NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン2 第8節
2023年3月12日(日)14:30 三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 サッカー・ラグビー場 (三重県)
三重ホンダヒート 46-17 清水建設江東ブルーシャークス
三重H、2位以上確定の陰で。
未来につながるルーキーたちの奮闘
リーグ戦最後のホストゲームを迎えた三重ホンダヒート(以下、三重H)。小雨降る中でも多くの家族連れで賑わった第8節は、清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)を相手に前半から三重Hが流れをつかむ。プレーヤー・オブ・ザ・マッチを獲得した本村直樹の2トライを含む計7トライで勝ち点5を奪い、順位決定戦前、リーグ戦暫定2位以上を確定させた。
順風満帆に見えた三重Hだが、その裏には想定外の事態もあった。
この日がリーグワン初キャップとなった22番・川合カイトが登録メンバー入りを告げられたのは、金曜日。試合わずか2日前のことだった。もともと出場予定だった選手のコンディションが整わず、急きょジャージーが与えられる。「素直に、すごくうれしかったです」とその時を振り返った。
つかんだチャンスをものにすべく、「求められていることを自分なりに考えて、全うしよう」と運命の日を迎えると、後半27分、ついにピッチに立つ。出場時間が短かったこともあり「やりたかったことができず、自分の強みも出せなかった」と満足した表情は見せなかったが、それでもゴール前での力強いボールキャリーは見せた。
自身の強みはディフェンス。だから「力強いディフェンスでチームに勢いを与えられるような選手になりたい」と将来像を描く。しかしディフェンスリーダーを務める同ポジションのクリントン・ノックスは、川合に対してそれ以上の評価を抱いていた。
「ポテンシャルがすごい。本人はディフェンスが強みと言っているけど、アタックもすごく上手。これからどんどん強くなっていくと思う。楽しみにしています」
高校でラグビーを始め、大学卒業と同時に第一線から退こうとしていた1年前。その先の未来を切り開く一歩目を、ここ鈴鹿で踏み出した。
一方、今季公式戦での勝利がない江東BSは、昨年4月に加入したルーキー4名を先発で起用。ゲームメークを、そのうちの一人、桑田宗一郎に任せた。大隈隆明監督は起用理由について「体はすごく小さいのに、外国人選手だろうが一発で仕留める。そのタックルに、私自身すごく惚れ込んでいます」と絶賛する。
日中は建設現場の現場事務。朝7時半には会社に到着し、職人たちとコミュニケーションを取りながら、円滑に物事が進むよう気を配る。いささかスタンドオフと通ずる部分もあるのだろう。
「いまはまだ、先発の10番やリザーブとしての22番などバラつきが多い。安定したプレーを継続的にすることで、このチームにとって絶対的な10番になりたい」
小さな体で、大きな夢を描く。
(原田友莉子)
三重ホンダヒート
三重ホンダヒート
上田泰平ヘッドコーチ
「少し雨も降りましたが、お客さんもしっかりと入ってくれました。ホストとして、三重県ラグビーフットボール協会をはじめスタッフの方々が準備をしてくれたおかげで、良い環境の中で試合を進められたことに感謝しています。
清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)さんは非常に良いチーム。一人ひとりがしっかりと体を当てられるチームでした。なかなか崩すことが難しかったですが、後半はリーダー陣を中心に『個でなくチームとして1%でも上げながら戦っていこう』という気持ちを出せたのではないかなと思います。その結果、チームとしても規律高く、引き締まったすごく良いゲームができたのではないでしょうか。
また最後に一つ、個人的な話をさせてください。昨日3月11日を迎えましたが、被災された地域の方々に向けて、たとえばいまだったらWBCをはじめとするスポーツの力でエネルギーを与えることができていると思います。僕たち三重ホンダヒートとしても、東北でラグビーを見てくれている方々、被災し頑張っている方々に対して、引き続きエネルギーを送れるように、ラグビーを通じてパワーを送れるように。僕たちも努力を継続していきたいと思います。
また何かあれば、声を掛けていただきたいと思います。ぜひ、三重ホンダヒート(以下、三重H)のラグビーを見てください。応援、よろしくお願いします」
