クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1)
名手が育んできた“勝てるチーム文化”
まだ見ぬ新たな一歩をさらに踏み出す
「すべてはチームのおかげです。チーム全体が成長し、強くなったからこそスコアランキングで1位になれたんです」
今季の得点王となった感想を尋ねると、バーナード・フォーリーはそう答えた。レギュラーシーズンで獲得した総得点数は173。冷静沈着なプレーと、正確無比なキック。誰が呼んだか知らないが、ついた異名は「アイスマン」。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)の選手たちは、彼のことを親しみを込めて「ナード」と呼ぶ。
「ナード」がS東京ベイに入団したのは2019年。ワラターズではスーパーラグビー優勝を経験。オーストラリア代表で出場した2015年のラグビーワールドカップでは準優勝。リコーブラックラムズ(当時)でも活躍した名プレーヤーは、王者の哲学を伝えるべく、まだ発展途上の段階にあったチームに合流。オレンジのジャージーに袖をとおした。
「もともと私はトップリーグ(当時)で優勝したいと思い、日本に移籍したんです。これまでの経験を、S東京ベイで生かしたいと思っていました」
「アイスマン」というニックネームとは裏腹に、フィールド外の「ナード」はジョークを飛ばしまくるホットマン。日本人選手とも、日本語を駆使しながら積極的にコンタクトを取る。それもすべて、“勝てるチーム文化”の創造のためだ。
「フィールド以外の場所でもコミュニケーションを取り、しっかりと時間を掛けて、選手たちとのつながりを作っていきたいんです。これはラグビーにとって最も大事なことだと言っても過言ではありません。相手のことを感じ、理解することで相互協力ができるようになり、それがひいてはグラウンドでのパフォーマンスの向上につながっていきます」
相手との間に壁を作らず、ときには日本語で若手選手をイジる。これもまた、S東京ベイでは日常的な光景である。
「もちろん、相手を傷つけるような言葉は口にしたくありません。若い選手たちがより成長するために、実践していることです。彼らに、チームの一員になってほしいんです」
まさに和の精神。その源は、どこにあるのか。
「私の家庭は大家族で、6人兄弟なんです。食事を摂るにも、しっかりとコミュニケーションを図っていく必要がありました。だから、日常的に『チーム』のような感じだったんです。子どものころから人と会話することをエンジョイしていましたし、いまもいろんな人たちと話していきたいと思っています」
そして、チームは階段を一段一段、着実に上ってきた。かつての“天敵”東京サントリーサンゴリアスには2連勝。リーグ公式戦を2位で通過し、プレーオフトーナメントに駒を進めた。「ナード」は「『成長のシーズン』だった」と今季を振り返る。
「ノンメンバーの選手たちを含め、全員が貢献した結果だと思います。選手たちはチームがやるべきラグビーを理解し、それをしっかりと実践してきました。これはチーム全体のエフォート(努力の成果)です」
次に上るべき階段。それはプレーオフトーナメント準決勝での勝利。もう、足踏みはしない。チームとしてはまだ見ぬ新たな一歩を、ここから踏み出す。
「セミファイナルは、レギュラーシーズンとはまた異なる戦いになります。気持ちを切り替えて臨みます。この階段を上るために、私たち全員がハードワークを積み重ねてきたんです。(日本語で)ガンバリマス!」
(藤本かずまさ)
東京サントリーサンゴリアス(D1)
キングでありながら気持ちはチャレンジャー。
尾崎晟也のプレーを見逃すな!
シーズントップ4が集い、日本一を懸けて争うNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 プレーオフトーナメント。普段以上の注目を集めるからこそ、期待したいのはライト層でも楽しめる点の取り合いであり、トライの応酬だ。
その意味で、2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)と、3位の東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)がぶつかる準決勝こそ、最もトライの匂いがする戦いと言える。
今季リーグ最多得点の攻撃力を誇るS東京ベイには、新人ながらトライランキング2位に付けた木田晴斗が左サイドに君臨。そして、相対する位置の東京SG右サイドには、今季のリーグワン最多トライゲッターの尾崎晟也。どちらが相手の突破を止め、そしてトライまでこぎつけるのか。勝負の行方とともに大注目ポイントだ。
前哨戦となったリーグ最終節での対戦では木田が1トライ。試合もS東京ベイが制した。反撃に燃える尾崎晟也は語る。
「最終節は自分の中で納得できないゲームでした。自分がトライ王で、木田選手はルーキーですけど、今回のプレーオフでは自分がチャレンジャーだという気持ちでぶつかりたい。お互いがいいパフォーマンスを出せたら、いいゲームになるのは間違いないですね」
その“いいパフォーマンス”のため、今季の尾崎晟也が重視してきたものに「ワークレート(作業量)」を挙げる。
「今季は『ワークレート』の部分をすごく意識しています。チームにはラインブレイクできる選手が多いので、味方をサポートできるランコースにいかに素早く入れるか。自分で突破する上でも、どうすればトップスピードでボールをもらえるか。そういった部分を大切にしています」
そしてもう一つ、「コミュニケーション」も尾崎がトライを決める上で、そして勝利を目指す上で重要な要素だ。
「いまのリーグワンはディフェンスのレベルがどんどん高くなっていて、相手のプレッシャーや守備の構図も目まぐるしく変わります。自分はウイングとして一番スペースが見えるポジションにいるので、チームがいま、どういう状態にあるのかを内側の選手たちに伝えることも重要な役割。それがうまくいったときにトライが生まれていると思います」
トライ王のタイトル以上に欲しい日本一の称号へ。ボールを持っても、持たないときも、尾崎晟也から目が離せない。
(オグマナオト)