NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン2 第8節
2024年3月10日(日)13:00 釜石鵜住居復興スタジアム (岩手県)
日本製鉄釜石シーウェイブス vs 九州電力キューデンヴォルテクス

日本製鉄釜石シーウェイブス(D2)

復興祈念試合で見せたい“ひたむきにあきらめない姿”

日本製鉄釜石シーウェイブスの須田康夫ヘッドコーチ(右)と佐伯悠アシスタントコーチ

3月10日(日)、日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)はホストの釜石鵜住居復興スタジアムで九州電力キューデンヴォルテクスとの試合に臨む。この試合は2011年3月11日に発生した東日本大震災の復興祈念試合。震災発生から間もなく13年、「この場所でひたむきに戦う姿を見せたい」と特別な思いを胸に戦う試合が今季も行われる。

「3月になると、あの震災のことはどうしても思い出す。寂しいし、悲しくなりますよね」

静かに口にしたのは、チームを指揮して3年目の須田康夫ヘッドコーチ。宮城県沿岸部の石巻市出身で、震災時、牡蠣の養殖をしている実家には2階まで津波が押し寄せるなど大きな被害を受けた。がれきで覆われ、生まれ育った地元が変わり果てた衝撃は忘れられない。

当時、釜石SWの選手としてプレーしていた須田ヘッドコーチ。チームメートとともに支援物資の運搬など、まさにラガーマンの力で釜石の人たちのために汗を流した。それでも、ラグビーをしている状況ではないという思いが先行する中、須田ヘッドコーチには忘れられない出来事がある。発災から3カ月もしないうちに行われた本拠地・釜石での試合だ。

「周りは仮設住宅だらけ。大変な状況にも関わらず数え切れないほどの人が訪れてピッチを囲んでくれた。“この人たちのために頑張ろう”と思ったゲーム。僕が釜石SWを心から好きになった瞬間です」

佐伯悠アシスタントコーチも、震災の年にはキャプテンを務めるなど、当時のチームを知る一人だ。須田ヘッドコーチからのオファーを受け、今季からコーチとして戻ってきた。「もちろん釜石SWというチームも好きですけど、自分が帰ってきた一番の理由は、康夫さんを“漢”にするためです。あの人の力になれればと思っています」と力強く語った。

いま、選手の中で唯一、震災当時のチームを知る高橋拓也も、「“釜石のために”という思いをつないでくれる大きな存在」と言う二人。復興祈念試合への思いについて尋ねたときには、それぞれから同じ言葉が返ってきた。

「とにかく、ひたむきに最後まであきらめない姿を見せたい」

いまではプレーヤーで震災当時のチームを知るのは高橋拓也選手のみだという

今季は、勝利から遠ざかる厳しい状況だが、どんなときも最後まで必死に食らいついて戦う選手たちがいる。“釜石のレガシー”は脈々と受け継がれ、そこには必ず、温かい声援で選手たちを後押しする釜石ファンの姿もある。そして、言葉以上に大きな存在でチームへエナジーを与える二人の指導者がいる。大事な試合、ピッチの選手たちを信じて思いを託す。

(佐々木成美)

九州電力キューデンヴォルテクス(D2)

「勝負の神様は細部に宿る」。
九州KVが取り組む細部へのこだわり

九州電力キューデンヴォルテクスの松下彰吾選手。練習では空気が緩まないように声掛けを心がける

九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)は3月10日(日)、日本製鉄釜石シーウェイブスとのビジターゲームに臨む。『東日本大震災復興祈念試合』として開催される一戦で今季2勝目を目指す。

「勝負の神様は細部に宿る」

これはサッカー日本代表監督を務めたことのある岡田武史さんの言葉だ。前々節は4点差、前節は5点差と、勝利まで“あとわずか”を突き付けられている九州KVはまさにその細部に向き合っている。

「前半戦と後半戦を比べたときにスコアが物語っている」

そう話すのはベテランの松下彰吾だ。前半戦は大量失点が目立った九州KVだが、後半戦は目に見えて失点数が減少している。松下はその要因について「前半戦は自分たちのやりたいラグビーに到達していなかった。でも、ずっとディテールにこだわってやってきた成果がいま、試合に出ている」と明かす。

細部にこだわって取り組んできたからこそ、勝利まで“あとわずか”の状況で改善について、さらに細部へと目が向くようになっていると松下は言う。

「確かに惜しい試合が続いていますが、その“ちょっとの差”が大きいんだろうなと思います。ただ、『立ち位置はそれで良かったのか?』『サポートのコースはそれで良かったのか?』など、自分たちの理想とするプレーができているのかどうか。その一つひとつを見るという観点で考えられるようになっている」

松下自身は前半戦、メンバー入りが一度もなく、第6節にしてようやく初出場。ただ、シーズンが始まったときから続けてきたことがある。それは練習のセッションの合間の声掛けだ。「ジョグで動こう!」、「ダラダラしないよ!」。そんな声掛けで練習の空気を引き締めてきた。

「みんなに声を掛けてダラダラせずにやっていく。それは試合に出ている、出ていないに関係なく、自分の役割だと勝手に思っています。練習で緩んだ空気が出るとそのあとの練習が締まらなくなる。それがイヤなので、意識はしています」

細部に目を向けて取り組んできた松下の存在はチームの成長と無関係ではない。細部にこだわり続けている九州KVにきっと勝利の神様が宿るはずだ。

(杉山文宣)

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