2024.02.25NTTリーグワン2023-24 D1 第7節レポート(花園L 19-56 S東京ベイ)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第7節
2024年2月24日(土)14:30 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 19-56 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

見せ始めた王者の地力。
初先発で13得点の岸岡智樹が示した“計算ずく”

自らの先制トライに加えてドロップゴールまで決めてみせた、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの岸岡智樹選手

連覇を目指すクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)。プレーオフ進出に向けた重要な一戦で花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)を前半のうちに39対0と圧倒。王者の地力を見せ、今季初の3連勝を飾った。その立役者となったのは今季、ディビジョン1で初先発を飾った岸岡智樹だった。

チームには“リーグ王者”の肩書きが付きまとう中で、岸岡は昨季の出場時間がゼロ。オーストラリア代表76キャップのバーナード・フォーリーの負傷離脱で巡ってきたチャンスであるが、本職のスタンドオフで岸岡は躍動した。

開始早々の7分、藤原忍のパスを受けて先制トライを決めてチームを勢いづけると、同9分までにS東京ベイは12対0とリードを広げる。

13分にも木田晴斗がトライを決め、リードが広がったかに見えたがTMO(テレビジョンマッチオフィシャル)の結果、ノートライに。

花園Lに傾いてもおかしくなかったその流れを断ち切ったのは、早稲田大学で数学を学んだ岸岡の“判断力”だった。

前半16分、風下から蹴ったクウェイド・クーパーのキックがタッチラインを割らず、S東京ベイの選手がキャッチ。すかさずボールを受けた岸岡は迷わず右足を振り抜いてドロップゴールに成功。青空に描いた美しい軌道は、トライ時の歓声とは異なる盛り上がりを場内にもたらした。

東大阪市花園ラグビー場は、岸岡にとって勝手を知るスタジアムである。

東海大学付属大阪仰星高校時代には日本一に輝いた思い出の地であり、「まったく知らない会場よりも単純に物理的な見た目も分かっていますし、やり慣れているグラウンドです」(岸岡)。

個人のアピールではなく、岸岡にとっては“計算ずく”のドロップゴールだったという。

「2トライを取って、12対0でしたが、セーフティーリードの15点目を取りたいというのがありました。相手もここから巻き返したいという中でのイグジットでしたが、タッチラインを出なかった。そこをしっかりと沈められたのは判断としても良かったです」(岸岡)

後半3分にも自身二つ目のトライをゲットし、岸岡自身はこの日、計13得点。

岸岡自身は謙虚な姿勢を崩そうとはしなかったが、“バーナード・フォーリーの代役にあらず”という思いが伝わる80分間のパフォーマンスだった。

キャプテンの立川理道は試合後「バーナード(・フォーリー)にもプレッシャーが掛かると思うので、それはチームとしての競争力としてもいいと思います」とパフォーマンスを評した。S東京ベイが王者としての地力をいよいよ見せ始めた。

(下薗昌記)

花園近鉄ライナーズ

花園近鉄ライナーズの向井昭吾ヘッドコーチ(左)、野中翔平キャプテン

花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ

「私たちは『THE CROSS-BORDER RUGBY 2024』もなく、時間がありましたので、そこで修正をかけて勝ちにいったのですが、前半、簡単にトライを取られてしまった。そこは相手のセットピースからの良いアタックがあったと思います。私たちはペナルティが非常に多かった。そこをどうやって減らすかということについては、アタック時間を多くし、その中でブレイクダウンをしっかりとやること。そうなれば、ペナルティが減ってくる、というイメージで今日の試合に臨みました。ペナルティについては非常に減ってきたと思いますし、できたところとできないところはあります。(今節から始まる)強いチームとの3連戦ということで、来週の東芝ブレイブルーパス東京戦に向けて頑張っていきたいと思います」

──準備されてきたことが出せなかったのか、相手に出させてもらえなかったのか分かりませんが、前半の戦いがすべてだったように思います。前半は、イメージしていた部分のうち、どのあたりが出せなかったのでしょうか?

「判断ミスもあったり、自分たちがやろうとしていたところにボールが回らなかったり……。タックルに関しては私もこだわりがあるので、1対1やスペースを埋めることなどが決まらなかった前半でした。後半は全員が非常に頑張ってくれていましたけど、後半はできるのに前半からできないというところは……。(野中翔平)キャプテンからも『気持ち的に食い込まれた』というような言葉がありましたけど、それを作り出したのは私の練習かもしれないので、そこも改善して勝てるチームに変えていきたいと思います」

──後半に3トライを奪いました。良いプレーもありましたが、具体的な収穫を聞かせてください。

「私から言うと、ボールを動かしてアタックする時間を増やせたというところと、ペナルティが減ったことは次に向かう良い材料だったと思います。その前に基本的にセットピースの安定というテーマがあるのでそこについては改善の余地があるのと、もう少し球の出し方も含めて考えるところはあると思います」

花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン

「特に前半のところで、ヘッドコーチからもあったようにすごく簡単に(点を)取られてしまった。明確になぜ(相手に)抜かれたのかはフィードバックができているんですけど、メンタル的にちょっと食い込まれたというか受けてしまった部分があって、思うように自分たちのアタックやスコアにつなげることができなかった前半でした。後半、自分たちがボールを持っている時間帯に関してはモメンタム(勢い)もあり、前に出られたシーンやそのままトライにつながったシーンなど良いシーンもあったので、その時間を延ばすためにまず規律高いディフェンスからもう一度修正していきたいと思います」

──昨季までならば、今日の前半の展開だと後半もズルズルといってしまうようなことがありましたが、後半だけで見ると花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)が上回りました。やはりクウェイド・クーパー選手がいる効果が大きいように思いましたが、いかがですか?

