リコーブラックラムズ東京(D1 カンファレンスA)

気が付いたらどっぷりハマった“ラグビー沼”。
トップとは無縁の男がヒーローとなる

リコーブラックラムズ東京の西川大輔選手。「僕のような、部員が15人に満たない学校でラグビーを頑張っている高校生たちの目標になりたいんです」

ついに迎えるリコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)の今季リーグ戦最後のホストゲーム。相手は、前回対戦で劇的勝利を果たしたトヨタヴェルブリッツだ。

その一戦に人一倍闘志を燃やす選手がいる。西川大輔。練習から声を張り上げ、明るい雰囲気作りにひと役買う姿が印象的な25歳である。

「前節が第2節以来の出場。『もっとこのグラウンドに立っていたい』と思いました」

愛知県出身である西川がラグビーを始めたのは高校生のとき。友人とともに「何らかの部活動に入らなきゃいけなかったから」と豊明高校ラグビー部の門を叩いた。

しかし、部員数は15人に足りず、メインは10人制。それでも高校3年次には『15人制のラグビーがしたい』、とさまざまな部活に助っ人選手を頼み、最後の花園予選は単独チームで戦った。

大学は、東海学生Aリーグの中京大学へ進学。大学2年次には「単純にどこか海外に行ってみたかった」と留学を決意し、「せっかくラグビーをしているのだから」と渡った先はラグビーの本場・ニュージーランド。オークランドのクラブチームで半年間プレーした。そこで感じたのは、ラグビーの楽しさ。いつしか、『社会人になってもラグビーを続けたい』と願うようになった。

帰国後、大学の監督の協力を得て、リコーブラックラムズ(当時)のセレクションへ参加。2度目のテストで、トップリーグ入りを叶える。

「大学生になってからトヨタヴェルブリッツというチームが愛知県にあると知った」と言うほど、トップカテゴリーとは無縁の世界にいた西川。それが今では、チームに欠かせない存在となった。

「昨季は5試合に出場したのですが、シーズン終盤には体重が3㎏落ちてしまいました。今季は栄養士さんの指導を受けて、コンディションを維持できています」

今節は、両親も愛知から応援に駆け付ける。実はBR東京に入団して以降、いまだ両親の前で勝ち星を手にすることはできていない。

「絶対に勝ちたいです」

人一倍、気持ちは強い。

BR東京に入ったとき、誓ったことがある。

「僕のような、部員が15人に満たない学校でラグビーを頑張っている高校生たちの目標になりたいんです」

母校はいまも15人制では活動できない。そんな高校生にとっての、ヒーローになる。

「僕の強みは、いまチームが最も必要とする泥臭さやリアクションスピード。出場したら、必ずチームに良い影響を与えます」

第3節以降、漆黒のジャージーをつかみ取れなかった悔しさをいま果たす。

(原田友莉子)


トヨタヴェルブリッツ(D1 カンファレンスA)

気がついたら「もう5年(笑)」。
一徹の権化のルーティンは試合前のじゃがりこ

出場するときは『じゃがりこ』のルーティンで試合に備えるというトヨタヴェルブリッツの岡田優輝選手

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1もリーグ戦は残り2試合。プレーオフトーナメントに進出できる4位以内の可能性はなくなってしまっているトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)であるが、消化試合を戦うという雰囲気はまったくない。それぞれがチームの一員として、いま何をすべきなのかを考え、強い結束力を持ってリコーブラックラムズ東京戦に臨む。

その一人が岡田優輝だ。名門・大阪桐蔭高校、帝京大学から2018年にトヨタVに加入した岡田は、シーズン開幕戦から先発出場し、同年のトップリーグ新人賞を受賞するなどすぐに活躍。不動のレギュラーを張っていてもおかしくない実力を持っている。しかし、今季はなかなか出場機会に恵まれず、第4節から10節まで出番はなし。それでも、チームのことを真っ先に考え行動してきた。

「このチームにはいい選手がたくさんいます。誰が試合に出てもおかしくないし、誰が出ても個人の責任をしっかり果たしてくれるメンバーだと思います。チームが勝つために何ができるのか、そこだけを意識するというか追求して、自分が選ばれたならチームのためにハードワークする。自分の力をしっかり発揮していきたいと思います」

トヨタVには本当に優れた選手がたくさんいる。その中で出場機会を巡る競争ももちろんあるだろうが、岡田が主眼を置いているのは、『常にチームが次の試合に勝つために何をするのか』であり、『自分たちの求めるラグビーができればどんな相手にでも勝てる』という信念を持つこと。フォア・ザ・チームの一徹した思考で厳しい練習を乗り越えてきた。

その一徹さを表すエピソードがある。岡田は試合に入る直前にある意外な食べ物を口にする。それは『じゃがりこ』。棒状のポテトスナックだ。

「自分の中でなんかルーティンがないなと思っていて、1年目の開幕戦に出させてもらったときに、たまたま『じゃがりこ』を食べたのがきっかけで『これだな』って。これを続けてみようと決めて、もう5年くらい食べています(笑)」

簡単に決めただけというが、決めたらとことん貫き通す。それはまるで一本のじゃがりこのよう。「トヨタVを優勝させる」。岡田のいまの目標も、近い将来にきっと達成してくれるだろう。

(齋藤孝一)

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