2025.05.12NTTリーグワン2024-25 D2 第14節レポート(釜石SW 15-24 九州KV)

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン2 第14節
2025年5月11日(日)12:00 ウエスタンデジタルスタジアムきたかみ(北上総合運動公園) (岩手県)
日本製鉄釜石シーウェイブス 15-24 九州電力キューデンヴォルテクス

残留を置き土産に現役引退。ラグビーがつないだ九州との縁は、これからも続いていく

入替戦を回避できたので、この試合が最後の試合となった九州電力キューデンヴォルテクスのトム・テイラー選手

ディビジョン2最終節、九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)はこの試合に勝てばレギュラーシーズンでの残留が決まるというシチュエーションの中、前半から要所で得点を奪う。後半29分までは2点差の接戦となったが、最終的には24対15で競り勝った。

この試合がキャリアのラストゲームになったのが九州KVのトム・テイラーだ。ニュージーランド、フランス、そして日本でそれぞれ5年、違う文化のラグビーに接し、ニュージーランド代表オールブラックスでも3キャップを記録するテイラーだが、キャリア最後の1週間も「いつもと変わらずニコニコしていて、チームメートと穏やかにコミュニケーションを取っていた」(今村友基ヘッドコーチ)。

「この1週間はこれまでのことを振り返ったり、家族のことを考えたりもしましたが、自分としては年齢も重ねてきていますし、『この最後の時間を楽しもう。そして絶対に入替戦を回避して残留しよう』という意識で過ごしていました」(テイラー)

そしてテイラーは今節も10番として先発出場し、チームメートとともに目指していた勝利を手にした。「もちろん、完璧ではなかったけど、成し遂げたチーム、発揮したパフォーマンスを誇りに思う」と試合直後の率直な思いを語る一方で、「残留できてほっとしていますし、それと同じくらいこれまでの厳しいトレーニングから解放されることにもほっとしています」と、朗らかに笑う。残留を置き土産にして終えられたこと、チームとして勝利というミッションを遂行できたことは、数カ月、数年経って彼がキャリアを振り返ったときに、色鮮やかな思い出として花を添えることだろう。

「いま一番したいことは、家族と九州のビーチに行くこと。体も心もリラックスさせて九州を観光したい」と、九州という言葉を強調させながら、引退後の青写真を描いていた。

キャプテンのウォーカー アレックス拓也がテイラーの引退に際し、「レガシーを残してくれた」と感謝を表現すれば、テイラーも「この2年間でチームは大きく変わった。これからの成長も楽しみにしたい」と期待を返す。ラグビーがつないだ縁。国境も国籍も超えた美しい関係性は、現役引退を境とせず、これからも続いていく。

(髙橋拓磨)

日本製鉄釜石シーウェイブス

日本製鉄釜石シーウェイブスの須田康夫ヘッドコーチ(右)、村上陽平キャプテン

日本製鉄釜石シーウェイブス
須田康夫ヘッドコーチ

「本日は少し雨の降る中、寒い中、たくさんの方にご支援いただいて、北上市でゲームができたことを非常に誇りに思います。

リーグ最終戦を迎えるにあたり、D2/D3入替戦に回ることは決まってしまってはいたのですが、しっかり勢いを付けて入替戦に挑めるように、なんとしても勝利したかったのですが、なかなかうまくいかず敗れてしまいました。でも随所で、ディビジョン2で培ってきたフィジカリティーは十分発揮できたと思いますし、相手より勝っている部分もお見せできたかとは思います。ただ、今日のゲームだけでなく、シーズンを通じてというところもあるのですが、一つのエラーが大きなものになっている部分はあり、そのエラーの質というところでは相手に比べて非常に簡単なものが多いのかなと感じています。そういったところでミスをしないという我慢比べのところで九州電力キューデンヴォルテクスさんに敗れてしまった部分が大きいのかなと思いますし、シーズンをとおしてそういった我慢比べのところで勝ち切れなかった試合が多かったとは思うので、(入替戦までの)2週間で見直して、なんとしてでも来季もD2に日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)を残せるように戦っていければなと思っております。本日はたくさんのご声援ありがとうございました」

