2024.05.07NTTリーグワン2023-24 D3 第15節レポート(日野RD 26-38 江東BS)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン3 第15節
2024年5月5日(日)14:30 武蔵野市立武蔵野陸上競技場 (東京都)
日野レッドドルフィンズ 26-38 清水建設江東ブルーシャークス

「来季はお互いにD2で旋風を」。
ヘッドコーチの言葉に巻き起こった会場の拍手

前半最後の、清水建設江東ブルーシャークスの金澤徹選手による2トライが、ターニングポイントになったのかもしれない

ディビジョン3最終戦、日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)が清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)を迎えて行われた試合は、江東BSが逆転勝利を収めた。

無敗でシーズンを終えるべくプレーオフトーナメントの決勝戦を想定して臨んだ日野RDは試合開始直後からフォワードとバックスが一体となって躍動。バックスへの展開から、ラインアウトモールから、スクラムから、と今季掲げた『人もボールも動くエキサイティングなラグビー』をそのまま体現するような多彩な攻撃で前半30分までに4トライを奪う。

しかし、「前半の最後にもう1トライを取れていたら相手の息の根が止まるところを、相手が息を吹き返す2トライ目を献上したところが今日のゲームのアヤ」と苑田右二ヘッドコーチが振り返った前半のラストプレーが勝負の明暗を分けた。

日野RDが相手ゴールラインに迫る中、ボールはタッチラインを割ったとの判定。前半40分経過を知らせるホーンが鳴り響くが、江東BSにクイックスタートでプレーを再開されると、自陣ゴールラインからコンラッド・バンワイク、オルビン・レジャーとつながれ、最後は金澤徹にトライに結び付けられた。

「タッチライン際での攻防で選手もエキサイトしていて、『相手が蹴って出した』といった感じで(レフリーとの見解が合わず)ちょっとプレーが途切れてしまった」

橋本法史バイスキャプテンが振り返ったように日野RDは一瞬のスキを江東BSに突かれる形となった。

最終節で敗れ、無敗でのシーズンフィニッシュは逃した日野RDだが、D3優勝とD2昇格の成績は揺るがない。

「D2に上がると落とせない試合がより多くなる。ああいうシーンで自分たちがしっかりレフリーにアジャストしなければいけないし、あの状況から負ける、という経験もすごく勉強になった」と橋本ゲームキャプテンは敗戦にも前を向いた。

苑田ヘッドコーチは「昇格、そしてD3優勝が決まり、モチベーションを保つのがすごく難しい状況の中で、選手たちが最後まで戦い抜いてくれたことを誇りに思います。『負けると、こんなに悔しいんやな』という気持ちもみんなが味わえた。これは本当に大事で来季につながる」と視線を上げた。

試合後のグラウンドで、日野レッドドルフィンズの苑田右二ヘッドコーチは「江東BSのみなさま、今日は素晴らしいプレッシャーを掛けてくれてありがとうございます」とスタンドの観客に語りかけた

苑田ヘッドコーチは試合後に行われた優勝と昇格を祝うセレモニーでマイクを持ち、ファンへの感謝を述べたあとに、「江東BSのみなさま、今日は素晴らしいプレッシャーを掛けてくれてありがとうございます。われわれはまだまだ成長していかなければいけないと感じました。来季はお互いにD2で旋風を巻き起こせるように努力していきましょう」と江東BSへのメッセージを伝えると、両チームのファンから大きな拍手が送られた。その言葉は偽らざる、いまの率直な思いだろう。

(関谷智紀)

日野レッドドルフィンズ

日野レッドドルフィンズの(左から)苑田右二ヘッドコーチ、橋本法史バイスキャプテン、ローリー・アーノルド選手

日野レッドドルフィンズ
苑田右二ヘッドコーチ

「本日はわれわれのホストゲームでしたが、本当に素晴らしい環境で試合ができたことに感謝申し上げます。ありがとうございました。

試合のほうは、今季初めて負けてはしまったのですが、みんなが積み上げてきたものに対して優勝という結果が残ったことは自信を持ちたいですし、自分たちが成長できたと思えるシーズンだったと思います。ディビジョン2での戦いはよりプレッシャーが激しくなるとは思いますが、その中でわれわれはD1に上がって常にトップ8を狙えるようなチームになれるよう日々努力を続けていきたいと思っています。そして今シーズン、われわれがラグビーをできるかどうかという状況の中でもずっと支えて応援し続けてくれたファンのみなさまに感謝申し上げます。ありがとうございました」

──26対0から逆転を許すという展開でした。逆転負けの要因をどう分析されていますか?

