2024.01.07NTTリーグワン2023-24 D2 第4節レポート(九州KV 20-11 釜石SW)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン2 第4節
2024年1月6日(土)13:00 ミクニワールドスタジアム北九州 (福岡県)
九州電力キューデンヴォルテクス vs 日本製鉄釜石シーウェイブス

公式戦通算100トライを達成!
トライの瞬間、脳裏によぎった仲間たちの存在

記念すべき100個目のトライを豪快なダイブからキメてみせた九州電力キューデンヴォルテクスの山田章仁選手

ミクニワールドスタジアム北九州で行われた九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)と日本製鉄釜石シーウェイブスの一戦。山田章仁の公式戦通算100トライ(トップリーグのリーグ戦とリーグワン公式戦の通算)も生まれ、ホストチームの九州KVが20対11で勝利し、新年最初の試合で待望の今季初勝利を挙げた。

リーグ戦通算100トライに王手をかけて迎えるホストゲームが地元・北九州での開催。過ぎた演出のようにすら思えるほど整った舞台だったが、誰よりも視線を注がれた“主役”は早々に期待に応えてみせた。

「これまでの100トライで一番、飛んだんじゃないかな」

前半8分、内側にキャリーした中島謙からパスを受けると大外を疾走。力強く、地面を踏み切って空中に飛び出すとまっすぐに伸び切った美しい姿勢から100個目のトライを記録した。

トライを決めた直後、山田章仁の脳裏によぎっていたのは仲間たちの存在だったという。

「トライできた瞬間はみんなに会いたくなりました。ホンダのみんなもそうですし、三洋、パナソニック、NTTコミュニケーションズ、九電、『みんなに会いたいなぁ』と思いながらのトライでした」

100のトライを積み重ねてきたからこそ、感じている仲間の大切さがそこにはあった。

「一人で15人を抜くことはできない。仲間が相手を抜いてくれるし、守備でもスクラムでも仲間の頑張りがあって、最後、ボールが来る。トライを決めたときはうれしいというよりも(責任を果たせて)ホッとしている」

大記録が現実味を帯びてきたころから山田章仁は事あるごとに「100トライは大事なことではない」と言ってきた。仲間の存在なくしてトライを取ることはできないことを理解しているからだ。

だからこそ、山田章仁はこの日も仲間との瞬間を楽しんだ。100トライを決めた瞬間の、勝利が決まった瞬間のチームメートやスタンドのファンの笑顔を見るのが山田章仁にとってはたまらない瞬間だった。

100トライ達成の記念セレモニーで山田章仁も含めた選手たちが着用した記念のTシャツだが、実はディビジョン3だった昨季の第11節、同じくミクニワールドスタジアム北九州での試合前にチームが山田章仁に内緒で用意していたもの。当時、大記録まであと3トライの状況だった山田章仁にトライが生まれず、記念Tシャツは一旦、お蔵入りとなった。

それから約10カ月、同じ舞台でようやく記念Tシャツは日の目を見ることになった。

「仲間がTシャツを着てくれて、写真も撮ってくれました。彼らの良いパジャマになればいいかなと思っています(笑)」

100トライという偉業を達成した男は、その記録よりもチームメートとファンという“仲間”と過ごしたかけがえのない時間、美しい思い出を刻めたことを喜んでいた。

(杉山文宣)


九州電力キューデンヴォルテクス

九州電力キューデンヴォルテクスの今村友基ヘッドコーチ代行(右)、ウォーカー アレックス拓也キャプテン

九州電力キューデンヴォルテクス
今村友基ヘッドコーチ代行

「皆さま、明けましておめでとうございます。まず、この場をお借りして能登半島地震で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げさせていただきます。

今日のゲームですが、3連敗のあとの年明けの初戦ということで、地元での試合であること、そして、山田章仁の(リーグ通算)100トライということで記念すべき試合になったのではないかなと思います。チームとしては勝利というよりプロセスのところにこだわってやってきていまして、その部分で言うとまだまだ、チームとして成長しなければいけないところがたくさんありました。ただ、終盤の粘り強いディフェンスというところにはチームのカルチャーが出たかなと思っています。勝って反省できることはすごくポジティブなので、次の試合まで少し時間が空きますが、次節に向けてもう一度、チームとして成長できるように準備していきたいと思います」

──開幕から3試合、悔しい試合が続いていました。今日も厳しい時間が長かったですが、今村ヘッドコーチ代行にとっても初勝利になりました。どう受け止めていますか?

