NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン2 第5節
2025年2月8日(土)14:30 江東区夢の島競技場 (東京都)
清水建設江東ブルーシャークス 15-47 豊田自動織機シャトルズ愛知
「やらなあかん」の意識と“チーム一丸”の姿勢。スコアに表れない努力と絆
清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)が豊田自動織機シャトルズ愛知(以下、S愛知)をホストゲームに迎えた一戦は、15対47でS愛知が勝利した。
3連勝を果たしたS愛知。好調の要因の一端を担っているのは、藤浪輝人だろう。連勝が始まった第3節こそが、彼にとってはけがからの復帰戦だった。それにもかかわらず、復帰直後からスタメンとしてピッチに立ち、以降、その座を譲っていない。
特に藤浪がこだわって練習を重ねてきたラインアウトのスローイングは、この日の強風の中でも成功を重ねた。「全体的に良かったです。風がある中で僕が投げている間は成功率100%で、手ごたえも良かったです」。入念な練習が、確かな成果として実を結んだ。
自信に満ちあふれ、充実しているように見えた藤浪だが、復帰戦となった九州電力キューデンヴォルテクス戦を思い出してこう言う。「僕にとってもまさかのスタメン起用でした。あのときはリザーブかなと思っていたので驚きました。長らく試合から離れていて、いきなりスタメンで出場したので、そのときは気持ち的にプレッシャーが掛かっていた部分はありました。しかし、徐々に落ち着いてきて、いまはいつもどおりの感じに戻ってきたと思います」。
藤浪が忘れないのは、開幕戦や第2節を戦った仲間の存在だ。「たぶん、かなり緊張していたと思うんです。でも練習のときから、できるだけ自分が分かる範囲でアドバイスをしたり、一緒の時間を過ごしたりといったことは意識していました」。そして、「僕が出場することでメンバーから外れる選手もいる。だからこそ、そのぶんまで『やらなあかん』という気持ちになりました」と、彼らの存在が力になっていることを教えてくれた。
経験のある彼が試合に出れば、責任を果たす。一方で、ベンチにいるときや練習では、若手にアドバイスを送り、ともに切磋琢磨することを意識している。「開幕戦のラインアウトは良かったし、スクラムでは課題もあったかもしれませんが、彼らにとっても良い経験になったと思います。僕が復帰しても、切磋琢磨し合って一緒に頑張っていこうと思えています。(フッカーでは)僕が年齢的に最年長ですが、ジョネ(・ケレビ)も卓真(大山)もすごく良いプレーをしているし、誰が出てもチームは戦える。いまは僕が出場していますけど、しっかり自信を持ってやっていこうと思います」
ラグビーというタフなスポーツを長いリーグ戦で戦い抜くには、メンバー全員の力が必要だ。藤浪の姿勢は、まさに“チーム一丸”の精神を体現しているだろう。
スコアには表れない、積み重ねた努力とチームの絆。S愛知の強さの秘訣が、この一人のフッカーの言葉と行動に詰まっていた。
(奥田明日美)
清水建設江東ブルーシャークス

清水建設江東ブルーシャークス
仁木啓裕監督兼チームディレクター
「本日の試合開催にあたり、ご協力いただいた関係者の方々、ありがとうございました。結果としてはかなり厳しいものとなりましたが、ポジティブな要素も多く見られました。リーグ戦の1試合としてしっかりと振り返り、反省すべき点を反省しながら、次戦へとつなげていきたいと思います。本日はありがとうございました」
──後半19分、リマ・ソポアンガ選手のインターセプトからのトライまでは拮抗した展開でしたが、その後の失点で流れを持っていかれたように見えました。試合をどのように振り返りますか。
「後半20分を過ぎてからの失点が多いというのは、今シーズンの課題として絶えず言い続けていました。やはり徹底し切れなかった部分もあったのですが、いわゆるボディーブローのように効いていたかもしれません。さらに、トライを奪ったことで一瞬気が緩んでしまい、次のプレーに対する集中力が欠けた可能性もあります。メンタル面での要因が絡み合ってああいう結果になってしまったのかなと思っています。徹底させることができなかったのは、私の責任かなと思います」
