2023.05.14NTTリーグワン2022-23 プレーオフトーナメント準決勝レポート(埼玉WK 51-20 横浜E)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 プレーオフトーナメント準決勝
2023年5月13日(土)14:35 秩父宮ラグビー場 (東京都)
埼玉パナソニックワイルドナイツ 51-20 横浜キヤノンイーグルス

輝きを放った松田力也の右足。我慢の展開で王者が見せた底力

ドロップゴールを含め得点となるキックをすべて成功させ、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた松田力也選手

フィールドに青と赤の猛者たちが飛び出すと、秩父宮ラグビー場に集結した16,000人を超す両軍のファンたちは大きな拍手で迎え入れた。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1の頂点を決めるプレーオフトーナメントの準決勝、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)と横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)の対戦は、まさに互いのパワーとプライドがぶつかり合う攻防となった。

埼玉WKには、松田力也と山沢拓也という二人の日本代表スタンドオフが共存している。松田は昨季リーグ最終戦で負傷し、戦線離脱。リーグワン制覇のピッチに立つことはできなかった。懸命なリハビリとフィジカル強化によって、今季開幕前にひと回り大きくなって戻ってきた。

今季も松田と山沢は切磋琢磨しながらチームをリーグ首位通過へ導いた。そして、迎えたプレーオフ準決勝。ロビー・ディーンズ監督は、松田をスタメンとしてフィールドへ送り出した。そして、松田のキックが、“決勝戦のチケット”をもたらした。

埼玉WKは立ち上がりに気迫が空回りした。キックオフ直後の前半2分にヴァルアサエリ愛がイエローカードを受けて序盤に数的不利の戦いを余儀なくされた。ファフ・デクラークのキックからリズムをつかんだ横浜Eは、前半14分にシオネ・ハラシリ、前半20分にはイノケ・ブルアがトライを決めてリードを広げた。

埼玉WKはリードを許す我慢の状況だったが、松田の4本のペナルティゴールと技ありのドロップゴールによって粘り強く食らいつき、15対17で前半を終えた。前半の全得点は松田の右足から。迷いなくキックを選択し、離されなかったことが後半の反撃につながっていった。

ハーフタイム、埼玉WKの坂手淳史キャプテンは、松田らリーダー陣に攻守におけるディテールの確認を指示。そして、選手たちに「疲れているか?」と問いかけた。選手たちの答えは「大丈夫です。後半に巻き返せる」だったという。

埼玉WKの逆襲は、後半開始直後から始まった。横浜Eの田村優がイエローカードを受けてピッチを退いていたことも追い風になり、一気呵成で敵陣へ迫った。後半2分にマリカ・コロインベテがトライを決めて逆転に成功、このゲームで初めてリードを奪うと、マリカ・コロインベテ、ディラン・ライリーが立て続けにトライ。終盤には堀江翔太が勝利を決定付けるトライを決めて51対20で埼玉WKが勝利を収めた。

10番を背負った松田はゲームを的確にコントロールしながら、5本のペナルティゴール、1本のドロップゴール、3本のコンバージョンゴールをすべて成功させた。1本でも失敗していれば、流れは変わっていたかもしれない。大舞台での勝負強さが、チームにモメンタム(勢い)を呼び込んだ。

「角度のないシーンもあったがうまく決めることができた。前半から我慢のゲームだったが全員で耐えたことが勝利につながった」と松田。鮮やかな弧を描くキックで計24点をスコアボードに刻んだ松田は、このゲームのプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。

坂手キャプテンは「(松田)力也がキックを確実に決めてくれたことで集中を維持することができた。タフなゲームだったが23人全員で勝利をつかみ取ることができた」と激戦を振り返った。埼玉WKの逆転勝利。それは、王者の底力だった。

(伊藤寿学)

埼玉パナソニックワイルドナイツ

埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督(右)、坂手淳史キャプテン

埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督

「フィジカルでタフなセミファイナルでした。横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)さんから厳しいプレッシャーを掛けられて、モメンタム(勢い)を妨害されました。前半は自分たちの流れをつかめませんでした。その中でも選手たちがやるべきことを見つけて勝利に導いてくれました。

