2025.06.02NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント3位決定戦レポート(神戸S 22-17 埼玉WK)

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント3位決定戦
2025年5月31日(土)14:05 秩父宮ラグビー場 (東京都)
コベルコ神戸スティーラーズ 22-17 埼玉パナソニックワイルドナイツ

過去最高成績につながった“一体感”。震災から30年、特別なシーズンは未来への礎となった

3位決定戦に勝利したのはリーグ戦5位通過のコベルコ神戸スティーラーズだった

プレーオフトーナメント3位決定戦で激突したレギュラーシーズン2位の埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)と、同5位のコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)。激しい雨や風にさらされる過酷な80分となったが、攻守の強度を徹頭徹尾、貫いた神戸Sが22対17で勝どきを上げる。この結果、3位・神戸S、4位・埼玉WKの順位が確定した。

「一つの自信になると思います」

日和佐篤はいつものように飄々とした様子で応じた。神戸Sが埼玉WKに勝利したのは、2003年12月以来、およそ22年ぶりのこと。今季ラストマッチで歴史を動かした。

試合は立ち上がりから神戸Sが主導権を握った。ところが、落雷の可能性があり一時中断。いい流れを失う不安は拭えなかったが、「各々で時間を過ごしました。『(勝敗は)ジャンケンでええんちゃう?』みたいな、しょうもないことを言ったりもして(笑)」と日和佐。変に気を張らず、等身大のメンタルで再開を迎えた。

体を張った日和佐やブロディ・レタリックらベテラン勢。若手も自らの持ち味の発揮に心血を注いだ。この試合には今年春に大学を卒業したばかりの選手が5名メンバー入り。シーズン終盤に先発の座を勝ち取った植田和磨は、相手の屈強なボールキャリアーに堂々と対峙し、ソロモネ・フナキも名うての敵フォワードに真っ向勝負を仕掛けた。

後半、デビュー戦のグラウンドに立った本橋拓馬は「躍動するというか、チームを鼓舞することができたんじゃないか」と手ごたえを話し、上村樹輝も「アタックではアグレッシブにチームに勢いを与えられた」とテンポのいい配球で押せ押せのムードを演出。辻野隼大も渾身のバトルで魅了し、また、2年目の20歳、タリ・イオアサもけが人等(フロントローのHIAを受けたカテゴリー枠の調整による一時交替)の事情で短い出場時間となったが、力強い前進を見せた。

14番で先発した植田和磨選手(写真右)と、リザーブから試合終盤に出場を果たした辻野隼大選手

ベテランも中堅も、そして、‟ヤング・スティーラーズ”も。それぞれが自らの‟やるべきこと”と向き合い、パフォーマンスを最大化した。「中堅、若手、ベテランがうまいこと混ざっていい文化ができたらいい」と神戸Sの未来に視線を向ける日和佐は、同時に大切な過去も見つめる。阪神・淡路大震災から30年の節目だった今季、強い思いを胸に宿して戦った。

「シーズンをとおしてチームが一体感をもって意識高くできたことはうれしいことです。今日の試合に勝って、何かを感じてもらえたらうれしく思います」

日和佐の言葉はチームの総意。共同キャプテンの李承信も言葉に力を込めた。

「これまでサポートしてくれたファンや会社、そんな方々が笑って(今季を)終えてくれていたら、僕たちもすごく満足な気持ちでいっぱいです」

チームにかかわるすべての者が、‟一丸”で特別なシーズンを戦い抜いた。リーグワン発足後、過去最高となる3位でフィニッシュした神戸S。未来に大輪を咲かせる、確かな礎となるシーズンだった。

(小野慶太)

コベルコ神戸スティーラーズ

コベルコ神戸スティーラーズのデイブ・レニー ヘッドコーチ(左)、ブロディ・レタリック共同キャプテン

コベルコ神戸スティーラーズ
デイブ・レニー ヘッドコーチ

──3位という結果が意味するものを教えてください。

「選手が出してくれた姿勢の部分、先週末はタフな結果で、このジャージーを着る上で、何を代表しているのか。街だったり、会社であったり、自分たちは代表しているものを背負って戦うからこそ、このジャージーを着ているんだという意味をしっかり出すこと。しっかりとその上でキャラクターを見せることができたと思います。プレッシャーを受ける場面もありましたけど、プレッシャーを相手に与えて、自分たちがプレッシャーを受けながらも進まないといけないところもしっかりできたと思うので、その部分に関しては来季につなげていきたいと思います」

