2024.05.26NTTリーグワン2023-24 D1/D2入替戦 第2戦レポート(花園L 30-35 浦安DR)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 D1/D2入替戦 D1 12位vsD2 1位 第2戦
2024年5月24日(金)19:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 30-35 浦安D-Rocks

1年前とは逆の立場に。
明暗分かれた二人のキャプテン

浦安D-Rocksの飯沼蓮キャプテンは試合終了後「花園Lさんがいたからこそ、自分たちも成長できました」と語った

東大阪市花園ラグビー場で行われたD1/D2入替戦の第2戦で花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)を下し、浦安D-Rocksとしてクラブ史上初のディビジョン1昇格を果たしたのは浦安D-Rocks(以下、浦安DR)だった。

ノーサイドの瞬間、ピッチに立つ二人のキャプテンに待っていたのは残酷なまでのコントラスト。「人生のどん底を経験しました」と言い切った浦安DRの飯沼蓮は、昨季のリベンジを果たした上で手にした昇格に喜びの表情を見せる。

一方で1年前の入替戦ではD1残留に安堵した花園Lの野中翔平は「何をやっているんだろうなという思いでした」との思いを噛み締めながら“30対35”のスコアが表示された大型スクリーンを見つめていた。

敗れた花園近鉄ライナーズの野中翔平キャプテン。「今日は1回、落ち込んで、(来季の)1年で上がってきたいと思います」

第1戦で勝利し、昇格に王手をかけていた浦安DRだったが、序盤は悲願達成への意志が試されるような試合展開だった。

開始1分でウィル・ゲニアに先制のトライを許すと、前半10分にはクウェイド・クーパーがペナルティゴールを成功させ、スコアは10点差に。

10点差以上で敗れれば、昇格を逃すことになる浦安DRはいきなり崖っぷちに立たされる格好となったが「昨季の自分たちだったらそこで焦ってしまって、パニックになって自分たちから崩れていったと思います」と飯沼が振り返ったように浦安DRは大崩れすることなく、徐々に点差を縮めた。

パントキックやラインアウトのスローが強風の影響でまともに飛ばないピッチ内で、風下に立った後半の浦安DRは同16分、再び12点差を追う試練の瞬間を迎えてしまう。そこで、試合の流れを決定付けるビッグプレーが生まれた。

後半26分、ピッチに送り出された竹内柊平も、昨季の入替戦で悔しさを噛み締めた一人であるが、投入直後のファーストプレーでセミシ・マシレワのキックに対して、全身を投げ出す渾身のチャージ。こぼれたボールをタイラー・ポールがトライして試合を振り出しに戻すと、直後のコンバージョンキックをオテレ・ブラックが成功させ、25対23と逆転する。

平日のビジターゲームにもかかわらず、大勢の浦安DRファンも足を運んだ東大阪市花園ラグビー場の空気感は一変。昨季の鬱憤を晴らすかのようにその後も得点を重ねた浦安DRが、終盤にトライを許したものの、逆転勝利で昇格をつかみ取った。

浦安D-Rocksは来シーズン、ディビジョン1で戦う

7,883人の観客が見つめた明暗分かれるノーサイドの瞬間。飯沼は「花園Lさんがいたからこそ、自分たちも成長できました。そして僕たちはやっとスタートラインに立てました」と1年間の思いを回顧。

一方、チームの立て直しを託される野中は「今日は1回、落ち込んで、(来季の)1年で上がってきたいと思います。どれだけこの悔しさを継続できるかだと思っています」と前を向いた。

笑ったキャプテンと涙に暮れたキャプテンの次なる戦いはもう始まっている。

(下薗昌記)

花園近鉄ライナーズ

花園近鉄ライナーズの向井昭吾ヘッドコーチ(左)、野中翔平キャプテン

花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ

「(第1戦で敗れて)9点のビハインドがあったので、それ(逆転)に向けてのプランニングは、ある程度、後半の20分ぐらいまではうまくいっていました。それが一つのチャージで流れが変わり、そこから流れをつかみ切れませんでした。ペナルティとシンビンを出してしまい、規律を守れなかったこともあります。これが今日の敗因だと思います。選手を選んだのは私です。選手たちは責任をもってプレーしてくれたと思っています。流れをつかめなかった点などは、私が悪かったと思います。非常に悔しいですが、現実なので、しっかり立て直して1年で上がれるようにまたチームを作っていきたいと思います」

