NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第16節 カンファレンスA
2023年4月21日(金)19:00 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東芝ブレイブルーパス東京 22-34 埼玉パナソニックワイルドナイツ
優勝に届かずとも示し続けた誇り。狼士たちは猛々しく、勇敢にシーズンを戦い抜いた
東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)は4月21日、秩父宮ラグビー場で埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)に22対34で敗れた。この結果、リーグ戦の5位が確定し、上位4チームが出場するプレーオフトーナメント進出には届かなかった。
「猛勇狼士」というチームスピリットと「我ら、接点無双、猛攻猛守の紳士なり。」という言葉を掲げて戦ってきたBL東京のシーズンが終わった。最終節までもつれたプレーオフトーナメント出場権争いで、埼玉WKに勝つことで4位の横浜キヤノンイーグルスにプレッシャーを掛けたかったが、前半にキックで陣地を取られ、ペナルティを連発し、0対19と差をつけられたことが響いた。
キックに定評がある埼玉WKに対し、広いエリアをカバーしていたのがBL東京のトム・テイラーだった。ニュージーランド代表3キャップを持つ34歳は、相手のキックを見極める力と豊富な経験を生かして、さまざまなキックに対応した。ただ、それはチームとして改善すべきポイントでもあった。
「(キックに一人で対処するケースがあったことが)まさに問題点でもあったと思います。チームとしてしっかりとスペースをカバーし切れなかった部分もありました。埼玉WKは実際に良いキックも多く、キックで上回ってきました」
それでも、後半にBL東京は反撃を開始。19分にジョネ・ナイカブラがチーム初トライを決めると、29分には橋本大吾がゴールラインに飛び込み、35分にはトム・テイラーのアシストから徳永祥尭がトライを決めた。
トム・テイラーは「チャンスはあって、すごく良い瞬間もありましたが、シーズンが終わってがっかりしています」と寂しげに語った。
BL東京は来季からニュージーランド代表44キャップのリッチー・モウンガの加入を発表している。同じポジションのトム・テイラーが、試合を振り返る。
「個人としてはこのチームで最後の試合になる可能性もありました。もちろん、どの試合が最後の試合になるかは分からないのですが、このチームメートとプレーすることを楽しもうと思っていました」
トム・テイラーは練習では無邪気な学生のように楽しむ場面も、コーチのように助言を送る場面も、求道者のように黙々と個人練習をする場面もあった。
「チームに残ろうが、離れようが自分のスタンダードは変わりません。できることはすべてやります」
敗戦直後の厳しい瞬間にも、話しづらいはずの契約の話に答えるトム・テイラーは紳士的であり、チームへの愛も感じさせた。
徳永はトライを奪った瞬間に、足から滑り込んできた相手を笑顔で抱き起こした。試合後の会見ではトッド・ブラックアダー ヘッドコーチが自ら報道陣へ感謝の気持ちを伝えた。
激しく戦いながらも紳士、侍の精神を持つ「猛勇狼士」。悲願の優勝には届かなかったが、チームは誇り高く、全力を尽くしてシーズンを終えた。
(安実剛士)
東芝ブレイブルーパス東京
東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ
「前半に埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)がポゼッションのほとんどを得ていました。私たちはキックの部分、規律の部分で流れを取れませんでした。埼玉WKの経験の高さを見せられました。ただ、選手たちのことを誇りに思います。
ハーフタイムの時点では希望を持っていました。実際にプレーできる自信がありましたし、ボールを持てるように変えたいと思って、選手は全力を出してくれました。特別なことをやろうと無理をした部分もあったかと思いますが、自分たちの戦う姿勢、魂は見せられました。ボーナスポイントを取ろうとベストを尽くしました。とても良い試合でした。
シーズンが終わってしまったことを寂しく思います。今季は素晴らしいラグビーをプレーできましたし、最後の最後まで挑戦し続けたところは見せられたと思います」
──埼玉WKとの差は?
「特に前半のブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で相手の攻撃をスローダウンさせられませんでした。オフサイドのペナルティを取られたのは、ブレイクダウンに時間を掛けさせることができなかったのが原因です。フィジカルの部分が不十分で、あとは落ち着いてプレーしなくてはいけないという部分も必要でした。プレッシャーが掛かる中でボールを取り返したときに落ち着いてプレーできませんでした。そういう部分が課題だと思います。
プレッシャーを掛けられたことでペナルティを連続してしまい、(10分間の一時退場となる)イエローカードを出されると埼玉WK相手では厳しい試合になります。ただ、そこまで遠くないとも思っています」
──今日の試合でプレーできなかったワーナー・ディアンズについては?
