NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン2 第7節
2024年3月17日(日)12:00 釜石鵜住居復興スタジアム (岩手県)
日本製鉄釜石シーウェイブス 26-63 NECグリーンロケッツ東葛
今度は壁となった“気まぐれな風”。
悲願の2勝目は次こそ
降雪によるコンディション不良での開催中止から2週間、釜石鵜住居復興スタジアムで行われた第7節の再試合。日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)は、NECグリーンロケッツ東葛(以下、GR東葛)と対戦。今季2勝目を狙った試合だったが、10日の第8節・九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)戦で味方につけた“風”に今回は苦しむ展開となった。
「戦術にかなり大きな影響を及ぼす風だった。対応できなかった」(小野航大)
「風が弱まったり、これくらいだったらキックが蹴れるとか、弾道が低ければ影響がないというときがあったり、強風だったり…」(須田康夫ヘッドコーチ)
大槌湾に面したスタジアムの風はこの日も気まぐれだった。試合開始直後は風下でも、前半20分過ぎには風上に変わった。目まぐるしく様相が変わる風の中でも、開幕節以来のスタンドオフでの先発起用となった中村良真は得意のキックでゲームを作る。「割り切って“外してもいいや”という気持ちで蹴った。運が良かったです」と、前半終了間際にはハーフラインに近い位置から追い風に乗せてこの日4本目のペナルティゴールを決めるなど、得点を重ねた。
後半は、“富来旗”(応援のために用いられる大漁旗)がバタバタと大きな音を立ててはためくようになり、強い向かい風が釜石SWを苦しめる。敵陣にキックを蹴り込みエリアマネジメントを行うチームスタイルが通用しなくなり、攻め手を欠いた。
さらに追い打ちをかけたのは、出場停止明けからひさびさに戻ってきた、GR東葛のキャプテンで日本代表でもあるレメキ ロマノ ラヴァの存在だった。「早く試合に出たくて、子どもみたいな気持ち。昨夜は寝られなかった」と、うずうずしていた気持ちと追い風が勢いを急上昇させた。後半4分、自陣から持ち味のランで一気に加速。そのまま飛び込んでトライを決められると、さらに後半19分には、今節がリーグワン初出場となった小林恵太のトライもアシストされた。「初出場で初トライを取ったら気持ちがいい。(小林は)ずっと試合に出られず、やっとデビューしたことを知っているから」と、キャプテンらしく仲間を鼓舞するプレーを釜石の地で見せつけられた。
釜石SWはこの試合、“強風”という壁に阻まれ、九州KV戦の今季初勝利で得た手ごたえを今節の勝利につなげることができなかった。それでも、またさらにチームとして成長できる経験だと前を向く。「風が強くなって難しい展開でも、あの中で自分たちがやるべきことを統一できれば十分に戦えるという手ごたえもあったと思います。レギュラーシーズン2勝目の壁は次に打ち破りたい」(小野)。
(佐々木成美)
日本製鉄釜石シーウェイブス
日本製鉄釜石シーウェイブス
須田康夫ヘッドコーチ
「本日も素晴らしい環境の中でラグビーができたことを光栄に思います。また本日、小野(航大)キャプテンの公式戦100キャップに、日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)の一員として同席できたこと非常に光栄に思います。ゲームの内容は、悪くはなかったと思います。10日の第8節・九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV戦)のように、風向きがコイントスの時点から変わったんですけど、前半は風上を生かした戦い方ができたかなと思います。ただ、ボールを失ってしまったときのディフェンスで簡単にトライを取られてしまった部分があったので、そこが少し残念です。後半に風がさらに強くなった段階で相手を勢いに乗せてしまいました。そこが一番の敗因ですし、前半の点差のままでいれば十分に勝てる可能性が高かったゲームかなと感じています。その辺が次回のゲームへ向けた反省点です」
──前半、流れをつかんで戦えた要因はなんでしょう?
「九州KV戦のいい流れと一緒です。こだわりの部分をどこに置くかというところで、われわれのペースで進めることができたと思います。追い風にはなったんですけど、そんなに強い風ではなかったので、前節と同じようにエリアマネジメントをし、攻めるベースの形はできていたと思っています」
──失点に関してはどのように振り返りますか?
