NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(交流戦) 第10節
2023年3月5日(日)12:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 29-38 三菱重工相模原ダイナボアーズ
わずかに競り負けるもチームの
光明となったフィフィタの躍動
昇格組同士が東大阪市花園ラグビー場で火花を散らしたNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 第10節。花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)と三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)による熱戦で、勝ち名乗りを受けたのはNTTリーグワン2022 ディビジョン2 順位決定戦のリベンジを果たした相模原DBだった。
4連敗中の相模原DBが前半23分までに2つのトライに成功し、14対0でリードしていた。しかし、9連敗中の花園Lも黙って引き下がらない。前半26分、ワイマナ・カパのトライで反撃を開始すると「悩める日本代表」が今季出場8試合目にしてついに目を覚ました。
従来のセンターではなく、日本代表で慣れ親しんだウイングで起用されたシオサイア・フィフィタが左サイドでステイリン パトリックからのキックパスを受けると、「日本代表で覚えた」と話すターンで韓尊文をかわして今季初トライに成功する。
「外に決定力がある選手を置いた」と水間良武ヘッドコーチの起用に応えたシオサイア・フィフィタだったが、見逃せないのは、その直前にシオサイア・フィフィタが繰り出した絶妙のキックパス。このプレーでラインアウトを獲得したことが自らのトライにつながった。
「世界のトップの選手になるためにはそういうところも練習しないといけないんです」とプレーの幅を広げることにも意欲的なシオサイア・フィフィタだが、やはり最大の持ち味はそのパワフルな推進力だ。後半に崩れる試合が多かったこれまでと異なり、後半18分には22対21と一旦は逆転に成功。今季初勝利への期待感が高まる中で、個のタックルミスにつけこまれ再び2つのトライを献上し、22対35と点差を広げられたものの、後半33分には左サイドを突破したシオサイア・フィフィタのパスを受けたウィル・ゲニアがトライに成功した。
29対38で競り負けたがシオサイア・フィフィタの躍動は間違いなくチームの光明になったはずだ。
今季は試合後のミックスゾーンで力なく言葉を紡ぐことが多かったシオサイア・フィフィタだったが、目に輝きを取り戻した日本代表は次なる戦いを見据えていた。
「来週もウイング(での出場)なので今日よりももっといいパフォーマンスをしたい。負けて悔しいですけど、残り5試合あるのでしっかりと取り組んで勝ちたいと思います」
未勝利に喘ぐ名門のけん引役が、しかと定まった。
(下薗昌記)
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
水間良武ヘッドコーチ
「外にサイア(シオサイア・フィフィタ)とジョシュ(ジョシュア・ノーラ)という決定力のある選手を置いて、そこでスコアすることができた。前半、最初に2つのトライを取られてしまったんですけど、チームとしては切れずにもう一度自分たちができることを見つめて、一つずつプレーを積み重ねていった。後半の最初にトライをして、自分たちがリードする時間もできた。ただ、本当に簡単なところでのタックルミス、個人でのタックルミス、そこで簡単にトライを取られてしまったところがまだ足りないところですね。ただ、本当に選手たちは素晴らしいものを見せてくれて、見ている人も心に感じるものはあったと思います」
──今日のアタックで特に良かったところをどのように感じていますか?
「今日は外にスペースがあるところで、そこまで回せて決定力のあるサイア(シオサイア・フィフィタ)とジョシュ(ジョシュア・ノーラ)がラインブレイクをし、そしてトライまでつなげられた。トライになった部分と、内側からサポートに来た選手がトライをしたのは良かったと思います」
──これまでの試合と比べると、修正したからこそ、そういったものが出てきたのでしょうか?
「毎試合の積み重ねですね。正しいセットアップをして全員がオプションになる。相手を引きつけて、外にあるスペースに正確なパスを放る。それがつながった部分です。つながってさらに1対1で勝てる選手がいる、ゲインラインを切る、ラインブレイクをすることが今日は出せましたね」
──約束事の基本的な積み重ねかと思いますが、シーズンが進んできた中でやれるようになった手ごたえがあるのか、それとも、まだまだやらないといけないと感じているのでしょうか?
「まだまだできますね。けが人が多くてメンバーがそろわない。ただ、いま、けが人が少しずつ帰ってきて、同じメンバーで試合をできているのでコンビネーションも合ってきているし、チーム力も上がっている。まだまだこれから伸びていきます」
──シオサイア・フィフィタ選手を今日はウイングで起用されましたが、センターで起用するときの違いと、どういう狙いがあった起用だったのか教えてください。
「どこでゲインラインを切るか、それからどこで前に出るかというところで、これまではとにかく中で前に出て、最後に外に持っていってスコアをしようというところだったんですけど、外に回してもゲインラインを切れない、スコアできないということがあったので、外に決定力がある選手を置いたということです」
──前半が終わったところで、今日は行けるという手ごたえもあったと思うのですが、後半に向けてどのようなアドバイスをしたのでしょうか?