──メンタル面に課題があったとのことですが、具体的に不足していた点は何でしょうか。
「選手たちは常に強い気持ちを持ってプレーしてくれました。その点については高く評価しています。ただ、インターセプトからのトライ後、ノックフォワードによって相手ボールとなり、そこからモールで押し込まれた場面では、キックオフ時の声掛けや、トライ後に次のプレーへ意識を切り替える指示が徹底できていなかったことが一番の課題だと考えています。私たちスタッフ陣もインカムでつながっていますが、適切な指示を出せなかった点はわれわれの責任です。なので、試合をとおして『もう一度行くぞ』『次のプレーに集中しよう』という意識をチーム全体で共有し切れなかったことが、メンタル面の課題だと捉えています。白子(雄太郎)キャプテンを含めて、選手たちはリーダーシップを発揮しながらよくやってくれているのかなと思います」
──今季初キャップのトコキオ ソシセニ選手と、リーグワン初キャップの髙井優志選手の評価を聞かせてください。
「ソシ(トコキオ ソシセニ)は入団時に130kgで来るという約束でしたが、実際には150kgで入団してきて、全員が体重計を見てびっくりしていました。そこからここまで減量を続け、12月ごろにようやく120kgを切るまでになり、これなら試合に出場できるかなというふうになってきました。特に髙山(慎)S&Cコーチが、オンの日もオフの日も親身になってサポートしてくれたと思います。本当に全員で勝つというか、全員の力でピッチに立ちました。ただ、ソシ自身も非常に努力を重ね、課題も見つかったと思いますが、次のチャンスにつなげてくれると期待しています。
髙井(優志)については、同期の中で唯一公式戦に出場できていなかった選手でした。けがなどが重なって出遅れた感があった中で、今日ようやく初キャップを迎えました。よく頑張ってくれたと思います。ただ、彼の性格上、『よくやった』と言うと満足してしまうので、このあと厳しい言葉を掛けて成長を促したいと思います」
──髙井選手が試合に出場したことで、ほかの選手に与える影響はどのようにお考えですか。
「われわれはメンバー外の選手を『サンバチーム』と呼んでいますが、髙井はその中からチャンスをつかみ取りました。彼が出場することによって、サンバチームのメンバー全員が『努力すれば試合に出られる』という雰囲気になってくれると思います。実際、練習の際にはサンバチームの勢いが非常に強く、レギュラーと入れ替えてもいいのではと思うほどです。髙井の活躍がチーム全体に相乗効果をもたらしてくれるかなというふうに考えています」
──豊田自動織機シャトルズ愛知(以下、S愛知)にはリーグワンでまだ勝利がありませんが、試合前にはどのような声を掛けましたか。
「今季のディビジョン2は、おそらく記者泣かせの成績になっているのも事実だと思います。逆に言うと本当に戦力が拮抗している証拠だと思うので、われわれは『勝てる』と信じていましたし、『勝たなければならない』という意識で試合に臨みました。ただ、S愛知にはこれまで勝ったことがなく、『山で言えば本当に険しい山だ』というふうに選手に伝えました。その山を越えるには、誰一人欠けたら登れない山だと思うので、全員ですべてのプレー、すべての時間、全員でしっかり頑張ろうと声を掛けて臨みました」
──スクラムは健闘していた一方で、モールでは苦戦しているように見えました。フォワードの評価をお願いします。
「スクラムに関してはまったく心配していません。今季のメンバーはリザーブを含め、非常に高いレベルにあります。リザーブ外の選手も着実に成長しており、誰が出場しても同じ結果になると考えています。
ただ、モールについては選手の入れ替えやその他の要因が重なり、コミュニケーションがうまく取れなかった部分がありました。それでも前回のレッドハリケーンズ大阪戦ではしっかりモールを止めることができており、成長しています。しかし、モールで押し込まれることはトライに直結するリスクが高いプレーなので、今日の課題をしっかり分析し、次の練習のときにフィードバックをしっかりして、次戦に向かっていきたいと思います」
──現在のチーム状況をどのように捉えていますか。