「まず、前半の失点は簡単に修正できるようなミスからなので、そんなに心配はしていません。ただ、後半はNECグリーンロケッツ東葛(以下、GR東葛)さんが追い風とともにすばらしいモメンタムをもってアタックしてきたことで、われわれにプレッシャーが掛かって守り切れませんでした」
──レギュラーシーズン終盤に入りましたが、開幕から感じている手ごたえについてうかがえますでしょうか?
「コリジョンの部分にこだわってきたので、正直、結果として出したい部分はありますけど、チームとして少しずつ成長していければいいなと感じています。その中で、選手たちも言っているとおり、体を当てる部分で自信を持てるようになってきているのは昨シーズンからの進歩ですし、今日みたいな相手に対しても自信を持って戦えるようになってきていることは成長の証だと思います。九州KV戦でも自信をつけられたので、そういった部分では皆さんも早く結果を求めたいと思うんですけど、少しずつ良くなっていますし、最後の最後で昨季を超える成績を残せたらと思います」
──リーグワン初トライを決めた畠中豪士選手の評価をお願いします。
「ウイングもセンターもできる選手ですし、フィジカルもある選手です。もともと試合に出られない選手でもないですし、けがが続いて出場機会がなかったんですけど、もっていた実力がしっかり出たかなと思います」
日本製鉄釜石シーウェイブス
小野航大キャプテン
「本日はありがとうございました。今日で釜石SWでの公式戦100キャップということで、勝つことが一番のお祝いになると思ったんですけど、こういうゲームになってしまって残念です。ただ、前半はすごくいい内容で、もっとスコアできるチャンスもあったので、そこで畳みかけられていれば展開は変わっていたと思います。後半は前半よりさらに風が強くなって、(向かい風になり)難しい展開ではあったのですが、自分たちがやるべきことを統一できれば十分に戦えるという手ごたえもあったと思います。もう少しチームで意識を統一して、風下でも戦えるというところが出せれば後半もチャンスはあったと思うので、次に向けて準備したいと思います」
──100キャップについて率直な思いと、これからの意気込みを教えてください。
「一つひとつの積み重ねが100キャップにつながっていると思うので、支えてくださった皆さんに感謝したいです。節目だとは思うんですけど、まだ引退するわけではないですし、これからも一つひとつ積み重ねていき、チームのパフォーマンスに影響を与えられる選手としてプレーしていきたいと思います」
──後半の風の影響はやはり大きかったですか?
「そうですね、あの状況だとキックで簡単にエリアマネジメントをすることはできないですし、ボールを動かしていく展開にしていこうとしたんですけど、相手のプレッシャーの中でボールをなかなか前に運べず、我慢できずにカウンターを食らうという形だったと思うので、もう少し我慢することが大事だと思います。ボールを持っている時間を長くすれば相手のアタックの時間を減らせるので、その辺をもう少しチームで意思統一して、いいアタックの仕方やボールの運び方などができれば別の展開にできたと思います」
──試合前もおっしゃっていた『レギュラーシーズン2勝』はなかなか壁が高いでしょうか?
「そこに対しては、特別、高い壁だとは感じていないと思うんですけど、結果として勝てていないので、次に打ち破りたいと思います」
NECグリーンロケッツ東葛
NECグリーンロケッツ東葛
ウェイン・ピヴァック ヘッドコーチ
「間違いなく勝つために私たちはここにきました。残りの2試合はビッグゲームですし、その先には順位決定戦もあるので、ここからさらにギアを上げていきたいという意味でも、いいパフォーマンスをして勝利を収めることを目的にここにやってきました。特に後半はギアを上げることができたと感じています。前半はレフリーにたくさん笛を吹かれてしまったので、不利な状況ではあったんですけど、風上に立った後半にしっかり巻き返すことができて、たくさんのいいプレー、目覚ましいプレーがあったと思います」
──ハーフタイムはどんな指示を送りましたか?
