NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン 2/ディビジョン 3 入替戦 第2戦
2023年5月13日(土)14:30 駅前不動産スタジアム (佐賀県)
九州電力キューデンヴォルテクス 12-17 清水建設江東ブルーシャークス

昇格達成の裏で、主役たちを輝かせた黒子。幸せを胸に、3度宙に舞う

九州電力キューデンヴォルテクスはディビジョン3で2位となり、この入替戦に進出。見事、ディビジョン2への昇格を果たした

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン2/ディビジョン3 入替戦第2戦。駅前不動産スタジアムで行われた一戦は清水建設江東ブルーシャークスが九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)に17対12で勝利。しかし、2戦合計の勝ち点で九州KVが上回り、ディビジョン2昇格を決めた。

「しあわせですよ」

入替戦第2戦を前に赤間勝監督は感慨に耽っていた。監督に就任して3年。託されたのは「ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチのラグビーを表現するための環境を整えること」(赤間監督)だった。チーム強化は当然のことながら、練習前のライン引きに加えて、休日練習の際には選手が練習に集中できるようにと選手の子供たちを預かり、面倒を見ることもあった。それもすべてはゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ、選手たちがラグビーに集中する環境を作るためだった。

コロナ禍もあり、決して順風満帆ではなかったが、入替戦第1戦で見せたチームの姿は赤間監督の心を熱く打った。昇格という結果が出る前だったが、自らが関わったチーム作りの成果は幸福感を得るには十分すぎるものだった。

「いまのグループの成功は赤間さんがそれだけ尽力してくれたからです。だからこそ、チームはこれだけ成長できたと思っています。赤間さんがしっかりと仕事をしてくれましたし、その彼と一緒に目標を達成できたことはうれしく思っています」

3年間、苦楽をともにしてきたゼイン・ヒルトン ヘッドコーチは赤間監督への感謝を昇格後の会見で語った。そして、3年前、赤間監督から「お前に懸けたい」という言葉とともにキャプテンの任を託されたのが高井迪郎だ。「本当にすごいキャプテンなんですよ。本当に頑張ってくれています……」とその姿に赤間監督が言葉を詰まらせたこともあるほどで、お互いへの思いは強い。

「3年間本当にサポートしてもらったなと思います。ディビジョン2昇格という結果は間違いなく、赤間さんの力があると思っています」

高井キャプテンもまた、赤間監督への感謝を昇格後の会見で述べている。表舞台でスポットライトを浴びるような役割ではなかったかもしれない。しかし、成功の裏には必ず、主役たちを輝かせる素晴らしい黒子がいるものだ。

昇格決定後、選手たちによって3度、宙に舞った赤間監督。その光景は実に美しいものだった。

(杉山文宣)

九州電力キューデンヴォルテクス(D3)

九州電力キューデンヴォルテクスのゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ(右)、高井迪郎キャプテン

九州電力キューデンヴォルテクス
ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ

「みなさん、ありがとうございました。清水建設江東ブルーシャークスさん、本日の勝利、おめでとうございます。本当に激しい戦いをされて、試合をとおしてたくさんの良いところがあったと思いますが、思うようにフィニッシュできませんでした。先週とはまったく違った試合になってしまいました。クロスゲームで負けてしまったのは残念ですが、ディビジョン2に上がることが私たちのゴールだったので、そこに関しては達成できてよかったです」

──赤間勝監督とは3年前からともにチーム作りをされてきました。昇格という成果を挙げて、赤間監督に対する思いはいかがでしょうか?

「赤間さんとはおそらく、12年来の友人だと思いますが、私が初めて来たときは赤間さんがチームのマネージャーをされていました。長い間、良い友人関係でしたが、赤間さんが3年前から監督という立場になられました。3年前から『このチームのカルチャーを作っていこう』と話をしてきましたし、『BROTHERHOOD(チームスローガン、兄弟愛の意)』ということを言ってきて、家族、会社、ラグビー、そのすべてをとおして取り組んできました。赤間さんが監督になられてからその部分をしっかり指揮してもらいましたし、いまのグループの成功は赤間さんがそれだけ尽力してくれたからです。だからこそ、チームはこれだけ成長できたと思っています。赤間さんがしっかりと仕事をしてくれましたし、その彼と一緒に目標を達成できたことはうれしく思っています。本当に彼にはこれ以上ないくらい感謝しています」

──今季の躍進の要因はどんなところにあったのでしょうか?

