クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)

チャンスの神様は「堀部直壮」を見ていた。2年ぶり2度目の先発へ──

「耳がわく」という言葉がある。「カリフラワーイヤー」「餃子耳」とも言われ、正式名称は「耳介血腫」。摩擦などによって内出血を起こした耳が変形する症状で、柔道やレスリングなどの組み技系格闘技、ラグビーではスクラムを組むフォワードの選手によく見られる。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの中でも特に大きなカリフラワーイヤーの持ち主が、ロックの堀部直壮。スクラム2列目でプロップ、フッカーの体の間に頭を差し込むポジション。堀部の耳は片方ではなく、左右両方が派手にわいている。

身長191cm、体重は101kg。同志社大学時代は関西学生代表、ジュニア・ジャパン、U20日本代表にも名を連ねた。クボタスピアーズ船橋・東京ベイに入団したのは2020年。そこで堀部を待ち受けていたのが、分厚く高いプロの世界の壁だった。

「大学のレベルとはまったく違いました。スキルにしても戦術の考え方にしても、ゼロから学ぶ部分が多かったです」

“ツインタワー”、ルアン・ボタ(205cm、120kg)とデーヴィッド・ブルブリング(199cm、113kg)。前節でリーグワン公式戦50試合出場を達成したヘル ウヴェ(193cm、120kg)。クボタスピアーズ船橋・東京ベイが誇る世界レベルのロック陣である。あまりにも巨大な競争相手。今季ここまで、堀部はその名を試合出場メンバーに連ねることはなかった。

「体格差を埋めることはできません。ですが、スキルであったり、これまで培ってきた自分の持ち味だったりを磨いていこうと。ほかの誰かと比べるのではなく、とにかく自分がやるべきことにフォーカスして取り組んできました」

そんな男を、チャンスの神様は見逃さなかった。前節でロック陣が相次いで負傷。次節、リコーブラックラムズ東京戦。そのスタメンに、「堀部直壮」の名はある。実に約9カ月ぶりの公式戦出場。先発メンバーになるのは、デビュー戦の2021年3月14日・三重ホンダヒート戦以来、約2年ぶり2度目となる。

「チャンスは絶対にやってくると思っていました。たとえメンバー外であっても、その一瞬のチャンスのためにしっかりと準備をしてきました。ひさびさの公式戦、しかもスタメンということで、ゲームのスタートを作っていく役割が重要になってくると思います。緊張もありますが、楽しみでもあります」

ラグビー以外の競技経験はほとんどない。派手にわいた両耳が、楕円球だけをひたむきに追いかけてきた、これまでの道のりを物語る。「できるはずがない」と立ち尽くすのか。それとも「いや、できる」と希望を持って前を向くか。その選択で、明日は変わる。

(藤本かずまさ)

4番でメンバー入り、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの堀部直壮選手。約9カ月ぶりの公式戦出場となる

リコーブラックラムズ東京(D1 カンファレンスA)

31歳で日本へ。陽気なフィジアン、新たな「家族」とともに

エナジーあふれるボールキャリーでリコーブラックラムズ東京の突破役を務めているのが、ネイサン・ヒューズ。今季新たに加わった、イングランド代表キャップ22を誇るナンバーエイトだ。

しかし、経歴はユニーク。フィジーで生まれ育ったヒューズは、16歳までホッケーに勤しんだ。単身ニュージーランドへ渡ったのは2009年。それまで一度も楕円球を持つことはなかったが、素質を買われラグビーの奨学金を受ける。高校最後の2年間をラグビー大国で過ごした。

高校卒業後は、ITMカップ(現・Mitre10カップ)に属するオークランドで2011年から2013年までプレー。その後イギリスへ渡り、ワスプスからイングランド代表へと駆け上がった。

父はフィジー人、母はサモアと中国のハーフ。いくつかの文化を受け継ぐフィジアンは、明るく陽気で、すぐにリコーブラックラムズ東京のムードメーカーとなった。

「選手を驚かせたり、冗談を言ったりするのが好きなんです。一番驚かしがいのある人はマカベ(眞壁貴男)。いつも飛び上がって驚いてくれるんですよ(笑)」

自身の性格を「Always Happy(いつもハッピー)」と認識する。「試合中も、いつも笑顔でいたいなと思っています」

31歳で初めて移り住んだ日本。リコーブラックラムズ東京への移籍は、決して簡単な決断ではなかった。「日本のラグビーは速くてランが多い。北半球のラグビーに慣れ親しんだ自分にとって、自身を高める良い機会ではないかと判断しました」。

これまで5試合を終え、全試合に出場しているネイサン・ヒューズ。チームは現在2勝3敗だが、敗戦から学んだことがあるという。

「特に先週の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦後には、チーム内で正直な会話がありました。なぜ負けたのか、何を学ばなければならないのか。ミスを繰り返さないために、正直に話し合いました。私たちは家族のようなチームだからこそ、誰も厳しい会話を嫌がることも、逃げることもしません」

家族だからこそ、逃げずに、正直に。

交流戦初戦の相手は、フィジカルが武器のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。「相手ではなく、自分たちにフォーカスしたい」。登録番号は19番。リザーブから、家族のために笑顔で登場する。

(原田友莉子)

元イングランド代表、リコーブラックラムズ東京のネイサン・ヒューズ選手。16歳まではホッケーをプレーしていた

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