──ウィル・ゲニア選手が5試合ぶりに先発して、先制のトライを決めてチームに流れを引き寄せましたが、あのプレーを解説してください。

「解説というか、最初のチームの勢いは彼が作ってくれたと思います。あの勢いを最後まで続けられるかどうかが、勝敗に絡んでくると思っていました。それを先ほど(野中翔平)キャプテンも言いましたけれども、自分たちで流れを切ってしまったところが何カ所かあって、それが後半に出てしまったところが、あの得点(差)になったかなと思います」

──ウィル・ゲニア選手とクウェイド・クーパー選手のハーフ団は来季もチームに残るのでしょうか?

「一応、来季も残る予定です」

花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン

「本当にいろいろな方のサポートがあった中で、勝負の世界なので、勝つか、負けるか。残るか、落ちるかというところで負けてしまったのは事実。しっかりと1年で戻れるよう、次にいいスタートを切って、いい結果が出るように頑張りたいと思います。本日はありがとうございました」

──1年でディビジョン1に戻るために、何が必要になると思いますか?

「チームの哲学を確立することです」

──キャプテンとしてプレーしている中で感じたターニングポイントや勢いに乗り切れなかった点についてはいかがですか?

「何個かあるんですけど、やっぱり規律の部分だと思います。規律の部分というとペナルティの数。本当に自分たちのフィロソフィー(哲学)やカルチャー(文化)、どういうラグビーをするのかなど、そういう精神的なところが一つ、自分たちを律するポイントになると思っているので、その立ち返る場所というのが確立できなかった。リーダーとして(自分に)責任はあると思っています」

──先ほどおっしゃった哲学というのはシーズンをとおしてなかなか確立できなかったのか、それとも入替戦でということでしょうか?

「いえ、1年をとおしてです」

──できなかった哲学を作るために、ご自身として、どういった努力をしていくのか。どういったところを変えていきたいとお考えですか。

「根本として自分たちがまず何者であるのかということや、何のために戦うのかなど、本当に根底での自分たちが戦う意味ですね。そういうところが疎かになってしまい、立ち返ることができなくなってしまうなど、悪いときに戻れるシーンがなくなってしまっていました。本当になぜ、自分たちが花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)でラグビーをしているのか。何のために、誰のために……。そういうところを突き詰めていって深みのあるチームにならないといけないと痛感しました」

浦安D-Rocks

浦安D-Rocksのヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ(左)、飯沼蓮キャプテン

浦安D-Rocks
ヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ

「すごく誇りに思える瞬間でした。昨季とは、逆側のロッカールームで、試合の展開や結果も逆という形で、まったく違った気持ちをいま、感じています。まずは序盤、いいスタートを切って、自分たちにプレッシャーを掛けてきた花園Lさんの功績を讃えたいと思います。そういったところもあって、自分たちの序盤はミスを恐れてプレーしているようなところも見られました。そういうことも踏まえて、ハーフタイムに『もう1回攻める意識でいこう、ミスを恐れずに攻める意識をもち、結果を恐れずに攻めていこう』という話をしました。自分たちのゴールラインから、ディフェンスで相手をどんどん押し返した瞬間やキックチェイスからチャージ、トライにつながった瞬間などそういったカギとなる瞬間を自分たちのモノにしました。そこからの流れは今までのシーズンのとおり、いい流れのアタックができて、そこからゲームを支配していくことができたと思います。今日、チームが出してくれた成果と努力に対して、自分は誇りを持っていますし、これは今日戦った23名ではなく、チーム全体の勝利だと思っているので、メンバーやマネジメントの方々、フロント、スタッフ、ファンの方々も含めて本当にチーム全体のことを誇りに思っています。最後に、今日こうしてお越しいただいたメディアの方にも感謝の言葉を伝えたいと思います。ありがとうございます」

──選手の数が多いチームだと思いますが、そこでどのようにマネジメントして、ヘッドコーチとしてアプローチされたのでしょうか。そして、この試合は23人の強さを感じましたが、どういう考え方でチームを作られたのでしょうか?

