2023.05.16NTTリーグワン2022-23 プレーオフトーナメント準決勝レポート(S東京ベイ 24-18 東京SG)
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 プレーオフトーナメント準決勝
2023年5月14日(日)12:05 秩父宮ラグビー場 (東京都)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs 東京サントリーサンゴリアス
まさに死闘。激戦を制したS東京ベイがライバルの想いも背負い、初の決勝へ
なんという試合。この戦いの前では「手に汗握る」という表現さえも生ぬるく感じられる。秩父宮ラグビー場に集まった13,065人の観衆の目前で繰り広げられた、観る者の感情を激しく揺さぶる熾烈な死闘。試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いたあとも、スタンドには熱気と絶叫に近い歓声が濃厚に渦巻いた。
リーグ2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)と、3位の東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)。試合開始早々に波乱が生じた。前半5分、ハイタックルでツイ ヘンドリックが痛恨のレッドカード。ここからの75分間、東京SGは14人での戦いを余儀なくされた。
ところが、東京SGの数的不利をまったく感じさせないファイティングスピリッツの前に、レギュラーシーズンでは2連勝を収めているS東京ベイは攻めあぐねた。息の詰まるシーソーゲームが続く中、後半38分、残り時間が2分を切ったところでバーナード・フォーリーがトライ。さらにコンバージョンキックも決めて、24対13と大きく得点差を広げることに成功する。
しかし、これも決定打には至らず。残り20秒でアーロン・クルーデンがトライを決め、24対18に。東京SGが再び、逆転勝利を射程圏内に捉えた。
ホーンが鳴らされても、ゲームは継続。相手に楕円球を奪われたら、そこで試合は終わる。タイトロープの上を全速力で駆け抜けるかのような東京SGのアタック。後半43分、ついに尾崎泰雅がインゴールに走り込んでグラウンディング成功。だが、これはスローフォワードがあったためトライキャンセルに。
それでも14人は戦うことをあきらめない。後半46分、ラインアウトからモールでインゴールに押し込むも、グラウンディングは確認できず。すべては、この日6度目となるTMOに託された。
判定には約6分を要し、その空白の時間は実際の数字以上に長く感じられた。結果は、ノートライ。ようやく打たれた終止符。次の瞬間、力みっぱなしだった肩からすっと力が抜けるように緊迫した空気が解け、イエローの静寂とオレンジの喝采がスタジアムを包み込んだ。
「相手チームが一人足りない状況で、私たちは数的優位に立ちましたが、たとえばバックス周辺の危機感のようなものが足りず、何度かターンオーバーされたことがありました。そこは次の試合に向けての課題だと思います」(バーナード・フォーリー)
東京SGが見せつけた、強豪であり続けたチームの誇りと執念。初の決勝進出を決めたS東京ベイにとって、この激戦はライバルから送られた最高のエールとなった。チーム史上最大の大一番を前に得られた気づきと学び。その歴史に携わったすべての人、オレンジアーミー、そして、この日戦った東京SG。5月20日、それらすべての想いとともに、男たちは国立競技場のグラウンドに立つ。
(藤本かずまさ)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ
「コンニチワ!東京サントリーサンゴリアスさんは一人欠けている中、14人ですごくエフォート(努力)していました。戦術面に関しても形を変えてきて、アタッキングマインドがすごかったです。(勝てたのは)私たちチーム全員のエフォートだと思います。
パフォーマンスに関しては完全にハッピーではない部分も多いのですが、初めて進出する決勝戦に向けて一生懸命取り組んでいきたいと思います。まずは選手たちにしっかりとリカバリーしてもらい、プランを立て、ファイナルに備えていきたいと思います。
今日はすごく大事な局面が試合で何度かありました。そういったところでしっかりと選手が結束し、点数に変えられたことで、相手にプレッシャーを与えられたと思います。最後の5分に関しても、ハードワークをしたことが結果につながったと思います。選手同士でしっかりと信頼し合い、80分間をとおして戦ってくれたと思います」
──どういった部分がハッピーではなかったのでしょうか?
「私たちがやるべきラグビーを実践できれば、それがエネルギーにつながり、チャンスを生んでいけるのですが、今日はチャンスを生んではいたものの、フィニッシュまで持っていけませんでした。それはいい学びではあったのですが、だからこそ来週、ベストな状態で決勝に臨めるよう取り組んでいきたいです。初めての決勝進出については、私としてはハッピーです」
──TMOのあり方については?