「はじめに4トライを取って非常に良いスタートが切れました。今シーズンを表すような本当に素晴らしいアタックでした。前半の最後にもう1トライを取れていたら相手の息の根が止まるところでしたが、相手が息を吹き返すような2トライ目を献上したところが今日のゲームのアヤだと思っています。そこをうまくわれわれが対応できれば違う流れでゲームを終えられたかもしれませんが、そこは、“たられば”の世界です。

D2昇格が決まり、その次にはD3のリーグ優勝が決まり、本当にモチベーションを保つのがすごく難しい厳しい状況の中で、選手たちが最後まで戦い抜いてくれたことを本当に誇りに思いますし、ここまでのシーズンで努力してきたことが間違いではなかったと思っています。もう一つ、『負けるとこんな悔しいんやな』という気持ちをみんなが味わえたので、これは本当に大事で、来季につながるかと思います」

──後半、無得点で終えてしまったことについて、どう感じていますか?

「キックオフを受けての返しで相手のうまいアタックというか、良い精度のチップキックがあったりなどしましたし、アンラッキーな部分もあったりしてなかなか自分たちの攻撃が継続してできる場面が少なかった点は大きかったと思います。清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)の選手たちは前半最後のプレーでトライを取って、その勢いのまま後半、『自分たちはイケるんだ』という思いが強く自信を持ってプレーした部分もあったと思います。われわれはその勢いを断ち切ることがなかなかできなかった。それがこの点差になったと感じています」

──江東BSに対してはどんな印象をもちましたか?

「こちらもプレッシャーを掛けていったと思うのですが、特に9番、10番、12番の選手を中心に良いアタックをしてきました。それは想定内の部分でもありましたが、彼らのプレーの精度が非常に良かったという部分もありました」

──来季はD2で戦いますが、それに向けて修正すべき部分はどこでしょうか?

「まずフィジカルの部分です。D2では相手から受けるプレッシャーがまったく違ってくると思うので。あと80分間を走り切る体力も必要ですし、われわれは体が大きい選手が少ない部分もある。アタックに関しては、どれだけ一貫性を持って速いスピードで80分間フェイズを重ね、良い判断を積み重ねられるか、という部分が大事になってくると思います。今シーズン、良いポジショニングが取れたときのわれわれのアタックは非常に脅威になっていたと思うので、その精度をさらに高めたいと思います。

現状を受けて、自分たちがD2で違いをどれだけ見せられるか、という点にしっかりフォーカスしながら、日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)が目指すエキサイティングなラグビーを極めていきたいと思っています」

日野レッドドルフィンズ
橋本法史バイスキャプテン

「今日は最終戦ということで、この環境でラグビーができたことがとても楽しかったです。ありがとうございました。

試合に関しては、前半のラストプレーのところでトライを取られたところは、チームとしてもう一歩成長しないといけないと思います。後半、なかなか自分たちのペースがつかめない中で、一人ひとりが人のせいにしてしまうような場面もあったと思いますので、来シーズンはそのあたりの部分を修正して、また強いチームとして戦えるようにやっていきたいと思います。1年間ありがとうございました」

──前半のラストプレーについて、実際にプレーしている選手の目から見て、どういう状況でしたか?