「その部分に触れていただいて、ありがとうございます。もちろん、今日のベンチのメンバーもかなりいいインパクトを残してくれたのですが、ラグビーというのは自分の考えでは23人だけが重要ではありません。やはりスカッド全体の努力が大事だと考えています。チームの真髄となるのは、やはりその選ばれていないメンバーです。そのメンバーが自分たちの価値や、評価されているということを理解して、目的意識を明確にすることに日々、自分は焦点を当てています。そういったメンバーもポジション争いに絡んでいくという挑戦を日々、やっていく中で、自分はチームの一員なんだという意識を持って、チームのために、何が最善かを行動に移していけるような取り組みをしています。結局は個人ではなくチーム全体が大事で、チーム全体が家族のようになるということです。どのような家族だろうが、会社だろうが、チームだろうが、共通するものがあると考えていますし、そういう家族だからこそ、良いときも悪いときも一緒に支え合うことが大事だと考えています。最終的には、ラグビーよりも大事なものが自分たちにあると自分の中では考えていて、自分がチームに所属する限り、ラグビー以外でもどういうインパクトを残していくのか、どういうものを残していくのか。そういう意味も込めて、仲間同士が支え合って自分の仕事をしてくれたメンバーたちにも感謝しています。彼らは試合前日の(試合のメンバーに)選ばれていない中でのきつい練習にも、ポジティブな姿勢でいつも取り組んでいたのでそこにも感謝していますし、そういったところからチーム力というのは生まれているのではないかと思います」

──昨季から飯沼蓮選手はキャプテンとして重い責任を背負ってきました。今季はリーグ戦でフェアプレーチーム賞も受賞して、昨季の課題だった部分も改善されていました。キャプテンの評価を聞かせてください。

「(飯沼)蓮に対しては、多大なる信頼があります。だからこそ、今シーズンも引き続きキャプテンに任命しましたし、昨シーズンのような経験からも、いい学びをして次につなげることができるのが彼の強みであり、だからこそ(キャプテンに)選んだというところがあります。ラグビー的な観点でも、彼はベストパフォーマンスを残してくれたと思います。チームの手本になるように、プレーでチームを引っ張り、仲間からの敬意を勝ち取っていると思います。あとは彼自身、すごくアドバイスをオープンに受け入れる姿勢も顕著に見られて、例えばシェーン・ゲイツだとかほかの先輩たちのアドバイスを素直に受け入れて、それを発揮できるのが彼の強さでもあります。それだけではなく、ラグビー面でも、キック、ディフェンス、アタックのところでの向上も見られましたし、冷静な判断力も見られました。ハングリー精神を持って向上していく、その向上心が彼のいいところだと思いますし、今シーズンはラグビー面において、80分間試合に出ることがたくさんあったのですが、それはこれから先の彼にとっても、すごくいい経験だったと思います」

──新しくできたチームをディビジョン1に昇格させましたが、あらためてこの経験がチームにもたらすものを教えて下さい。

「何回か過去にもこれは言っているのですが、まず昨シーズンはチームとしての基盤だとか団結力を築くことが大事だと考えて、そういったところを作ろうとしました。シーズンをとおして負けなしで進んできて、最終的に強敵である花園Lさんに敗れてしまったことは、そのときに自分たちに問題を解決する能力がなかったということ。自分たちはこれからそういうものを作っていくというチャレンジ(の気持ち)を持って、次のシーズンはもっと団結して、もっとカルチャーを作っていこうという形で(今季を)始めました。すでに基盤が作られた状態で始めることができたので、カルチャーも育ち始めて、お互いが支え合うなど、プレッシャーが掛かったときに、瞬間の集中力やパフォーマンスの発揮能力につながったのではないかと思います。あと、もう一つ、不幸中の幸いというか、いまとなってはいい学びですが、NECグリーンロケッツ東葛さんとの開幕戦で敗北したこともあり、自分たちはプレッシャーを掛けられたときにどう対処するのかについても、シーズンをとおして学んできました。チームのために戦うチーム力というものがシーズンをとおして、付いてきたのがすごく大きかったと思います。

