2024.03.11NTTリーグワン2023-24 D1 第9節レポート(三重H 14-24 BR東京)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第9節
2024年3月10日(日)12:00 三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 (三重県)
三重ホンダヒート 14-24 リコーブラックラムズ東京

「次こそは絶対に勝ちたい」。初先発の若武者が
死闘の中で味わった悔しさと得た学び

「リーグワンの洗礼を受けました」と先発での出場の難しさを語った三重ホンダヒート北條拓郎選手

80分56秒。三重ホンダヒート(以下、三重H)のフランコ・モスタートがボールを外に蹴り出す。それがまだラインの外に出るか出ないかのうちに、白いユニフォームの選手が次々とグラウンドに崩れ落ちる。仰向けに倒れる選手、しゃがみこんで肩で息をする選手、つった足を伸ばす選手……。一方の黒いユニフォームをまとった選手たちは両ひざに手をついてうなだれる者、頭を抱えて呆然と立ち尽くす者……。その光景は、総力戦となったこの試合のすさまじさを物語っていた。

試合前の時点で10位のリコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)と12位の三重Hの試合は、前半に4トライを奪ったBR東京が24対14で逃げ切った。勝負を分けたのは、倒れ込んだ選手の数が白いユニフォームのほうがわずかに多かったこと、そしてディビジョン1での経験の差だった。

試合後のハドルで、先発に抜擢されたアーリーエントリーの北條拓郎は、一際悔しい表情を浮かべていた。「キックもそうですし、ボールさばきのところもそう。スクラムハーフとしての仕事が全然できなかった。正直勝てる試合だったけど、誰が見ても分かるくらい足を引っ張ってしまった。リーグワンの洗礼を受けました」と振り返る。

前節の横浜キヤノンイーグルス戦で途中出場した北條は、リーグワンデビュー戦ながらトライを演出するなど好パフォーマンスを見せた。それを買われての今節の先発起用だったが、「後半から途中出場で入るときは、前半のゲームを見ているので、いま自分が何をしたらいいのかが明確になっていますし、気持ちもラクなので、前回は自分のやりたいことができました。でもスタートはイチからゲームを作っていくという仕事があるので、今日はその難しさを感じました」

同じく、今季初先発した秋山陽路も先発の難しさを口にした。「自分の持ち味であるボールキャリーでチームに勢いを付けたかったのですが、後半から出るときと違い、スタートからだと相手もフレッシュな状態なので、なかなか前に出ることができませんでした」。

この日の三重交通Gスポーツの杜 鈴鹿サッカー・ラグビー場は、キックが押し返されるほどの強風が吹き荒れていた。風上のチームが圧倒的に有利な状況で、前半風上に立ったBR東京はきっちりと4トライを奪い、後半は三重Hに何度もあと一歩のところまで迫られながらも粘り強いディフェンスで我慢する試合巧者ぶりを見せた。要所を押さえる経験値とD1の先輩としてのプライドを感じさせる戦い方だった。

一方で三重Hは、その経験値を実戦の中で高めている段階にある。この試合の北條は後半21分に根塚聖冴と交代したが、根塚の脳震盪により同29分から再びグラウンドに立った。その5分後に當眞慶がトライを奪うなど、三重Hは猛追を見せる。

「一度、外から試合を客観的に見ることができました。負けている状況だったので、ボールをキープして攻め続けようと僕も思って入りましたし、中にいた選手も同じことを思っていたので、意思を統一して攻めることができたと思います。悔しさは残りますが、いい経験ができました」(北條)

逆転はできなかったが、三重Hにとっては大きく経験値を高められた試合になった。死力を尽くして倒れ込むBR東京の選手の姿を目の当たりにしたことも、その一つだろう。経験したことをいかに次に生かすか。次節の花園近鉄ライナーズ戦でその学びを発揮したい。

「次こそ、絶対に勝ちたい。三重Hとしての1勝をつかみたい」

取材に応じる北條の表情は、グラウンドでのものとは違い、晴れやかだった。

(山田智子)

三重ホンダヒート

三重ホンダヒートのキアラン・クローリー ヘッドコーチ(左)、小林亮太ゲームキャプテン

三重ホンダヒート
キアラン・クローリー ヘッドコーチ

「一言目に『残念だ』というのが正直な気持ちです。前半は自分たちのアタックのチャンスを生かし切れませんでした。後半もそうですが、アタックをもっと改善する必要があります。自分たちのゲームプランを点数に変換することができなかったところもありました。前半の最後に簡単に2トライを取られてしまい、それが残念な結果につながってしまったと思います」

──秋山陽路選手と北條拓郎選手を今季初めて先発で起用しました。彼らに期待したこととその評価をお願いします。

「秋山も北條もパフォーマンスがすごく良かったので起用しました。秋山に関しては後半に良いキャリーがありました。北條は若い選手で、これから学ぶことが多くあると思います。北條がラックの周りでペナルティを取られる場面があったのですが、そこに関してはレフリーも関係しているのかなと思います。今日に関して言えば、そこで少し流れが悪くなってしまったところがありました」

──先ほど「プランを点数に変換できなかった」というお話がありました。今日はどのようなゲームプランで臨まれたのでしょうか?

