NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第8節
2024年3月2日(土)12:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 32-50 東芝ブレイブルーパス東京
「まずは自分たちがラグビーを楽しむ」。
その先に見え始めた“初勝利の光”
3月2日(土)、東大阪市花園ラグビー場で行われたディビジョン1第8節で、花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)と東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)が対戦。後半29分には花園Lが逆転し、スコアは32対31になったものの、後半34分からBL東京が3トライ2ゴールとスコアを重ね、32対50でノーサイド。BL東京が勝ち点5を持ち帰った。
今季まだ一度も白星を手にしていない花園Lが、今季これまでの全試合で白星を手にしているBL東京を迎えた。対照的な戦績だったが、花園Lは前半30分までスコアをリードし、後半には逆転もしている。光が見えてきた背景には、積み重ねてきたことが発揮できるようになってきていることに加え、マインドにも変化があった。
試合後の会見で、「試合前のジャージープレゼンテーションで、『観客の方たちも含めて、この試合では絶対に俺が一番楽しむ』とみんなの前で宣言し、臨んだ試合だった」と語ったのは、キャプテンの野中翔平。「まずは自分たちが楽しむ」ことを強く意識したきっかけは、前節の試合のあとだった。
野中は、“しまかぜ”(試合前の紅白戦でのサブ組)メンバーに「チームの代表として出場している選手たちは、楽しそうに試合をしているように見えたか、誇りに思えたか」を尋ねたという。その問いに対し、尋ねた相手たちは、静かに首を横に振った。
「めちゃくちゃ恥ずかしいと思った。負けていいわけではないけれど、負けるにしても、負け方がある」
野中は、譲ってはいけないプライドがいったい何かを知った。「勝ったチームは、もちろん元気になる。けれど、負けたチームは元気をなくしたままでいいのか。そんなはずはない、元気があったほうがきっと良い結果につながる」。まずは自分が率先してラグビーを楽しみ、チームに伝播させた。
「来てくださる方たちを楽しませたいだなんて、おこがましいと思っている。まずは自分たちがラグビーを楽しむ」と臨んだ試合でつかみかけた白星は、残りわずか数分のところでその手からすり抜けていってしまった。けれど、勝敗がすべてであるならば、7連敗中だったチームの逆転に歓声を上げ、試合後に健闘を讃えて大きな拍手を送る観客はそこにいなかっただろう。観客からの声や拍手は、楽しんで生き生きとしたプレーで戦い抜いたチームへの返答となった。
野中がずっと考えていたという。「勝利はビタミンだと言うけれど、では、負けたチームのビタミンは何なのか」。その答えになりそうなものは、今回の試合で少し見えたのではないか。
「8連敗中のチームですけど、まずはどのチームよりもラグビーを楽しんでやっていきたい」。チーム全員でそれを体現できたとき、今度こそ欲しいものをつかみ切ることができるのかもしれない。
(前田カオリ)
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ
「今日はありがとうございます。連敗中なので、勝利を期して、今日の試合に臨みました。選手は、前半・後半とも非常に戦ってくれたと思っています。この2週間から1カ月ぐらいの間に練習してきたこと、特に自分たちのディフェンスについては、どんどんできるようになってきました。アタックのところについても、自分たちがボールを持ってしっかりブレイクダウンを制すれば、アタックができることを見せてくれました。しかし、セットピースから簡単にトライさせてしまったことについては、もう少し整備する必要があります。それ以外のところでは戦えています。得点は、最後10分ほどのところで3トライを許してしまいましたけれど、今までは最後の20分で大崩れしていました。残り10分というところまでもった。少しずつ良くなってきているので、反省もしながら、また次のゲームに向かっていきたい。続けていけば、勝利も拾えるのではないかと思っています。今日の試合は、戦うこと、整備することが明確に出た試合でした」
──前節に比べ、規律の乱れは非常に少なくなっていました。どう変化を加えましたか?
「例えとして正しいかどうか分かりませんが、“朝起きたら歯を磨く”、といった当たり前のことを、ラグビーでも普通にやる、ということです。アタックもディフェンスも、どちらもリアクションだと思っているので、反応良く普通のことを普通にやり続ける。そのレベルを高めてもらうことを意識しています。練習で痛いことをする、というか。野中(翔平)キャプテンが一番率先してやってくれる、一番好きなプレーであるタックルしてボールを奪いにいくこと。それができる選手が増えれば、相手もやっぱりイヤでしょうし。ボールを持ったら相手に渡さない、しっかりコンタクトをして前に出てボールを出す、サポートもしっかりやる。やはりこういうシンプルなところは回数が一番多いので、まずそのシンプルなところのトレーニングを積んできています」
──接点に強い相手でしたが、どのような対策を立てられましたか?