──今日先発となった若手のフロントロー3人の評価をお願いします。

「先発のフロントローの3人は本当にエネルギッシュで、高いワークレートでプレーしてくれたと思います。前半、いくつもピンチの場面があったと思いますけど、彼らのワークレートの高さが非常にいい効果を与えてくれたと思いますし、スコアを取られなかった部分も彼らの働きが大きいかなと感じています」

──今季のレギュラーシーズンにおける収穫と課題はどういったところが挙げられますか。

「収穫は、クロスゲームが多かったことも踏まえて、力の差は昨季やそれ以前に比べてかなり縮まってきたのかなという思いはあります。特にずっとこだわってきたコンタクトの部分は釜石SWが今後D2のトップ、D1を目指す上で逃げてはいけない部分だと思っていましたので、そういったところでD2の上位チームにもしっかり戦えている、コンタクトバトルできているというところは非常に大きな収穫だったと思いますし、選手たちも自信をもっていいのかなと感じています。

課題のところはそういう試合で勝ち切れない部分。小さなミス、ここでミスを続けてはいけないというところで相手より簡単なエラーをしてしまうところ。そこをより強く、しっかりチームとして動けるかどうか。そこが浮き彫りになったシーズンだったと思っています」

──D2/D3入替戦が始まりますが、2週間後のホストゲームに向けて、この2週間をどう過ごしていきたいか、教えてください。

「レギュラーシーズンは対戦したことのあるチームとの試合が多いですが、入替戦では初めての相手になるので、相手の分析をしっかりした上で強みを見極めて、われわれの強い部分をしっかりぶつけていくという形になるかと思います。しっかり2週間、チーム全員で同じ絵を見て勝利したい。勝利のための準備をしたいなと思っています」

日本製鉄釜石シーウェイブス
村上陽平キャプテン

「前半から我慢強くディフェンスできていたと思いますし、ブレイクダウンや接点のところで何度かプレッシャーを掛けてターンオーバーするというのは、今季やりたかった部分です。そこが目に見えて表れたところは釜石SWがチームとして成長できた部分、良かった部分かなと思います。ただ、足が止まってきたときに、ラック周辺を狙われたりだとか、相手の10番に自由にボールを持たせてしまったりだとか、その辺のプレッシャーが甘くなってきたところを突かれて簡単にかわされてしまったところがすごくもったいなかったと思います。それから、ターンオーバーしたあとのボールの扱い方が少し雑なところもあったので、そこは修正していかないといけない部分だと思います。ただ、D2/D3入替戦に向けて、すごくいい部分、ポジティブな部分はあったと思うので、そこをいかに(入替戦の対戦相手である)マツダスカイアクティブズ広島さんに対して、チーム全体でぶつけていくことが重要になってくると思います。試合まであと2週間準備する期間があるので、釜石SWとして一体感をもって試合に臨みたいと思います。ありがとうございました」

──オフサイドからエリアを取られるケースも多くありましたが、そこが失点につながったことについて、どのようなことが原因だったと感じていますか。

「前で相手を止めているときにはすごくリアクション良くプレーできていたと思いますが、少しゲインされたときにオフサイドラインまですぐ下がるだとか、そこの反応が少し鈍かったかなと思います。フェーズを重ねられたときに(体力的に)キツくなって足が止まってしまうところ、ラック周辺のディフェンスのポジショニングが遅れてしまうところを使われてしまった形でした。そこは日頃から『ディフェンスを早くセットしないといけない』ということは声を掛け合っているので、その精度を高めて、もう少し一人ひとりが緊急性をもってやっていかないといけない部分だと思いました」

──「いい部分もあった」という言葉がありましたが、どのような部分がD2/D3入替戦につながる部分でしたでしょうか。

「試合序盤のディフェンスでの粘りだとか、接点でしっかり相手を上回れていたところ。アタックで言うと、敵陣に入ったとき、ここ数試合はスコアできていなかったのが続いていましたが、しっかり取り切れたところ。チャンスを逃した場面ももちろんありましたけど、そこはすごくポジティブに捉えていいかなと個人的には思います」

──レギュラーシーズンを連敗で終えてD2/D3入替戦を迎えますが、気持ちの切り替えも含めて、どういう準備をしていきたいか教えてください。

「分析もすごく大事になると思いますが、メンタルの部分でいかにしっかり切り替えて、入替戦に向けて全員が戦うマインドをもてるかが大事になってくると思います。常々言っていますけど、そこは練習でしか調整できない部分だと思っているので、リーダーから発信してマインドやメンタルを強くもって、本当に負けられない試合だと思いますので、強い気持ちで臨めるように準備したいと思います」

