2025.06.03NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント決勝レポート(BL東京 18-13 S東京ベイ)
NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント決勝
2025年6月1日(日)15:05 国立競技場 (東京都)
東芝ブレイブルーパス東京 18-13 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
チームのために戦う世界最高のファンタジスタが見せた“奇跡の物語”
東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)は6月1日、プレーオフトーナメント決勝でクボタスピアーズ船橋・東京ベイを18対13で破り、リーグワン史上初の連覇を達成した。
試合後の記者会見でトッド・ブラックアダー ヘッドコーチが、この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたリッチー・モウンガについて語った。
「リッチーは右手を骨折していました。この1週間は練習もしていない状態でした。7割は出られないと思っていましたが、彼はあきらめませんでした」
リーチ マイケル キャプテンは「(骨折の)レントゲンを見たときは正直、無理だと思いました」と振り返り、「腫れが引いて、良い状態になったのは奇跡だと思います」と感慨深げに語った。
事実、決勝4日前の練習ではモウンガは右手を厳重に保護し、落ちているボールを拾う際も左手で扱うのみだった。それでも、ただ別メニューをこなすのではなく、試合メンバーの練習を近い位置で見て、時には一緒に軽く走りながらチームメートにアドバイスを送っていた。
決勝への出場は厳しいと思われる中でも、本人は最初から出場だけを見据えていたのだ。
「最初から出るつもりでやっていました。過去にも骨折したままプレーしたことがありましたし、不可能ではないと分かっていたので」
強行出場となったモウンガは前半8分に2人のタックルを受けながらトライを奪うと、後半7分には華麗なランで相手ディフェンスを切り裂き、森勇登のトライをアシスト。負傷の影響を感じさせない圧巻のプレーでチームを優勝に導いた。
そして、試合を終えると涙を流した。
「初めて感情的になりました。けがを乗り越えたという感動と、メディカルチームやチームの仲間がサポートしてくれて優勝できたことでグッときました」
“世界最高の司令塔”と評され、鮮やかなプレーに注目が集まるモウンガだが、ブラックアダー ヘッドコーチは彼を「究極のチームマン」と呼ぶ。
モウンガはチームのために戦う理由を微笑みながら語った。
「BL東京のことが大好きです。人が喜んでいるのを見るのが好きなので、スタッフを含めてチームのみんなの努力が報われたことがすごくうれしいです。チーム全体で勝っていることを誇らしく思います」
リーグワン史上初の連覇達成と、記憶に残り続ける“奇跡”の物語。世界最高のファンタジスタによって、日本ラグビー界に新たな伝説が刻まれた。
(安実剛士)
これも人生。光の差す方向へ、次の一歩を踏み出す
生きるということは、ほとんどの場合、思惑どおりには進まないものだ。どんなに準備をしたとしても、結果は時に裏切ることがある。
でも、C'est la vie(セラヴィ)。これも人生さって、そう語りかけてくるCMがあったよね。その不確かさを抱きしめて、僕らはまた、次の一歩を踏み出すしかない。
今季、クボタスピアーズ船橋・東京ベイは、課題を課題のまま残さず、悔しさをその都度次の勝利で癒しながら、反省と前進を両立させてきた。だから、同じ相手には二度、負けなかった。
2年ぶり、二度目の決勝の舞台。目の前に立ったのは、今季唯一勝てなかった東芝ブレイブルーパス東京。カラーの重なりを避けるため、この日は創部当時のデザインを踏襲した復刻ジャージーを着用。チームの歴史をまとい、国立競技場へと向かった。物語は、クライマックスを迎えようとしていた。舞台は整った──、かのように思えた。
