、できるけれど、おそらく80分まではできていない。しかし、いまのシェイプなら簡単。フォワードがしっかりリロードするだけ。パンチだけすれば、どこかに穴が空いてくるので、そのチャンスにバックスたちが勢いをつければトライを取れる。この新しいシェイプがキーポイントになったと思う」
──オフフィールドでいろいろつながれるようにしてきたとおっしゃいましたが、どのようなことをしてきたのですか?
「普通に、若手をごはんに連れて行ったり、寮でみんなを集めたりして、ごはんを買ってきて(一緒に食事をする)。1時間でもオフの時間を増やして、みんな仲良くなれば、試合にも全部つながる。結構、いい状態になっています。後輩たちが『明日休みだからごはんに連れて行ってください』と連絡してきて、『ああ、わかりました』と。そういう関係をいま、作っています。それが全部ラグビーにつながっています」