2023.01.29NTTリーグワン2022-23 D1 第6節レポート(神戸S 21-38 トヨタV)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(交流戦) 第6節
2023年1月28日(土)14:30 神戸総合運動公園ユニバー記念競技場 (兵庫県)
コベルコ神戸スティーラーズ 21-38 トヨタヴェルブリッツ

神戸Sに求められる「責任」と「意識」。
帰ってきたトライ王・山下楽平がその中心に立つ

コベルコ神戸スティーラーズの山下楽平選手(中央)。「組織としてどうこうよりも個人の意識」

神戸総合運動公園ユニバー記念競技場でトヨタヴェルブリッツを迎撃したコベルコ神戸スティーラーズだったが、後半に4連続トライを献上するなど苦しい展開に。終盤には相手側に3人連続でイエローカードが出たが、数的優位を生かし切れずに敗れた。トヨタヴェルブリッツが連敗を4で止め、コベルコ神戸スティーラーズは苦しい3連敗となった。

試合後の記者会見に出席した両チームのヘッドコーチや選手は、似たような言葉を用いながら真逆の受け止めをした。

「必死さ」や「ハングリーな気持ち」で劣っていたとするコベルコ神戸スティーラーズに対し、「情熱」あるラグビーの体現を誇ったトヨタヴェルブリッツ。あらゆる局面で「集中」できたことを勝因の一つとするビジターチームの一方で、ホストチームは「緩んだ時間帯」に試合のすう勢を決められたことを嘆いた。そして、選手それぞれが背負うべき「責任」を果たしたのか、果たさなかったのか。

戦術やシステムのかみ合わせは試合における重要なポイントだが、この日のコベルコ神戸スティーラーズは、勝負の大前提となるメンタリティーで後塵を拝してしまった。

昨季のNTTジャパンラグビー リーグワン・トライ王で、この試合でも2トライと奮闘した山下楽平は「ボールから離れた瞬間にスイッチを切っている選手が多かったと思う」と冷静にチームを見つめ、あらゆる局面を自分事として捉える大切さを強調。それを実現するために必要なこととして「意識」を挙げた。

「組織としてどうこうよりも個人の意識。システムエラーで抜かれたのはそこまで多くなかったし、一人ひとりのワークレート(仕事量)、自分以外の人間をサポートする意識が大切かなと思う」

苦境に立つコベルコ神戸スティーラーズだが、その山下楽平が復調してきたことは朗報だ。「シーズン最初にけがをして、筋肉系は初めてだったので探り探りゲームをしてしまっていたけど、個人的なパフォーマンスは上がってきた自覚はある。それをどれだけチームの結果に影響させられるかを次節以降、意識したい」と話した赤のトライゲッター。今季加入の新戦力や若手も続々とデビューする中で、選手個々が持つべきメンタリティーについて、覚悟を込めて口にした。

「チームスローガンでもある『TRUST』を出せるように。個人がまず責任を果たさないと信頼は勝ち取れない。(チーム内で)中堅の位置になりつつあるので、チームの中心となって引っ張っていけるように頑張りたい」

(小野慶太)

コベルコ神戸スティーラーズ

コベルコ神戸スティーラーズ(D1 カンファレンスB)のニコラス・ホルテン ヘッドコーチ(左)、マルセル・クッツェー ゲームキャプテン

コベルコ神戸スティーラーズ
ニコラス・ホルテン ヘッドコーチ

「今日の試合に関しては、何も自分たちは言い訳できないと思っています。トヨタヴェルブリッツさんのほうがハングリーな気持ちがあって、特に後半の部分ではトヨタヴェルブリッツさんの気持ちが強かったです。正直、現段階ではこれ以上、自分が言う言葉はないです」

──前半はディフェンスが機能していたようだが、後半に崩されてしまった要因は?

「映像を見てもっと深く確認する必要があると思いますが、まず一つはタックルミスの部分だと思います。ハーフタイムに、『自分たちはもっとラインを上げられるチャンスがあるから上げていこう』と話しましたが、後半にできていたかというとできていなかった部分が多かったです。これ以上については映像を見て修正していかないといけない」

──2勝4敗と苦しい状況だが、現状をどう受け止めていますか?