「クレイジーゲーム!今日はいろんなことが起こった試合でした。開始直後に相手チームにレッドカードが出たり、相手のシェイプ(攻撃の形)も変わったり、私たちとしても対応する必要がありました。そうした中で、リーダーの選手たちがしっかりとやってくれて、特にリーダーシップの部分ではしっかりと自分たちのタスクに則って、次の仕事は何なのか、どういったプランでやっていくのかというところを選手たちがしっかりと遂行し、それが結果につながったと思います。
レフリーに関しては、自分たちではコントロールできない部分ですので、とにかくフェアなコールだけを吹いてほしい。最後のプレーでも、正しいコールがされたと思っています」
──埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)の印象について。また、決勝戦ではどんなプレーをしたいか?
「リーグ戦で対戦した際も、しっかりとプランを立てて、実践するつもりで臨みました。決勝戦は、また別の試合になると思います。まずは、選手にリカバリーをしっかりとさせたいです。コーチ陣で昨日の(埼玉WKの)試合も振り返り、また週の中でいつもどおりのプランを遂行しつつ、普段よりも1日少ない準備期間の中でどれだけやれるか。そこでも自分たちにフォーカスし、どれだけ自分たちのパフォーマンスを高められるかということに取り組んでいきたいと思っています」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
立川理道キャプテン
「東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)さんは14人になってからも素晴らしいラグビーをしていました。クボタスピアーズ船橋・東京ベイとしてはやりたいラグビーがなかなかできずに、かなりタフな試合になってしまいました。そこをしっかりと勝ち切れたというのは自信にもなりましたし、初の決勝進出という新たな歴史を刻めたのも、自分たちが今までやってきたことを信じて戦ってきたからこそ得られた結果だと思います。
みんなの表情を見ても、まだまだこれではダメだという雰囲気でした。もちろんうれしい気持ちはあったのですが、次のファイナルに向けてみんな切り替えていたので、本当にチームとしても成長していると思っています。もう一度、いい準備をして、ファイナルに向けてやっていきたいと思います」
──どういった部分がハッピーではなかったのでしょうか?
「僕も決勝進出したことについてはすごくうれしいです。歴史を作るのは時間が掛かりますし、こうしてファイナルに行けたことはハッピーなのですが、今日の試合に関しては14人の相手に対してタフなゲームをしてしまったということと、相手のペースに合わせてしまったと思っています。レギュラーシーズンではもう少し横にも縦にもボールを動かして戦っていたと思うのですが、そういったところにプレーオフのプレッシャーや、いい学びがあったと思います。これは今日、経験できたことです。次(の決勝戦で)違うのはスタジアムだけで、そういったプレッシャーは一緒だと思います。短い時間ですが、自分たちを見直して、しっかりと準備していきたいと思います」
──TMOが多い試合になった。また前半の東京SGにトライを許した場面では、ちょうど負傷者が出て試合が止まるとセルフジャッジしたところを突かれてしまったのでしょうか?
「レフリーに関してはすごく納得しています。ネガティブにもポジティブにも思っていません。お互いに平等に、フェアなところにいる人だと思うので。ただ、昨日の試合も今日の試合もTMOがかなり多かったと思うのですが、そこは自分たちのコントロール外なので、しっかりと受け入れて、次に自分たちが何をしなければいけないのかというところを明確にすることが大事だと思っています。
今日の試合が止まると思って自分たちがスイッチオフしたところに、東京SGの選手たちはスキを見つけてアタックしてきたと思うので、そこに関しても何も否定はありません。レフリーの判断は正しかったと思います。自分たちがスイッチオフしてしまったことが悪かったと思います。レフリーも選手たちも一生懸命やっていると思います。自信を持って吹いていると思うので、平等なところに対して僕らは調整していくというか、アジャストしていくしかないと思っています」
──埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)の印象は?
「埼玉WKさんとは何度も試合をしていますし、どの局面でもスキのないチームだと思います。これまで何度もチャンピオンにもなっていますし、何度も決勝戦を戦っている選手もいると思います。そういう経験の部分で言うと、まだまだ自分たちは(経験が)少ないかもしれませんが、自分たちにフォーカスをして、相手がどのチームであろうと自分たちのラグビーをするだけだと思っています。そうすれば必ず、結果がついてくると思っています。
もちろん、相手の大きな特徴のようなものは頭には入れますが、そこにばかり集中するのではなく、自分たちが何をしたいのかというところに重きを置いてやっていきたいと思います」
──これまで手が届かなかった決勝戦に進出できた意義については?