「われわれのチームは、まだまだ成長の余地が大きいと感じています。選手たちはフルタイムで仕事をこなしながらプレーしており、例えば朝8時半から夕方5時まで仕事をして、そのあとラグビーに打ち込む生活を送っています。遠征がある日は金曜日の終電で移動し、新幹線の中でも仕事をしている選手もいます。限られた時間の中でラグビーに取り組む環境ですが、しっかりラグビーに取り組むところ、頭も体もしっかりコミットしてきてくれているので、伸びシロしかないと思っていますし、逆にその伸びシロをどうわれわれコーチ陣が引き上げてあげられるか、というところかなと思っています。やはりわれわれがしっかり勉強してしっかり導くことが、これからも浮上するために必要なところだと思っています。選手は本当によくやってくれていると思います」
──後半20分以降に失点し敗れる展開が課題となっていますが、監督としてもその時間帯を乗り越えようという意識はありましたか。
「そうですね。グラウンドでの指導は吉廣(広征)ヘッドコーチがすべて担ってくれているので、私自身は主に選手たちへ気持ちの部分を伝えています。その中で、やはりこの時間帯は我慢してほしかったですし、その先にチャンスがあると信じています。ここでタフになり、我慢を次につなげてほしいという部分で、絶えず我慢ということは声を掛け続けました」
清水建設江東ブルーシャークス
白子雄太郎キャプテン
「この試合ではエリアマネジメントを意識しつつ、単にキックでエリアを取るだけではなく、自分たちがアタックする時間を作ることを重視しました。しかし、後半は思うようにエリアを確保できず、さらにモールやペナルティが続いてしまい、厳しい時間帯が長くなってしまったと感じています。
引き続きチームとして取り組むべき課題は変わりません。次節に向けての課題を克服し、また日々の練習を大切にしながら成長していきたいと思います」
──試合の流れをどのように振り返りますか。
「競った場面での次のプレーが重要だと考えていましたが、キックオフ直後にペナルティを犯してしまい、試合のアヤという部分でそのままいってしまったと思います。その後、相手に押し込まれ、さらにペナルティを重ねてしまいました。
自分たちの悪い流れに陥るパターン、いわゆる“負けパターン”にハマってしまった部分もありました。後半の戦い方、そして試合の重要な場面でエナジーを高め、ディフェンスを固める意識を持つことが必要です。ペナルティをしない意識やメンタルの部分で大きく変わることができると思うので、次節に向けて必ず修正していきます」
──S愛知にはリーグワンで一度も勝利したことがありませんが、試合前に選手にはどのような声を掛けましたか。
「(リーグ戦は)2勝2敗で迎えた5戦目だったので、開幕戦や第2節の勢いを取り戻すことが重要だと位置付けていました。ここで勝利すればチームに勢いが出ると思い、チームメートには声を掛けていました。
ただ、ネガティブな面ばかりを意識するのではなく、自分たちの課題に対して成長している部分も多くなってきて、チームが成長していることはみんな実感しているので、引き続きD3からD2に昇格したチャレンジャーとして、一戦一戦を戦い続けることが大切だと考えています。引き続き挑戦し続けます」
豊田自動織機シャトルズ愛知

豊田自動織機シャトルズ愛知
徳野洋一ヘッドコーチ
「本日は清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)のみなさん、関係者のみなさん、ありがとうございました。本日は愛知県が大雪となり、グラウンドコンディションが心配でしたが、本当に素晴らしい快晴の中で、少し風は強かったものの素晴らしい環境の中で試合ができたことを感謝しています。ありがとうございました。
試合についてですが、前半は非常に良かったと思っています。われわれはこの2週間の準備を経て、さらにレベルアップした姿をお見せできると考えていましたが、ブルーシャークスさんのプレッシャーもあり、また、ひさびさの試合ということもあって噛み合わない時間が多くなってしまいました。加えて、レッドカードの影響やHIAによる選手交代などイレギュラーな状況もありましたが、その中でも最後にしっかりと力を示せたことは、選手たちの努力が素晴らしかったからだと思います。本日はありがとうございました」
