NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン2 第5節
2023年2月11日(土)13:00 駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場 (東京都)
浦安D-Rocks 64-26 釜石シーウェイブスRFC
ラグビー界の歴史的な一歩は
小西泰聖のラグビー人生の新たな一歩に
「最初はもう、本当に緊張したんですけど、途中からふっ切れて、楽しくできたと思います」
ジャパンラグビー リーグワンの歴史に名を刻んだ若者はそう答えた。その笑顔にふさわしい舞台とシチュエーションだった。
今季2度目の駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場開催。前回の開催日は、寒波と荒天に見舞われた。今回も前日は雪に見舞われ、天候がどこまで回復するか懸念されていた。しかし、この日は、雲一つない晴天。年季の入ったラグビーファンから家族連れまで多くの人が来場しており、ミートパイとビールのキッチンカーには長蛇の列ができた。『JALドリームスカイマッチ』と銘打たれた会場では多くのイベントが催され、両チームのグッズ販売、岩手の物産コーナー、JALブースはいずれも盛況だった。
試合の前半は、一方的な展開となる。「ウチも受けたわけではなかったのですが、浦安D-Rocks(以下、浦安DR)さんのプレッシャーを受けてミスが出た」と、釜石シーウェイブスRFC(以下、釜石SW)の須田康夫ヘッドコーチが試合の入りを悔いたように、開始2分のトライを皮切りに浦安DRが一気呵成に攻め立てる。前半のうちに38-0の大差がつくと、観客の興味のウェイトはある一点に移っていった。この試合は、小西泰聖のデビュー戦になるだろうと。
そして後半18分、そのときが訪れる。飯沼蓮キャプテンと交代してグラウンドに入り、アーリーエントリー制度第1号の出場選手となった。「スピードのあるゲームを作ってくれた。これからが楽しみ」(ヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ)と評される、堂々のプレーぶりを披露した。
一方の釜石SWも後半に意地を見せた。後半39分とラストプレーで挙げた2つのトライを含め、26点を獲得して後半のスコアでは浦安と互角だった。あきらめない姿勢と粘りの攻撃を見せ、「次につながるゲームだった」というのが須田ヘッドコーチと小野航大キャプテンの共通認識だった。
試合後、報道陣に囲まれた小西は冒頭のように答えた。全国大学ラグビーフットボール選手権大会を終えてすぐにチームに合流し、1カ月にも満たない状況ながら堂々のメンバー入り。「『かっこいいな』と思ってずっと見ていた選手と試合に出るのは不思議な感覚」と語りつつも、「でも、チームを代表する23人のうちの一人なので。ファーストキャップとかは関係なく、23分の1の責任として当たり前にプレーしました」と覚悟も決まっている。
試合前には、「プロとして日本代表やラグビーワールドカップに出たいという目標は当然ですが、一旦、ラグビーができなくなってから戻ってこれて、ラグビーができていること自体がいまはすごく幸せなことです。この時間ができる限り長く続くように頑張りたいと思っています」と語った小西。この日、その長いラグビー人生の新たな一歩を踏み出した。
(沖永雄一郎)
浦安D-Rocks
浦安D-Rocks
ヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ
「まずは、本日お越しいただいたサポーターの皆さまに感謝したいと思います。たくさんのサポーターにお越しいただき、チームとして本当にうれしい思いです。
本日の試合は、選手たちがメンタルの準備をしっかりして、勝ち切ることができたのは大きな収穫だと思います。常にメンタルの準備をして、しかも発揮することは思ったよりも簡単なことではありませんので選手たちを誇りに思います。不運なミスがいくつかありましたが、基本的にはよくやってくれてスコアも取れました。2ndハーフではプレーの強度が少し落ちてしまうところがあり、それは自分たちの続いている課題でもありますので修正したいところです。
最後に、イエローカードについてですが、ラグビーというスポーツの強さを出せなくなってきている部分に対して、少し懸念がありますのでコメントを残したいと思います。以上です」
──ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)の出来についてはどう感じているか?