しかし、芝の上に描き出されたのは、ただひたすらもがき続けるスピアーズの姿だった。接点で主導権を握れず、今季のディビジョン1最少失点を誇った鉄壁の防衛網も破られた。約5カ月半にわたるタフなシーズン。その最終章に待ち受けていたのは、息つく間もないハードな6連戦。無傷でいられるはずもない。選手たちはグラウンドに崩れ落ちては、痛みを引きずりながら、また戦場へと身を投じていく。
それでも、押し寄せる現実に抗いながら、彼らは逆転へのわずかな希望の灯を、ともし続けた。立川理道のトライ、バーナード・フォーリーのコンバージョンゴールでようやくその可能性が色づき始めたのは後半の33分。だが、5点の得点差を埋めるには、残り7分という時間はあまりにも短すぎた。立川が振り返る。
「ゲームの大半は向こうのペースでした。よくこの点差で抑えられたと思います」
どれだけ積み上げても、それが報われない日もある。報われないからこそ、次の歩みが意味をもつ。今季からの新キャプテン、ファウルア マキシは「チームとともに毎週成長できている実感がある」と手ごたえを語り、前キャプテンの立川も「頼もしい若手が多く、今季はタイトな試合や大舞台を経験できたことが大きな財産になった」と視線を前に向けた。
厚い雲に覆われた国立競技場の上空。ノーサイドの瞬間、くすぶっていた空が突然、泣き出した。人は雨に打たれながら、少しずつ大人になっていく。セラヴィ──、これが人生。学校の帰り道に口ずさんだ歌のように、未来には、いつも光がある。強く、儚い者たちは、また一歩、光の差す方向へと歩みを進める。
(藤本かずまさ)
東芝ブレイブルーパス東京

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ
──今日の試合の振り返りをお願いします。
「チーム全員の今日までの努力を誇りに思います。今日という日に至るまで、チームとしての信念、向き合う姿など、素晴らしい状態で1年間やってこられました。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)さんもセットピースや接点などをチームのDNAにしていて、予想どおりフィジカルな試合になったのですが、特にセットピースについては選手、コーチが素晴らしい準備をしてくれました。その結果として素晴らしいパフォーマンスとなったことをうれしく思います。決勝ということもあってプレッシャーが掛かる中で、細かい部分で勝負が決まっていったと思いますが、そうしたところをものにできてうれしく思います」
──リッチー・モウンガ選手の右手の状態と、今日のプレーについての評価を教えてください。
「リッチーの状況は良くはなかったですが、今日の試合に出てくれたことで彼がどれだけタフな選手かわかったと思います。右手を骨折していて、この1週間は練習もしていない状態でした。それでもチーム練習の中でイメージはしてくれていて、昨日のキャプテンズラン(前日練習)で今週初めてボールを触ってパスもキャッチもできた、というところです。
今日のパフォーマンスもすごく良かったですし、『手が折れている』なんて感じさせないプレーをしてくれました。そういう状態で試合に出て、あのようなプレーをしてくれたことが彼のチームに対するコミットメントの表れだと思っています」
──モウンガ選手の加入がチームにもたらしたものは、どんなところでしょうか。
「モウンガについては『究極のチームマン』と表現したいです。チーム練習の時間外でも森田佳寿コーチングコーディネーターとミーティングをしてくれていますし、もちろん選手として試合のかじ取りもしてくれています。リーチと2人で良いリーダーで、戦術とメンタリティーを素晴らしい調和でカバーし合って、チームを前に進めてくれています。
(スーパーラグビーの)クルセイダーズのコーチ時代にリッチーを選んだ際に、タフな選手だという印象でした。また、チームを思う気持ちもすごく強い選手です。先週の試合が終わって、今週の試合には7割は出られないと思っていましたが、彼は出場をあきらめずに自信をつけて、キャプテンズランでも『なんとしても出る』という気持ちが伝わるような走りやプレーをしていて、それこそが彼のチームに対するコミットメントを示しています」
──以前、チームは来季も再来季も伸びていけると話していましたが、これからの伸びシロはありますか?
