LeRIRO FUKUOKA ルリーロ福岡
今季D3に新規参入を果たしたルリーロは、選手がほかに職業を持ちつつプレーする、リーグワンでは異色のチーム。異例の挑戦の背景を探った。
日比野恭三=文・写真
text and photograph by Kyozo Hibino
今季リーグワンのディビジョン3に新規参入する3チームの中で、ひときわ異彩を放つのが「ルリーロ福岡」だ。特定の母体企業を持たない地域密着型クラブとして活動する。2022年春の発足から、急ピッチでのリーグワン入りを果たした。
事の発端は、浮羽究真館高校ラグビー部の吉瀬晋太郎監督と、浦和高校ラグビー部でコーチを務めていた島川大輝の出会いだった。「浮羽究真館を日本一にする」と熱く語る吉瀬に人間的魅力を感じた島川は、’20年の秋、同校のコーチに転じた。
九州の片田舎で指導を始めてほどなく、ある危機感を抱くようになる。
「高校生たちが関東や関西の大学に行ってしまう。彼らが地元に戻ってこられる仕組みをつくらなければ」
部活動の地域移行の流れに沿って小規模なクラブチームをつくることも考えたが、「盛り上がる未来が見えづらかった。現状を本気で変えるなら日本一を狙えるようなトップチームをつくるべき」(島川)。そう結論づけると、さっそく行動に移した。
まずは、うきは市の企業を回って協賛を募った。そこで聞こえてきたのは、人手不足に悩む切実な声。「選手たちには働きながらラグビーをしてもらおう」と構想していた島川は「地域の課題解決と、選手の働き場所の確保。Win−Winの関係性が成立する」との感触を得る。
同じ頃、福岡市を本拠地としていたコカ・コーラレッドスパークスが廃部になるというニュースが飛び込んできた。行き場のない選手がいると知った島川はクラブハウスに乗り込み、「一緒にラグビーをしないか」と語りかけた。これを機に入団した選手を含む3人が、’22年4月、ルリーロ福岡発足時のメンバーとなった。
さらに福岡県宗像市のサニックスブルースも活動を休止。ここでもルリーロが受け皿となり、選手層は着着と厚みを増す。’15年W杯の南アフリカ戦で逆転決勝トライを決めたカーン・へスケスも、その一人だ。
精力的に活動する島川らの熱は地元の人々や自治体にも伝播した。「うきはラグビータウンプロジェクト」の名のもと、ルリーロは市と商工会、浮羽究真館高校との4者連携協定を締結。ラグビーを通じた地域活性化に一体的に取り組むこととなった。
’22年から参戦したトップキュウシュウAリーグでは2連覇。戦績や運営体制などが考慮される最終審査を経て、リーグワン参入が決定した。
ルリーロの運営のあり方は非常にユニークだ。まず、普段の練習場所は浮羽究真館高校。すでに70名に達した所属選手の多くが日中は仕事をしており、夕方に学校に集合する。そして、部活を終えた高校生たちと入れ替わるような形で土のグラウンドへと駆け出していくのだ。
事業面では約400社もの協賛パートナーが基盤だが、スポンサー頼みの経営とは一線を画す。企業とのつながりを生かして地域内外のビジネスマッチングや経営支援を行うほか、フォトスタジオや整骨院などの運営にも乗り出している。ルリーロの代表に就任した島川は言う。
「カメラマンやトレーナーに単純に外注費としてお支払いするのではなく、スキルを生かしてもらってクラブの売上を立てつつ、その利益がチームの活動費になる。そうなれば、みんなハッピーじゃないですか」
地元の果樹園で働くゲームキャプテンの三股久典は、コカ・コーラからサニックスを経てルリーロ入り。「ゼロからリーグワンに挑むという物語に魅力を感じました。ディビジョン2への昇格に向けてチームをまとめたい」と力強く語った。また、チームマネジメントを担うクラブキャプテンの西村光太は、社員としてスポンサー営業などクラブ運営を支えながらの挑戦。「これから始まるのは〝地域〟対〝企業〟の戦いです。応援してくださる皆さんを喜ばせるような結果を出したい」と意気込む。
島川の言葉を借りれば「いろんな方々のチャレンジしたい気持ちがぎゅっと詰まったチームがルリーロ」。小さな町から、ラグビー界に新たな風が吹き込まれようとしている。