「ラグビーは、陣取りゲーム。マイボールを継続すれば負けることはないので、相手ボールをどうやって止めるかということ、自分たちが相手のスペースをどう埋めるかということが重要になってくるので、対策というよりは、それらのトレーニングを積んできているという状況です」
──積み重ねで良くなってきた部分もあると思いますが、外から見ると、この試合で急にチームのレベルが上がったようにも映りました。これまでと大きく変えた部分はありましたか?
「このチームを変えることについては、ディフェンスからだと思っていました。後半の最後20分で崩れているので、一番キツいところで一番キツいディフェンスの練習をしたいと考え、ディフェンスコーチもいますので、そこをいま、少しずつですけども、取り組んでいて、みんな頑張ってやってくれています。タックルスピードというところについては、1分半から2分ぐらいやり続けていれば、相手がミスしてくれることをイメージしたトレーニングをやり続けています。その成果も少し出つつあるのかなという気はします。けれども、それが勝ちにつながっていませんので、ラインスピードについては、タックルスピードも含め、非常にキツいタックルもいけるようになってきているので、継続してやっていきたいなと思っています。これが一つの武器になって、そこからターンオーバーしてトライが奪えるようになってくれば、また一つトライパターンになってくるのかなというふうに思っています。それもまた一つ、私としては磨き続けたいところだと思っています」
花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン
「本日はありがとうございました。僕のキャプテンとしての至らなさで、シーズン開幕前までに良いチームに仕上げることができていませんでした。ただ、違う側面から見れば、まだまだ発展途上のチーム。みんなで一緒に成長を重ねていって、この試合より次の試合、またその次の試合へと、成長していく姿を見せられたら、と思っています。そうしたことの上に、勝ちが乗っかってくる。あまり大きなところを見過ぎず、引き続きやらなければいけないと思っています。
今日の試合に関しましては、本当にインディビジュアルな(個々の)ミスと、それまで規律高くできていましたが後半15分過ぎから、ペナルティが増えてしまいました。自陣に深く入り込まれる時間も増え、相手の強みであるラインアウトモールを起点にスコアを重ねられた展開にされてしまったので、ここで勝負が決まるというときこそ冷静にペナルティなくプレーできるような積み重ねも必要だなと感じました。次に必ず生かします」
──惜しくも耐えられなかった最後の10分間でしたが、次はどうすれば耐えられるのか、何かつかんだ感触はあったでしょうか?
「ディフェンスに関しては、ラインスピードを取るのか、それともコネクションを取るのか、ということはおそらくどのチームも考えているところではあると思いますが、ウチは両方取ろうというふうにディフェンスコーチを中心に話をしています。相手が大きかろうが当たるまでは何も関係がないし、そこの努力というのは誰にでもできるところ。いま結果が出せていない自分たちには、誰にでもできる努力というものをやり続けることでしか、強くはなり得ないと考えています。コネクションを保ったままラインスピードを上げ続けようというのは、実は前節も言っていたことではありましたが、あまりできていませんでした。できない理由には、ミスタックルへの恐れがありました。今回は、みんなで上がってみて、できることと修正点を洗い出そうということで、思い切ってやれたことは良かったと感じています。ディフェンスは精神的なところも大きく関わっていて、やはり敵陣深くの位置でディフェンスし続けるのと、自陣深くで続けるのとでは違います。自陣だと、焦りなども出てきますし、そのせいで不用意なミスも重ねてしまって、また自陣でのディフェンスを繰り返すことになります。自分たちは、特に自陣22mの中では“温泉ディフェンス”と言って、よりリラックスし、もっと自分たちらしくディフェンスできるよう取り組んでいますが、そこもまた一つの大きな修正すべき点かな、と思います」
──惜しくも白星とはできなかったですが、逆転した際にはスタジアムに大きな歓声が上がりました。次の試合に向け、意気込みを聞かせてください。
「本当に歓声はすごく聞こえていました。試合に入る前のジャージープレゼンテーションで、『観客の方たちも含めて、この試合では絶対に俺が一番楽しむ』とみんなの前で宣言し、臨んだ試合でした。観客のみなさんには、僕らからにじみ出たものをどう感じ取っていただくかだと思っているので、その答え合わせは歓声などでできると思っています。ただ、応援してくださる方たちには喜んでいただきたいですが、そのためにというよりも、自分たちがまず楽しくプレーし、そして結果を出す姿をお届けしたいなと思っているので、まず矢印は自分たちに向けたい。結果は出せていない8連敗中のチームですけど、まずはどのチームよりもラグビーを楽しんでやっていきたいと思います」
東芝ブレイブルーパス東京
東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ
「花園近鉄ライナーズさんのパフォーマンスは、とても良かったです。いま下位で苦しんでいる状況だということは分かっていましたけれど、想定していた以上に苦しめられたというふうに感じました。その中でも、私たちの選手がしっかりと切り抜けてくれたことを誇りに思います。緊急性(すぐに対応が求められる局面)や強度の部分でいくつかわれわれに足りないものがあった中で、相手がそこにプレッシャーを掛けて来ていると感じていましたが、セットピースがとてもうまくいって、選手たちはしっかりと自分たちのシステムを最後まで信じ切って遂行し、結果的にボーナスポイントも取ってくれたことを誇りに思います。学びもいくつかありましたが、結果的には勝利でき、うれしいです」
──現在は、キープレーヤーを欠いた状態ではあると思いますが、どのようなチーム状況だと見ていますか?