「どのような試合でも、自分たちについて新たに学ぶことがあります。その学びを拾っていけることが、自分たちがまだ伸びていけるという理由です。今季の最初から見直してみても大きく成長があって、毎週の試合から改善点を見つけてそこをつぶしてレベルを上げてきました。全員が学ぶ意欲をもっていて、良い若手が育ってきていることも大きいと思います」
──リーグワンのレベルは上がっていると感じていますか。
「非常に競争力の高いリーグになっていると思います。シーズンをとおしてどこがどこに勝ってもおかしくないですし、実際にアップセット(下位チームが上位チームに勝つこと)も多かったです。そんな作用があってレベルが上がっていると思います。また、忘れてはいけないのがレフリーのみなさんが素晴らしい仕事をしてくれたことです。プレッシャーが掛かる大変な役回りですが、みなさんが勉強されながら素晴らしいレフリングを提供してくれました。
リーグのフォーマットとして2位までは準決勝からとなりましたが、3~6位の争いもタイトでしたし、先日の入替戦も緊迫した展開になっていて、リーグ全体への興味を引ける大会になっていると思います。18節を戦って最後の最後まで2位以内のチームが分からなかったり、コベルコ神戸スティーラーズさんがレギュラーシーズンの5位から3位になったり、各チームの差が縮まって紙一重の勝負になっています。そうした試合ができているからこそ、ファンのみなさんを引き付けることができているのかな、と思います。今後の改善点が簡単には思いつかないぐらい素晴らしいリーグになっています」
東芝ブレイブルーパス東京
リーチ マイケル キャプテン
──今日の試合の振り返りをお願いします。
「5万人のファンの前で良いラグビーができたと思います。S東京ベイは6連戦でしたが、最後の最後まで自分たちにプレッシャーを掛けてきて、本当にキツい試合でした。その中でも粘って、粘って、東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)らしく戦えて、勝てたことがうれしいです。
今季ずっとサポートしてくれたファンと、自分たちを支えてくれたノンメンバーの選手、コーチ陣に感謝しています。リーグワンになってから連覇は初なので、新しい歴史ができてうれしいです。連覇することができて、チャンピオンとしてシーズンは終わるので、1回休んでまた来季に向けて準備したいと思います」
──連覇となりましたが、昨季の初優勝との違いはありますか。
「(シーズンの)スタートの時点でプレッシャーの違いは感じていましたし、キャプテンとして連覇する経験もなかったので、(スーパーラグビーで)7連覇したリッチー・モウンガに経験を聞いて、何を大事にするかを学んだ1年でした。
今季はほぼ同じメンバーで戦ってきて、出ていない選手もたくさんいて、なかなかチャンスをつかめなかった選手もいるのですが、彼らは準備を一生懸命、100%でやってくれたので、それも連覇できた要因だと思います」
──優勝した瞬間はどのような思いでしたか?
「昨季に続いてあまり『よっしゃー』という感じではなくて……、実感が湧いていない感じです。リーグワンで20試合、勝ったり負けたり同点だったりしましたが、最後の最後に優勝できてうれしいです。連覇へのプレッシャーもあったので、勝った瞬間はホッとしました」
──負傷していたモウンガ選手とは、どのようなコミュニケーションをとっていましたか?
「手の状態についてはあまり話してなくて、(試合を)できるかできないかは彼に任せていました。あとは酸素治療に3日連続で一緒に入ったのですが、そこで腫れも引いて、良い状態になったのは奇跡だと思います。(骨折の)レントゲンを見たときは正直、無理だと思いました。彼の勝ちたいという意欲を感じて、あらためてすごい選手だなと思いました」
──モウンガ選手の加入がチームにもたらしたものはどんなところでしょうか。
「素晴らしい選手であることは間違いなくて、クルセイダーズで7連覇して、オールブラックスの経験もあります。勝つためのメンタリティーをチームに浸透させてくれました。昨季は初優勝に向けて、どうやってプレッシャーに打ち勝つかを話してくれて、今季は『チームの中で連覇と言う言葉を使わないでいこう』という話もしてくれました。
勝ち方を知っていて、プレッシャーが掛かる試合に向けた1週間の進め方も熟知している選手です。今日も折れた手でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍で、彼がどれだけタフな選手かを表した試合だったと思います。
あとは彼が府中という街、BL東京というクラブを心から愛していて、そこで日々を過ごしながらコミットしてくれているのが、パフォーマンスに出ているのかなと思います。一緒にプレーすることがうれしい選手の一人です」
──コリジョン(ぶつかり合う場面)やブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)の意識はどんなものでしたか?
