2024.05.20NTTリーグワン2023-24 プレーオフトーナメント準決勝レポート(BL東京 28-20 東京SG)

NTT ジャパンラグビー リーグワン 2023-24 プレーオフトーナメント準決勝
2024年5月19日(日)14:05 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東芝ブレイブルーパス東京 28-20 東京サントリーサンゴリアス

キックオフ10分前のメンバー入り。
“準備の賜物”が見せた冷静で完璧なパフォーマンス

けが人が出て、キックオフ10分前にメンバー入り。さらに試合中にもけが人に代わって出場、アクシデントに見事に対応した東芝ブレイブルーパス東京の眞野泰地選手

東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)は5月19日、プレーオフトーナメント準決勝で東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)を28対20で破り、決勝進出を決めた。プレーオフトーナメント決勝は5月26日に国立競技場で行われ、埼玉パナソニックワイルドナイツと対戦する。

いまにも雨が降り出しそうな曇天の下、キックオフが10分後に迫る秩父宮ラグビー場で、試合出場メンバーのサポート役として練習を終えた眞野泰地の表情が引き締まり、スイッチが入ったように見えた。

「分かりましたか(笑)。そうです。最後、練習が終わったときに言われました」

先発出場予定だったセタ・タマニバルが試合直前に太もも裏を痛めたことで、マイケル・コリンズが13番に入り、眞野は控えに入った。この日の午前中にメンバー外の選手で「強度の高い、激しい練習」(トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ)をこなしていた眞野は、自主的にウェイトトレーニングも追加。「来週に向けて体を作ろうと思っていました」と、ハードに鍛えてから秩父宮ラグビー場に移動していた。

さらに不測の事態は続き、ニコラス・マクカランが足を痛め、前半24分という早い段階で眞野がピッチに飛び出す。サインプレーは試合中にベンチで覚えたというほどの緊急出場だったが、リーダーシップに定評がある26歳は落ち着いていた。

「全然大丈夫でした。焦ることはなかったです。(劣勢の展開を)変えたいと思っていたので楽しみな気持ちのほうが大きかったですね」

普段とはまったく違う状況で試合に入った眞野だったが、いつものようにボールキャリー、タックル、密集戦で奮闘。後半15分には身長206cmのハリー・ホッキングス、強烈タックラーの山本凱をひらりと交わすと、オフロードパスを松永拓朗にとおし、シャノン・フリゼルのトライにつなげた。

トッド・ブラックアダー ヘッドコーチは試合後の会見で「泰地は今日、2試合やったようなものです(笑)。急きょメンバーに入って完璧なパフォーマンスを見せてくれました」と称賛。メンバー外であっても、自身を鍛え、集中力を保っていた眞野の心構えが、チームを救ったのだった。

来週の決勝に向けては、またチーム内での熾烈な競争が待っている。だが、眞野の姿勢は変わらない。

「誰が選ばれても頑張ります。こういうこともあるかもしれないので、いつでも準備をしておきます」

(安実剛士)

東芝ブレイブルーパス東京

東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(右)、リーチ マイケル キャプテン

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ

──今日はいろいろなポジションの選手が活躍しましたが、その評価を教えてください。

「全員が仕事をしてくれました。前半にプレッシャーが掛かっても、結束力を示してくれました。東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)さんは素晴らしいチームで、大きなプレッシャーを掛けられることを予想していましたが、それ以上のプレッシャーを掛けることができました。それでもレジリエンス(逆境をはね返す力)を見せて、規律も守ることができました。ディフェンスの時間が長かったですが、ボールを取り返したら東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)らしいアタックも見せることができました。選手たちが自信をもって、最後まであきらめずに戦ってくれたことを誇りに思います」

──試合直前のメンバー交代についてと、緊急出場の眞野泰地選手の評価を教えてください。

「眞野泰地は素晴らしいパフォーマンスでした。選手たちの努力を表す形だったと思います。

メンバー変更についてですが、前日に伊藤鐘平が足首を捻挫してしまって德永祥尭が入りました。今日のウォームアップで試合の5分前ぐらいにセタ・タマニバルがハムストリングを痛めてしまって、マイケル・コリンズを13番にしました。
泰地は試合前にメンバー外の選手たちで強度の高い、激しい練習をしていたのですが、急きょメンバーに入って完璧なパフォーマンスを見せてくれました。泰地は今日、2試合やったようなものです(笑)。本当に頑張ってくれました」

──プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた佐々木剛選手の評価は?日本代表も狙えるでしょうか?

「剛はファンタスティックなシーズンを過ごしています。今日もプレーヤー・オブ・ザ・マッチに値するパフォーマンスでした。日本代表のエディー・ジョーンズさん(ヘッドコーチ)もしっかり見てくれているでしょう。

剛は一つひとつのプレーが正確というのがまず言えます。ものすごく良いディフェンダーでブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)でも相手にプレッシャーを掛けられます。センターのように爆発力もスピードもあり、パワーもあって、フォワードとバックスのつなぎのプレーもできます。いま言った強みを今日はすべて出してくれました。彼はとにかく速いです」

──ハーフタイムにどのような指示を出して、後半に立て直したのでしょうか?

