NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン3 第15節
2025年5月11日(日)12:00 AGFフィールド (東京都)
ヤクルトレビンズ戸田 vs ルリーロ福岡
ルリーロ福岡(D3)
地元企業にチラシを手配りして、マーカーとボールをそろえる。クラブ創設の「リアル」は、そんな地味な手作業の連続だった。
今季、リーグワンのディビジョン3に初参戦したルリーロ福岡(以下、LR福岡)。その骨格を形作った一人が、創設メンバーの黒川ラフィである。
2021年冬。所属していたコカ・コーラレッドスパークスが活動を休止し、黒川は一度アメリカンフットボールに挑戦する。しかし運命のように、地域密着型クラブ「ルリーロ福岡」の立ち上げメンバーとして声が掛かる。わずか3人のスタート。練習場も確保されておらず、近隣の高校生の練習に交ざって体を動かした。
「ゼロからチームを“創る”」とは、何を意味するのか。それは、選手としての挑戦であると同時に、スポーツの新しい仕組みを耕す作業だった。昼は営業マンとしてスポンサー獲得に奔走し、夜は練習に打ち込む。会社員でもなく、プロ選手でもない「地域クラブの担い手」として、黒川は自らの体一つで可能性を切り開いてきた。
シーズン序盤、10連敗。だが、そこからつかんだ1勝は、ただの1勝ではない。チーム全員の汗と涙が染み込んだ“意味ある勝利”だった。選手もスタッフも、そして観客までもがその価値を知っていた。
黒川は今季、公式戦のグラウンドには立っていない。最終戦でもメンバーに名を連ねることはできなかった。しかし、彼の存在がこのクラブの精神的支柱であることは間違いない。
10連敗からの1勝、そして2勝。その裏には、日々の地道な努力がある。グラウンドの外で信頼を築き、内側では若手を支える。黒川の役割は「試合に出ること」だけではない。「クラブを“創る”こと」そのものだった。
「ラグビーとは、自分に誇りをもたせてくれるもの」。黒川がそう語るとき、それは勝利や数字では測れない何かを意味している。誇りとは、自分の信じた道を貫くこと。敗れても立ち上がり、背中で伝えること。だからこそ、黒川はまだキャリアハイを夢見ているのだ。
LR福岡は、わずか3年で80人近い選手が所属するチームとなった。だが、数ではなく「機会の平等」に意味がある。誰にでも挑戦のチャンスがあるチーム。その理念を、黒川は体現し続けてきた。グラウンドに立たずとも、チームを動かす者がいる。黒川ラフィという名の存在は、その証明である。
(柚野真也)