「けがをしていてプレーできる状態ではありませんでした。日本代表には間に合うと確信しています」
──今季の成長は?
「かなり成長できたと思っています。アタックの数値的にはリーグ一と言っても過言ではありません。ラグビーの質に関しても今季はかなり良くなりました。誇りに思っているのは選手層も構築できつつあることです。
けが人が出ているにも関わらず、プレーできているのは選手層を獲得しつつあるからです。若手はもっと成長できますし、今日の試合から継続して学ぶことが大切です。プレッシャーへの対応、セットピースの重要さが明確になりました。成長できた年だと思いますが、プレーオフトーナメントに出られなかったことは残念です」
(退席のタイミングでトッド・ブラックアダー ヘッドコーチから)
「チームを代表してあらためて伝えさせてください。メディアのみなさんに感謝の気持ちをお伝えします。私たちのチームだけでなく、ラグビー全般を取り上げてもらいました。みなさんの仕事がどれだけインパクトを与えているか、かけがえのないものです。素晴らしい仕事をしてくれてありがとうございます。ラグビーにとって素晴らしいことだと思います」
東芝ブレイブルーパス東京
小川高廣 共同キャプテン
「トディ(トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ)からも練習中にオフサイドと規律のところは言われていました。自分は今日の試合ではあえてそこは言わないと決めていたのですが、結果的にオフサイドを取られてがっかりしたというか……。こうなると自分たちは苦しくなるなと思いました。
後半に控えの選手も入って、23人で戦えたのは自分たちが強くなっている部分でもありますし、自分たちの自信をなくすことなくシーズンを終えられたのは良かったと思います。また来季がんばりたいと思います」
──後半の追いかける展開でもハイパントを蹴っていた狙いは?
「キックを上げたところを再獲得してより前で戦いたいという狙いでした。どれだけ『攻めないといけない』とは言っても、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)相手に自陣から攻め続けるのは難しいので、そういう判断でやっていました。
ただ、結局、蹴ってもジョネ・ナイカブラらが疲れて追えていなかったこともあったので、しっかりセットしてからやらないといけなかったと思います」
──埼玉WKの印象は?
「ブレイクダウンを自分たちは意識していて、序盤はそんなに悪い感覚はありませんでした。前半にキックがすごく多かったのでそこに頭がいってしまい、そのあとに攻めたらブレイクダウンで激しく来られた感じでした。埼玉WKの切り替えの速さを感じました」
──規律の部分をあえて言わなかった理由は?
「あまり言い過ぎてネガティブになってほしくないなと思いました。自分たちの強みはディフェンスでラインスピードを出すことですが、『言い過ぎることでそこがなくなってしまうのは……』と思いました。あとは練習でこれだけ言えば大丈夫だろうと思っていました」
──終わって相手チームの選手と話しましたか?
「あまり話してないですね。(竹山)晃暉と『ゴルフに行こう』という話はしましたけど(笑)、それぐらいですかね」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督
「リーグ戦が終了しましたが、良い締めくくりができました。選手たちについて誇りに思います。プレーオフトーナメントに進出できるのは喜ばしいことです。これは偉業だと思いますし、軽んじてはいけないと思います。
もう一つの要素としては、ここまで出場機会のなかった選手たちに出場機会を与えられたのはポジティブなことです。
ただ、ここからまたプレーオフトーナメントが始まります。選手たちはこのためにハードワークしてきましたし、このためにシーズンの最初から努力をしてきています」
──満足している点は?
「自分たちがどうやって立て直すかが重要なポイントでした。今日はポジティブなプレーができていたと感じて、その上で結果も得ることができました。先週の試合に敗れましたが、われわれはプレーオフトーナメントの出場を決めていたので難しい試合になると思っていました。残留を争うチームや、プレーオフトーナメント出場権を争うチームと戦うのは難しかったのですが、今日の試合のように選手たちは自分で立て直すことができました」
──後半21分に好調だったルード・デヤハーらを交代した意図は?