「ヘッドコーチとしては特に何も言っていません。選手たちが前半の最後に3点を狙わずにトライを狙っていて、彼らは流れが来ていると理解していたと思います。ハーフタイムに選手が話していた内容は、コーチ陣が考えていたことと同じでした。陣地をしっかり取って、ボールをキープして、相手にプレッシャーを掛けていこう、ということです。腕相撲のような攻防で、勝ってくれたことを誇りに思います」

──トッド・ブラックアダー ヘッドコーチも所属していたニュージーランド代表(オールブラックス)やクルセイダーズ(スーパーラグビー)が強い理由として、『トライを取られたら取り返す』、『前半や後半の最初に点を取る』という話を聞いたことがあります。BL東京にもそのような指導をしていますか?

「考え方としてそこに寄せてはいません。BL東京としては自分たちのプロセスでやっていこうと話しています。結果的にやろうとしていることは似ているかもしれませんが、あくまでBL東京のプロセスを大事にしています」

東芝ブレイブルーパス東京
リーチ マイケル キャプテン

「今日は『さすがサントリー』でした。絶対にこれまでと違うことをやってくると予想していたのですが、一気にワイドに振ったり、ウイングの位置にハイパントを蹴ってきたり、こちらが慣れていない形でプレッシャーを掛けてきました。その中でも80分の間に我慢して、対策を考えて、どうすればうまくいくかをチームで話して実行できました。チームで話していたのはずっとディフェンスについてです。とにかく我慢しようと。ポジティブな結果が何度か続いて、前半最後の勢いが後半につながったので良かったです。後半は風もあって一気に敵陣に行けました」

──前半最後にペナルティゴールを狙わずにトライを狙った意図を教えてください。

「モメンタム(勢い)があったので、フォワードで圧力を掛けようと思いました。ショットで点を稼ごうという選択肢はなかったです。前半はアタックの時間がなかったので、どこが通用するか試したかった部分もあります。決勝で同じ判断をするかは分からないです」

──後半に東京SGの齋藤直人選手のトライかと思われたシーンが、TMOの判定でノートライになりました。レフリーにどのようなことを話しましたか?

「僕は直接そのシーンを見ていなかったのですが、ウォーター係の中尾隼太選手から教えてもらって、滑川(剛人)レフリーに伝えに行ったら、すでにTMO担当とそのことについて話していました。トライにならなくて良かったと思います」

──試合終了の瞬間はどのような思いでしたか?

「最後の最後まで『サントリーは怖いな』とあらためて思いました。最後までプレッシャーを掛け続けてきました。勝つことができてホッとしています。ひさびさの決勝ですし、国立競技場なので楽しみです」

──BL東京のラグビーとは?

「一人ひとりがまず強くて、ラグビーの原点から逃げない。接点に自信を持って、スキルのある選手がいて、速いバックスもいて、ボールを持ったら必ず前に出るのがBL東京だと思います」



「試合で勝たせるのが9番の仕事」。
齋藤直人は負けたままでは終わらない

東京サントリーサンゴリアスの齋藤直人選手。始めからフル出場を求められた状況下で、フィジカルなプレーも厭わないプレーでチームを牽引した

ともに東京都府中市に練習拠点を構える長年のライバル同士、東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)と、東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)。その2チームが激突したプレーオフトーナメント準決勝、今季3度目の“府中ダービー”は28対20でBL東京が勝利。東京SGはリーグ戦で2連敗を喫したライバルに雪辱を果たすことができなかった。

試合前、東京SGのメンバーで注目を集めたのはスクラムハーフのポジション。スタメンの9番・齋藤直人以外、控えメンバーに交代選手がいなかったことだ。スクラムハーフは専門職で代役が難しいだけに、結果的に交代しないことはあっても、始めから交代枠を用意しないことは珍しい。

齋藤とポジションを争うライバルで大黒柱の流大の復帰が間に合わなかったことも、交代枠を用意しなかった大きな要因ではある。ただ、フィジカルバトルで疲弊が予想されるフォワードの交代枚数を増やしたい、という狙い。そして何よりも「直人ならできる」という信頼の表れでもあった。

「直人の負担は大きいですが、(昨年の)ラグビーワールドカップ2023フランス大会でも80分間プレーしていましたから」とは試合前の東京SG・田中澄憲監督のコメント。その期待どおり、齋藤はしっかりと80分間走り切った。

それどころか、普段以上に鬼気迫る表情でチームメートを鼓舞し、後半9分にはTMOによる判定でキャンセルされたものの、“幻の逆転トライ”で秩父宮ラグビー場を沸かせる場面もあった。