「タッチライン際での攻防で、ちょっと選手もエキサイトしていて相手が蹴って出した、といった感じでちょっとプレーが途切れてしまった部分があって。その中で、やはり『笛が鳴るまで』とよく言われますが、プレーの継続が大事だということをあらためて思いました。そこで別に気持ちが切れたわけでもなかったので、そこは仕方がないにしても、最後にあそこで流れを持っていかれたのかな、という試合でしたので、これは反省して次に生かしたいと思います。D2に上がると、落とせない試合がより多く出てくる。やはりああいうところでしっかり自分たちがレフリーにアジャストしていかなければいけないし、ああいう状況から負けてしまうという経験もすごく勉強になりました。そこまでネガティブではないと思いますが、良い勉強になった試合だったと思います。

D2はどのぐらいのレベルか、という点は昨季もプレーして理解はしていますが、今季のレベルとはまた違ってくると思うので、一人ひとりが戦っていく準備とチームとして勝つために何が必要かという準備が大事になってくると思います」

日野レッドドルフィンズ
ローリー・アーノルド選手

「今日負けてしまったのは残念ではありましたが、われわれ日野RDはとても良いシーズンを過ごすことができました。最初の40分のところで、このディビジョンの中でいかに強いチームであったかというところを見せられたのがその証明です。チームとしてその自信の部分をD2にもっていくことが重要だと思います。今季を戦い抜いた選手、スタッフのみんなの頑張りはとても誇らしいです。オフシーズンにしっかり準備をして次のシーズンも頑張ります」

──前半のご自身のトライについて振り返っていただけますか?

「自分のトライについては、フォワードのおかげでちょっとスペースができたところで奪うことができました。フォワードの選手たちがしっかりと頑張って得たものであって、フォワード全体が称賛されるトライだったと思います。

──今日は残念な敗戦でしたが、ローリー・アーノルド選手から見てのこの試合の意義について教えてください。

「80分間とおして一貫性のあるパフォーマンスを出していく、という部分で良い学びになったゲームだったのではないかなと思います。前半はうまくいった、でもそのあとのところで勢いを取られて攻撃を取り戻すことがなかなかできなかった。自分たちのディシプリンの部分もちょっと欠けていた部分があった。そういったところです。コンディションもフィジカルもしっかりとゲームに向けて用意をしていくことが非常に重要になりますし、フォワードはセットピースのところでバックスがしっかりプレーできるためのプラットフォームを築いていけるようにならないといけない。D2に上がってもしっかりと80分間一貫性のあるプレーをやっていけるようになる、その学びが大きかった試合だと感じています」

清水建設江東ブルーシャークス

清水建設江東ブルーシャークスの(左から)仁木啓裕監督兼チームディレクター、立川直道ゲームキャプテン、安達航洋選手、コンラッド・バンワイク選手

清水建設江東ブルーシャークス
仁木啓裕監督

「まず、この試合に関わるすべての方々に素晴らしい環境を用意していただきましたこと、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。本当にありがとうございました。

試合については、前半、立て続けにトライを取られたときはどうなるかなと思っておりましたが、前節でとても良い勝ち方をさせていただいたこと、その流れもあってしっかり最後まで粘り強く選手たちはプレーしてくれました」

──前半に4トライを許してからの大逆転でした。特にその前半の最後でトライを2本返せたあと、どんな指示をしましたか?

「前半の最後にトライを取れたことは、非常にチームとしても大きいトライだったと思います。ハーフタイムのところで、私もいろいろと考えながら見ていたのですが、隣にいる立川(直道)選手を含めて全員が声を掛け合っていました。なので、特にこちらから指示をすることもなかったです。選手たちが自主的に判断するところ、それを見ていて成長を感じました。それがああいう逆転につながったんじゃないかと思います」

──2試合連続でフル出場した安達航洋選手の評価をお願いします。

「強豪校ではない東京学芸大学から入団してくれましたが、期待以上の働きをしてくれています。映像共有サイトのような『ハドル』というアプリをわれわれは用意しています。前節(の取材対応時)でもお話ししましたが、誰よりも多く彼は映像をチェックしています。オフ・ザ・ピッチの部分でチーム戦術などを勉強している姿、そこに関して高い意識と良い姿を見せてもらっている。それが、このグラウンドで躍動する姿につながったと思っています」

──試合前に「3連敗は絶対にしたくない」と仰っていましたが、この勝利を受けての気持ちを教えていただけますか?