坂手淳史キャプテンを中心に冷静に落ち着いてプレーしてくれて、スコアボードに得点を刻んでくれました。その結果、モメンタムを取り戻してくれました。ハーフタイムを越えてから、裏へ出ていくこと。そして、モメンタムが生まれて勝利に導いてくれたと思います。選手たちの成長を誇りに思いますし、タフな選手たちだと実感しています。自分たちが欲しかった結果というものが得られました」

──ハーフタイムの指示は?

「背後を狙っていこうとして、後半最初にマリカ・コロインベテ選手が走ってくれました。長田智希選手もハードワークから努力してくれました。選手たちがどう崩すのかを模索してくれていたと思います。ダムをイメージしてほしいのですが、ダムのどこかに穴が開けば、そこから決壊して一気に水が流れ込むようなイメージだったと思います。そこから流れを引き寄せることができました。

後半に向けて良くなったのは、横浜Eさんのブレイクダウンでチャンスを与えないようにして、自分たちの流れをつかめた点だと感じています。一人の名前を挙げるとすれば、野口竜司選手を挙げたいと思います。自分たちが、どういうプレーをするべきかを理解していて、プランどおりにアタックしてくれたと感じています」

──TMOが多かった点についてはどう感じていますか?

「それもラグビーの一つかなと感じています。実際に(TMOの確認で)長い時間がありましたが、その点は気をつけるように伝えていました。その事象になるとダメージがあるので注意していこうと。TMO(による中断)がないのがいいですが、選手の安全が第一だと考えています」

埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン

「ゲームに入る前、『(自分たちが)一番努力してきたチーム、一番努力してきた個人であろう』と、選手たちに伝えました。ゲームの始めは規律の部分でゲームに乗れない部分があったのですが、ゲームから離れることなく、全員がゲームを維持し続けられた40分だったと思います。後半になったら自分たちの時間が来るだろうと思いながら前半を終えました。そこからは、後半に入ってくるメンバーがインパクトを持ってゲームに入ってきてくれて、違いを見せてくれたと思います。23人全員で勝利をつかみ取ることができました。横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)さんは、タフで素晴らしいチームでした。体も痛いですし、しんどいゲームでしたが、勝ち切れた、勝ち取れたのは大きな一歩だったと思います」

──ハーフタイムの指示は?

「ハーフタイムには、各リーダーがアタックのこと、ディフェンスのことを話したあとに、僕からは『疲れたか?』と聞きました。みんなからは『疲れていない』との回答だったので、大丈夫だと思いました。残り40分、80分の笛が鳴るまで戦い続けようと伝えました」

──前半の戦いを振り返ってどう感じていますか?

「横浜Eさんが前半からアタックしてくることは想定内でした。ただ、ヴァル アサエリ愛のイエローカードは想定外でした。試合前に『気をつけて』と伝えた直後だったので……。でも、そのあとに良いプレーをしてくれたので良かったです。最初の10分間で一人少なくなったので厳しかったのですが、(松田)力也のキック精度がすごく良かったので、(ペナルティゴールで)3点を重ねていきました。ショットの選択は、僕と力也で判断して、迷いなく決定することができていました」

──後半の勢いはシナリオどおりだったのでしょうか?

「シナリオはないですが、各個人が良い判断をしてくれたと思っています。後半の最初の10分に、(田村)優さんがイエローカードでいなくなって、その均衡が崩れたのはありました。選手たちがそれぞれに良い判断をしたと思います。少し焦りはありましたが、みんなが次に何をすべきか理解していて、みんなが一つになっていたので、それが結果につながりました」

──セクションリーダーには何を伝えたのでしょうか?

