NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン1 第2節(リーグ戦) カンファレンスB
2024年12月28日(土)14:40 岐阜メモリアルセンター長良川競技場 (岐阜県)
トヨタヴェルブリッツ 17-21 三重ホンダヒート
勢力図が塗り替えられそうな予感。巨大な壁を崩す、32年ぶりの勝利
勝利が決まった瞬間、三重ホンダヒート(以下、三重H)のベンチからはこれ以上ない大歓声が挙がった。それもそのはず、三重Hがトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)に勝利をしたのは三重Hによると実に32年ぶり。自動車メーカーが母体で東海地区をホストタウンとするチーム同士ながら、過去の対戦成績はトヨタVの31勝に対し三重Hはわずかに1勝。ラグビーではライバルと言うのは憚られるほど巨大な壁、それがトヨタVだったのだ。
ただ、今季の三重Hは違っていた。積極的な補強を行い、2季目となる世界的な名将キアラン・クローリー ヘッドコーチの下で、プレシーズンは22週間しっかりとした準備を行ってきた。「フィットネスが向上し、選手間の競争力がついた」とヘッドコーチ。フォワード戦に強いトヨタVに対し、パワーの面でも互角以上の戦いができるようになっていた。
象徴的だったのは後半28分、三重Hにとってこの試合最初のトライの場面。ラインアウトからのモールドライブで一気にインゴールまで、相撲でいう電車道のようにトヨタVのフォワード陣を圧倒した。
このプレーで3点差に詰め寄ると、ゲームキャプテンのパブロ・マテーラが「いけるぞ!ファイトし続けよう」と鼓舞したチームは、さらにアグレッシブに攻め立てていく。そして相手をゴール前に押し込み続け、最後は交代出場の土永雷が、相手守備の間隙を縫って逆転のトライを決めた。
「フォワードが頑張ってくれたおかげで前が空きました。試合に出た選手だけじゃなくて、メンバー外の選手たちのサポートもすごくあって、スタッフも含めてみんなが100%でやってくれたことが大きかったですね」と、土永は全員での勝利を強調する。
三重Hが32年間トヨタVに勝てていないことは、試合前に選手たちにも伝えられていた。「それで、みんなもいつも以上に気持ちが入っていたんじゃないかなと思います」と土永。クラブ全体でこの日の勝利をつかみ取ろうとしていたことが分かる。
かつては0対116という一方的なスコアもあったこのカード。歴史的な勝利で自信をつけた三重Hは、群雄割拠のリーグワンの中で侮れないチームになりつつある。
(斎藤孝一)
トヨタヴェルブリッツ
トヨタヴェルブリッツ
スティーブ・ハンセン ヘッドコーチ
「今週のパフォーマンスは先週よりも高いという印象がありますが、いずれにせよ残念ながら(敗戦という)同じ結果になってしまったので、いまの心境としては心苦しいです。チームとしていまはまだ成長の段階にありますので、チームとして振り返りたいと思います。今日の試合に関してはペナルティやハンドリングミスが多く見られました。勝てるチャンスを逃してしまったとはいえ、選手のひたむきな姿勢や、ベストを尽くしてくれたことは称賛したいと思います。ですが、そういう心境が強過ぎるが故に個々でプレーをしてしまった局面が多くありました。チームとしてはそういった局面、特に終盤の部分で自分たちがやってきたことを信じる部分を改善していく必要があると思います。非常に残念ではありますがトップ6というところを目標に、これから長いシーズンを戦っていきたいと思います」
──選手間での声掛けについて(姫野選手への質問をフォローして)。
「チーム内のメッセージ、また選手の姿勢、意識というところが問題なのではありません。試合に勝てる局面までいきながら勝てていない現状がありますが、選手は1週間をとおしてハードワークをしています。そういった勝ちたいという気持ち、メンタルの点でそれが強過ぎるが故に、個々で『どうにかしてしまいたい』といった心境が悪い判断につながったという側面があると思います。なので、いまの課題としてそこに焦点を当てていきたいです。
特に後半を振り返ると、ペナルティ、ブレイクダウン、ラインアウトモール、そういったところからスコアされるという状況がありました。チームとしてはそうした部分に焦点を当てて修正していく必要があると思います。繰り返しになりますが、選手の取り組む姿勢(に問題があるの)ではなく、逆にそれが強過ぎるが故に個人としてプレーしてしまっている。そういった部分を深く理解しチームとして成長していきたいです。キャプテンに関しては非常にいいメッセージを試合中に伝えてくれています。なので、ほかの部分に焦点を当てて、チームとして成長していきたいです」
──個々でプレーをしてしまうのは、新しい課題なのか、過去から続いている課題なのか、どう考えていますか?
「今季の2試合を振り返ってみると、勝てる試合だったと思います。また昨年度を加味すると、常にそういった状況があったわけではありません。また、トヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)と同じようにほかのどのチームも成功を目指しているという前提があると思います。メンタルの件に関して、いまのトヨタVは自分たちにプレッシャーを掛け過ぎているような印象があります。その対処法として、そういった局面をどう切り抜けるのか学ぶ必要があると感じています。チームとして何かをしようとし過ぎるというのは、何かをしないことと同等の課題だと認識しています。気持ちがあり過ぎるが故に個々で動いてしまう。これまでに似たようなチームを私自身も見てきました。まず、メンタルの点でどう解決していくのか、チームの一体感を生み出すのか、その課題を克服することができれば、いいラグビーを展開できると思います」
──三重ホンダヒート(以下、三重H)が変化したと感じる点はありますか?