──入替戦が近づく中で、残り1カ月をどう戦っていくかプランニングがあれば教えてください。
「ディビジョン2は(上位も下位も入替戦があるため)必ず5月までどのチームもシーズンがあります。だから毎日1%でもいいので、チーム全体としてパフォーマンスを上げていこうという話をしています。僕は1日1日、ベストな練習を作る。選手たちは、メンタルを整えて日々の練習に挑む。だから残り1カ月半で、恐ろしく伸びるんじゃないかなと期待をしています」
──どのあたりにチームとしての1%の積み重ねを感じますか。
「チームとして感じるのは、キャプテンの古田(凌)を筆頭とするリーダーシップグループの成長です。
基本的に僕ではなく、リーダー陣がすべてまとめて、1週間の流れを作ってくれています。そこは本当に大きく進歩している部分です。リーダーたち自身でしっかりとストラテジーを組めているので、僕が言わなくてもグラウンド上で修正ができる。だから今日はどこの部分で1%上げなければならないか、というのもリーダー陣がしっかりと判断できています。そこはプレシーズンから考えると、すごく大きな進歩だと感じます」
──カテゴリーCの選手たち(フランコ・モスタート、パブロ・マテーラ、トム・バンクス)は、チームにどのようにフィットし、どのような影響を及ぼしているのでしょうか。
「国際経験豊かな3人で、彼らには発言力があります。だから彼らに求めているのは、正しいことをしっかりと伝えてほしいということ。練習前の準備だったり、ゲームウィークの月曜日の入り方であったり、全員が当たり前だと思うことでも彼らの口から言ってもらうようにしています。親に言われるよりも、学校の先生に言われるほうが言うことを聞くのと同じような理論です。より影響力がある人に言ってもらったほうが、同じことを言ったとしても伝わり方が違います。なのでそこは、彼らが常に正しいことを言ってくれていることに、本当に感謝しています」
──復帰してからさらに素晴らしい活躍を見せているヴィリアミ・アフ・カイポウリ選手の評価はいかがでしょうか。
「自分の強みをしっかりと出してくれている、というのが正直な印象です。彼は練習から100%のハードワークをする選手で、練習後のケアや練習前の準備もしっかりとできる選手。アスリートとして素晴らしいと思っています」
三重ホンダヒート
古田凌キャプテン
「リーグ戦ラストとなるホストゲームで勝利を収められたことをすごくうれしく思います。
前半はトライを許さず、自分たちのペースでラグビーができている感覚がありました。後半は規律の部分で正しい判断ができないところも少しあったのですが、しっかりと修正しながら良い部分がたくさん出た試合だったと個人的に思っています。勝利ができたこと、うれしく思います」
三重ホンダヒート
クリントン・ノックス選手
──復帰後、好調が続いています。
「昨年6月にひざの手術をし、手術後1カ月は車いす生活でした。ゲーム復帰は1カ月前。けがを治すのに時間もかかったし、メンタルもつらかったですが、だからこそいまラグビーができることに本当に感謝しています。三重ホンダヒートに貢献できることが幸せです」
──日本語もとても流暢ですね。
「良いチャレンジだと思って、22歳で秋田にやって来ました。日本の文化も好きになって、ラグビーももちろん楽しいので、ずっと日本でラグビーをやりたくなりました。秋田と三重で日本語を教えてくれた日本語の先生たちに感謝しています」
──今後はどのような目標を持っているのでしょうか。
「昨年からカテゴリーAになりました。できたら日本代表として活躍したいという思いもあります。それが一番の目標です。そのためにアタックもディフェンスも努力して、そしてリーダーグループの一員としてチームに貢献することで、毎試合良いパフォーマンスを出せたらアピールにつながるのではないかと思っています」
清水建設江東ブルーシャークス
清水建設江東ブルーシャークス
大隈隆明監督
「前節は規律の部分でペースをつかめなかったので、そこを修正し、チャレンジしようと挑みました。ですが三重ホンダヒート(以下、三重H)のプレッシャーもあり、修正できずシンビンが二人出てしまいました。チャレンジする上で、規律を守り続けないと勝利は見えないと思います。80分間のうち20分間、14人で戦わないといけないとなると難しい。もう一度同じ課題を持ち帰って修正したいと思います。
それでも、世界トップクラスの選手たちを擁するチームを相手に、本気で戦える機会ということで、良いチャレンジはあったので、そこは評価したいと思います。次戦まで1週間しかないので、修正して第9節に挑みます」
──どういうところに一番差を感じましたか?