「(開幕から)本当に苦しい3試合でした。開幕戦では惜しいゲームを落として、そのあと、浦安D-Rocksさん、NECグリーンロケッツ東葛さんとフィジカルの強い相手にチャレンジしたのですが、結果が伴わず。勝利というより目の前のプレーに集中するようにチームを持っていってはいたのですが、やはり勝利というものがこのチームに必要でした。課題は多く残っているのですが、まずは勝てたことを素直に喜びたいと思います。その上でチームが成長するためにやらなければいけないことを、勝って反省して次につなげたいと思っています。チームとしてこの1勝は大きいと思います」

──山田章仁選手が地元・北九州市での試合で100トライを達成したことについて。

「一言で言うと持っているな、と(笑)。彼は普段の取り組みもプロフェッショナルですし、持っているなとは言いましたけど、取るべくして取ったトライだと思います。ラグビーをやっている子どもたちにとって夢のあるプレーを心掛けてやってくれています。周りの選手たちも彼を見習うべきところがたくさんあると思います。一緒に成長していけたらと思います」

──試合の立ち上がりは苦しい時間帯が続きましたが、そこからどう修正していったのでしょうか?

「チームとしては試合前にも話していたのですが、日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)さんがフィジカルで来るのは分かっていました。そこで『いいスタートを切ろう』ということは話していたのですが、うまく相手にプレッシャーを掛けられてトライを取られる。そして、失点からスタートにはなったんですが、分析したことやウチの強みを考えたときに前半の終盤や後半の終盤でもう一度、テンポを上げてこちらのリズムで試合を進めようということは話していました。開始から点差はちょっと開きましたけど、そこはあまり問題にはしていませんでした。すぐに追い付けるという自信もありました」

九州電力キューデンヴォルテクス
ウォーカー アレックス拓也キャプテン

「明けましておめでとうございます。まず、このような素晴らしいグラウンドで試合をすることができて、ご尽力していただきました関係者のみなさま、本当にありがとうございます。僕たちとしてもアキさん(山田章仁)の100トライ達成やホストゲームと今季の初勝利ということでうれしいニュースが多くありました。ただ、先ほど、今村ヘッドコーチ代行が申し上げたようにまだまだ、成長できるところもありますし、自分たちのプレーの中で反省しないといけないところ、修正しないといけないところが見つかったと思います。今日はうれしいことがたくさんあったので、まずはチームとして祝って、次の練習からは次節の豊田自動織機シャトルズ愛知戦に向けて、気を引き締めて練習に励んでいきたいなと思っております」

──山田章仁選手の100トライ後、「勝って記録に花を添えよう」というような思いはありましたか?

「アキさんの100トライというメモリアルな出来事があったので、そういう意識もあったとは思いますが、それ以上に僕たち、特にリーダー陣はプロセスを大事にして、目の前の一つひとつの勝負に勝っていけば自ずと勝利に近づくと思っていました。もちろん、喜ばしいことではあったのですが、それよりもしっかりとマインドを変えて、目の前のことに集中しようということがチームとしてはあったのかなと思います」

──後半にシンビンがあって数的不利の中で守らざるを得ない状況がありました。あの時間帯について振り返ってください。

「開幕戦のレッドハリケーンズ大阪戦でも14人になる状況があって、最後に逆転トライを奪われるということがありました。それもあってチームの中でも『ここはしっかりと守り切ろう』という認識がありましたし、僕たちは練習からディフェンスを重視していて、ディフェンスには自信があったというか、ディフェンスでしっかりと我慢できるという部分があったと思います。14人が焦ることなく、それぞれの仕事をしっかりとやってくれたからこそ、守り切れたのかなと思います」

──山田章仁選手が地元・北九州市での試合で100トライを達成したことについて。

「もちろん、うれしいんですが、個人的にはそこまでびっくりしていないというか……。今村ヘッドコーチ代行が言ったように持っているというのもあると思います。実際にトライを取ったときには『やっぱりな』という気持ちでした。練習からハードに取り組んでいる方なので、取るべくして取ったんだろうなと思います」

──試合の立ち上がりは苦しい時間帯が続きましたが、そこからどう修正していったのでしょうか?

「グラウンドの中では『しっかり我慢しよう』という話が出ていました。自分たちが我慢して、ディフェンスやアタックでも自分たちのプロセスを続けていれば、トライやターンオーバーが絶対にできるという自信がありました。立ち上がりに点は取られましたが、そこに関しての焦りはなくて、チーム全体のプロセスやディテールにこだわってやっていくという意志統一はできていました」

九州電力キューデンヴォルテクス
山田章仁選手

通算100トライを達成した九州電力キューデンヴォルテクスの山田章仁選手

──試合を振り返ってください。

「今季初勝利ということで非常にうれしいです。僕の100トライというのもありましたが、チームが勝って、地元の北九州のみなさんの前で素晴らしい仲間と勝つことができてうれしいです」

──トライの直前、パスを受けたときの心境はどういったものだったのでしょうか?

