2024.03.18NTTリーグワン2023-24 D1 第10節レポート(花園L 19-20 三重H)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第10節
2024年3月17日(日)12:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 19-20 三重ホンダヒート

またも1点差に泣いた花園Lの中で、
木村朋也が見せた意地とポテンシャル

花園近鉄ライナーズの木村朋也選手。「残り6試合残っているので、巻き返せると思っています」

花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)の今季初勝利を見届けたいと東大阪市花園ラグビー場に集ったファンはノーサイドの瞬間、今季5回目のため息(※今季ホストゲームで5度目の敗戦)をついた。

三重ホンダヒート(以下、三重H)との”裏天王山”は互いに初勝利を懸けた一戦を19対20で競り負けた花園Lは最下位に転落した。

痛恨の敗戦後、向井昭吾ヘッドコーチは「総括すると自滅」と悔しさを隠さなかった。

2年連続の入替戦が現実になりつつある苦しい状況だが、花園Lに希望がないわけではない。持ち前の鋭いランで2トライを決めた木村朋也は、この日のグラウンド上で誰よりも速く、そして切れ味を持つ男だった。

一方、三重Hを勇気づけるチーム2トライ目を決めた李承爀は「今日の試合はディフェンスが良かった。横とつながって相手のキーマンを抑えられました」と守備陣の踏ん張りを勝因に挙げたが、そんな李にとって木村は帝京大学ラグビー部の同期。「僕がプレーを見ている選手で一番イヤなウイング」と李が称した木村の意地と個の能力が、花園Lが見せた猛追の原動力となった。

14点をリードされる苦しい展開だった前半26分、セル ホゼのパスを受けて右スミに飛び込んで反撃の狼煙を上げると、前半40分にはクウェイド・クーパーの絶妙なキックに抜け出してボールに追い付くも、惜しくもトライならず。

しかし、ラインブレイク数でリーグ6位タイを誇る金髪のスピードスターの驚異的なスピードに観衆からは歓声が上がった。

木村の勢いは止まらなかった。後半21分にもウィル・ゲニアのパスを受けると中に切り込むランではなく、豪快なダイビングで右スミにトライ。完全に流れを引き戻した花園Lは後半24分にも木村のゲインから攻め込み、ウィル・ゲニアが同点のトライを決めたかに見えたが、TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)の結果、ゲニアへのラストパスを放ったセル ホゼがタッチラインを踏んでいたとして痛恨のトライ取り消しとなった。

開幕戦の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦に続いて、またも1点差に泣いた花園L。「今日は勝てなかったですけど、落ち込んでいてもしょうがない。(リーグ戦は)残り6試合残っているので、巻き返せると思っています」。

木村の言葉は決して強がりでも虚勢でもない。ディフェンス突破はディビジョン1内8位タイ、8試合で5トライを決めている花園Lの韋駄天は、日本代表入りしてもおかしくないポテンシャルの高さを随所で見せ始めている。

(下薗昌記)

花園近鉄ライナーズ

花園近鉄ライナーズの向井昭吾ヘッドコーチ(左)、野中翔平キャプテン

花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ

「今日はありがとうございました。お互いに全敗中なので勝利を目指して戦いました。圧倒的にアタックの時間は私たちのほうが長かったと思うのですが、そこをフィニッシュまで持っていけなかったのは、総括すると、自滅かなと。ボールを(敵陣まで)持ち込んだあと、(ラックから)球が出ない。いつもやってきたことじゃないプレーをやってしまってそれで歯車が噛み合わなかったところもありました。1点差で負けましたが、これまでやってきて、積み上げてきたところについては間違っていないと私も思っていますので、しっかりと今まで以上にボールを継続してトライを取って勝てるように持っていきたいと思います」

──試合が終わったあとのハドルでは選手にどのような話をされたのでしょうか?

