2023.01.31NTTリーグワン2022-23 D1 第6節レポート(S東京ベイ 40-38 BR東京)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 第6節(交流戦)
2023年1月29日(日)14:30 江戸川区陸上競技場 (東京都)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 40-38 リコーブラックラムズ東京

試合という名の人間ドラマ。残り30秒――そして「えどりく不敗神話」は守られた

8本のゴールキックを決めて勝利に貢献したクボタスピアーズ船橋・東京ベイのバーナード・フォーリー選手

その瞬間、歓声と悲鳴とため息が入り混じった複雑な音が冬色の空に染み渡った。残り試合時間はわずか30秒。ここでリコーブラックラムズ東京は、ペナルティゴールのチャンスを得た。十分に狙える位置である。スコアは40対38とクボタスピアーズ船橋・東京ベイがわずかにリード。決まればリコーブラックラムズ東京の逆転勝利。張り詰めた空気が、クボタスピアーズ船橋・東京ベイのホームスタジアム「えどりく」を支配する。万事休すかと思われたそのとき、ノーサイドを告げるホーンが鳴るのとほぼ同時に、ボールの軌道はゴールポストの左に逸れた――。

序盤、戦いを支配したのはクボタスピアーズ船橋・東京ベイだった。前半19分で24点を獲得。しかし、前半31分に司令塔のバーナード・フォーリーがイエローカード(シンビン=10分間の退場)。後半9分にはチームの大黒柱である立川理道が負傷し、戦線から離れた。戦いの色は大きく変化し、後半30分にはついに37対38とリコーブラックラムズ東京が逆転。直後には、的確なキックで得点を重ねてきたバーナード・フォーリーがこの日初めてゴールキックに失敗。再度、ペナルティキックを得たクボタスピアーズ船橋・東京ベイは再びゴールキックを選択し、その希望をバーナード・フォーリーに託すと、これに成功してスコアは40対38に。この時点で残り時間は3分。

いまだに見えない勝利の行方。緊迫した攻防が続く中、残り1分を過ぎたところでリコーブラックラムズ東京のアイザック・ルーカスがドロップゴールで得点を狙うも、これはゴールならず。そして、真のクライマックスは最後の最後に訪れた。白熱の混戦に終止符を打ったのが、1本のペナルティゴール失敗。何か目には見えない力によって、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの「えどりく不敗神話」は守られた。

「お客さんから見ればすごくエキサイティングな試合だったと思います。後半はすごく接戦で、お互いのチームに良い攻撃がありました。こういった試合で勝つことが重要で、すごくうれしく思います。一つ前のキックでミスをしたのですが、もう一度チャンスをもらえたのはすごくうれしかったです。(そうした場面では)まずはそのプロセスをもう一度思い出し、キックを楽しむことがすごく大事です。エンジョイして、最後はキックしました。それも自分の役割だと思います」(バーナード・フォーリー)

序盤に大きく引き離されながらも驚異的な追い上げを見せたリコーブラックラムズ東京。危機的状況に陥るものの、勝ち星を譲らなかったクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。喜び、悔しさ、明日を生きるための活力、不屈の精神、仲間たちを信じる気持ち……。緑の芝生に描かれた、試合という名の人間ドラマ。張り詰めた空気がゆっくりとほころび、オレンジ色の西陽がファイターたちの笑顔を照らした。

(藤本かずまさ)

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)のフラン・ルディケ ヘッドコーチ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ

「立川理道キャプテンはけがで病院に行ってしまいました。(会見に出席できず)申し訳ないです。 今日の試合に関しては、アメージングな試合でした。お客さんにとっても選手にとっても、そんな試合だったと思います。前半と後半が非常に対照的な試合でした。ペナルティを重ねてからのイエローカードであったり、そういったところでリコーブラックラムズ東京の扉を開けてしまいました。 そこで追いつかれてしまい、すごい戦いとなった試合でした。
特に後半に関してはコントロールしていたつもりだったのですが、チャンスを作った局面もあったものの、そこをリコーブラックラムズ東京は簡単には行かせてくれませんでした。 エッジをうまく使ったり、裏のスペースを使ったり、そういったところでモメンタム(勢い)を作られ、さらに点数にも変えられました。今日も非常に学びの多い試合でした。
また、特にタイトファイブ(フロントローとセカンドローの5人)ですが、けが人が多い中で、今日の試合に入ってくれた選手たちがしっかりと仕事をやってくれました。そういったところが見られてうれしいです。また青木祐樹選手もシニアプレーヤーとしてしっかりと立ち上がって、 強いパフォーマンスを見せてくれました。そういったところは満足しています」

──フルバックのゲラード・ファンデンヒーファー選手をこの2試合ではウイングで起用しています。その理由と、評価について教えてください。

「木田晴斗選手がけがをして試合に出られないという現状と、島田悠平選手が若手のフルバックの選手なので、パワー系の選手であるゲラード・ファンデンヒーファー選手をウイングに置きたかったというのが理由です。けが人などの状況で起こるべくして起こった事態で、ベストなメンバーで組めるところを組んでいるということです」