「後ろの相手選手のタックルがちょっと気になっていたのですが、しっかり走り抜きたいなと思って走りました」

──滞空時間の長いトライになりました。

「これまでの100トライの中で一番、飛んだんじゃないかな(笑)。『飛び過ぎたかな?』と思いながら飛んでいましたけど、うまくトライできて良かったです(笑)。仲間がいないとトライを取ることはできないですからたくさんの仲間に出会えて、支えられて、本当に良かったなと。トライできた瞬間はみんなに会いたくなりました。ホンダのみんなもそうですし、サンヨー、パナソニック、NTT、キューデン、『みんなに会いたいなぁ』と思いながらのトライでした」

──100トライの重みはいかがですか?

「100トライ自体は僕にとってそんなに大したことではなくて。100回のスクラムや100回のジャッカルなど良いプレーがたくさんあるのですが、仲間を代表してありがたくパスを受け取らせていただいて取るのがトライなので、仲間に恵まれたなと思います。その仲間たちに感謝を伝えたいという思いがあります」

──トライの場面は普通にグラウンディングもできたと思います。あえて飛んだようにも感じましたが、“映え”を意識していたのでしょうか?

「いやいや(笑)、そこはあまりコントロールしていないですが、結構、飛んだでしょ? 過去、一番飛んだと思いますよ。でも、見映えは非常に大事なところなので(笑)、100回もトライを重ねるとそういうところも自然とできるようになってくるんじゃないですかね(笑)」

──地元での試合で100トライというのは狙ってもできるようなことではないと思います。

「狙っていないんですけど、チームメートに恵まれたというか、あの場面も内側の選手がキャリーしてパスをくれました。これまでのトライもそういうものばかりですけど、いろいろなことがうまく重なって良い日になりました」

──ミクニワールドスタジアム北九州のこけら落としの試合でファーストトライを決めたのも山田章仁選手。自身にとっての100トライも同じ場所になりましたが、地元での試合は特別な感覚があるのでしょうか?

「みなさんが背中を押してくれていると思います。これまで以上に今日、飛べたのもきっとそう。僕はトライのときにそんなに飛ばないんですけど、みなさんが『飛べ!』って思ったんじゃないですかね。それもあってめちゃくちゃ飛ばさせていただきました(笑)。みなさんに背中を押していただいています」

──100トライに注目が集まったが、守備やハイパントキャッチなどこれまでの選手人生が凝縮されたようなプレーぶりでした。

「会場を盛り上げるプレーをしたいなという思いもありました。ハイパントキャッチも好きですしね」

──トライの瞬間、カメラの位置は把握していたのでしょうか?

「飛ぶ瞬間に『ちょっと少ないな』と思っていました(笑)。飛んでいるとき、結構、時間があるんですよ。2台くらいしかないなって思っていました」

──出身の鞘ヶ谷ラグビースクールの後輩たちがボールパーソンを務めるなど、スタンドにも多くの子どもたちが観戦に訪れていました。

「3学期が始まったときに『キューデンの山田が100トライ取ったらしい』って隣の机の子に自慢できるような話題を一つでも作ることができたらいいなと思っていました。北九州での達成もそうですけど、学校が始まるタイミングで達成できてうれしいです」

──これまでも歓声をたくさん浴びてきたと思いますが、地元での100トライ達成の歓声はいかがでしたか?

「めちゃくちゃうれしかったですよ。試合中もバックスタンドから応援してくれる声が聞こえてきて、それに応えたいなと思っていました。昔からそういった声に応えてはいるのですが、今日も『山田、頑張れ!』という声がダイレクトに響いてきたのでトライを取って応えることができて良かったですね」

──「いつもトライは狙っている」と話しながら「でも、トライは狙って取れるものでもない」とも話していました。それでも、これだけのトライを重ねてこられた要因は何なのでしょうか?

「これは本当に仲間に恵まれています。一人で15人を抜くことはできない。仲間が相手を抜いてくれるし、守備でもスクラムでも仲間の頑張りがあって、最後、ボールが来る。だからこそ、ちょっと責任感も生まれるし、トライを決めたときには毎回、ホッとしている。だから、今日もうれしいというよりホッとした気持ちのほうが大きかったですね」

──200トライまであと100トライですね。

「200トライを目指して頑張りますよ(笑)。まずは元パナソニック ワイルドナイツ(=現 埼玉パナソニックワイルドナイツ)の北川(智規)さんの101トライ。イベントは一つひとつ、超えていかないと」