──前半、後半と苦しい時間帯がありましたが、どのように乗り越えたのでしょうか。
「まだまだ課題も多くて、自分たちもまだまだ成長しなければいけない点は多いのですが、純粋にわれわれのスタンダードが高かったのかなと思います。自分たちがこれまで積み上げてきたものもある中で、シンプルに選手が我慢強くプレーした結果、モメンタムのバトルの中で自分たちが勢いを奪い返せたかなと思います」
──試合のない期間に準備してきたことの手ごたえと評価はいかがでしょうか。
「ファーストトライを非常に早いテンポのアタックから奪えた点は、われわれが取り組んできた成果の一つです。その中でも何度かスティールでボールを奪い返す部分も取り組んできたことなので、そうした自分たちのこの2週間の準備というのはパフォーマンスで示すことができた部分もあるのかなと思っています」
── 一方で、江東BSに対してプレッシャーを受けてしまった部分はどこでしょうか。
「やはりシンプルにコリジョンの部分で少しパッシブ(受け身)になってしまった部分は反省しなければいけないのかなと思います。その部分で相手の10番と15番、非常にいい選手なので、彼らに力を発揮させてしまったところはわれわれも反省しなければいけないと考えています」
──前半にはミスも散見されましたが、ハーフタイムで選手に伝えたことはありますか。
「前半は風下での戦いとなり、得点差がそこまで開かないと思いましたが、19対10で折り返せたのは良かった点です。ただ、エラーが多かったことも事実です。ただ、試合前からハーフタイムにかけて、一貫して選手たちには『この2週間の準備を信じ、それにフォーカスしよう』と伝えました。『本当にこの2週間の準備を遂行することだけにフォーカスしてほしい』ということをメッセージとして伝えました」
──試合のない期間中に準備してきたことは、今後のシーズンにどのように生かせるとお考えでしょうか。
「少しゲームから離れてしまった部分の難しさはありましたが、必ず来週の試合には今日の試合以上のパフォーマンスができるだけの準備を進めていると思います。われわれは、リーグの後半戦に向けてまだまだ伸びシロがあって、その伸びシロに対して新しい方向に進めていると思っているので、そのパフォーマンスは来週さらに上がっていって、後半戦はさらに良いラグビーができるかなと思います」
──あらためて、この試合に勝ち切れた要因を教えてください。
「まず前半は風下だったことで、なかなか点差は開かないかなと思っていました。加えて、現在のラグビーを見ていただくと分かるとおり、やはり前半はどのチームも拮抗した戦いになっています。お互い元気な時間ですので、少し我慢の時間が続くかなと思ったということと、攻撃のディテールの、プレーの精度やインテンシティーという部分で一貫性を持っていられた結果、後半から得点が開いたと思っています。前半からのわれわれの我慢強いプレーが後半に大きく差を開くことになったと思っています」
豊田自動織機シャトルズ愛知
ジェームズ・ガスケル共同キャプテン
「風も強くて、前半の最初はすごく厳しかったところではありましたが、そういうところから今回は学んでいけたらなと思っています。インターセプトがあったところはターニングポイントだったかなと思いますが、そこからしっかり立て直せて良かったと思います」
──非常に安定していたセットピースの評価、振り返りをお願いします。
「チームが良い流れではないときに、セットピースのモールなどを使って、しっかりチームの流れを変えていくというのは大事だとフォワードで話していたので、今日だとモールがターニングポイントになったとは思っています」
──ケレビ ジョシュア選手がレッドカードを受け、フレディー・バーンズ選手が途中でHIAによって下がるなど、予測ができない事態が起きる試合内容でしたが、その際はチームにどのような声を掛けましたか。
「しっかり全員でコミュニケーションを取って、次のプレーをどうしていくか、どういう動きをしていくのか、というところを確認することで、フレディーが抜けている間もしっかり正しい方向にいってくれたと思います」