「とにかく、しつこくタックルで相手に刺さる、ダブルタックルでいこうと話していました。相手の両ロックとナンバーエイトや、出てくる選手にプレッシャーを掛けまくって、ミドルエリアで止めようとしていました。よくできたと思います」
──胴上げは昨季と同じく直立姿勢でした。
「自分の中で軽くすべったんじゃないかと思っています(笑)。昨季と同じにしようとは考えてなかったのですが、真面目にやりたいと思います(笑)」
──チームのこれからの伸びシロは何でしょうか。
「BL東京には若い選手がたくさんいるのですが、出番が少なかったです。シーズンの95%ほどを同じチームで戦ってきたので、若い選手をどうやって出すかは問題点でもあると思います。たくさん良い選手がいても出番がないと、日本代表になるチャンスもないので、来季はもっと若い選手が出るようになってほしいと思います」
──リーグワンのレベルは上がっていると感じていますか。
「昨季から勝つために100%の準備をしなくてはいけなくて、5%でも落としたら負ける、というリーグになってきました。リーグワンを戦う中で、将来的に日本代表になりたい選手をどれだけ増やせるかも大事で、日本代表を目指したい選手を増やしたいと思います。良い外国人選手も増える中で、リッチー・モウンガやシャノン・フリゼル、マルコム・マークスらと戦って、良い感触を得て、日本代表を目指す選手が増えればもっと日本ラグビーは良くなると思います。
今季も札幌や鹿児島までたくさんの記者の方が来てくれて、たくさん良い記事を書いてくれてありがとうございました。来季もよろしくお願いします」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ
「こんにちは。アメイジングな素晴らしい決勝でした。BL東京さん、2連覇おめでとうございます。今日の彼らの戦いは、勝利に値しました。彼らの強さ、プレースタイルは、彼らに多くのエネルギーを与え、われわれにプレッシャーを掛けました。
われわれはペナルティを多く与えてしまいました。試合に戻るために一生懸命戦い、最後に勝利のチャンスを作りましたが、結局のところ、時間が足りませんでした。BL東京さんに賛辞を送ります。彼らのプレースタイルはわれわれを苦しめました。しかし、われわれはこれから多くを学び、より良くなり、この経験から成長するでしょう」
──本来なら巻き返しを狙いたい後半の最初の20分でペナルティが多かったり、敵陣に入れなかったりしましたが、そのような展開をどのようにご覧になっていましたか。
「前半はフィールドポジションが60対40で、彼らはわれわれにプレッシャーを掛け続けました。ハーフタイムに、どうすればプレッシャーを変えられるか話し合いました。そして、後半が始まりましたが、われわれはコリジョンを支配できませんでした。足元がおぼつかず、それがプレッシャーになりました。BL東京さんの戦いは、称賛に値します。彼らのキャリーとクリーンアウトは正確でした。それが敗因だと思います。相手に自陣にとどまられる形になってしまって、そこから相手がチャンスをモノにして、後半の早い時間に得点を許してしまった。われわれにとっては理想的な展開ではなかったです」
──6連戦だったことが、選手たちのパフォーマンスに影響を与えた部分はありましたか?
「いいえ。実際には、バイウィークのあと、少し勢いを失うと感じていました。しかし、(連戦になったことを)エネルギー源として利用し、ゲームを成長させ、東京サントリーサンゴリアスさんと埼玉パナソニックワイルドナイツさんとの対戦で非常に良い試合をしました。先週は本当に良いパフォーマンスができていました。
しかし、今日のわれわれはエネルギー、強さ、セットピースを得ることができませんでした。終盤には、モールで多くのチャンスがありましたが、それを生かせませんでした。そこが学びの部分です。われわれは決勝に進出しました。若い選手が多いチームにとって、これは大きなポジティブなことです。そして、これから多くを学びます。6連戦になったことを言い訳にはしません。チャンピオンになりたいなら、そうする必要があります」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
ファウルア・マキシ キャプテン
「BL東京さんに、『おめでとうございます』と言いたいです。今日は悔しい結果になり、自分たちが望んだ結果ではなかったですが、自分たちのプロセス、自分たちのプランは、間違っていなかったです。ちょっとしたところで自分たちの力が足りなかったので、今日の悔しい思いを忘れずに、来季またこの舞台に帰ってこられるよう、全員でまた努力して、頑張っていきたいと思います」
──その「ちょっとしたところ」というのは、どんなところでしょうか。
「ミスしたところや、そのミスしたあとの反応といった部分です。あとは、フォワードとバックスの連係をちょっと失ったところがありました。それを相手のキープレーヤーが狙っていたので、そういうところだと思います」
──今季初めてキャプテンに就任して、昨季はかなわなかった決勝まで進出しました。キャプテンを経験することで、どのような学びを得られましたか。
「チームと一緒に、毎週毎週、個人的にも成長している部分はあると思います。そこに自信をもって、どんどん頑張っていきたいと思います」
──12点差がつき、かなり厳しい時間帯、点差で最後の20分になったと思いますが、あの時間帯、チームでどのようなことを話し、最後の追い上げにつなげたのでしょうか。
「もう本当にシンプルで、次の瞬間で勝つということを全員に言葉で伝えました。一つひとつのことに集中して、それを遂行するだけだと話しました」