──2003年以来の埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)からの勝利でしたが、その意義について、どう考えていますか。

「すごく長い間、勝っていないというのは知っていましたが、2003年からというそこまでの数字をはっきりと理解していたわけではないです。埼玉WKさんのようなクオリティーの高いチームに勝つことはどんな日であってもうれしい結果だと思います。チームの中を見てもすごく喜んでいる選手はたくさんいましたし、ファンの方々も喜んでいると思いますし、会社も自分たちのことを誇りに思ってくれたらなと思います。なので、そういう形で埼玉WKさんに勝って試合を終えることができたことは自分たちにとっていいシーズンの終わり方をできたかなと思います」

──就任して2シーズン目になると思いますが、昨季に比べて最もチームが成長したのはどういうところでしょうか。

「昨季5位で終えたということはチームにとって残念な気持ちでした。ただ正直、課題というのも多くあったチームだと思うので、5位というのは現実的な順位だったのかなと思います。ミスの数も多かったです。チームの中に素晴らしいスタッフがたくさんいます。コーチ、S&C、メディカルもクオリティーが高いですし、そういうクオリティーの高い人間たちが集まっていることは自分たちにとってはラッキーだと思っています。本当に素晴らしいスタッフがいる中で、リクルートの部分でも、若い選手たちがたくさんこのチームに入ってきて、そこの部分でしっかりとこのチームの将来につながるような形で試合に出場してくれました。今日の試合でも、1月から参加したばかりの選手たちも出ていましたし、今季をとおしてセットピースもすごく成長したと思います。自分たちはまだまだ成長している途中ですけど、特にセットピースの部分は成長した内容かなと思います。しっかりとこのオフシーズン、メンタル、フィジカルの部分でリフレッシュして、さらにここまで積み上げたものから成長できる来季に向かっていきたいと思います」

コベルコ神戸スティーラーズ
ブロディ・レタリック 共同キャプテン

──(ブロディ・)レタリック選手の献身的なプレーもそうですし、日和佐篤選手のお手本になるようなセービングなど、ベテランの選手がこの試合のいいテンションを作ってくれたように感じました。

「(試合が雷によって)中断するまでもそうですけど、自分たちがどれだけ楽しいことができるかを話していました。後半に関しては向かい風に対してのプレーというのもあったので、さらに激しいキャリーや、体を当て続けないといけないという話を自分たちの中でもしました。こういう大一番、大事な試合になればどれだけ経験豊富な選手、ベテランの選手がしっかりと正しい行動で周りの選手たちに例を示せるかというところが大事だと思います。その上で特に日和佐選手は素晴らしい例を周りに見せ付けてくれたと思います」

──2003年以来の埼玉WKからの勝利でしたが、その意義について、どう考えていますか。

「チームにとって大事なことは、『自分たちは勝てるんだ』という部分の信じる気持ちを作ることができたと思います。埼玉WKさんに勝てたことはうれしいですし、今週、チームの中で自分たちで話した内容で、『今季は(レギュラーシーズンで)トップ3のチームに一度も勝っていない。ここで勝てるか勝てないかが自分たちがそのレベルでも戦えるのかどうなのか、そういったチームなのかどうなのかということを証明するチャンスだ』と話してきました。そこは一番のモチベーションになったと思います。ディフェンスでも本当に自分たちがどれだけトップ3のチームに対して守り続けることができるかどうかを今日は見せられたと思うので、来季につながる内容だったと思います」

──いい試合の入りをしたあとに雷のために中断がありました。その時間をどのように使ったのでしょうか。

「試合の中でこういう形で中断するのは珍しいですし、自分もあまり経験のないことでした。ただ、(ロッカールームに)戻ってからはまずリラックスしようと。その部分は変に自分たちで気持ちを入れるのではなくリラックスしていました。再開が近づくにつれてコーチのほうからもクリアなメッセージがありましたし、自分たちリーダーズのほうでもどういうふうに再開してからスタートしたいのか話した上で迎えました。プレッシャーを前半は掛けることができていたので、それをいかに得点に変えて前半を終えられるか、残りの20分を終えられるかが大事だと話して、それは前半残りの20分でできたことだと思うのでそこは良かったと思います」