振り返ってみると、コーチとしての自分がチームに対してやってきたことは環境面を整えることですね。選手たちがしっかりとお互いで競い合っていく中で、楽しんで、エナジーをもって、ラグビーができる環境を整えてあげる。その中で、しっかりとハードワークをしていこうというのが、フィットネスのところも含めて今日は試合で顕著に表れたと思います。チームが今日、出してくれた努力に対しては誇りに思っています。自分たちは昨季の同じ立場に立っていたので、今日敗北してしまった花園Lさんのことを思うと、自分はすごく残念な気持ちになりますが、勝負の世界はどちらかのチームが勝たなければいけない。これもスポーツなのかなと思います」

浦安D-Rocks
飯沼蓮キャプテン

「みなさん、今日はありがとうございました。そして花園Lのみなさん、本当に今日はありがとうございました。序盤、やっぱりビジターゲームということもあり、少し硬い入りになってしまい、最初は流れを相手に渡してしまいました。昨季の自分たちだったら、そこで焦ってしまって、パニックになって自分たちから崩れていったと思うのですが、今季は、試合前から逃げ切るのではなくて、自分たちはまだチャレンジャー、勝利をつかみにいくということは言っていました。本当に苦しい場面もたくさんありましたけど、自分たちが言っていたのは、スコアボードは関係なく、自分たちのプロセスだけを信じて、それさえ実行できれば、自然と結果は付いてくるからということです。誰も目は死んでいなかったし、そのとおり、スコアに関係なく、自分たちがいつもどおりのプレーをしたら、自然と流れが来て、このような結果になったと思います。

やっぱり勝負の分かれ目はヨハン(・アッカーマン ヘッドコーチ)も言っていたようにディフェンスの場面で、そこでまた一つチームがコネクトして、チーム力を感じられた瞬間だったと思います。本当に昨季、悔しい思いをしました。花園Lさんがいたからこそ、自分たちも成長できたと思います。そして、僕たちはやっとスタートラインに立てたのでここからD1でまずはトップ4、そして優勝に向けてまた努力していきたいと思います。今日はありがとうございました」

──先ほどのディフェンスの話をされていましたが、後半16分にペナルティゴールを相手が決めたあと、浦安D-Rocksにも22mラインの内側でショットを選ぶチャンスが真ん中でありました。そこでラインアウトを選んで、その後のトライにつながりました。そこの選択を振り返ってください。

「結構、迷ったんですけど、やっぱり自分たちは逃げ切るのではなくて、勝ちにいく、2戦ともしっかりと勝ちをつかみにいったところと、今シーズンはモールにすごく自信があったので(ラインアウトを)選びました」

──その時間帯だけに限らず、相手のほうが消耗しているように思ったのですが、いかがですか?

「そうですね。自分たちも試合前から後半20分ぐらいから絶対に相手は疲れてくるから、そこで自分たちの流れが来るというのは言っていました。日々全員がハードワークしてくれて、スタミナに自信があったからこそできた勝利だと思います」

──飯沼キャプテンは昨季の入替戦後にも、同じようにその席に座っていたと思いますが、昨季と今季の心境の違いを聞かせてください。

「入団してから入替戦で2戦負けて、人生のどん底を経験してきました。それでも折れずに、この経験があるからこそ、成功できるんだというところだけを信じてやってきました。いま、報われてうれしい気持ちですけど、僕の目標はここじゃないので。この先は個人だと代表やD1で優勝するところまでいってから、この2年間の苦しみが報われたと思えるはずなので、そのためにまだ努力していきたいと思います。でも、今日の思いはうれしい気持ちです」

──D1では優勝が目標になりますか?

「もちろんです」

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