──100トライの記念Tシャツをチームが用意してくれてそれをチームメートが着る中で祝福されていましたが、心境はいかがでしたか。

「うれしかったですね。ラグビーは一人ではできないですから。仲間がTシャツを着てくれて、写真も撮ってくれました。彼らの良いパジャマになればいいかなと思っています(笑)」

日本製鉄釜石シーウェイブス

日本製鉄釜石シーウェイブスの須田康夫ヘッドコーチ(右)、小野航大キャプテン

日本製鉄釜石シーウェイブス
須田康夫ヘッドコーチ

「本日は素晴らしいスタジアム、素晴らしい環境の中、九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)さんと試合ができたことを非常に光栄に思います。特に大きなけが人も出ずに試合を終えることができたのは両チームにとって良かったことかなと思っています。釜石SWとしましては『Must Win』ということで勝ちたい試合ではあったのですが、前半から簡単なハンドリングエラーなどで自らプレッシャーを掛けてしまい、なかなかうまい試合運びができずに、そのまま九州KVさんにスコアされてしまった部分が大きかったと思います。そういったところを修正できなかったことが今回の敗因と感じていますが、ポジティブなミス、しっかりとスペースをこじ開けることができた上でのハンドリングエラーだったので、一概にネガティブなものではなかったと感じています。そういったところの修正も、しっかりチームとして次の試合に向けてやっていって、初勝利をつかみたいと思っています」

──次節まで時間が空きますが、修正したい点は?

「開幕からの3連戦と今日の試合があって、けが人もそれぞれの試合で出てしまっています。なので、まずは体のリフレッシュという点でしっかりとリカバリーをして、コンディションを整えることが大事かなと感じています。ここからは戦略、戦術という部分ではないと思うので、(プレーの)精度をトレーニングの中で厳しくやっていって、自分たちでコントロールできるゲームができるようにアタック、ディフェンスともに修正したいというのがポイントとしてあります」

──対戦相手に100トライの記録がかかった選手がいるということは試合前からどう感じていたのでしょうか?

「素晴らしい記録だと思います。もちろん、それについては情報として認識していましたが、じゃあわれわれに何ができるかというところでは正々堂々、お互いに戦い合った先にそういった相手の素晴らしい記録を称えることができると思いますので、われわれにできることはしっかりと試合を戦うということでした。特に意識していることはなかったです」

日本製鉄釜石シーウェイブス
小野航大キャプテン

「本日はありがとうございます。(須田康夫)ヘッドコーチからもありましたように何としても勝ちたい試合だったのですが、僕たちよりも九州KVさんの我慢が上回った試合だったのかなと思います。試合の前にもメンバーに『今日は我慢の試合になる』と話をしたのですが、アタックもディフェンスも僕たちが我慢しなければいけないところで九州KVさんの我慢が上回っていたのではないか。それが、80分をとおしてこの点差になってしまったのかと思います。

アタックチャンスも作れていましたし、スコアに近いところまで行っていたシーンもたくさんあったと思いますが、そこで僕たちが我慢し切れずにペナルティやイージーなエラーでスコアに持っていけなかったことが今日の敗因かなと思います。しっかりと修正して、次の試合では初勝利をつかめるように頑張りたいと思います」

──我慢し切れなかったとおっしゃいましたが、初勝利への焦りがあったのでしょうか?

「フェーズを重ねることができれば、前に出ることはできていましたし、オーバーラップの場面も作れるなという感覚はありました。ちょっとした取り急ぎやブレイクダウンのところでの精度で、僕たちよりも相手のほうが良かったと思います。自分たちでコントロールすべきところをコントロールし切れなかったことが今日、我慢できなかったところにつながるのかなと思います。もちろん、アンダープレッシャーの中なので、自分たちだけでコントロールできる部分ではないのですが、コントロールできる部分で自分たちがエラーを起こしてしまったことが我慢できなかったというところです」

──試合の入りは良かったが、山田章仁選手の100トライでスタジアムが異様な雰囲気に変わりました。そのことで難しくなったようなところはあったのでしょうか?

「確かに異様な雰囲気ではありましたし、“山田ショー”を見せられてしまったような感じではありました。少しのまれてしまったような部分はあったのかもしれないですが、そこはあまり関係ないかなと思います。自分たちのやるべきことを80分やり切れなかったことが要因だったのだろうと思います」

──対戦相手に100トライの記録がかかった選手がいるということは試合前からどう感じていたのでしょうか?

「ラグビー選手なら誰でも知っている山田章仁選手の100トライがかかっているということ。そして、地元の北九州での試合ということで舞台も整っていましたし、こういう試合でトライを取るのだろうなと思っていましたけど、案の定、トライされて負けてしまったので、特に意識していたわけではないのですが、持っているなという感じだと思います」


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