「ディフェンスに関して、三重Hはイエローカードをもらうことを気にせずにディフェンスをしてきました。トヨタVとしてはアタックをしながら、相手がどういったディフェンスをしてくるのかよく理解できていたと思います。相手が単純にいいプレー、いいディフェンスをしてきたので、われわれがメインにフォーカスしなければいけないのは、自分たち自身だと考えています」
トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹キャプテン
「スティーブ(・ハンセン ヘッドコーチ)とほぼ同じですが、残念です。しかしシーズンは続くので、僕たちは進んでいくしかないと思うし、あまりネガティブにならずに、また1週間いい準備をして、次の試合に向かって最善を尽くしていく。それが自分たちのやるべきことだと思います」
──先週と同様に終盤にひっくり返される結果でしたが、追い上げられる中でチームを前向きにさせるためにどんな声掛けをしていましたか?
「皆さんの想像のとおりです。次の仕事をやるだけでした。そこで何か多くの情報を与えるのではなく、自分たちのやるべきことをやるだけ。それを確認しました」
──三重Hが変化したと感じる点はありますか?
「総合的にすごくいい選手が入ってきましたし、やりたいラグビーが明確になっていると思います」
──三重Hのディフェンスが強くなったという実感はありますか?
「素晴らしいプレッシャーを掛けられました。だた、(変化は)そこの一つだけではないなとも思っています」
三重ホンダヒート
三重ホンダヒート
キアラン・クローリー ヘッドコーチ
「まず、結果についてすごくうれしく思います。トヨタVに対して32年ぶりに(トップリーグ時代とリーグワンでは初めて)勝ったということで、選手たちはみんな大喜びです。プレシーズンでこのチームは、キツいこともしっかりとやって頑張ってきました。この試合では最後までしがみつくことができて、最後は勝利を収めました。プレーをした23人だけではなくチーム全体、練習の準備などを手伝ってくれたメンバーについてもすごく誇りに思いますし、感謝をしています。ですが、自分たちを苦しめるようなミスやペナルティもあったので、そこの部分に関しては改善の余地があると感じています」
──前日のトヨタVとの『MIRAI MATCH』(トレーニングマッチ)でもモールで押し込んで得点を奪っていたが、三重Hの強みなのか、トヨタVに対する戦術的なものなのか教えてください。
「モールについては昨季から比べてもすごく成長し、ラインアウトとスクラムのエリアでもすごく成長していてコーチに感謝をしています。あとは選手、それこそ経験のあるパブロ(・マテーラ)やフランコ(・モスタート)の助けもあります。昨日の試合も今日の試合も、モールでチャンスを作ることができたので、あとはそれを繰り返していくこと。そこが相手にとって弱点だと感じたので、そのモールを勝つための機会として使っていきました。そこはここまで準備をしてきたところだったので、本当に良かったと思います」
──トヨタVに対して徹底して準備してきたところはどこでしょうか?
「どのチームも一緒だと思いますが、プレシーズンの22週間を使って、しっかりとフィットネスや選手間の競争力を図りながらやってきました。それがこの2試合連続でいい結果を導いてくれた要素なのかなと思います。先週の試合もそうでしたけど、負けている状況からの逆転勝利だったので、そういった意味ではフィットネスのところが大きく関わっていますし、S&Cコーチたちにも本当に感謝している部分です。ただ、まだシーズンは続きますし、序盤に勝利をしただけだと思っています」
──マヌ・ヴニポラ選手と中尾隼太選手の起用法は戦術的なものだったのでしょうか?
「外国籍選手の枠も関わってくるところで、今週はトヨタV戦に向けたスタートの15人を決めて、そのあとベンチメンバーを決めました。今週に関してはフォワードとバックスに外国籍選手、ウイングにも使っていたこともあって枠が埋まっていたので、隼太がスタートでベンチにマヌという流れでした。今後はそれぞれの試合、どんな対戦相手なのかによってしっかりとスタートを決めていきたいと思います」
三重ホンダヒート
パブロ・マテーラ ゲームキャプテン
「思うことはキアラン(・クローリー ヘッドコーチ)と似ていて、選手たちを本当に誇りに思います。今日もそうですけど、これまで準備をしてきた期間、費やした時間、そこについても誇りに思います。ホンダがトヨタVに勝ったのは32年ぶりということで、今日はゲーム前からすごく大きな試合になるとみんなが思っていて、試合の結果としてはしっかりと勝てたこと、しっかりと機会を自分たちのものにしたということ、その意味で良かったと思います」
──後半の1本目のトライを奪って追い上げたとき、チームメートにどんな声を掛けましたか?
「その瞬間に言ったのは、『いけるぞ、ファイトし続けよう』というような声を掛けました。本当に今日の試合はタフなゲームになるということが分かっていたので、この80分間をしっかりと戦い続ければ勝てるということを信じて選手たちはやっていました。本当にあきらめずに最後までやってくれたことに対してもうれしく思うし、点差が縮まっていく中でもプランを変えずに最後まで遂行できたことが、勝利への道筋を築いたと思います」
──フィジカルの強いトヨタVに対してフォーカスしていたことはありますか?
「コンタクトエリアではディフェンスのときに二人がしっかりと人(ボールキャリア)に対していくところをプランとしていますが、今日はそのプランを最後まで実行できたので、いいディフェンスができたと思います。本当に多くのディフェンスをしましたが、トヨタVは何フェーズも重ねてやっと最後にトライを取れたということなので、トヨタVさんには本当にスコアをしにくいチームなのだという印象を与えられたと思います」