「自分たちのエラーを減らすところにフォーカスして話しました。具体的には、オフロードからターンオーバーにつながったところだったり、ノックオンがあったことだったり、あとは『ブレイクダウンでのノットロールアウェイが多いよ』という話もしました。それに関しては、チームとしてコントロールできるところだったので、『そこをコントロールして釜石SW側にボールを返すことがないように』と話しました。後半の最初の20分は特にそれをよくやってくれていたと思っていて、しっかり我慢すればトライにつなげられるというのが証明されたと思います。前半は少し焦ってしまったところがあったと思うんですけど、後半が始まる前にいい調整ができたのではないかなと思います。ただ、修正といってもロッカールームに自分が入っていったときにはもう選手たちも自分たちで分かっていたようだったので、それを同じ共通認識で話をして、『マッチオフィシャルにしっかりいい姿を見せよう』と話をしました」
──後半の攻撃の狙いというのはどういったものでしたか?
「前半は特に試合が止まることもあってぶつ切りなプレーが多かったので、しっかりフロントフット(勢いのある形)でプレーしたいというのが後半の狙いでした。スピードさえ出せれば相手がついてこられないのがGR東葛のラグビーだと思っているので、その中でさらにいい判断をすることによって、いいプレーを次につなげることができたと思っています」
──今季2回目の対戦となった釜石SWの印象を教えてください。
「レビューしたときはスクラムが強いと感じていました第5節の前回対戦はセットピースでプレッシャーを掛けられてしまったという印象でした。ゴールラインをスクラムで越えてトライした局面が1試合目ではありました。それは近年のラグビーのゲームではなかなか見られない傾向だと思うのですが、それをやってのけたのが釜石SWです。そのため、相手のスクラムを絶対に止めなければいけないという気持ちで、かつ、ラインアウトからのドライビングモールも止めないといけないという気持ちでここにやってきました。『そうじゃないと長い試合になるぞ』ということは分かっていました。ラインアウトディフェンスとスクラムのところで準備をしてきていて、その部分は格段に良くなったと感じました。
今日のパフォーマンスとしては、前半はバトルもありましたし、手ごわい釜石SWに対してのストップ・スタートが繰り返されました。それがありながらもしっかり後半、やりたいプレーを遂行することができたことは良かったと思います。スピードを出して、あとはボールを生かし続けるプレー、インディビジュアル(個人)のパフォーマンスも、何人かは非常に良かったです。ペナルティなどのときにも、キャプテンのレメキ ロマノ ラヴァが鼓舞したりしていました。その時点で私はスローダウンしてもいいかなと思ったんですけど、彼はしばらく試合をしていなかったので、エキサイトしているという印象でした。でも、そこも含めていい判断だったと思います。後半はスピードと強度をグンと上げながら選手たちがプレーしてくれたと思っているので、そこが良かったと感じています」
NECグリーンロケッツ東葛
レメキ ロマノ ラヴァ キャプテン
「個人的には久しぶりの試合でした。試合の最初のほう、10分くらいは結構キツかったです。釜石には、(2019年のパシフィックネーションズの)日本代表vsフィジー代表以来、5年ぶりに訪れました。ファンの方たちにいいラグビーを見せたいと思って、すごく楽しかったですけど、体はキツかったです」
──出場停止明けのひさびさの試合、どんな気持ちで臨みましたか?
「子どもみたいな気持ちで臨みました。昨日全然寝られなくて、早く試合をしたくてうずうずしていました」
──今季2度目の対戦となった釜石SWの印象を教えてください。
「前半、釜石SWの9番と10番がキックをうまく使いながらプレーしていて、すごく良かったです」
──リーグワン初出場となった小林恵太選手のトライをアシストした際は“プレゼント”を意識していましたか?また、その前の自身のスローフォワードでのトライキャンセルも頭にありましたか?
「ありました。『トライがキャンセルになっても次があるから大丈夫だ』と言ったら、本当にありました。そのときは自分でいこうとして横を見たら恵太がいたのでパスしました。ファーストキャップでトライを取ったら絶対気持ちいいだろうと思いましたし、恵太もずっとリザーブにいたけどグラウンドに立てずに、やっとデビューできたので」