試合後、「交代枠がなかったことにプレッシャーを感じなかったか」という問いに齋藤はこう答えている。

「なぜかは分かりませんが、今季はプレッシャーや緊張をほとんど感じなくて、むしろ試合開始が楽しみでした。準備もしっかりできたので自信を持って試合に臨みました」

振り返れば、昨年のラグビーワールドカップ2023フランス大会で80分フル出場したのも、流大の負傷というアクシデントがきっかけ。世界の大舞台で経験した緊急事態への対応力は、齋藤をしっかりと飛躍させていたのだろう。

それでも、常日頃から「試合で勝たせるのが9番の仕事」と語る男にとって、今日の結果は到底我慢できるものではない。次はシーズン最後の一戦、3位決定戦。勝利で今季を終えるために、9番・齋藤直人の仕事はまだまだ終わらない。

(オグマナオト)

東京サントリーサンゴリアス

東京サントリーサンゴリアスの田中澄憲監督(右)、堀越康介キャプテン

東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督

──東京SGペースではありましたが、最後まで流れをキープできなかった要因をどう考えていますか?

「準備したプランで相手をうまく崩せたのが一番良かった点でした。崩す中でBL東京さんも少しパニックになった状態だったと思います。ただ、そこで小さなミスがいくつかありました。序盤で4回、22m以内に入ってスコアできたのは1回だけだったことが物語っていると思います」

──ハーフタイムの指示と、後半にできなかったことについて教えてください。

「プランはうまくいっていたのでアタックは継続し、ブレイクダウンも引き続きやろうと話していました。ディフェンスで、一人目のチョップタックル(膝あたりに入る低いタックル)のあとの二人目のスマッシュ(当たり)がやや遅かったので、スマッシュの部分を強調して話しました。キックについては、相手がハイボールやチップキックをしてくる可能性もあるので、その部分について話しました」

──後半には簡単にトライを取られるシーンもありましたが?

「特に後半2分のラインアウトからのファーストフェーズで取られたトライは、BL東京さんが良く設計したプレーだったと思います。『誰が危険なランナーか』をしっかりコミュニケーションを取って、ディフェンスを厚くできていれば良かったのですが、われわれの足りなかったところかと思います」

──プランはハイパントとボールの動かし方の工夫だったと思いますが、どのようなイメージでしたか?

「前回に対戦した際はボールを長く持ってアタックするプランでした。BL東京さんは『コンタクトするにつれて、エネルギーや勢いが出てくるチーム』なので、中盤は早めにトランジション(攻守の切り替わり)を起こすために3つほどバリエーションを用意していました。その遂行力は良かったです」

──今季は勝ち切れなかった部分もありますが、要因はどこにあるでしょうか?今季全体の評価もお願いします。

「まだシーズンが終わっていないので総論は難しいですが、一つの小さなミスで簡単に相手にボールをあげてしまうことがシーズンをとおしてありました。特に22m(ライン)以内に入った際に、こちらのミスで相手を生き返らせてしまうようなケースです。BL東京さんは、前半はほとんど22m以内に入っていないと思いますが、入ったらスコアしてきました。そこは主導権を握る要因になると思います。見直せる部分なので、次のゲームに向けてしっかりやっていきます」

東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン

──東京SGペースではありましたが、最後まで流れをキープできなかった要因をどう考えていますか?

「簡単なミスだと思います。敵陣にせっかく入っても3フェーズ以内のミスが前半だけで2回ぐらいありました。大事な時間帯での小さなミスが今日の試合の勝敗に関わったと思います」

──後半に齋藤直人選手のトライかと思われたシーンが、TMOの判定でノートライになりましたが、レフリーやリーチ マイケル選手とどのようなことを話しましたか?

「こちらとしては、『リーチさんがオフサイドの位置だったのでは』という意見を伝えましたが、レフリーはラックに入っていない選手を邪魔したという判断でした。判定に対してどうのこうのという気持ちはまったくありません」

──今季3試合を戦って、BL東京の強さはどこにあると思いますか?

「一番はフィジカルです。ブレイクダウンの圧力の掛け方、ディフェンスで二人目に入る選手のドライブの仕方、コンタクトへのスピードチェンジが徹底されていて、かなりプレッシャーを感じました。セットピースにもプライドをもっているので、フォワードとして『強いな』というイメージがあります。

今日に関しては、かなり準備して臨んだのでフィジカルバトルで良い面もたくさんありましたが、一人目のタックルミス、内側の選手のタックルミスで抜かれたシーンがあったので、小さなミスがスコアにつながったと思います」

──前半の最後にトライを狙う相手から守り切りましたが、良い状態でハーフタイムに入ったでしょうか?それとも、ダメージがありましたか?

「『ナイスディフェンスができた』、『良く我慢した』という感じでロッカールームに戻りました。ただ、その前に2回ペナルティをして自陣に入られていたので、課題としてどう修正していくかについても話しました。肉体的にもちろんキツかったのですが、まだ全然いけるという感覚でした」


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