「ディフェンスは個人のところ。それから中とのコネクトが切れたところをシステムで抜かれたところがあるけど、それはいいと。ただ、アタックではスペースがあってそこを攻めることができているので、自分たちのスタイルを信じてやろうと、我慢しながらやっていこうというようなことを伝えました」
──けが人の復帰の見込みはいかがですか。
「予定はないですね(笑)。早く帰ってきてほしいですけどね、来週とか再来週に帰ってくる選手はいないですね。(クウェイド・)クーパーもみなさん、早く見たいと思いますけど、まだ帰ってこないですね。(サナイラ・)ワクァも、まだもう少しですね。もう練習には参加していますけど、まだもう少しかかります。(セミシ・)マシレワもけがです。出ていないということはけがなので。もう少し待って帰ってくる選手もいれば、まだもう少しかかる選手もいます。ただ、いま、いる選手がライナー(花園近鉄ライナーズ)の代表で出ていますし、この経験は非常に大きくて、みんなの成長にはなっていると思う。みなさんが追い求めるのは勝利という結果ですけど、みんなに伝えているのは『勝利も欲しいだろうが、結果に左右されずに自分たちのプロセスにフォーカスしてやっていこう』ということです」
花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン
「(水間良武)ヘッドコーチに付け加えてというか、少し自分たちの規律の部分、ブレイクダウン回りもそうですし、そこ(での問題)が前半は少し、多かったところが自分たちで自分たちの首を絞めてしまったかなというように感じています。良い部分も本当にいっぱいあったので、そこにもしっかりと目を向けながら、でも、まだやらないといけないところ、相手よりも下回ってしまったところをもう一回修正して、次節もう一回ホストゲームがあるので、来週のことに切り替えてしっかりとやっていきたいと思います」
──以前からディフェンスのときの横とのつながりが課題としてあったと思いますが、今日もトライを取られた場面では横のつながりを欠いたところで取り切られたように見えました。試合中の修正はどのようにしていたのでしょうか?
「僕たちは以前、その前からも言っていましたが、(メルボルン・)レベルズがコーチで来てくれたぐらいのときからダブルショルダーでしっかりと当てようと言っていました。ただ、今回のミスに関してはインディビジュアルのタックルの部分もありますけど、それでも一人が抜かれて、そのまま抜かれるというのは自分たちがやりたいディフェンスから外れている。そこでもう少しインサイドが外を気にする、もう少し横の人に思いやりを持つという本当に簡単なところ。だけど難しいところをもう一回、全員でディフェンスしていくところを修正してやっていきたいと思います」
──今日は相手が浅いディフェンスラインで、かなり接点でもファイトしていたと思うのですが、アタックのところでどのように崩してどうトライをするイメージを持っていたのでしょうか?
「先ほどから(水間良武)ヘッドコーチが言っているように外にスペースがあるのは分かっていたので、いつもよりミドルに当てる回数を減らしたところと、逆に最初はミドルを何回もアタックして、その逆の広いサイドのワイドを開けに行くというシステムで攻めました」
──2つトライを取られたあと、こちらも取り返しましたが、後半に入っても勢いがありました。どこに拠りどころになるものがあったのでしょうか?
「拠りどころと言いますか、リーダー陣が常に話をしていたのは点数もスコアも関係なくて、本当に『自分たちの役割、各々が自分の役割を果たすところに意識を向けてやろう』と言っていました。おっしゃったように2本取られたあと、少し崩れそうにはなりました。いつもなら崩れていたと思いますけど、特に後半、いつもの試合以上にしんどい状況で自分たちがつながることができて、すごくポジティブにやっていけたことが次に向けて良かったんじゃないかなと思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「ものすごいバトルでした。いろいろと緊張感のあるパフォーマンスで、そこで自分たちが勝てたことはすごくうれしく思います。その相手、花園近鉄ライナーズさんをとてもリスペクトしていますし、自分たちは昨季、ディビジョン2で一緒に戦った友だちなので、そこでまた戦えることはうれしかったですし、このスタジアムでまた戦えたことをすごく光栄に思います。試合の内容としては本当に両チームのコーチ、監督はヒヤヒヤしていたと思いますけど、ファンからしたらものすごい試合になったと思うので、ラグビーとしてはすごく良かったと思います。自分たちもここで勝つことができてすごくうれしいです。特に先週はちょっと自分たちがやりたいことがうまくできなかった試合だったので、そこは改善することができました」
──先週の試合から今週にかけての修正点を具体的に教えてください。
「先週の一番の課題は自分たちがボールコンタクトのところで6、7回ノックオンしたところがあったので、それで良い流れを作ることができなかったことです。今週は練習してそこを修正しようとして、今日の試合でも自分たちが勢いを作れたところでボールをキープすることができた。それによって自分たちも脅威のあるアタックを見せることができたので、そういうところは今日うまく行ったところかなと思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「まずは勝ちを収めることができてすごくうれしいです。連敗続きだったので、やっぱり勝つということはすごくうれしいことだなと思いました。ただ、完璧なゲームではなくて課題も見つかったり、良かった部分もあったりと学びの多い試合だったと思います。また今日の経験をしっかりとこれからの試合に生かしていきたいと思います」
──相手のディフェンスにギャップができたところを確実に取り切るいいアタックができたと思いますが、その辺りをどう感じていますか?
「敵陣に入ったときに、しっかりと取り切るというメンタリティを持ってアタックしていこうというチームの中の共通認識がありました。みんながそういう認識を持った中、強い気持ちを持ってアタックしたことでああいったいいトライが生まれたと思います」
──決して押していた展開ではなかった中で、トライを取れた要因をどう感じていますか?
「まずはやっぱりディフェンスでしっかりと流れをつかんだこと。後半のしんどい時間帯でも(マット・)トゥームアがパッキングしてジャッカルしたところなど、僕らのDNAがしっかりと出せたことでアタックへのチャンスにつながったのだと思います」
──後半に入って逆転をされて、そのあと、2つトライを取りましたが、そのとき、チームのメンタルはどのようなものだったのでしょうか?
「僕らは試合前から相手がどうこうではなくて、自分たちの役割を一人ひとりがしっかりと考えてそれを100%遂行する、80分間やり続けることをターゲットとしてやってきましたので、逆転されたとしても僕らのターゲットは変わらない、やることは変わらなかった。そういったことを発信して、みんなでまた、一人ひとりが自分のやることをやっていこうとした結果がああいった逆転につながったと思います。メンタリティ的にも特に落ちることなく次に向かうことができました」