NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(交流戦) 第10節
2023年3月5日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東京サントリーサンゴリアス 20-27 トヨタヴェルブリッツ
下馬評を覆した1勝。
勝因はさまざまな色で描いた「同じ絵」
片や厚い選手層を誇りながら今季結果が伴わず、10位と低迷していたトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)。片や開幕戦を落としたものの、その後は8連勝と好調。しかも対トヨタV戦12連勝中の東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)。
3月5日のNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1第10節は、この対照的な両チームが秩父宮ラグビー場で激突。勢い的にも相性的にも東京SG有利かと思われていた下馬評は一転、27対20でトヨタVが勝利を収めた。
そんな試合後の記者会見。興奮醒めやらぬトヨタVのキャプテン、姫野和樹がひとしきりこの日の勝因を熱く語ったあと、こんなユニークな質問が飛んだ。
「今季、トヨタVのジャージーの背面には背番号別でトヨタの車名が入っています。選手はどのように受け止めていますか?」
突然の緩い質問に戸惑いつつも、姫野はこう回答した。
「すごくいいアイデアだと思います。ウイングは速い車種など、ラグビーと一緒で車種ごとに色がある。ラグビーと重なる部分がありますよね」
奇しくもそれは、今季ここまで勝ちきれなかった要因として、「同じ絵を見られていなかった」と語ったチーム状況とも重なる。この日までさまざまな色(特徴)を持つ選手たちがうまく混ざり合わなかったトヨタVが、ついに「同じ絵」を描くことができたのだ。その変化を押し進めたのは姫野をはじめリーダー陣の言葉だった。
「トヨタVのスタイルは、パッションを持って、チームの愛情を持って、エナジーを持ってやること。それが自分たちのカルチャーであり強みです。一人ひとりのパッションやエナジー、愛情の部分に火を着ける、それが僕の役割でした」
姫野にとっても2017年のトヨタ入部後、対東京SG戦は悲願の初勝利。それだけに喜びもひとしおだ。その因縁の東京SGには帝京大学の先輩であり、普段から「ユタカ」と呼ぶほど仲のいい流大がいて互いにけん制しあっていただけに、会見後にこんなコメントも残してくれた。
「やっと『ユタカももっと頑張れよ』と言える(笑)。いつも接戦ばかりで悔しい結果だったので、とにかく東京SGに勝てたのがうれしい。今日は美味しいビールが飲めそうです」
(オグマナオト)
東京サントリーサンゴリアス
東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督
「トヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)さんのハードワークとハングリー精神に尽きると思います。今日はそういうゲームになってしまった。しっかりと自分たちのテンポで戦うことをターゲットにしていましたが、タッチキックすべきところで蹴れないなど、遂行力という部分で逆にトヨタVさんに勢いを与えるようなプレーをしてしまいました。ただ、次はもうショートウィーク(中5日)で埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)さんにチャレンジしないといけない。まずは対策を考え、ポジティブにチャレンジすることを考えて、しっかりとトレーニングしていきたいと思います」
──その埼玉WK戦に向けて、どの部分を修正していきますか?
「僕らはアタッキングチームで、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)の数が本当に多くなるチームです。今日はそのブレイクダウンのところでターンオーバーされた場面もあったので、この部分はしっかりやりたい。また、今日の試合でもスペース自体は見えていたので、そこに実際にボールを運ぶ遂行力を上げていく。いくつか要因があると思うので、コミュニケーションやスキルのところを微調整していきたいと思います」
東京サントリーサンゴリアス
齋藤直人 共同キャプテン
「対トヨタヴェルブリッツというところで、大きいフォワードパックをいかにして下げるか。そして、東京サントリーサンゴリアスのテンポで試合をするといったところにフォーカスして挑みました。ただ、最後まで自分たちのペースにできなかったことが敗因の一つだと思います。この負けから学ぶこと、その上でしっかり切り替えて、次の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に向けてチーム全員で戦いに行きたいです」
トヨタヴェルブリッツ
トヨタヴェルブリッツ
ベン・ヘリング ヘッドコーチ
「選手はすごくいいハートとソウルを試合の中で演じてくれたと思います。その中でも、姫野和樹選手を始めとするリーダー陣が良い準備、良い雰囲気を作り上げてくれました。特にディフェンスの部分でトヨタヴェルブリッツのハートを見せたように感じています。今季、難しい時間を長く過ごしていましたが、試合に勝つことができてうれしいです」
──ディフェンスでは危ない場面もありました。どんな良い兆しがあって対処できたのでしょうか?
「試合の中では相手にプレッシャーを掛けられ、厳しい状況が生まれることもあります。そのときに大事なのは、いかに自分たちの強みをシンプルに出せるか。自分たちの本来やるべきことに立ち返り、シンプルにプレーすることができたと思います」
トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹キャプテン
「まずは勝ててひと安心しています。今週は特別なことはしていません。ただ、チームで迷っていた部分があったので、リーダーとして同じ絵を見て、同じ方向性にコネクトする。チームに自信を与えることにフォーカスして、この1週間準備をしました。やるべきことは何か、シンプルに明確にする。それだけを自信を持ってやり抜く。そのことをリーダーとして伝えました。それが結果につながったことを本当にうれしく思います」
──「シンプルに明確に」とは具体的にどういったことだったのでしょうか?
「チームの状況は深く考えず、自分の役割だけを全うする。『自分に与えられた仕事だけを全力でやってくれ』ということを伝えました。プレーを見ていただいて分かってもらえたように、シンプルにアタックしました。ディフェンスもシンプルにハードに自分たちの強みであるフィジカルを生かして戦いました。自信を持って80分間やり続けた結果がこの勝利につながったと思います」
──前半、自陣でのサイドアタックで箸本龍雅選手と交錯したシーン。非常に気持ちのこもったプレーだったのではないでしょうか?
「チームに伝えたとおり、シンプルにフィジカルに自分たちの強みを生かして戦うんだと。それを口で言うのと同時に、自分がキャプテンとして、リーダーとしてチームに見せるためにも迷いはありませんでした。自分たちの強みを出していくんだというメッセージもみんなに伝えられたかなと思っています」