「早い段階から相手に強く、縦にいく。フィジカル的に戦う中でモールなどを狙っていたのですが、そこでペナルティになってしまったり、小林(亮太)選手が話した『ちょっとした瞬間』が出てしまったりしました。最後の20分はいいアタックが出せたと思うので、それを早い段階から出すことが今日の試合のプランでした」

──アタックのチャンスがあった一方で、得点を取り切れなかった場面が多くありました。その原因と、来週以降に向けた修正点をお聞かせください。

「修正という部分では、いま取り組んでいることをやり続けることだと考えています。ほかのチームと比較して、私たちは体格的に小さいチームなので、相手のウィークショルダー(タックラーが当てにくる肩ではないほうの逆の肩)を狙うというようなテクニックや、ボールキャリーのフットワークなど細かい部分を磨き、そこで相手より勝る必要があります。ですから、来週に向けても、自分たちがいま取り組んでいることをやり続けるだけだと考えています」

三重ホンダヒート
小林亮太ゲームキャプテン

「いまキアラン(・クローリー)ヘッドコーチが言ったこととかぶるのですが、“少しの瞬間”に集中できなくて、勝利を取りこぼしてしまいました。前半は風下で、風が強い中でも、ほとんどの時間はいい形でゲームを進められましたが、先ほど言った“少しの瞬間”を改善し切れなくて、簡単にトライ(を相手に与えてしまい)、こういう結果になって本当に残念です。しかし、僕たちがボールを持っている時間はいい部分をしっかりと見せることができました。次の課題はそれをポイントに変換すること。悪い部分ばかりではないので、しっかりと前を向いて、1週間いい準備をして、次のゲームにつなげていきたいと思います」

──集中し切れなかった要因は何でしょうか?

「集中し切れなかったという表現をしましたが、例えば『ここはしっかりとケアしよう』といった自分たちの決め事が、ふとした瞬間に頭から抜けてしまい、そこを相手に突かれて、傷口を広げてしまったという意味です。自分たちが決めたことを、80分間ずっとやり切らなければ、求めている結果は得られません。相手のプレッシャーがあってできなかったというよりは、自分たちの問題だと思っています」

リコーブラックラムズ東京

リコーブラックラムズ東京のピーター・ヒューワット ヘッドコーチ(左)、松橋周平 共同バイスキャプテン

リコーブラックラムズ東京
ピーター・ヒューワット ヘッドコーチ

「今日の一番のポイントは『勝てた』ということです。先週(東京サントリーサンゴリアス戦)のパフォーマンスに、選手たちはすごくがっかりしていました。その中でも、今週の試合に向けて、タフに、いい準備ができたと思いますし、しっかりコネクションを保ちながら過ごせました。今日は出だしからフィジカルなプレーをして、自分たちの姿勢を示せたと思います。まだレベルアップが必要な部分もあるのは理解していますし、自分たちのアタックのリズムを見つけられていません。そういう状況でも、80分間戦い続けた結果、最後に勝利をつかんで終わることができました」

──先週の敗戦から1週間しかなかった中で、選手にどんなメッセージを伝えたのでしょうか?

「あのような、自分たちらしくないパフォーマンスをしたあとはどうしても選手たちの自信に影響が出ます。ですので、厳しく言うのではなく、『もっとできるね』と話しました。それに応えて、選手たちが自分たちで率先して改善を進めてくれました」

リコーブラックラムズ東京
松橋周平 共同バイスキャプテン

「(ピーター・ヒューワット)ヘッドコーチが言ったように、先週痛い負けを喫して、チームとしてもう1回コネクトして挑んだ試合でした。結果として勝てたことは非常に良かったし、多少は自信につながります。

でも、僕個人としてはこのような戦い方をしていては上にいけないし、これで満足しているようではダメだと思います。僕らはもっと上に行けるチームだと思います。だからこそ、もっと精度を高くしないといけない。プレッシャーが掛かったときに、ペナルティを重ねる、ミスが多くなる、ゲームマネジメントの部分が雑になるといった部分があると強いチームには勝てません。さらに勝利を重ねていくためには、一人ひとりの判断と精度を上げていく必要があると考えています」

──先週から今週にかけて選手間でどんな話をしたのでしょうか?

「選手でミーティングをして、試合に出ている選手だけではなく、出ていない選手も、しっかりと自分が思っていることを話しました。いろいろな意見が出ましたが、選手の中では特にゲームマネジメントや戦うべきエリアでしっかり戦うという部分を再確認したいという気持ちが強かったです。僕が見た限り(先週の試合は)ミスやペナルティなど自分たちで直せる部分がほとんどでした。最終的には、プレッシャーが掛かる中でそれぞれが高い精度で自分の役割を果たすことが大事になるというところに戻るので、(今日の試合では)それをしっかりと遂行したいと考えていました」


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