「間違いなく良い状況ではない。自分たちにとってはたくさんの課題がある状態です。ポジティブな内容もしっかりと見つめながら取り組んでいる時間も多く、練習では良い内容もあるんですが、試合の中でそれを80分、出し切れているかといえばそうではない。自分たちは試合でどれだけの良い内容を80分出せる状態にもっていけるかが勝負だと思っています」

──ヴィリー・ポトヒエッター選手を後半10分に投入した意図、また評価をお願いします。

「若い選手で、今日に関しては出場時間が少ないながらもしっかりとやってくれたと思います。練習でも良いパフォーマンスを出していたのでメンバー入りというチャンスをつかみました。マルセル(・クッツェー)もさっき言ったとおり、彼が出るタイミングはそのソフトモーメント(緩む時間)で、すでにトヨタヴェルブリッツさんに自分たちが3トライを与えてしまったあとだったので、その流れにのみ込まれてしまったかなと。そこは本人にとってはかわいそうだったと思います。あの状況から20歳前後の選手が入って流れを一人の力で変えられるかといえばそれは簡単なことではないので、それを求めるのはちょっと酷かなと思います」

コベルコ神戸スティーラーズ
マルセル・クッツェー ゲームキャプテン

「(ニコラス・)ホルテン ヘッドコーチが言った内容のとおりだと思います。必死さの部分で、特に後半、トヨタヴェルブリッツさんのほうが、必死さがあったと思います。後半のトヨタヴェルブリッツの必死さが出ていた時間帯にあまりにもスコア差を広げられすぎて、自分たちのアタックの精度もあまりにも悪く、試合に負けてしまいました」

──前節は必死さを出せていたが、今日の後半に出せなかったのはなぜなのでしょうか?

「ハーフタイムのコーチからのメッセージは正しいメッセージだったと思います。このリーグを戦う上で、自分たちがソフトな瞬間、ソフトモーメントと言っていますが、緩む時間を作ってしまっては絶対にダメだと思います。その緩む時間を後半最初の10分間に作ってしまい、3トライを決められてしまいました。そういうふうになってしまうと、自分たちに罰が与えられてしまう。そうなると自分たちが完全に前に進むことができなくなります。最初の10分、15分は相手に簡単につけ入るスキを与えてしまったことが一番よくなかったと思います。選手はもっと自己責任を感じないといけないと思っています。コーチができる内容やシステムの落とし込みはありますが、それができるのは試合前までです。試合になってから自分たちがやり切れるかは、選手の自己責任。選手一人ひとりがやり切ることが必要になってくるので、そこは自分たちが反省し、修正しないといけないと思います」

──トヨタヴェルブリッツのピーターステフ・デュトイ選手とともにゲームキャプテンを務めたと思うが、お互いに南アフリカ代表でプレーし、ここでともにキャプテンを務めることにどのような感慨を持たれていますか?

「キャプテンをできるというのは自分にとって光栄なことですし、名誉なことです。その名誉がある仕事をする中で、こういう負け方をしてしまうのは、よりさらに自分にとってゲームキャプテンをしているからこそ責任を感じてしまうし、重さがのしかかって来ます。(ピーターステフ・)デュトイ選手のほうも、トヨタヴェルブリッツさんもなかなか良い状況ではなかったと思うし、大きなプレッシャーがある中でチームを引っ張っていたと思います。その中で、さきほども言いましたけど、トヨタヴェルブリッツさんのほうが必死さがあって、重要な局面で仕留め切る能力はコベルコ神戸スティーラーズを上回っていたし、その中で試合を勝ち取ることができて(ピーターステフ・)デュトイ選手には本当におめでとうと伝えたいです。二人とも若いときから仲良くやっている選手なので、だからこそ、こういう形で自分はすごく残念ですけど、彼にとっては良い試合だったと思います」

トヨタヴェルブリッツ

トヨタヴェルブリッツ(D1 カンファレンスA)のベン・へリング ヘッドコーチ(右)、古川聖人 共同キャプテン

トヨタヴェルブリッツ
ベン・ヘリング ヘッドコーチ

「久しぶりの勝利でした。自分が一番、今日エンジョイしたのは、選手全員が見せてくれたハート、そこだけは本当に見られて良かったです。4週間本当に厳しく、なかなか残念な結果が多かったですが、そこから選手たちが踏ん張って戻ってきてくれたのが非常にうれしかったです。みんなのレジリエンス、落ち着きの部分が見られて良かったです。チーム全体、いま横にいる古川(聖人)選手もですが、情熱を見せてくれました。このままこの先もチームとして前進し続けたいと思います」

──結果が出なかった4試合と比べて改善した部分を教えてください。

「チームとしてフォーカスしたポイントをまずはお知らせしたいと思います。コベルコ神戸スティーラーズは非常にフィジカルが強いチーム、自分たちでチャンスを作り出すことは最初から分かっていました。そういった相手のチャンスをどうやって自分たちの好機に変えるか、そこをフォーカスポイントとしてやってきました。自分たちにとってネガティブな状態をポジティブに変える、そういった意気込みでやってきて、リーダーのみならず全員がやってくれました。最後に3人がイエローカードで10分、いない時間帯があったのですが、そういうネガティブをポジティブに変える気持ちがあったからこそあの時間帯も持ちこたえられたと思います。非常にインテンシティーが高いファイトだったと思いますけど、みんながハートを見せてくれました」

──前半はなかなか突破できなかったが、後半になってできるようになったのはなぜでしょうか?

