NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(リーグ戦)第13節 カンファレンスB
2024年4月12日(金)19:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 33-52 横浜キヤノンイーグルス
“2枚看板”頼みからの脱却。敗戦の中で見えた
日本人ハーフ団の成長
プレーオフトーナメント出場圏の4位につける横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)は勝利しただけでなく、ボーナスポイントも獲得。52対33で花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)を振り切った。
横浜Eは前半2分に先制トライを献上し、追う展開を強いられたもののヴィリアメ・タカヤワが前半だけでハットトリックを達成し、トータル4トライをゲット。要所でさすがのキックを見せた田村優の輝きも見事だったが、試合後に日本代表の小倉順平は花園Lの手強さをこう振り返った。「今日は崩されて外側でトライを取られたシーンがほとんどでした。今季、ああいう取られ方はあまりなかったので、そこは課題です」。
花園Lをディビジョン1昇格に導き、昨季の入替戦でもチームを救ったクウェイド・クーパーとウィル・ゲニアがチームの”2枚看板”ではあるが、横浜E戦では野口大輔がスタンドオフで先発し、3本のコンバージョンキックを成功。「スタンドオフはチームを勝たせるのが仕事なので満足していません。試合に負けたら僕のせい」と悔しそうに振り返ったが、東海大学時代から期待されたその能力の一端を見せつけた。
後半に失速する課題もこの日は強敵相手にクリアしてみせた。後半のトライ数もまったくの五分でスコアも26対26で渡り合ったが、とりわけ東大阪市花園ラグビー場を沸かせたのは終盤の猛追だ。後半23分、ウィル・ゲニアに代わって成長著しい中村友哉が投入される。中村がピッチに立ってから花園Lは二つのトライに成功。「前半を見ていてディフェンスの時間が長かったので、とにかくアタックを継続するつもりでした」(中村)とテンポ良く攻撃をけん引した。
ホーンが鳴った後の後半43分、金澤春樹が執念のトライを決めると、あたかも勝利したかのような歓声が場内に沸いた。花園Lが“二枚看板”頼みのチームでないことを示すかのような場面だった。
「世界的なハーフ団に負けないように、日本人の選手が出てこないといけません」と野口が言えば、中村も「ここからチームが成長していくには(日本人の)9番と10番の成長が必要です」と同じ言葉を口にした。
和製ハーフ団の台頭は間違いなく、花園Lの未来につながっていく。
(下薗昌記)
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ
「(相手が)上位チームなので、そこに対してどれぐらい私たちがやってきたことが通用するかというチャレンジでした。最後まで動き続けられるかというのがテーマだったんですけども、後半の最後の最後までトライを奪いに行ったというところについては、それができるようになってきたのかなと思っています。しかしながら、やっぱり前半の最後の何分かで、私の指示も悪かったのかどうかもあるかもしれませんが、ペナルティを狙って少し、得点差を詰めることができていれば、(展開が)少し変わったかもしれません。ただ、最後まで動き続けて、フィットネスで勝つというところに選手はターゲットを絞ってやってくれたのかなと思っています。負けはしましたけれども、一段一段上がっているという感覚もありますので、もう一度チームを鼓舞して勝利にまた向かいたいと思います」
──今日は第5節以来の出場となった野口大輔選手がスタンドオフで先発しました。クウェイド・クーパー選手のコンディションの問題もあったのかもしれませんが、起用の意図と評価を聞かせてください。
「野口を使ったのは、もしもの事態というところもあります。そうしたときに誰が10番に入って、どれぐらいのプレーができるのか。今日、彼は非常にタックルもしっかりやっていましたし、あれぐらいのプレーをしてくれるのであれば、いろいろな組み合わせができるようになってきたのかなというふうには思います」
──積み上げていることに関しての手ごたえを先ほど口にされていましたが、後半のトライ数はお互いに4トライずつで拮抗した内容でした。ここから勝ち切る上では、アタックが良くなってきているだけにディフェンスが課題でしょうか?
