NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1（リーグ戦）第16節　カンファレンスB
2024年5月5日（日）12:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ vs 三菱重工相模原ダイナボアーズ

花園近鉄ライナーズ（D1 カンファレンスB）

特別な思いを胸に、弟との初めての対決へ。
「試合のあと、笑って話がしたい」

花園近鉄ライナーズの田中健太選手は弟の田中伸弥選手（三菱重工相模原ダイナボアーズ）との対戦に特別な思いで臨む。相模原DBの見どころもあわせて、ぜひご一読を

今季初勝利を手にした前々節・リコーブラックラムズ東京戦後、向井昭吾ヘッドコーチもキャプテンの野中翔平も勝因の一つとして、「フォワードの頑張り」を口にした。

“スクラムの近鉄”。伝統あるチームで長年受け継がれてきた強みを体現する男の一人が、プロップの田中健太である。

派手さはないが、忠実。今季も12試合に出場してきた田中健太の存在はチームに欠かせないものだ。

「僕は入団後、先輩方がスクラムで相手を押し切ったり、ペナルティを取ったりする場面を数多く見てきました。その強みを受け継ぎたいと思っています」（田中健太）

そんな彼がお手本にする存在が、アシスタントコーチ・アシスタントマネージャーを務める花園近鉄ライナーズの元主将、豊田大樹さんの存在だ。

「器用な選手じゃないけど、とにかく努力してくれるし、けがが少ないのでコーチからすると計算が立つ選手」と豊田さんは、“無事之名馬（ぶじこれめいば）”を地で行く田中健太を称賛する。

チームプレーに徹するのが田中健太の信条だけに「次、勝って、いい形でレギュラーシーズンを締めくくって、（D1/D2）入替戦に挑みたいです」と今季2勝目に燃えている。さらにこの一戦は個人としても特別な思いを胸に秘めて“ラグビーの聖地”のピッチに立つ。

三菱重工相模原ダイナボアーズで今季初めてメンバー入りを果たした田中伸弥は2歳年下の弟である。

同じ大阪桐蔭高校でラグビーに励んできたが、「味方としても敵としても同じピッチに立ったことはない」と田中健太は言う。

田中伸弥はガンを乗り越えてきた経験を持つが「弟の頑張っているところも、苦しんできたところも僕は全部見てきました」と、田中健太は良き兄としての顔を見せた。

先発する兄に対して、弟はベンチスタート。ピッチ内で相まみえる時間は、限られているかもしれないが「一緒に試合をできるかもしれないのはラグビー人生で初めて。試合が終わったあと、笑って話がしたいですね」と田中健太は言う。

勝敗の行方も大事だが、今回のノーサイドは田中の姓を持つ二人にとって、特別で崇高な瞬間になる。

（下薗昌記）

三菱重工相模原ダイナボアーズ（D1 カンファレンスB）

不屈の男がたどり着いた初の舞台。
すべてのプレーに感謝の思いを込めて

がんとの闘い、そして最後の公式戦。三菱重工相模原ダイナボアーズの田中伸弥選手から眼が離せない

三菱重工相模原ダイナボアーズ（以下、相模原DB）は今季最後の戦いを、花園近鉄ライナーズ（以下、花園L）のホームグラウンドである東大阪市花園ラグビー場で迎える。

相模原DBにとって東大阪市花園ラグビー場は、NTTジャパンラグビー リーグワン2022シーズンのD1/D2入替戦でディビジョン1昇格を決めた場所だ。

この試合でメンバー入りした田中伸弥は、「高校の全国大会（第93回全国高等学校ラグビーフットボール大会）の準決勝で桐蔭学園に負けたことが記憶に一番残っています。大学時代は、天理大学に“ボコボコ”にされました」と東大阪市花園ラグビー場でのほろ苦い思い出を明かす。

鋭いタックルを武器に大阪桐蔭高校と近畿大学で活躍した田中は相模原DBへの入団が決まりかけていた矢先にがん宣告を受ける。二度の手術と抗がん剤治療を乗り越え、2019年、念願のプロ契約を勝ち取った。

相模原DBでさらに腕を磨き、公式戦デビューかというタイミングでコロナ禍に見舞われた。

「ようやくプレーできるタイミングで、その機会を失いました」

プロ4年目の2022年、がんを再発。

闘病生活を経て、今季のプレシーズンに復帰。チームメートや家族に祝福されて練習試合に出場した。

「相模原DBは私が入団したときから毎年強くなっていますが、特に約2年の闘病生活をして、チームに戻ったときにはまったく違ったチームになっていて、びっくりしました」

田中ががんと戦っている間、相模原DBもトップレベルの戦いに挑んでいた。

「今シーズンの練習は全部できています。自分なりに頑張ってきたのですが、（グレン・ディレーニー）ヘッドコーチから1カ月前、『心拍機能や体力の部分をさらに向上させるように』と指示されました。練習後もバイクをこぐなどして、それなりに向上させることができました」

そして、今週末に初めての公式戦を迎える。

田中は「（試合に向けて）覚えることが多く、頭がいっぱいの状態です」と硬い表情を見せるも、花園Lに在籍する兄の田中健太の話題になると、「今シーズンが始まる前に最終節で対戦できたら良いねと話していたので、実現できそうでうれしいです」と少し表情が和らいだ。

5月3日、今季の退団選手が発表され、そこに田中の名前があった。不屈の男が臨む、相模原DBの選手として最初で最後の公式戦。

「一つひとつのプレーに感謝の思いを込めるので、見ていただき恩返しをしたいです」

（宮本隆介）