「クレイグ・ミラーとルード・デヤハーはけがからの復帰明けということもあるので、彼ら自身に焦点を置いて交代を選びました。戦術的交代というよりはこれから何に向かっていくかをチームとして鑑みて、このタイミングで交代と考えました」
──連勝が続いていたところから敗戦を経験しての試合は、指導者として持っていきやすいのでしょうか?難しいのでしょうか?
「難しいと感じています。連勝していると簡単なように見えるかもしれませんが、実際にはそうではなくて、いろいろな挑戦が待ち受けていました。それに対してどうやって結果を得ていくかが大事だと考えています。チームや選手の課題を一つひとつ修正していって、1週間の中でどうやっていくかを考えながらやっています。
(スーパーラグビーの)クルセイダーズでも2002年はシーズンをとおして無敗でしたが、ハーフタイムに入る前に接戦だったり、負けていたりすることも多かったです。私たちの昨季に似ていて、ハーフタイムまでは負けていても、どうやって解決策を見つけていくかが重要です。失敗から学んでどうやって勝ちにいくかを突き詰めていくこと。それができなければ負けてしまいます。
このチームに関して言えば、彼らの働き方はどん欲で満足しています。先週は馬から転落してしまいましたが、その馬にまた乗って駆け出すことができました」
──プレーオフトーナメントまでの準備は?
「リカバリーをさせながらプレーオフトーナメントに向けて準備していこうと思います。2週間の期間が空くのは新しいことなのでチャレンジングだと思いますが、やっていかないといけないと思います」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン
「今日はみんなのゲームに対する姿勢、準備に対する姿勢が出たゲームだと思うので、ハッピーな、良いゲームができたと思っています。もちろんミスもありましたし、修正点はたくさんあるのですが、先週の負けからどう準備するかにフォーカスして、その準備をみんなが100%遂行できたから、今日のようなゲームができたと思います。
チームとしてポジティブで、これから始まるプレーオフトーナメントに向けて良い準備ができましたし、自信の付くゲームになったと思います」
──先週からどのあたりを修正しましたか?
「いろいろあったのですが、特にセットピースのところを修正しました。良い形でスクラムを組めたと思います。規律の部分も前半はよく守れていましたし、後半は不運なペナルティもありましたが、良い形でゲームを進められたと思っています。セットピースや意識の部分はゲームの流れを決めていくものなので、しっかり修正していきたいです」
──前半37分、40分と連続してトライを取りましたが?
「前半にトライを取りに行くことを今週は意識していました。いつもは3点を狙うところでもタッチを狙ったり、スクラムを選んだりして相手にエリアとトライでプレッシャーを掛けたかったゲームでした。その中でカウンターからトライが生まれたのは良いことだと思いますし、セットピースからも良いアタックができました。
前半最後のカウンターは(埼玉パナソニック)ワイルドナイツらしいカウンターアタックだったと思うので、すごく良い判断を全員がしたと思います」
──敗戦からの学びはありましたか?
「キャプテンとして、選手個人としていろいろありましたが、チームとしては負けたことをネガティブに捉えがちですけど、負けたという現象だけを考えるのではなくて、どういった理由があったとか、どんな原因があったのか、どう修正するのか、そういうところにフォーカスを置いたのでそこまで難しい1週間ではなかったです。
チームメンバー全員、そんなにネガティブなことはなく、みんなが次に向かって良い準備をしようとしてきました。
週の初めに東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)がいま、どんな状況かを確認して、どうやってモメンタム(勢い)を与えないようにするかなどの共通意識を確認しました。
個人としてはセットピースをしっかり立て直すこと。クレイグ・ミラーとも平野翔平とも話して、また、スクラムは3人で組むのではないので、後ろの5人に助けてもらうようにアプローチしてきました。特に後半は良かったと思います」
──BL東京の状況についてはどのように確認したのですか?
「BL東京はポイント数で横浜キヤノンイーグルスと競っているので、ボーナスポイントを獲得するためにアタッキングマインドで来ると確認しました。その中で自分たちがどうするか、対抗する姿勢についても話しました。その姿勢が今日は良かったです。
前半を19対0で折り返しましたが満足するのではなく、後半の40分のまた1秒目からどうプレッシャーを掛けていくかを話しました。ファーストタックル、ファーストコンタクト、ファーストキャリーからドミネート(支配)しようと話しました。
試合後にはBL東京のみんなが『がんばれよ』と言ってくれました。リーチ(マイケル)さんもトク(徳永祥尭)さんも、みんなですね。託されたと思って、優勝できるようにがんばっていきたいと思います」