「ディフェンスについてはちょっとポカというか、『(簡単に)抜かれてしまうのか……』というようなことが2回、3回ぐらいありましたかね。そこをやっぱり、キッチリと止められるようにするには、一つはコミュニケーションだと思うんですよ。『彼が行ってくれる』『僕が行く』という細かいコミュニケーションがうまくいくようになれば、間違いなく止められると思いますので、しっかりとメンバーが固定されてきて、もう少し煮詰まってくると、間違いなくトライを取られないようになるのかなと私は思っています。だけど個人的な判断ミスもありましたので、そこについては修正ポイントかなと思っています」
──セル ホゼ選手が好調のように見えます。彼の評価を聞かせてください。
「外側のプレーで彼がいると、2対1を作り出せるので、そこにおいては、非常に(相手の)脅威になっているのかなと思います。私たちの戦略のところで、そこをどういうふうに使えばいいのか。今日はキャリーも外側のプレーも含めて、非常に良い活躍をしてくれたんじゃないかと思っています」
──今日のサナイラ・ワクァ選手のプレーについて評価を聞かせてください。
「セットピース、スクラムの安定やラインアウトについては、彼が入ることによって非常に安定すると思いますが、まだまだ試合をとおしてのフィットネスについては(足り)ないのかなという気はしました。80分間、(高いレベルで)できるようになるのであれば、また外国人選手の使い方を考えることができるので、非常にチームにとって、プラスになると思います」
──入替戦に出場することが決まりましたが、残り試合と入替戦に向けて意識することやどういうふうに戦うのかを聞かせてください。
「まだ相手は決まっていないので戦い方は分かりませんが、私たちの確立された形をしっかり出せるように作っていければと思います。ラグビーの原則で、セットピースの安定なくしていいアタックはないと思います。あとはブレイクダウン。そこは本当にこだわりたいところなので、その辺がしっかりできれば、いい攻撃ができるのではないかと思います」
花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン
「ショートウィークの中で、自分たちが準備してきたことを出せた部分も多かったんじゃないかなと思っています。特に残り20分のところが僕たちの課題で、大量に点数を取られる、突き放されるシーンが今季は多くて、(今日も)それに似たようなシーンもあったんですけど、ただ最後まであきらめず、最後にトライを取って終われたのは、今までと違うところをお見せできたんじゃないかなと思います。ただ、やはり自分たちのテンポのいいアタックをするにあたってブレイクダウンでのミスが今日の試合でも目立ったので修正点は明確ですし、しっかりと見つめて修正していきたいと思います」
──点差が開いた状況の中で、最後まであきらめずにトライを取って粘りました。どういった声を仲間に掛けたのでしょうか?
「今日はフォワードとバックス(のそれぞれ)で課題が明確だったというか、ユニットのところでの課題が明確化されていました。15人全員でしゃべるというよりはユニットでしゃべることが多かったのですが、特にフォワードに関しては、自分たちはモールディフェンス、セットピースともに安定しているし、いい調子でできています。自分たちが一度モールでトライされたシーンがあるんですけど、自分たちがこのまま崩れてしまうと試合はそのまま終わってしまう。(フォワードの)自分たちだけでも、と言うとバックスに対して失礼に聞こえてしまうかもしれないですけど、自分たち(の集中)が切れなかったらゲームは崩れない、というようなメッセージを伝えて、まずはフォワードの8人で固まってやっていこうというような話をしました」
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「(勝ち点)5ポイントを取れたことは良かったですけど、先週と一緒で今回もやっぱり、自分たちでコントロールしなければいけないところにしっかりと僕らは目を向けなければいけない。次に自分たちの力をしっかり出せるように、次の1週間で準備していきたいと思います」
──花園近鉄ライナーズは、順位的には下で、もちろん相手を下に見ているわけではないと思いますが、そういったところが今日の試合に出ていたと感じる部分はありましたか?