「そうですね、クウェイド・クーパーという選手の存在ももちろんありますが、それ以外の選手が成長したのが大きいと思っています。技術的にも精神的にも乖離があったのが昨季のチームでした。彼(クウェイド・クーパー)がけがでいなかったことはチームとしてアンラッキーでしたけど、そのほかの選手の成長という観点から見たら、ラッキーな時間もありました。その選手たちがトッププレーヤーに頼ることから自立したというか、自分たちがゲームの主役になっていくんだという気持ちが後半の“ライナーズらしさ”を出せた要因ではないかと思っています」

──後半に3トライを奪いました。良いプレーもありましたが、具体的な収穫を聞かせてください。

「プラスアルファでアタックブレイクダウンというのを課題に上げていました。特にワイドブレイクダウン(サイドエリアでのブレイクダウン)のほうを課題に上げていたんですが、うまくいっていた時間帯に関しては、中盤でしっかりとボールキャリーして外までボールを運べたことが大きな要因じゃないかと思います。クボタスピアーズ船橋・東京ベイさんは結構ラインスピードを上げて、外まで運ばせないようなディフェンスを採っていたので逆にそのプレッシャー下でバックラインが幅を取って深さを保ってボールを運べたら、ああいう展開ができるというのが分かりました。さらにもう一つ上のアタックができるように、そして早い段階からそういうアタックができるように修正していきたいと思います」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフラン・ルディケ ヘッドコーチ(右)、立川理道キャプテン

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ

「まず今日、大事なところは、試合に勝てたところ、勝ち癖みたいなものをつけられたのは良かったですし、『THE CROSS-BORDER RUGBY 2024』の前のリコーブラックラムズ東京戦で勝てたあとの試合だったんですが、そういうところをまずやることができたのは良かったです。あと前半はラグビーができた一方で、後半は間延びする時間もあったものの、ポジティブに捉えていますし、勝って反省ができるのはいいことだと思います。あとはけがから戻ってきた選手もいるのは良かったです。ここからは毎週さらに良くしていく、成長し続けることも楽しみですし、改善点はしっかりと修正したいと思います」

──ディビジョン1の試合としては1カ月ぶりでした。『THE CROSS-BORDER RUGBY 2024』のギャラガー・チーフス戦でいい試合をしたことが今日の試合の結果につながったのでしょうか?

「そこは確実にそうだと思います。ギャラガー・チーフス戦が今日の勝ちにつながる手助けになったと思っていますし、ギャラガー・チーフスも相手としては質の高いチームで、大きいブレイクの間にしっかりと試合ができたこと、あとはファーストチョイスの1本目の選手たちの選手層もうまくやりくりすることができたと思います」

──岸岡智樹選手が今日は初先発でしたが、今日の評価と好調ぶりをどうご覧になっていますか?

「言われたとおりで、立川(理道)選手が12番で岸岡選手が10番。彼らのコンビネーション的なところもいいですし、二人が出るとアタックのオプションも増えます。ゲームコントロールも良かったですし、岸岡選手のパフォーマンスも良かった。彼はギャラガー・チーフス戦で良かったので使いましたが、今日のパフォーマンスも良かったと思います」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
立川理道キャプテン

「試合内容の部分でいうと、ゲームの入りだったり、前半はすごく自分たちのペースでゲームを進められたと思いますが、ただ後半で相手にペースがいったときにベーシックなところでもしっかり、自分たちに矢印を向けてやっていくことが大事だと思ったので、そこが今後の学びでもあったと思います。これから試合が続いていく中で相手にフォーカスし過ぎずに、自分たちにしっかりとフォーカスしながら結果をつかんでいきたいと思います。こういう変則的なスケジュールの中でもこうしていいスタートが切れたと思いますし、(交流戦は)残り4試合ありますけど、まずは次の1週間をしっかりと勝っていって、4試合のこのスケジュールを乗り切っていきたいと思います」

──後半は少し失速して、苦しい時間も多かったですが、次の3月3日の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(以下、相模原DB)に向けてどのように修正したいと思っていますか?

「対相模原DBというよりもまずは今日の試合をしっかりとレビューして、何が良くて、何が悪かったのかを自分たちで消化することが大事だと思っています。ディフェンスの部分で少しペナルティが多かったり、もう少しシステム上でうまくいく部分がたくさんあったりしたと思うので、そこはビデオで見ながらしっかりとレビューしていきたいと思っています。アタックに関しては全体的に悪くなかったと思うので、ベーシックなところを向上していくというところと、ディフェンスのところは本当に小さなコミュニケーションだけで直せる部分と、システム上で直さないといけない部分があるのかどうかというのをディフェンスのコーチとも話をしていきながら修正していくことが大事なのかなと思います」

──岸岡選手が先発しました。ギャラガー・チーフス戦ではパスでも魅せましたが今日はトライにも絡んでいました。チームメートとして彼の良さをどのようにご覧になっていましたか?

「本当にスキルの高い、いい選手ですし、経験を積んでいくことがすごく大事な中で、いまはウチの10番のバーナード(・フォーリー)がけがをしている中で彼がこうしてチームの10番としてプレーすることはチームとしても良いと思います。ギャラガー・チーフス戦もそうですし、今日の試合のパフォーマンスもすごく良かったと思っています。彼の持ち味のキックやパスというところを僕は隣にいるのでもう少しサポートしていきながら、さらに自分もうまく使ってもらいたいですし、自分も彼をうまく使うという部分もできれば、チームの層も厚くなっていくと思います。それによってバーナード・フォーリーにもプレッシャーが掛かると思うので、それはチームとしての競争力としてもいいのかなと思います」


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