「全体的に、アタックでは良いブレイクダウンができていた部分もありました。クイックボールも出せていて、精度の高いブレイクダウンの形ができていた局面もあったのに対して、もう少し自分たちが勢いを出せたらよかったのにという場面もありました。無理にオフロードパスをとおそうとして、そこでヘッドアップしてしまった場面があったので、そこは修正が必要だと思いました。ディフェンスにおいては素晴らしいブレイクダウンワークを出してくれたと思います。特に、ペナルティアドバンテージで1回、相手ボールになりながらブレイクダウンでターンオーバーを取れていたシーンもありましたし、カウンターラックで強く行けていた部分もありましたので、いいブレイクダウンコンテストができていたと思います」
──後半に強度が落ちる部分はどのように改善していくか?
「メンタルの部分が大きいと思います。2ndハーフが乱れる例としては、前半で点差が開いて、後半に戻ってきてから個々のエラーが目立つことが多いと思っています。今日の試合でも、オフロードを無理にとおそうとしたり、ペナルティをもらっていたところでタップして、2フェーズ後にボールを失ってしまうといった、個々の準備のエラーが多かったです。強いチームというのは例えば、角に蹴りこんでそこから押し込むとか、そういった容赦ない点の取り方ができるチームだと思います。プレッシャーをかけ切れなかったところは自分たちの緩い部分が出ていますし、成長しなければいけないところです」
──イエローカードに言及していたが、テレビジョンマッチオフィシャル(TMO)の数も多く時間も長かったことをどう感じているか。
「拮抗している試合などで、レフリーが見ていなかったところを見るのはもちろん大事だと思いますし、そういったところは基本的には見ていかなければいけないと思います。ただ、トライがスコアされたシーンで、何フェーズも前のミスをあとになってTMOから声がかかることがあるので、そういったところはもう少し、レフリーとTMOがコミュニケーションをとる必要があります。
もう一つ、最後のイエローカードに言及したのは、最初はペナルティオンリーだったのが、コンタクトの強度が高かったため危険ということでイエローカードに切り替わったからです。必ずしも、衝突のインパクトが大きいからと言ってそれが危険なプレーにつながるわけではありません。体が触れるところを見る部分はあると思いますが、純粋なぶつかり合いはラグビーの醍醐味だと思うので、その醍醐味の部分が、毎回タックルを見直すことによって薄れてしまうのを心配しています」
──アーリーエントリーでまだ大学生の小西泰聖が出場したが、どうプレーを見ていたか?
「見てわかるとおり、小西は才能ある選手で、性格もいいのですぐにチームにフィットしました。(飯沼)蓮もまだ若い選手ですが、若手選手を自信をもって起用していくのはチームのスタンスです。蓮もグレイグ・レイドローも小西のことを快く迎え入れて、助けて、お手本となって道を示してくれています。
今日の試合ではスピードのあるゲームを作ってくれました。最初は少し、気持ちが入り過ぎていたように見えましたが、最終的には落ち着いてプレーしてくれました。これからを楽しみにしています」
──今日の試合で小西選手をメンバーに入れた理由は?
「セレクションをするうえで、外国人枠の関係もありますし、ベンチを当初はフォワード6枚、バックス2枚にするか悩んでいました。結局、5枚と3枚で行くことにしましたが、ティアン・メイヤーは9番から15番までカバーできますし、当初入っていたリサラ シオシファもかなりのポジションをカバーできます。それに加えて蓮が交代するとしても、小西も十分高いレベルでやれることを練習で証明していましたし、フォワードパックのところにあまり変更を加えたくないという考えのもと、小西を自信をもって出場させることになりました」
浦安D-Rocks
飯沼蓮キャプテン
「今日はありがとうございました。釜石シーウェイブスRFC(以下、釜石SW)さんがチャレンジしてくると思っていましたので、受けるんじゃなくて、自分たちから相手のハングリーさにチャレンジしていこうと選手の中では話していました。
ヨハン(・アッカーマン ヘッドコーチ)の言ったとおり、前半はトライしたあとのキックオフでミスもありましたが、前半はしっかりとハングリーに、いい感じにできたと思います。ただ、どうしても後半は自分たちの課題で、2ndハーフからミスが多くなったり、流れを握り切れないところがあります。口うるさく言っているのですが、そこが結果に出ていないところは課題です。キャプテンとしても、そこをどう改善するかといういい課題を与えられていると思うので、しっかり考えてチームに還元したいと思っています」
──アーリーエントリー制度でまだ大学生の小西泰聖が出場したが?