「今季をとおして見てもらうと、私たちのベースをどう試合でプレーしていくのか。その理解がかなり深まったと思いますし、それを遂行できたと思います。今日はそれがなかなかできなくて苦戦しましたが、どういうふうにプレーするかの理解は深まったと思います。一番大きかったのは、私たちのベースに私たちのカルチャーである『BROTHERHOOD』が融合した。そこが大きかったと思っています」

──気は早いですが、来季の目標は?

「新しいターゲットをしっかりセットしたいと思います。先ほど、ロッカールームでも話をしたんですが、来季は(ディビジョン2で)トップ3にしっかり入って、(ディビジョン1に)昇格しようということを伝えました。それができるだけの力があると思っています。次のレベルでも私たちのパフォーマンスに対して一貫性をもってプレーする。そのための準備ができていると思います。高井(迪郎)キャプテンが言ったように若い選手たちが成長していますし、それは楽しみなことです。どんなことでも起こり得ると思います」

九州電力キューデンヴォルテクス
高井迪郎キャプテン

「みなさん、今日はありがとうございました。清水建設江東ブルーシャークスさんにも感謝したいですし、何よりもこの雨の中、多くの方々に来ていただいたことはありがたく思っています。ゲーム内容は良くなかったと思います。ウチとしてやりたいことができたのは前半の最初。それから苦しい時間があり、我慢できる時間もありましたが、さっき、ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチからも話がありましたように、遂行する、フィニッシュするところがちょっと物足りなかったと思っています。ただ、シーズンをとおしてチームは成長したと思っていますし、ディビジョン2昇格という目標が達成できたのは自分たちでもしっかり祝福したい。来季にさらに勢いをつけるものになっていると思うので、リセットしてからまた頑張っていきたいなと思っています」

──3年前、赤間勝監督が監督に就任された際にキャプテンの役職を託されました。昇格を達成したいま、赤間監督に対してはどんな思いでしょうか?

「個人的な話ですけど、このチームに来ることを決めたのも赤間さんから熱烈なオファーがあったからというのもありますし、赤間さんが監督として戻ってこられるときに『キャプテンをやってくれないか』という話もいただきました。入社してから僕の成長を見ていただいて、『リーダーとして一緒にチームを作っていこう』とも言っていただいたことは本当にうれしかったです。そのときにすごく責任が芽生えたのは覚えています。赤間さんの性格上、『まずはやってみろ』という感じで、とにかく『お前ならやれる。お前がやると決めたならやってみろ』という感じだったので、良い意味で放任してもらっている。ただ、何かミスがあればサポートしてもらいました。ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチとは立ち位置が違いますけど、3年間本当にサポートしてもらったと思います。ディビジョン2昇格という結果は間違いなく、赤間さんの力があると思っています」

──今季の躍進の要因はどんなところにあったのでしょうか?

「地道にゼイン・ヒルトン ヘッドコーチが我慢しながら、ときにはめちゃくちゃ怒りながら、僕たちを指導してくれました。ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチが一番、あきらめていなかったし、彼があきらめないなら僕もあきらめられませんし、彼が言うことを僕がどれだけチームに伝えられるか。パイプ役を担っていたと思うので、ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチの考え、戦術を全員が理解して、それをプレーできるようになったことがこの結果につながったなと思います。若い選手の成長は大きくて、彼らがどれだけラグビーに熱く取り組むか。その姿勢はチームを変えましたし、リーダー陣はいますけど、実際に若手たちがリーダーを担っているような状況なので、彼らの成長はこの結果にかなりの影響を与えていると思います」

──気は早いですが、来季の目標は?

「楽しみです。まずはそれが一番、大きいです。でも、よりレベルの高いステージに行くことになるので、うまくいかないときもあると思います。ただ、ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチも言ったようにトップ3に入る力があるという自信はあるので、来季、それをどれだけ表現できるか。そこにかかってくるなと思っています。間違いなく、チームは成長しているので残留争いをするのではなくて昇格を目指していきたいと思っています」

九州電力キューデンヴォルテクス
児玉大輔選手

──九州電力キューデンヴォルテクスでの100キャップ目が昇格決定の試合になりました。

「うまくスタッフ陣がコントロールしてくれたのか(笑)。昇格が決まった試合でちょうど100キャップ目ということで感慨深いものがあるんですが、勝って100キャップ目の試合を終えられたらよかったですね。そこだけちょっと心残りではありますが、それでも、ディビジョン2に昇格できたことが唯一、良かったかなと思っています」

──苦しい時代も知っている立場だと思いますが、昇格という結果についてはどんな思いでしょうか?