──チームは6週連続で試合をこなし、厳しい条件でもあったと思いますが、戦い抜けた理由を教えてください。

「今季を振り返ったときに、5週(続けて試合を)やってからバイウィークという形、いつもより長いときも多かったと思います。そういうときもコーチのほうが選手をリフレッシュしながらマネージングをしてくれていました。この試合に関しても、何人かの選手が(レギュラーシーズンの)最終節をしっかり休んだ上で向かうことができたのは良かったと思います。ただ、どのラグビー選手も同じだと思いますけど、プレーオフトーナメントに向かうことは自分たちが一番求めていることですし、プレーオフトーナメントで戦えることは自分たちにとっても大きなモチベーションになるので、そこは大きな問題はなかったです」

埼玉パナソニックワイルドナイツ

埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督(右)、大西樹ゲームキャプテン

埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督

──3位決定戦の位置付けをどのように選手に伝えて臨みましたか。また、雷による中断期間もありましたが、どんな過ごし方をしたのでしょうか。

「『先週の残念な結果(準決勝・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦)から前に出るきっかけをもらったな』と伝えました。勝って今季を終わりたかったですけど、前に進むためにこのような試合をできたことは良かったと思っています。このような環境の中、いいシーンが繰り広げられたと思っていて、ファンのみなさんには楽しんでいただけたのではないかと思います。天候については、とてもドラマチックな展開になったなと思います。選手は努力してくれました」

──高城佑太選手を先発で起用し、小山大輝選手がベンチスタートだった意図について、教えてください。

「小山選手に関してはとても大きい負荷があったので、このような采配にしました。これから小山選手はラグビーを続けていくと思いますので。稲垣(啓太)選手についても、火曜日のところでコンディションに懸念点がありましたので、それに対してリスクを負う必要がないかなと判断しました。彼ら以外にも数人がそのような状況でしたが、それは別に結果には関係はなく、個人のところの状況を優先した采配になりました」

──勝てなかった準決勝と3位決定戦、共通していることとして相手のディフェンスがたくさんいるところに何回もアタックをしていた印象があります。ほかにもスペースがあるのではないかと感じる中で、本来、埼玉WKは人がいないところを攻めるのが強みかなと思っていましたが、いかがでしょうか。

「後半のところですね。勢いが生まれていったんですけど、我慢強くアタックし切れなかったのがあったと思っていますし、この勢いを使って恩恵を受けられなかったなと感じています。選手たちは積み重ねていって、振り返ったときにいい経験となったというふうになればいいなと思っています」

埼玉パナソニックワイルドナイツ
大西樹ゲームキャプテン

──なかなか点を取れないまま、雷による中断があったが、この時間をどのように過ごして話をして再開につなげたのでしょうか。そして、うまくいったこと、うまくいかなかったことは、何だったのでしょうか。

「入りは相手のアタックを受けてしまったところがあったんですけど、ちょうど中断期間がいい時間になって、課題や起きた問題をみんなでしっかり話し合う時間があったので、すごくポジティブに使えました。ディフェンスの部分でホールディングだったり、体をしっかり当てて横の選手としっかりつながることだったりは改善できました。ただ、フィニッシュの部分で、何回もトライチャンスがあったんですけど、そこを取り切れなかったことが今後の課題です」

──入場のときに観客席に手を挙げていた心境と、ゲームキャプテンとして、どのように引っ張っていこうと考えていましたか。

「手を挙げたのは、どんなときでも応援してくれるファンがたくさんいて、ホストゲームでもビジターゲームでも来てくれてすごく力になっています。そこには応えたいといつも思っていて手を挙げています。3位決定戦というのは僕は初めてでしたが、こういう試合でキャプテンを任されるということは、『僕自身の仕事をしっかりやって、どれだけチームを盛り上げられるかというところが大事だな』と言われたときに思いましたし、そういう思いでやりました。でも絶対にこの経験は無駄にはならないので、来季に生かします」

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