「そうですね、まず何人か選手が欠けているということは認めざるを得ないところもあります。しかし、同時に、その空いた穴をほかの選手が一段レベルを上げて埋めていくことで、リーダーシップをみんなが獲得していくチャンスがあると見ています。チームというのは、もちろん選手の質がすべてと言えると思いますし、もちろんキーとなるプレーヤーがいてくれるに越したことはないですが、ほかの選手がリーダーシップを発揮するなどして、プレーの機会を得ることは、今後に向けての良いチャンスです。チーム全体のリーダーシップやレジリエンス(困難を乗り越える力)が試されているのかもしれないと思っているので、まったくネガティブには捉えていません」
──今日は、控えメンバーの中にスクラムハーフ専門の選手が入っていなかったように思うのですが、理由を教えてください。
「今日はハーフのカバーとして、21番に森勇登選手をベンチに置きました。そこがとてもうまく機能してくれたと思うのですが、みなさんから見ていかがでしたか? 森(勇登)選手は、基本的にバックスのポジションをすべてカバーできる選手なので、今後の長いシーズンを見据えて、今日はスクラムハーフでの経験の機会を与えようと考えていました。結果的にはアクシデントもあって9番を務めることはできませんでしたが、彼が12番も務められたからこそ、うまく試合を運ぶことができました。もし今日、21番にスクラムハーフ専門の選手を置いていたら、バックスのアクシデントの際に、フォワードの控えメンバーをウイングに置くことになっていたかもしれません。このアイディアは、昨年のラグビーワールドカップで南アフリカ代表チームがスクラムハーフの枠を流動的に使い、優勝まで果たしていたことから得たものでした」
──プレーヤー・オブ・ザ・マッチを獲得した原田衛選手の活躍への評価をお願いします。
「今日の試合を見てもらっても、彼がキャプテンを務められる理由が分かってもらえたと思います。どんなシチュエーションであっても、彼は行動し、背中を見せてチームを引っ張ってくれます。今日も素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたことを誇りに思います」
東芝ブレイブルーパス東京
原田衛バイスキャプテン
「今日はタフなゲームになりましたけども、僕たちリーダー陣にとっても貴重な経験となりました。1週間の準備や試合に対しての持っていき方をもう一度見つめ直し、次の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に向けて、また良い準備をしていきたいと思います」
──終盤まで苦しんだことの原因と立て直せた要因はどういったことでしょうか?
「僕らのアイデンティティーであるブレイクダウンの部分で少しプレッシャーを受けたのが、終盤までもつれ込んだ原因かと思います。ラインアウトモールなどで相手にプレッシャーを掛けることができていたので、立て直すことができました。モールで前進できるところが僕らの立ち返るところでした。フォワードのラインアウトなど、セットピースのおかげで、ボーナスポイントまで取ることができたのかなと思っています」
──思うように前進できない場面が多かったようでした。
「想定していた以上に、相手はラッシュディフェンスで、結構前に上がってくるディフェンスだったので、そこでボールキャリアーが受けてしまって、二人目の動きが遅れてしまっていました。それが、原因の一つかと思います」
──今回の試合の準備で何か足りないところはあったのでしょうか?
「ここ数年、自分たちは、自分たちよりも下位のチームに負けている試合も少なくなかったので、試合への持っていき方が良くなかったのかもしれません。もう一度レビューした上で、もっとハングリーになることを求めていかなければならないのかもしれないと感じています」