「これまでは若い力がなかなかチームになかったんですが、ここ数年は良い新人が入ってきたり、若手が成長して中堅になった選手たちがメンバーに入ってくるようになってきたり、それがチームを成長させていると思います。昇格は本当にうれしいです。自分がこのチームに入ったときはトップリーグから降格したタイミングで、それから入替戦を3度経験しましたが、勝てない状況が続いて、今季ようやく昇格できたのでそういう意味でもうれしく思います」

清水建設江東ブルーシャークス(D2)

清水建設江東ブルーシャークスの大隈隆明監督(右)、髙橋広大キャプテン

清水建設江東ブルーシャークス
大隈隆明監督

「本日は関係者のみなさま、どうもありがとうございました。そして、九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)のみなさま、おめでとうございます。試合のほうは、われわれは前回、48点差で負けていたので49点を取って勝とうと、チームとしてはそこを目指して試合に臨みました。選手たちは本当によくやってくれて勝利できたので来季につながる結果だと思っています。この一年間、清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)にご尽力いただき、本当にありがとうございました」

──入替戦の2試合の結果を受けて降格となりましたが、入替戦の総括をお願いします。

「入替戦というのは特別なもので、特にわれわれはディビジョン2として挑戦を受ける立場、チャレンジされる側の立場で難しさがありました。なおかつ、シーズンでは勝ち星がなかなかつかなかったというチームの雰囲気があった中で難しい試合になるだろうと予測していました。第1戦も第2戦も選手たちがそこをうまく切り替えて、チームとして本当にいい準備で臨むことができました。1戦目がああいう試合になってしまって、選手たちがパニックに陥ってしまったところがありますし、そういう想定ができていなかったわれわれの責任でもあるので、第1戦がああいう試合になってしまったことがすべてかなと思っています。今日の試合はそんな中でも選手たちに『この一年間、江東BSがやってきたこと。江東BSが0対48で負けるようなチームではないということをしっかりと証明しよう』、という話をさせてもらって、この一年間やってきたことをやり切ろうと臨みました。49点差をつけて勝つことはできませんでしたが、勝てたことはこの一年間やってきたことが間違いではなかったし、降格にはなってしまいましたが、しっかりチームとしても成長が見られたので最後、勝つことができてよかったなと思います」

──試合後のハドルではどんなお話をされたのでしょうか?

「いま、お話したようにまずは選手たちに、われわれは仕事とラグビーの両立の中でディビジョン2に挑戦して、私としてもかなりレベルの高いことを要求していました。それに応えてくれたことへの感謝を伝えました。そして、勝たせてあげることができなくて申し訳なかったということですね。でも、この一年の経験は学びの場というか無駄じゃなかった。やるもやらないも来季次第だと思うので、次につなげていこうという話をしました」

清水建設江東ブルーシャークス
髙橋広大キャプテン

「本日の試合の関係者のみなさま、本当にありがとうございました。今日の試合は(大隈隆明)監督も言ったとおり、前回の試合で取られた点数以上の点数を取って、ディビジョン2に何とか残留するというのが全員の目標でした。ただ、九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)さんも力のあるチームで、前回の試合で大量得点を取っていて、一つひとつのプレーに緩みなく、僕らに対してプレーしていました。そこにリスペクトも感じましたし、僕らも逆にこの入替戦で九州KVさんと試合ができたのは僕個人としては良かったことだと思っています。ただ、試合の内容として、そして、シーズンをとおして、たくさんの応援してくれたファンの方々を裏切るような形になってしまったので、来季はまた一人ひとりが気持ちを入れ直して頑張っていきたいと思います。本日の試合、ありがとうございました」

──48点のビハインドがある中で入りも難しいゲームになりましたが、勝つことで意地も見せることができたと思います。この勝利をどう捉えていますか?

「今日の試合はもちろん、前回の試合(で相手が取った)以上のポイントを取りに行くとそれぞれが考えていましたけど、何よりもこの試合に勝つこと。一人ひとりのプライドがあると思いますが、チームのプライド、個人のプライドがあって、この試合でも前回と同じような負け方や、自分たちのプレーが出せないままというシーズンの終わり方にするのは絶対に止めようと話をしていました。『一人ひとりのプライドのためにこの試合は何が何でも勝とう』という話を選手、監督、コーチの全員でしました。それもあって統一した気持ちでプレーできて、結果として最後、逆転して勝つことができたので、シーズン最後の試合としては良かったと思います。ただ、入替戦の2試合合計が来季の昇格と降格につながるので、そこで結果を出せなかったことは一人ひとりが来季に向けて受け止めるべきものがあると思っています」

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