「自分も含めて、若手からチームに良い還元ができればいいと思います。(小西は)大学時代から知っていて、いいプレーヤーですし、本当に努力するのでいい刺激になっています。自分自身も負けないで頑張ろうと思いますし、切磋琢磨して、成長して、チームが強くなれば一番いいと思います」
──昨年、自分のときもアーリーエントリー制度があればよかったと思うか?
「(昨季は)4月から出ていましたが、もっと試合に出られていたら、もっと日本代表にアピールできたんじゃないかと思うので、去年からあればうれしかったと思います」
釜石シーウェイブスRFC
釜石シーウェイブスRFC
須田康夫ヘッドコーチ
「本日は素晴らしい環境の中でゲームをさせていただき、非常に光栄に思っています。
ゲームの内容としましては、ウチも受けたわけではないのですが、浦安D-Rocks(以下、浦安DR)さんのプレッシャーを受けてミスが出て、最初に3トライ、4トライと取られてしまいました。その中でも、流れが来た中で、自分たちも得点を取れるようになったので、そこはポジティブに捉えたいと思います。全体をとおして、カウンターのところでスコアされてしまいましたが、最後は釜石シーウェイブスRFCらしい、最後まであきらめない、粘りのあるアタックができました。そういった部分では次につながるゲームだったと捉えています」
──後半、サム・ヘンウッドとセタ・コロイタマナが同時に出場したのは今季初めてだったと思う。どういった狙いがあったか。また手ごたえは?
「二人が同時に出ることも、組み合わせとしては想定していました。少し、プレーの問題があったので、今までそういう状況にならなかったのはありますが、二人でよくフィーリングが合って、良いプレーができたと思います」
──最後のトライは大きかったと思うが、今後に向けてどのような収穫があったか?
「しっかりスコアが取れるという結果が見えた部分でもありますし、コンタクトエリアでもしっかりやれることを証明できたと思うので、あとはどうやって自分たちの形にもっていくかの作業を見極めてやっていければ、そういった展開に持ち込めると思っていますので、今後の目指していく方向性かなと感じます」
釜石シーウェイブスRFC
小野航大キャプテン
「本日はありがとうございました。今日はボールキープをテーマに臨んだゲームでしたが、ヘッドコーチからあったように、ブレイクダウンのところでドミネートされてしまい、自分たちで苦しくしてしまった印象です。なんとかボールを持ってアタックの継続ができていれば、ゲインラインもとれていましたし、スコアも取れるということが後半は見せられたと思うので、相手どうこうというよりは僕たちのクオリティーの問題だったと思います。これで前半戦が終わって、次節からは後半戦に入りますので、もう一度プレーを引き締め直してチームとして勝つことに挑みたいと思います。今日はありがとうございました」
──後半に向けて、意識的な部分や対策など、どのようなことを話し合ったか?
「前半はブレイクダウンのところでボールを失ってしまうことが多かったので、まずは強いキャリーと強いクリーンアウト、ボールキープをしっかりしようと意思統一して後半に入りました。ディフェンスのところでは、前半はかなりオフロードをつながれて、自分たちで苦しいシチュエーションを作ってしまっていたので、なんとかダブル(タックル)で入ろうという話をしました」
──最後まであきらめない姿勢を出せたのは良かった点だと思うが?
「そうですね。大量失点はしてしまいましたが、最後はスコアを取って試合を終えられました。攻める姿勢を80分間見せ続けられて、いいアティチュードでゲームを終えられたのはチームとしてポジティブなことだと思いますし、次につながると思います。これをベースに、この姿勢を取り続けられるよう準備したいと思います」