「日野RDさんに対しては、私も現役のころから勝った覚えがなかったです。今季はプレシーズンで1回勝たせていただきましたが、公式戦では勝った記憶がない。でも今日ここで勝利できたことにチームの成長をしっかりと感じられました。ただそれと同時に、これからはD2で試合をさせていただくと思いますが、課題が山ほどあると思っています。しっかり今度はD2で3連勝できるよう準備をしていきたいと思います」

──来季に向けて、何月ぐらいからどんな準備をしていきますか?

「ちょっとベテランと話し合います(笑)。安達はたぶん『明日からでもいい』と言うと思いますが、隣にいる立川はじめ数人は『ちょっと……』と言うと思います(笑)。若い選手や今季の課題を持っている選手に関しては7月ぐらいから指導しないといけないかなと思っていますが、ベテランたちは全員真面目でラグビーに本当に真摯に向き合ってくれる選手ばかりですので、そこはある程度ペースを任せてしっかり次へ向けての準備を始めたいと思っています」

清水建設江東ブルーシャークス
立川直道ゲームキャプテン

「まずは日野RDさんに素晴らしい環境を用意していただき、気持ちよくプレーさせていただいたことに感謝を申し上げます。

前回まで(プレシーズンマッチを含めて)3度日野RDさんと戦ったときはけっこう自分たちで首を絞めてパニックになってしまったところがあったので、試合前から『そうならないようにしよう』とリーダーとしての声掛けをしていました。前半に得点は取られましたがその原因は明確だったので、うまくリーダーとして選手たちとトークをしながら立て直して、後半しっかり巻き返せた。そういう意味では、われわれの成長をすごく感じることができた良い試合でした」

──前半に失点を重ねてしまった原因について、どう感じていますか?

「一つはペナルティがすごく多かった点です。レフリーとのペナルティの解釈がちょっと合わずに、自分たちで首を絞めるような状況でした。具体的に言うと、手をついてジャッカルする、といったプレーが起こっていた。手をつけてジャッカルのプレーをして、けっこう3、4回ペナルティを取られてしまってもそこがすぐに修正できず、重ねてペナルティを取られてしまいました。そのあと、はじめて修正ができたのですが、得点された理由はそういうところです」

──前半に二人がシンビンとなり、13人で戦ったときはどう対応していたのでしょうか?

「あまり気にせずに、とりあえずどうやって13人の時間を過ごそうか、と考えたぐらいです。スクラムも押され、ディフェンスとしてもどんどんゲインはされていましたが、13人ではどうしようもないのでこの時間が過ぎてからの勝負だな、と思っていました。結果として前半に13人の時間帯があったにもかかわらず12点差で折り返せたので、『それだったら後半は全然いけるぞ』という自信にはなりました」

清水建設江東ブルーシャークス
安達航洋選手

「(逆転トライを取ったときの)アタックの形は、早くボールを出して、リマ(・ソポアンガ)の後ろから隠れつつボールをもらう、というのはずっと練習してきた形でした。それを狙っていたので理想どおりというか、うまく決まったと思います。キックオフのときなどに(東京学芸大学時代の)仲間の姿が見えて、良いモチベーションをもらいました」

清水建設江東ブルーシャークス
コンラッド・バンワイク選手

──後半のプレーに関して、どう振り返りますか?

「本当にこれ以上ないぐらい良いプレーがチームとしてできた、と思います。もちろん、ミスはたくさんありましたが、やろうとしている内容をこれだけ遂行できたのは今までにないパフォーマンスだったと感じているので、本当にハッピーです。自分自身もしっかりとゲインをしたりしたことはとても自信につながるプレーでした」

──1シーズンを終え、江東BSの成長をどう感じていますか?

「やはり積み上げてきた部分が実を結んでいると思います。特に『変わったな』と思ったのは、日野RDに2回負けたあと、『このままではいけない』とチームが気持ちを切り替えられたのか、そこでより意識が統一されたことで、それ以降チームがより上の段階にいけた感じがします。それもしっかり次のシーズンに向けて積み重ねられる部分ですし、こうやって地道に取り組めば結果はついてくる、ということがチームとして分かったことも大きな収穫だと感じています」

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