NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(リーグ戦)第4節 カンファレンスA
2024年1月7日(日)12:00 三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 (三重県)
三重ホンダヒート vs 静岡ブルーレヴズ
三重ホンダヒート(D1 カンファレンスA)
常にフレッシュな状態を作り出すための選手起用の妙。三重Hに吹く新たな風
「ポジションを変えることによって、チームとして常にフレッシュな状態を作り出すことを心がけています。今日は勝利には結び付きませんでしたが、非常にポジティブなパフォーマンスが出たのではないかと考えています」
前節の東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)戦。第1、2節からメンバーやポジションを大幅に入れ替えて臨んだ三重ホンダヒート(以下、三重H)のキアラン・クローリー ヘッドコーチは、そう手ごたえを口にした。
ヘッドコーチが名前を挙げて高評価を与えた一人が呉洸太だった。「洸太選手は10番から15番にポジションを変えてプレーしたのですが、ラインブレークする場面、エリア獲得に貢献する場面が非常に多くありました。その点についてはこれからもパフォーマンスの一環として彼に求めていきたいと思っています」。
呉も「本職は10番ですが、15番としても東京SG相手に通用したので自信につながった試合でした」と振り返る。
15番で試合に出場したのは入団1年目以来だという。練習では数年前に15番でプレーしたことがある。昨年夏に約3カ月間ラグビー留学したイギリスのハーレクインズでは、先方のチーム事情により、スタンドオフよりも15番のフルバックやウイングとしてプレーすることのほうが多かったそうだ。
「キアラン ヘッドコーチはおそらく、僕が15番でプレーしていたことを知らなかったと思います。でも最近のトレーニングや試合を見た中で僕のカウンターアタックを評価していただき、10番としてもいいけれど、15番としてもやってみないかと話をいただきました。言われたときは驚きましたが、評価していただけたのならやってやろうという気持ちで臨みました。ハーレクインズでの経験も生きているのではないかと思っています」
呉は、ボールを持ってゲインラインを越えてプレーした距離を示す「ゲインメーター」ではディビジョン1で7位の253m、ボールを持ってプレーした回数を示す「ボールキャリー」で同6位の42回といずれもチームトップの数字を残している。キアラン・クローリー ヘッドコーチの、これまでの実績にとらわれない、能力や適性を見極めた“選手起用の妙”が光る。
「キアラン ヘッドコーチは個人の適性をよく見てくださっていて、僕だけではなくチームメートも本職と違うポジションをやる中で新たな持ち味を出してアピールできている部分があります。チームに新しい風が吹いています」(呉)
ラン以上に、呉が自信を持っている武器はキックだ。「ハーレクインズのコーチからキックの種類やキックのコントロールを学びました。特に精度の部分が上がったと感じています。正確なキックは15番でプレーするときも武器になります。ポジションの幅が広がればチャンスが増えると思うので、10番も15番も偏らずに磨いて、どちらでも試合に出られるように頑張りたいです」
今節も前節からのメンバー変更が多く行われ、呉はメンバー外に。ただそれも指揮官の意図があったからこそ。キアラン・クローリー ヘッドコーチの采配で選手のどのような力が引き出されるのか、注目だ。
(山田智子)
静岡ブルーレヴズ(D1 カンファレンスA)
伝統的な静岡BRの武器。強固なスクラムの陰にある充実の体制
前節で昨季の王者・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)を相手に劇的な逆転勝ちを成し遂げ、今季初白星をつかんだ静岡ブルーレヴズ(以下、静岡BR)。新年初戦で三重ホンダヒートを倒して勝敗を五分に戻すというミッションに向けても、好材料は多い。
特に大きいのは、チームのベースと言える伝統的な武器のスクラムがより強力になっていることだ。
第2節のコベルコ神戸スティーラーズ戦でも、前節のS東京ベイ戦でも体格や体重で上回る相手をスクラムで圧倒し、ペナルティも誘発。それによって流れをつかんでいった。スクラムでの優位性を保てている限り、静岡BRの戦いが大崩れすることはないはずだ。
そんなスクラムの強さの秘密は、どこにあるのだろうか。
その一つに、かつてスクラムの基礎を作った長谷川慎アシスタントコーチが、日本代表から静岡BRに復帰したことが挙げられる。今季は田村義和アシスタントコーチと連係しながらスクラムやフォワード全体の強化に力を尽くしている。その長谷川コーチに、静岡BRのスクラムの強みについて聞いてみた。
「1個1個の細かいところを遂行力高くやっていることじゃないでしょうか。たとえば『クラウチ』、『バインド』、『セット』の中でもいろいろな動作がありますが、キツくなってきたらそれが飛んでしまったり、1個崩れることでバランスが崩れたりします。一人ひとりがキツいときでもそれをしっかりできるというのは強みだと思っています」
さらに長谷川コーチは、「以前は僕一人で全部やっていたので、詳細が詰められなかった部分もありましたが、いまは田村と分担してできるので、細かいところまで目を届かせることができています」と体制の充実も要因に挙げる。
相棒の田村コーチに聞いても、二人のこだわりは一致している。
「ほかのチームと比べて何が違うというのは分かりませんが、“緻密さ”という部分は負けていないと思います。いまは代表から戻った(長谷川)慎さんからアドバイスをもらっているので、より緻密になっていると感じます。一人ひとりの役割が明確になっているので、レビューもしやすいし、修正もしやすくなっています」
選手側の視点として、庄司拓馬も同様の言葉を重ねる。
「1番から8番まで、一人ひとりのプレーにディティールがあります。たとえば、足の位置の1cmの違いなど。1列目の選手が変われば、(後方の)僕らがつく角度も少しずつ変わります。そういう細かいところの積み重ねによって、一人ひとりの力が一つに集中できていると思っています」
何か特別な秘訣があるわけではなく、緻密さとそれをやり切る遂行力。これが8人の力を集約させて相手を上回るスクラムだと言える。
フッカーの日野剛志は「一つの方向に“力を尖らせて”押していく」とスクラムのイメージを表現した。
しかも、その絶対的な武器にはまだ伸びシロがある。
「良いときは良いんですが、何回か詳細が詰まっていなくてミスが出ているシーンもあります。そこを徐々に詰めていけば、80分間をとおして良いスクラムを組めるようになっていくと思っています」(長谷川コーチ)
年が明けて、その完成度がどれだけ高まっているのか。その点も今節の大きな見どころになるだろう。
(前島芳雄)