リコーブラックラムズ東京

リコーブラックラムズ東京(D1 カンファレンスA)のピーター・ヒューワット ヘッドコーチ(左)、松橋周平 ゲームキャプテン

リコーブラックラムズ東京
ピーター・ヒューワット ヘッドコーチ

「すごいゲームでした。最初の20分、私たちはディフェンスなども消極的であまり良くなかったのですが、今週フォーカスしていたエリアではあったので、ファイトというところではすごいものを感じました。本当に誇りに思えるファイトを見せてくれたと思います。やらなければいけないことはあるのですが、一番大変なのはカルチャーであったりアティチュードであったりを作っていくことだと思います。そういった点ではすごく誇りに感じています。絶対にあきらめないチームだと思います。そういうところを見せられたと思います。レビューする際は最初の20分を特にフォーカスして見ていきたいと思います」

──前半、相手のバーナード・フォーリー選手がイエローカードで退場したあとにトライを二つ決めました。そこが良いきっかけにはなったのでしょうか。

「私たちがやろうとしているラグビーのスタイル自体は変わりません。もう少し早い時間帯に1、2本トライを取るべきでした。ただ、退場者が出たときは、そこでテンポアップを図りたいというのはあります。それができる選手がいるとは思うので、人数的に私たちが一人プラスの状態になった時は、テンポを上げるというところにフォーカスしています」

──アイザック・ルーカス選手がスタメンで80分プレーしました。 一方、ネイサン・ヒューズ選手がリザーブからの出場になりました。そうしたメンバー構成のプランニングについて聞かせてください。

「(第3節の)トヨタヴェルブリッツ戦、(第4節の)静岡ブルーレヴズ戦と良い試合が続いて、その2試合では良いコンビネーションができたと思います。その間に(リザーブの)アイザック・ルーカスが練習中に見せてくれたものをベースに、彼の準備が整ったということを感じました。 アイザック・ルーカスは23歳の10番で、母国語ではないチームを動かさなければいけません。それは大変なことではあります。たとえ言葉が違っていなくても、23歳の10番というのは大変なポジションだと思います。(リザーブとして)離れている間に、しっかりと自分のゲーム感を磨いてくれました」

──前半、いくつかペナルティが起きました。その要因と改善については。

「しっかりとビデオを見返してみないことには分かりません。ブレイクダウンペナルティがいくつかあって、そこではクボタスピアーズ船橋・東京ベイがかなりハードに絡んできていました。テクニックの部分はもう一度見直してみないと分かりませんが、そこはハーフタイムで少し修正できたかなと思います」

――高橋敏也選手が今季初めての先発出場となりました。その狙いは?

「プレシーズンに私たちのラグビーから離れていた時期があったので最近の試合はベンチでしたが、彼にはスキルを磨いてもらうことはもちろん、自分たちのラグビーを理解してもらうというところを続けてやってきました。必要な成長を見せてくれたので、今日はグラウンドでそれを見せられたのではないかなと思います。後ろのスペースも見えるようになってきて、キックなども使っていました。9番としても大きな選手なのでディフェンスとしても効果的なのかなと思います。私たちは“ロックスター”がいるチームではありません。このスコッドで戦うというのが、私たちの戦い方なのかなと思います」

リコーブラックラムズ東京
松橋周平 ゲームキャプテン

「最後はああいう結果になってしまって、非常に悔しいですし、全員が悔しい気持ちでいっぱいです。でも、しっかりと最後までファイトし続けたことは誇りに思います。この悔しさを必ず次につなげたいと思います。 ただ、ヘッドコーチも言っていたとおり、前半の入りの20分は、自分たちのやりたいことから離れていってしまいました。フォーカスしていた部分だったので、それが実行できなかったというのは、こういうタフなリーグを戦う上で、してはいけないことだと思います。常にどういう状況でも自分たちでコントロールできるところはあるので、そういうアティチュードを前半の20分から見せていかなければいけないと思いました。試合は続くので、またコネクトして、チームとして来週にまたぶつけて、前半の入りから終わりまでリコーブラックラムズ東京のラグビーをしっかりと見せる、そこに必ず集中していきたいと思います」

──前半、いくつかペナルティが起きました。その要因と改善については?

「ディシプリン(規律)はすごく大事な部分で、僕らも今週はかなり意識してやってきました。自分たちがコントロールできるディシプリンというものがあるのですが、プレッシャーがかかった時に、そのコントロールできる部分を忘れてしまいました。そういうところは必ず変えていかなければいけないです。また、ブレイクダウンの部分でもプレッシャーを受けているというのは僕らのリアクションが悪かったり、フィジカルが足りなかったりしている部分でもあるので、そこをしっかりと修正して、やっていく。リーグはまだまだ続くので、毎週毎週、修正していきたいと思います」

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