九州電力キューデンヴォルテクス

九州電力キューデンヴォルテクスの今村友基ヘッドコーチ(右)、ウォーカー アレックス拓也キャプテン

九州電力キューデンヴォルテクス
今村友基ヘッドコーチ

「本日は本当にありがとうございました。開催にあたり、寒い中ご尽力いただいた関係者のみなさん、そしてたくさんの観客の方も来ていただいて、幸せな環境でラグビーができたことをうれしく思いますし、結果としてもしっかり勝ってシーズンを終えることができたので、本当に良かったと思っています。

ただ、チームとしては当初D1への入替戦を目標にしていましたし、そういう意味ではまだまだ足りない部分や課題もたくさん見つかりましたので、来季は今季以上の成績、そしてD1への挑戦にチームとして取り組んでいきたいと思います。ただ、本当に体を張ってチームのラグビーを体現してくれた選手を誇りに思いますし、勝って終われたことを本当にうれしく思います。ありがとうございました」

──自力でD2残留を勝ち取れるというシチュエーションの中、今週選手たちが見せてくれたトレーニングでの姿勢、そして今日のパフォーマンスについてどのように評価していますか。

「シーズンも深まってきていまして、疲労が溜まっている選手も多くいましたし、長い時間みっちりトレーニングできたわけではありませんでした。ただ、短い時間の中で、選手一人ひとりが細かい部分でのエフォート(努力)を大事にして練習の中で見せてくれていましたし、練習時間が短くてもしっかりといい準備はできたと思います。その結果が今日のパフォーマンスに出たかなと思います」

──この試合で引退するトム・テイラー選手にとってはキャリアのラストゲームでした。この1週間、彼の様子で印象的だったことはどんなことですか。

「ナイーブな部分は見ていて感じなかったですし、彼はいつも穏やかにニコニコしていますが、今週も笑顔を絶やさずにチームメートとコミュニケーションを取っている姿はいつもどおりでした。最後の試合だからといって、何か気負っている部分もなく、本当にいつものテイルズ(テイラーの愛称)がチームに溶け込んでいたのが印象に残っています」

九州電力キューデンヴォルテクス
ウォーカー アレックス拓也キャプテン

「本日試合を開催するに当たりまして、ご尽力いただきました関係者の皆さま、本当にありがとうございました。

今季、自分たちは“BE TOUGHER”をシーズンの目標に掲げていまして、レギュラーシーズン最終節、その目標の集大成が出たのかなというふうに思います。特にディフェンスの面で、相手にモメンタムを出されないように、それぞれのタックルも良かったですし、組織としても、一人ひとりの選手としても、ものすごくレベルの高いディフェンスができたと思います。もちろん、反省点もありますし、もっとできること、来季修正できることもあると思いますが、今季D1への挑戦権は得られなかったものの、自信にもなるシーズンではあったのかなと思います。また来季、リフレッシュしてしっかり公式戦を戦っていきたいと思います」

──この1週間、チームメートとどういったところを共有、意識しながら過ごしてきたか、教えてください。

「全員が勝つ気でいましたし、『この最終節が自分たちの集大成だ』という話もしていました。短い時間の練習の中でも、メンバーに入れなかった選手たちがものすごくエナジーを出してくれましたし、ものすごく激しく来てくれたので、ゲームメンバーもスイッチをしっかり入れることができて、すごく質の高い練習をできたのが、今日の試合の結果につながったのかなと思います。チーム全員の勝利だと思いますし、本当に感謝しかないです」

──現役引退を表明していたテイラー選手のラストゲームという形になりましたが、彼のチーム内での存在感をどのように感じていましたか。

「一人の選手として、そして一人の人間として、ものすごく大きなレガシーを残してくれたと思います。具体的には練習中、試合中もコミュニケーションを取ることの重要さを教えてくれましたし、『自信をもっていけ』ということも常に言ってくれていました。グラウンド外でも本当にラグビーのことが大好きで、一人の人間としても完成された人間なので、彼のキャリアの最後に一緒にプレーできて本当にうれしいですし、これからの彼の活躍も期待したいなというふうに思います」

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