「いや、それはないですね。ないんですけど、やっぱり、苦しい時間帯になってきたときにチームを助ける判断というか、そういうディシジョン・メーキングがいまはまだできていなくて、ああいう展開を自分たちが生み出していると思うんですよ。(要因は)いろいろとありますよ。例えばスローがどうだとか、そっちに目を向けるとやっぱり良くない。今後もキツくなったときにチームを助けるという判断ができるようにしっかりトレーニングをして、僕らも僕らでしっかりとレフリーの傾向を見ていきたい」
──今日起用された武藤ゆらぎ選手について、プレータイムは短かったですが、起用された理由と評価を聞かせてください。
「本当にラグビーセンスがあります。本当は、全部ゆらぎがゴールキックも蹴って、タッチキックもあいつがやれれば、本当にいい経験になると思ったんですけど、お兄ちゃん(先輩の選手たち)がいっぱいいたので(笑)。今日はそこまで時間を与えられなかったんですが、本当に非常に能力の高い選手なので、ここからまた楽しみです」
──前週の試合と似たような反省、課題が出てきていますが、シーズンが終盤に向かう中で同じような課題が出てしまうことをどう捉えていますか?
「グラウンドの中で、しっかりとどういうコミュニケーションを取っているのかをもう1回リーダー陣と話をして、グラウンドの中で起きたことを、ハーフタイムを待たずに解決しなければいけないのがラグビーです。そこのコミュニケーションがどういうふうにすればうまくいくのかを僕らも、リーダー陣もしっかりと話しながら。来週はジェシー(・クリエル)も戻ってこられますし、庭井(祐輔)もたぶん戻ってこられる。このリーダー(たちの復帰)が明るい材料でもあるので、1週間いい準備をしたいと思います」
──1、2カ月前に「劇的に変わる瞬間がチームにはある」と話をされていましたが、まだそれは来ていないのでしょうか?
「東京サントリーサンゴリアスに勝って変わるかと思ったんですけどね。ただ、変わってはいますし、いい方向にはいっています。例えば、モールも今までは少し自信をなくしているようなモールを組んでいましたけど、ここ2試合は本当にいいモールが組めていますし、そういう明るい材料もあります。あとはもう一歩、それが噛み合えば。ただ、チームとしては本当にポジティブだと思います」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
「今日は勝ったこと以外(は良くなくて)、本当にチームの弱さというか、いまのチームの現状の脆さがすごく出たゲームだったなと思っています。そのゲームの流れに対して、自分たちが対応し切れなかった。そして、相手に勢いを与えてしまったところが、今日のゲーム展開になってしまったと思っています。ただ、改善できるポイントではあると思っていますし、必ずここからいい方向にチームはいくと思っていますので、よりベクトルを自分たちに向けてしっかりと来週から準備していきたいと思います」
──「勝ったこと以外はいいところがない」とのお話でした。先週の試合を踏まえてショートウィークでしたが、どこを重点的に意識した1週間だったのでしょうか?
「先週の試合で、明らかに自分たちの課題だったのが、ペナルティのところ。あとはベーシックのスキルのレベルについて、僕は落ちてきたと感じていたので、今日の試合に関しては、『まずディシプリンのところをしっかりコントロールしよう』。あとは『もう一度自分たちのベーシックなスキルにこだわろう』と話をしていました。ただ、今日は自分たちに流れがきそうなときに簡単なエラーで相手にボールを与えてしまったり、ペナルティをしなければ守れているところで自分たちからペナルティをしてしまったりと、チャレンジングなミスではなくて、防げるミス、エラーというのが、すごく今日は多かったなと感じました」
──先ほど、「必ずいい方向にいくと思う」と話をされていましたが、そう信じられるのはどういうことをやってきたからでしょうか?
「やっぱり練習での準備も、シーズンの序盤に比べるとクオリティーも上がっていますし、ゲームでもやっているラグビーの質が確実に上がっていると思います。ただ、そのプレッシャーが掛かったときに、力を発揮できる選手というのは、やっぱりまだ、このチームには少なくて、今日みたいな展開にしてしまうチームではあります。そこでしっかりと責任を持って、プレッシャーの中で力を発揮できる選手が増えてくれば、チームとしてのクオリティーがもっと上がってくると思いますが、そこはトレーニングでしか変わらないと思います。ただ、その準備の段階はすごく良くなってきていると思っているので、そこには自信を持っています」