九州電力キューデンヴォルテクス(D3)
「僕にとっては父親」。昇格を決めて、恩師を胴上げするために──
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン2/ディビジョン3 入替戦第2戦。ビジターでの第1戦を48対0で勝利した九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)は昇格の瞬間を九州のラグビーファンと分かち合うべく、13日14時30分から佐賀県鳥栖市の駅前不動産スタジアムで清水建設江東ブルーシャークスとの“決戦”に臨む。
ウォーカー アレックス拓也の人生は何気ない誘いから大きく変わった。法政大学を卒業後、ラグビー留学を計画していたが新型コロナウイルスの世界的な蔓延もあり、断念。「正直、ラグビーを辞めようかなと思っていた」とフラフラしていたとき、学生時代の友人からバーベキューに誘われる。そこにはその友人の父親であり、現在、九州KVの赤間勝監督がいた。ウォーカーにとっては、以前所属していた福岡の少年ラグビークラブ、かしいヤングラガーズ時代の恩師でもある。
「そのときに『いま、どうしてるんだ?』と聞かれて、『何もしていないんです』と答えました。そうしたら『じゃあ、練習生として来いよ』と言われて。そこで通訳兼練習生としてチームに入れてもらいました」
九州KVの練習に参加すると、燃え尽きたはずのラグビー熱が消えていなかったことを感じた。
「『ラグビーってこんなに楽しかったっけ?』と思って。そこからまたラグビーを頑張れるようになりました。同期も良いヤツばかりだったし、メンバーが最高だった。とにかく楽しかった」
しかし、立場はあくまでも通訳兼練習生。正式に選手の一員となるには入社試験をクリアし、社員選手として加わるしかなかった。
「SPI(適性検査)の過去問も解いたりして、とにかく勉強しました。『このチームに残りたい』、その一心でやっていました」
その頑張りの甲斐もあって入社試験を突破。ウォーカーは晴れて選手として九州KVの一員となった。きっかけは何気ないバーベキューの誘いから。それでも、ここまで導いてくれた赤間監督への思いは人一倍、強い。
「かしいヤングラガーズ時代の恩師でもあるし、本当にいろいろなことを教えてもらいました。ときには厳しいことも言われましたし、ここに入ってからも社会人としての心構えも教えてもらいました。僕にとっては父親です」
赤間監督は入替戦第1戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチを獲得した“愛弟子”の姿に「良い選手になりました」と目を細めた。「彼にとって私は父親のようなものですから」と言うように赤間監督のウォーカーへの思いもまた強い。
「できることなら勝って昇格を決めて、赤間さんを胴上げしたいなと思っています。イヤがるかもしれないけど、それでも強制的に連れてくることができるのが僕なので」
描く情景を実現できるところまであと少し。“父親”への恩返しを胸にウォーカーはこの一戦に臨む。
(杉山文宣)
清水建設江東ブルーシャークス(D2)
「こんなもんじゃない」。残留のために、すべての想いを乗せて挑む一戦
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン2/ディビジョン3入替戦第2戦。清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)にとって、ディビジョン2残留のためにすべての想いを乗せて挑む一戦となる。
強風の中、江東区夢の島競技場で行われた第1戦、江東BSは前半に風下をとった。耐える展開になることは想定内だったが、押し込まれてしまい、なかなか敵陣に入ることができず0対36で前半を終えた。風上となる後半にも相手の勢いを止めることができず、0対48でノーサイド。自分たちのラグビーができず、非常に悔しい結果となった。
ラグビーは、メンタル面が大きくプレーに影響するスポーツであり、そのメンタル面へのアプローチを大切にしたという大隈隆明監督。選手の中には、勝てない試合が続き、入替戦第1戦で大敗してしまったことで、「どうしたら良いのか…」とパニックになってしまう選手もいた。その中で、大隈監督は選手と会話をすることを大切にし、ミーティングではやるべきことを“いかにシンプルに伝えるか”という点を重視。言葉掛けもそうだが、分かりやすく映像を切り取って選手たちに共有した。
そこで、『やることは一つ。49点差をつけて勝つだけ』と再確認。約1週間という短い期間の中で、取り組むことは変えずに、1年間やり続けた“攻撃的なディフェンス”とスペースを作って速くボールを展開する“スペースクリエイトアタックラグビー”をあらためて確認し、チームの特長を出すことに専念している。
ゲームキャプテンを務めることが多いマーフィー・タラマイはプレーでチームを引っ張る姿が印象的だ。今季、個人ランキングでは、ボールキャリー2位、タックル成功4位、ゲインメーター6位と数字としても表れている。今季は昨季よりも出場時間が増え、本人としても手ごたえを感じているようだ。それは、「周りのプレーヤー・コーチ陣のおかげ」だと感謝を口にし、普段から「基本をどれだけできるかが大切」というメッセージをチームに落とし込むなど、プレー以外でもチームを支えている。
チームのテーマとして、先週から“ユニティ=結束”を掲げ、意識の統一を図ってきた。プレーの合間に選手同士で円陣を組み、深呼吸をして、一度落ち着いてから司令塔の選手にどう修正していくかを確認している。
先週の試合後に、江東BSのファン主導でメッセージを募り、応援メッセージで埋め尽くされた横断幕がチームにプレゼントされていた。
今季最後の試合となる5月13日(土)の第2戦。最後まで応援し続けてくれたファンの方になんとしても“ディビジョン2残留”というプレゼントを贈りたい。大隈監督は、「今季のブルーシャークスはこんなものじゃない」、「今季なかなか出せなかったブルーシャークスらしさを、とにかく悔いなく出してほしい」という想いを伝え、選手たちを九州の地に送り出す。
(山村燿)