「ウッチー(内田啓介)には、ディフェンスラインのところでコミュニケーションを取ること、力也には、冷静にやってくれていたのですが、もう一度冷静に行こうと。ディラン・ライリー、ダミアン・デアレンデともコミュニケーションを取っていて、難しい時間でしたが、耐えられていたと思います。ああいう経験は次につながると考えています」

──後半最初の15分で二つのトライが生まれたことについては?

「良い判断ができたと思っています。相手がキックもたくさんしてきますし、しっかりと対応して、良い判断ができたと思っています。あそこでトライが取れたことは良かったと思います。後半に、もう一回、努力できた結果だと思います」

横浜キヤノンイーグルス

横浜キヤノンイーグルスの沢木敬介監督(右)、嶋田直人ゲームキャプテン

横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督

「40分はある程度、戦えた。プレッシャーゲームでどういうプレーが必要で、何が大事か。ウチは経験のない選手が多い中で、プレーオフでチャンピオンの埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)と戦えて勉強になったと思います。現状、これくらいの差があるというのを受け止めていく。ただ、積み上げてきたものに自信を持っていいですし、負けて全部が消えるわけではない。このゲームの成長を来週、もう一度、見せたい。全員で3位を狙っていきたいと思います」

──前半と後半の違いは何だったのでしょうか?

「試合前から言っていましたが、プレーオフで変わるのは、コリジョンの部分です。コンタクトなど一段ギアが上がるのは、ラグビーワールドカップのプレーオフでも同じです。1年間、この試合のためにやってきているので、自然とコンタクトの強度は上がってくる。頭では理解しても、埼玉WKさんの経験値が優っていてコンタクトエリアをコントロールされた。うちの選手も頑張っていました。ちょっとの差だが、こういうプレーオフのプレッシャーゲームでは、一気に流れを持っていかれる」

──埼玉WKの戦いについてはどう感じましたか?

「レギュラーシーズンから、ペナルティで狙える位置だったら、狙ってきていたので、想定内でした。ショットで点を重ねてくると思っていたので、そこに関してはプレッシャーも感じていなかったです」

──勝ち切るためには何が必要だったのでしょうか?

「埼玉WKの控えは、あの時間帯に出てきて、何をすべきかすごく整理されています。入ってすぐに、良いパフォーマンスが出せる。これは経験値が大事だと思います。勝つために何が必要か。プレッシャーゲームの役割を整理できるようにする。それがプレーオフで戦うことでの大切なところ。何度も言いますけど、良い経験でした」

──前半にハイパントを蹴っていた意図は?

「前半は失い方が悪くなかった。後半は、一人少ない状況でどういうプレーが必要なのか。意図して手放したシーンと、苦し紛れに手放すシーンがあって、そこが混乱してしまったように思う。埼玉WKは難しいことをしていない。シンプルにプレッシャーを掛けられることが埼玉WKの強さだった」

横浜キヤノンイーグルス
嶋田直人ゲームキャプテン

「前半は相手にプレッシャーを掛けることができて、しっかり戦えたと思います。良い前半を過ごせたと思いますが、後半は規律の部分で、ちょっとした場面で、自分たちでリズムを崩してしまった。最終的には点差が離れてしまいました。まだ1試合(3位決定戦)あるので、来週、しっかりと勝って、笑顔で終われるように良い準備をしたいと思います」

──後半の戦いについてはどう感じていますか?

「疲れや見えないプレッシャーはありました。接点で食い込まれて、ファーストタックルが決まらなくなったり、そういうものが重なってきて、システムどおりにいかなくなってしまいました。来週へ向けては、今日の課題である、一人目のタックルとか、二人目、3人目も最後までやり切るところを追求していきたい。体の回復も含めてマインドセットしていきたいと思います。今年、ディフェンスには自信を持っているので、良いディフェンスをしたいと思います」

──プレーオフトーナメントでの収穫は。

「素晴らしい舞台に立てて光栄です。今日、ゲームキャプテンでプレーできたことは、これからの良い経験になります。来週もありますが、ここで感じたことで、チームに良い影響を与えていきたいと思います」

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