「プレーオフに入れば準備という部分がかなり重要になってくると思います。レギュラーシーズンが終わってから3週間ほどあったのですが、この試合に向けてしっかり準備ができました。戦術やスキルといった部分よりも、メンタルが重要になってくると思っていたので、その準備が今日はできていたので結果的に勝てたのかなと思います。また、それまでの(勝てなかった)2年間の経験もあったと思います。その勝てなかった経験から学んだことが大きく影響していると思います。そこは今日、勝ち切れたことはすごく自信になっていますし、また決勝で勝てるようにしっかり準備していきたいと思います」
東京サントリーサンゴリアス
東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督
「みなさん、今日はありがとうございました。まだ終わったばかりで振り返るのがすごく難しい、それくらい白熱したゲームだったと思います。まず最初に、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)さん、初めての決勝進出、本当におめでとうございます。80分間、素晴らしいプレッシャーをわれわれは受けたので、決勝戦でもそういったラグビーをしっかりと出し切ってほしいと思います。
(S東京ベイは今季)2回負けている相手なので、しっかりと勝つ、そのためのいい準備ができたと思っています。選手たちもその準備に対して、完璧ということはないのですが、本当にそれを遂行してくれたと思っています。あとは本当に、今日はファイティングスピリッツを一番見せられたと思います。選手のことを本当に誇りに思います。結果的には負けましたが、いいゲームだったんじゃないかと思います」
──14人になった環境下で、どのように戦おうと考えたのでしょうか?
「人数が一人減っているので、どうしてもアタックのシステムとしては崩れる形になると思うので、それが機能するようにしっかりとショートサイドをうまく使うところは、選手も分かっていると思いますし、また話もしていました。ただ、その中でも、特に後半、ショートサイドではない、オープンサイドのスペースが空き始めていたので、後半になってそこをうまく使って、それでボールが動き出したと思っています」
──TMOが多い試合になったが?
「昨日の試合でも非常に多かったと思いますし、こういうセミファイナルで一発勝負のゲームになると、レフリーにもプレッシャーが掛かります。より正確な判定を求められると思いますし、そうしていかなければいけないというレフリー側の立場もあります。そこに関しては、スローモーションで見ればそうだったというのであれば、沿うしかないと思います。TMOが多いという意見はあると思いますが、そういう制度がある以上、それをどうこうというのは(言えない)。それくらい、ラグビーが難しくなっているのかなと思いますし、もっと安全に、というところがたぶん、メインだと思います」
──かなりのショートウィークで横浜キヤノンイーグル(以下、横浜E)と戦うことになるが?
「(次の試合が)金曜日なので、こういうゲームのあとにすごく難しいというのはありますが、ただ、今季最後のゲームになりますので、しっかりとそこに対してチームのプライドを持っていくことが大事だと思っています。まずは今日、タフなゲームだったので、しっかりとリカバリーすることがメインになると思います。そんなに多くをやることはないと思うので、頭をしっかりとクリアにしていきたいと思います」
東京サントリーサンゴリアス
堀越康介共同キャプテン
「まずは『クボタスピアーズ船橋・東京ベイさん、おめでとうございます』と言いたいです。お互いの意地のぶつかり合いで、本当にプレーオフらしいゲームができたと思います。僕たちのゲームに関しては、一人少ない中でも本当にみんなが一人ひとりやり切って、最後まで自分たちのスタイルを貫きとおしたこと。そこは自分たちのプライドでもありますし、やり切れたと思います。ただ、勝ち切れなかった部分は、僕たちのターニングポイントでの(得点の)取り切り方とか、そういったところはもっと反省していくべきだと思います」
──試合のテンポが作れなかったが、実際にプレーしていて印象は?
「やはり一人少ないぶん、シンプルに強いプレーでやっていこうというところで、その中でオーバーラップを作ろうという形だったのですが、ブレイクダウンでプレッシャーを掛けられたり、思いどおりのテンポでいけなかったりしたのが、その(自分たちの)展開に持ち込めなかった原因だと思っています」
──かなりのショートウィークで横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)と戦うことになるが。
「このようなショートウィークはなかなか経験したことがないのですが、ベーシックなことをしっかりとやることと、多くは変えないと思うので、そこはチームとしてベクトルを向けられるように、しっかりやっていきたいと思います」
──14人になったとき、どのようなことを意識したのか。また、なぜあそこまでハードワークができたのでしょうか?
「もともとレギュラーシーズンで横浜Eさんとやったときに、一人いなくなったときのシチュエーションのこともみんなで話をしました。一番はやはりエリアを取ることと、ショートサイドをうまく使っていくことがセオリーなのかなというところは、ゲームのドライバーとずっと話していたので、そこを遂行したんだと思います」