「いま、話したとおり、基本的にアタック時間は多かったので、自分たちがトライを取れるところまできっとできたはずだったのにできなかった。自滅だったという話と、ボールをターンオーバーされた回数が前半でも16回ぐらいあったので、そこを改善して後半に入ろうと思ったんですが、なかなかそれが改善できなかった。いいところでボールが出ない、こぼれるというところを修正しようというようなことをハドルの最後に言いました。下を向いていてもしょうがないですし、次の試合は向かってきます。リーグワンのチームで弱いチームは一つもないので、『一つひとつ改善して次のゲームに向かっていこう』と言いました」

──残り6試合で(入替戦回避となる)9位との勝ち点差は16。今後の目標はどのあたりに置いていますか?

「目標というよりは、一戦一戦勝ちにいきたいと思っています。けが人も戻ってきてプレーヤーもだんだんそろってきていますので、(残り試合も)勝てない相手ではないと思っています。やってきたことがきっちりとできれば、私は勝てると思っていますので、全部勝ちにいくという気持ちは、今でも常に持っています。どこを目指すというよりは全部勝ちにいくというような気持ちで試合に向かっていきたいと思います」

──入替戦の回避は最大の目標ではないということでしょうか?

「それを目標にすると毎回そこでいいという形になると思いますので、やはり一つでも上を目指すというようなことは考えていきたいと思います」

──けが人についてですが、サナイラ・ワクァ選手とツポウ テビタ選手は戻ってこられるのでしょうか?

「徐々に回復しているというところです。まだ分からないです」

花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン

「(向井昭吾)ヘッドコーチが言ったように、自滅だと思っています。以上です」

──後半、時間がなくなっていく中でトライが取れないというところの焦りがチームには見られましたか?

「見えました。特に残り15分になってから、チーム自体が焦っているとは感じました。ただ、自分自身は15分もあるし、残り10分のタイミングでも10分もあるし、敵陣に確実に入って自分たちのアタックを継続さえすれば得点につながるという自信はありました。そこでみんなのメンタルコントロールについて、『自分たちはこういう方法をとって敵陣まで行くとスコアできる』、ということを強く認識させることがキャプテンとして足りなかったことじゃないかと思っています」

──向井ヘッドコーチからは「やってきたことと違うことをやってしまった」と話がありました。今回、いつものことができなかった要因を教えてください。

「それも多分、焦りというのが一つの原因としてあるんじゃないかと思っています。『こんなはずじゃない』、『もっと早く得点できるはずなのに得点が追いついてこない』、『リードされている、早く得点が欲しい』と道筋をショートカットしてスコアを取りにいこうとしてしまいました。そうして抜いてしまった順序があったゆえに、相手に上回られて結局、自分たちがしたかったことができなかったというのが5、6回ありました」

──それは前半の時点でもあったのでしょうか?

「ありました」

──今日のこのような試合だからこそ、勝ちたいという気持ちが前に出過ぎたのでしょうか?

「試合前に関しては、このゲームに対して『勝てる』とか、逆に『勝たなきゃいけない』とかそういう思いを持つ必要はないと話をしていました。連敗中のチーム同士の大事な一戦で、精神状態があまりヘルシーじゃなかったというか、自分たちで特別なものを作り出してしまったという感覚はあります」

──「道筋をショートカットしてしまった」というのは具体的にどのような点だったのでしょうか?

「キックの判断のところもそうですし、自分たちのセットピースからの2、3フェーズのアタックでは、準備したプレーの達成率は高かったと思います。ラインアウトのミスもありましたけど、それが成功したときの2、3フェーズは自分たちの形が出せていました。ただそのあと、フェーズが重なっていったときに自分たちの形を作り切ることができませんでした。そこで早いセットアップをして自分たちの形に持っていければ良かったんですけど、不用意なキックパスやロングパスがありました」

三重ホンダヒート

三重ホンダヒートのキアラン・クローリー ヘッドコーチ(右)、小林亮太ゲームキャプテン

三重ホンダヒート
キアラン・クローリー ヘッドコーチ

「分かりやすく、『本当にうれしい』の一言です。1点差ですが、勝ちは勝ちということで本当にうれしく思っています。われわれはこのゲームで、レッドカードが出ましたが、そういうような状況の中でもゲームに対して集中を切らさずに最後まで頑張ったと思っています。レッドカードが出たところでのマネジメントを始め、苦難のところを乗り切って最終的に勝ちを取れたのは非常に大きかったと思っています。またディフェンスのプレッシャーから近鉄さん(花園近鉄ライナーズ)のミスを誘うこともありましたし、選手たちも非常に頑張ってくれたと思っています。シーズン開幕からずっと負けが続いていて、ここでようやく勝つことができたので、この勝利をもってここからさらにいい形で前進ができるようにしていきたいと思っています」

──離脱している古田凌キャプテンはどれぐらいで戻ってこられそうでしょうか?また、パブロ・マテーラ選手が昨年末にチームへ戻ってきたと思いますが、いまはどのような状態でしょうか?