「ラグビーというのは行ったり来たり、そういった競技であると思います。ただし、チャンスをつかむところが勝負です。なので、そのチャンスどころを全員でつかめたと思います。ネガティブなところをストレスとして捉えずに、そこをやり切ったというところです」

──3人にイエローカードが出てしまったことをどう感じていますか?

「それについては考えないようにしていたんですが、あることではあると思います。レフリーのコールということです。やはりファウルプレイではなかったということが私たちも認識しているんですが、レフリーの判断は変えられないことなので、次に集中するということで私たちは考えています」

──ウィリアム・トゥポウ選手をフランカーで起用した。今季はバックスから転向したということでしょうか。また、どのあたりを評価しているのでしょうか?

「これからはフォワードという形でやっていくんですが、もともと(ウィリアム・)トゥポウ選手は素晴らしいアスリートだと思っています。ラグビー人生の中で、キャリアとしてこういった形、自然にポジションを変更する人は出てきます。彼にそれを伝えたところ非常にやる気があった。いまではモールに入るのも好きということで、このタイミングが非常に良かったと思います。今回、スタメンとして初めての6番(フランカー)でのゲームでした。すごい高いインテンシティー、姿勢も素晴らしかったです。何よりも見ていてうれしかったのは、彼がラグビーをエンジョイしているところを見れたのがうれしかったです。やはりみんなラグビーはエンジョイするためにやっていると思うので、それが見られて良かったです」

トヨタヴェルブリッツ
古川聖人 共同キャプテン

「まず今日、自分たちが見せたかったモノは、試合を見ていただいた人には感じてもらえたかなと思います。自分たちのラグビーに対する情熱、一人ひとりがやるべき仕事、責任を今週はフォーカスしてやってきました。まずは自分自身、しっかりと自分の仕事をやり切る、そしていまに集中する。過去や未来にとらわれず、いまに集中して自分の仕事をまっとうする。それが責任で、そういったところに情熱を感じて、やり切ることを今週はやったので、それを今日は見せられたなと。良かったです」

──終盤に3人にイエローカードが出る厳しい展開となったが、素晴らしいファイトを見せた。底力を出せた要因を教えてください。

「イエローカードが出てしまったこと、起きてしまったことは変えられないので、一人ひとりが自分の仕事は何なのか、いま自分は何をしなければならないのかを自分の中で考え、行動し、そして行動に責任をもって、そこに対して情熱をもってやれたので良かったと思います。そこに対してイエローカードが出てしまったからどうかとか、焦りとか不安を少しでも抱えてしまって、過去にとらわれてしまうと目の前の一瞬一瞬がおろそかになってしまうと思いますが、そこを今週、1週間フォーカスしてやってきたので、逆にイエローカード3枚が出てしまった状況の後は、1週間やってきたことが出せたと確認できたので、チームとしてはとても良い状況になったかなと思います」

──選手間でどんな声をかけていましたか?

「いまに集中して、目の前の仕事をやり切る、それだけです」

──最後、ウィリー・ルルー選手がイエローカードを受けたときに、ターンオーバーだったと思うんですけど、あの辺の状況と、全員でボールをキープすることは言わなくても共通認識としてあったのでしょうか?

「ターンオーバーしたところもボールがこぼれたんですけど、やっぱり今までの自分たちならもしかしたらそのボールに対して反応できなかったかもしれないです。現象に対して、いまに集中したからこそあのこぼれ球にも反応して、そこから敵陣に深く攻め込む中でまたボールを取り返すことができて、また、一人ひとりが状況を理解して、いま何をしなければいけないのか、ボールをキープしてスコアを取りに行くところ、無理なパスをするのではなく、シンプルに僕たちの強みである強いプレーをしながらボールキープしていくことがみんな共通認識できていたので良かったと思います」

──声をかけなくても?

「ディフェンスのところは、少し声をかけたんですが、アタックのところはああいったプレーをすると一言だけでできたので、ペナルティもなく12人でスコアにまでもっていけた。そこは自分たちの自信にもつながりましたし、自分たちがやってきたことを出せたなと思います」

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