「一人ひとりのフィジカル差ももちろん感じましたが、そこで負けていることよりも、自分をコントロールする部分だと思いました。今日も不必要なペナルティが多かったので、ファイトする部分と冷静な頭を持つバランス。あとはブレイクダウンのところですね」
──この1週間でどう規律を直そうとしたのか、また今日の試合を踏まえてこれからどう直していきたいでしょうか?
「先週の浦安D-Rocksさんとの試合映像を切り取り、不必要なペナルティの映像を選手と共有しました。ここはいらなかったよね、でもペナルティすることによって、どういうことが起きるのかと説明をしました。無駄なエネルギーを消費し、体力を削られ疲労が蓄積していく部分を、もう1度チームで映像を交えながら共有しました。
そうして今日も臨んだのですが、また同じように不必要なペナルティをしてしまったところがあります。でもそれは、選手たちが三重Hさんに対して『やってやろう』という気持ちが強いがゆえ。熱くなっている部分とのバランスはちょっと私のほうで伝え切れていなかったので、そこは来週に向けてもう一度反省します」
──今日も若い選手たちを起用しましたが、どのような意図があったのでしょうか。
「単純にパフォーマンスで評価しています。そして『やってやろう』という気持ちが若い選手たちは特に強いと感じます。われわれは仕事とラグビーを両立しているので、練習時間が限られているのですが、その中で全力でラグビーに取り組む姿勢、そして体を張る部分からその気持ちを特に感じています。ディフェンスでもアタックでもどちらでも体を張っていて、チームにエネルギーを与えてくれています」
──桑田宗一郎選手への評価を教えてください。
「見てもらったら分かるとおり、体はすごく小さいです。でも相手が外国人選手だろうが、一発で仕留めるタックルに私自身すごく惚れ込んでいます。ラグビーファンの方、試合を見に来た子どもたちには、その勇気ある体を張ったプレーを見てほしいです」
清水建設江東ブルーシャークス
マーフィー・タラマイ ゲームキャプテン
「三重ホンダヒートが良いプレーをしてくれたことにまずは感謝します。監督も言ったように、規律のところで少し足を引っ張ったと思います。簡単にペナルティを与えていたら勝てません。それでもフィジカルの部分ではチャレンジできたので、そこは次の試合にも好材料として持っていきたいと思います」
清水建設江東ブルーシャークス
桑田宗一郎選手
──監督が評価している「やってやろう」という気持ちをどのように練習から出していますか?
「自分は体が小さいぶん、相手選手からしたらかなり狙いどころ。ですが性格的に負けたくないという気持ちが強いので、体の大きさを補うために、低さとスピードで僕は戦っていかないといけないと思っています。そこを練習から意識して取り組んでいます」
──チームを勝利に導くため、10番として何が必要でしょうか。
「今日はもう少しボールを動かせたかなと思います。アタックの時間が根本的に少なかったですね。ディフェンスを頑張ってもトライは取れないので、アタックの時間を増やすようなマネジメントをしていきたいです。そして外側には強いランナーがいるので、そこにボールを渡すことをもっと細かいところまで突き詰めていきたいです。そのためにも自分が先陣を切ってやっていく必要があるかなと思います」
──4人の同期と同時に出場しました。
「同期と一緒に出るのはすごくうれしいですね。試合前にはホテルで話をすることもあります。自分たちの試合についても、海外のラグビーについてもよく話をしますね。練習でもお互いにこうしたい、ああしたいと言い合える、いい関係が築けていると思います」
──仕事との両立には慣れましたか?
「最初は大変でしたが、チームも職場もいい環境に恵まれています。いまはもう慣れてきて、充実した日々を過ごせています。
明日も7時半には会社へ着けるように行こうかなと思っていて、そのスタイルはシーズンが始まっても変わりません。そこはチームの方針でもあります。でもだからこそ、周りからすごく応援されていると感じるんです。フルタイムで仕事をして、終わったあとにラグビーをするほうが関わる人が増える。仕事中にいろいろな人と関わるので、そのぶん職場の人たちからも応援してもらえています。試合にも応援に来てくれています。
ラグビーにも仕事にも、良い影響を与えてくれていると感じます」