「古田キャプテンに関しては、来週はまだ起用が難しいという状況です。ただ来週、三菱さん(三菱重工相模原ダイナボアーズ)と試合をしたあとにバイウィークに入りますので、われわれとしては彼が今後バイウィーク明けに活躍できるように無理にプッシュをせずに準備をさせていきたいと思っています。パブロ(・マテーラ)に関しては、われわれとしてもチャレンジングな部分ではあるんですけど、彼もすごくハードワークしていて予定よりもかなり(復帰までのプログラムが)前倒しできていて、いい状況であるのは間違いありません。それでもおそらくまだ3~4週間はかかるんじゃないかなと考えています。彼もランやトレーニングは始めていて、段階を踏んで準備をしているところです。あとは彼自身のストレングス&コンディショニングについてターゲットをちゃんと決めて、彼がいい形でプレーに戻れるようにゴール設定をした上で彼に準備をしてもらっています。ですから、パブロ(・マテーラ)に関しては、状況が上向いていて、もしかしたら10日後にプレーできるかもしれませんし、もしかしたら3週間かかるかもしれないという状況です」

三重ホンダヒート
小林亮太ゲームキャプテン

「いま、キアラン(・クローリー)ヘッドコーチが言ったように、まず勝てたことが本当に良かったと思います。そしてこの雨の中でも来てくれたファンの方々に勝利を見せられたことは本当に良かったと思います。ゲームにつきましては、ヘッドコーチが言ったとおり、いろいろなアクシデントもありましたが、しっかりとチーム、選手の中で話し合って、そこを耐え切って1点差ではありながらも勝てたことは、このようなチーム状況の中で価値が大きいことだと思いますし、この勝ちを次のゲーム、またその次のゲームにしっかりと続けていけるように、来週から準備していきたいと思います。本日はどうもありがとうございました」

──レッドカードが出たあとのマネジメントについて意識したことを教えてください。

「9番がレッドカードということだったので、まずは誰がどのポジションをするのかをチームの中で意思統一しました。そして一人少ない状況になったのでラックのところに人を掛け過ぎないようにすることは修正しました。自分たちの強みであるフォワードのところでは、モールなどで相手にプレッシャーを掛けていって、自分たちにとって優位な時間になるようにマネジメントしました」

──今日は試合全体を通じて気持ちの入ったタックルもありましたが、そこについてはいかがですか?

「この1週間の準備の段階で特に変わったことはしていないんですが、特にこの試合に懸ける気持ちを選手のみんなで確認しました。試合前にも『まずは試合の入りを良くしよう』と、特に気持ちのところでの持っていき方の話をしました。その試合の入りで先制点を取れていい形でゲームが運べたと思っています。いい形でリズムに乗れて自分たちがしっかりと支配できる時間帯が多かったので、やはり体を当てることができたのは自分たちで持ってきた流れではないかと思います」

──昇格1年目でなかなか勝つことができていませんでしたが、チームの雰囲気はどうだったのでしょうか?

「ディビジョン1の厳しさというのを初戦からこれまでしっかりと感じてきました。その中でも一番大事にしてきたのは自信を失わないということ。自分たちが自信を失わずに、しっかりとボールを持って、正しい気持ちを持って挑めば、確実に相手の壁は破れるし、D1でも通用する。そういうところを僕や古田キャプテン、そしてリーダー陣がチームにずっと言い聞かせてきました。ヘッドコーチがいい方向性を示してくれて、今までそれをずっとやってきたことが、1点差ではありますけど、花が開いて良かったと思います」


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