NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
ディビジョン1 第16節(リーグ戦)カンファレンスB
2025年4月26日(土)12:00 スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場) (東京都)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 39-20 三重ホンダヒート
兄弟の絆をつないだのはラグビー。奪い合ったオモチャを楕円球に変え、これからの未来を紡ぐ

後半15分、ゴールエリアへ走り込む洸雅の姿を聖冴は捉えた。サイドから渾身のタックルを繰り出す。しかし、洸雅の勢いは止まらない。聖冴の目の前で、弟が楕円球をトライゾーンにねじ込む。聖冴は、悔しさに顔を歪めた──。

聖地・スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)に、白い布のような優しい空が広がる。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)と三重ホンダヒート(三重H)が激突するこの日、昨季第2節以来となる、根塚兄弟の再戦が実現した。
小さいころからオモチャの奪い合いなど些細なことで争いごとが絶えず、プロレスラーの場外乱闘のごとくガラス製のテレビ台が凶器と化し、犬のケージがリングと化した幼き日々の兄弟喧嘩。その傷はいまも洸雅の顔に残っており、「兄貴が京都成章高校に行って寮生活を先に送っていましたが、それがなかったらいまも仲が悪かったかもしれないです」と当時の関係性を振り返る。
そんないがみ合っていた兄弟の絆を、競争心へと昇華させたのが「ラグビー」だった。二人は尼崎ラグビースクールの中学部までは同じ空間を共有。中学卒業後、聖冴は京都成章高校に、その2年後に洸雅が東海大学付属大阪仰星高校に進学。大学はともに法政大学に進み、洸雅いわく「『聖冴の弟』ということで、先輩とも話しやすい関係性を作れた」という。
2019年に聖冴は三重Hに、2021年に洸雅はS東京ベイに入団。フィールドで向き合うのはこれがまだ二度目で、バイウィーク中の4月20日に結婚式を挙げたばかりの洸雅は「(家族が集まる)イベントが続くのでワクワクしていた」という。式にも出席した兄・聖冴が語る。
「こうしたトップレベルのリーグで兄弟対決ができるのは、すごく幸せなこと。週末にはどちらかのチームの試合があるので、楽しみを作れているという点では、親孝行ができているのかもしれません」
昨季、ディビジョン1に昇格してきたばかりの三重Hは第2節でS東京ベイに0対75の大敗を喫した。しかし、今季の第3節では27対32と接戦を展開。この試合でも、激しいフィジカルバトルでS東京ベイに食らいつき、前半をリードして終えた。チームの進化を実感する中、聖冴は「兄弟で試合をするのがより楽しくなった」と言葉を続けた。
今回はS東京ベイが39対20で圧勝し、同会場での連勝記録を『24』に更新。首位攻防戦となる次節、埼玉パナソニックワイルドナイツとの直接対決に挑む。そして、兄弟の物語はこれからも静かに、途切れることなく続いていく。それは、二人がラグビープレーヤーであり続ける限り。
「お互いが日本代表に入れたらうれしいですし、リーグワンでは決勝の舞台で兄弟対決ができたら、親にとってはどちらが勝っても子供が日本一になるという、最高の展開になると思います」(洸雅)
奪い合っていたオモチャを楕円球に変えて、兄弟は、あの日々の続きのように未来を紡ぐ。
(藤本かずまさ)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ
「コンニチワ!まず、“えどりく”(スピアーズえどりくフィールド〈江戸川区陸上競技場〉)で試合ができることをうれしく思います。ファンの応援が力になり、良い雰囲気で試合に臨めました。バイウィーク明けだったので、今日の試合は特に重要でした。最終局面に向けて良いパフォーマンスをすること。前半は苦戦しましたが、相手のポゼッションを許しながらも、われわれは粘り強く守備をしました。小さな勝利を積み重ねることで、後半に成果が出たと思います。後半は良いアタックとディフェンスでチャンスを作り、スコアにつなげることができました」
──クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)はフィジカルとセットピースが強みだと思いますが、今日はハイボールも効果的でした。ハイボールをチームとしてどのように位置付け、練習でどのような時間を割いているのでしょうか。
「良い質問ですね。ルールが変わり、ターンオーバーを増やせるようになったので、ハイボールは重要です。ウイングの選手や高身長のセンターがスペースを作り、走り込みます。スペースを確保できれば、ターンオーバーやカウンターにつながります。特にトア(ハラトア・ヴァイレア)はハイボールキャッチが素晴らしく、勇敢にボールを奪ってくれました。彼がゲームチェンジャーとなり、カウンターのチャンスが生まれました。田邉(淳)アシスタントコーチが中心となり、選手と多くの時間を費やして練習しています。技術的な指導はもちろん、スペースの作り方、キックの精度、動きなど、さまざまな要素を組み合わせて練習しています。今日はそれらがうまく機能しました」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
ファウルア・マキシ キャプテン
「今季最後の“えどりく”での試合で、この会場で試合ができるのは自分たちにとって特別なことです。たくさんのオレンジアーミーのみなさんの応援が力になりました。今日の試合、特に前半は自分たちのペースで試合ができず、自分たちにプレッシャーを掛けてしまいました。後半はしっかりと修正し、自分たちの強みを生かして結果につなげることができたと思います」
──後半、どのように修正できたのでしょうか。
「前半は規律の面でペナルティが多かったので、後半はそこを修正しました。自分たちでコントロールできる部分をしっかりコントロールし、強みであるフィジカルを生かして戦うことができ、結果につながったと思います」
三重ホンダヒート

三重ホンダヒート
キアラン・クローリー ヘッドコーチ
「結果にはとても残念に思っています。ハーフタイムまでは戦えていたので残念です。後半はポジティブに入っていこうと思っていました。しかし、後半は13分間で17点を失う時間帯があり、そこは修正が必要だと思っています。選手たちはよく頑張ってくれて、最後の最後に点を取り、ゲームを立て直そうとしていました。しかし、ハーフウェイライン付近のスクラムで2回組み直しになったあと、ペナルティを取られ、S東京ベイが点を取った場面がありました。ポジティブな面も多く、ディフェンスも前節より改善されましたが、個人がラインから飛び出してしまい、苦しい状況を作ってしまいました。この先の2週間は非常に重要ですが、ポジティブな要素も得られました」
三重ホンダヒート
小林亮太ゲームキャプテン
「試合内容の部分で言うと、ヘッドコーチが言ったところが本当に大きいと思います。自分たちチームとしては、相手はフィジカルが強いチームなので、そのフィジカルのところでしっかり戦っていこうと、特に前半はしっかりと体を当てていくことができて、相手は苦労していましたし、3点リードで折り返して良かったと思っています。後半は、前節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦もそうですけど、崩れないことを大きく意識したわけではなかったですが、毎回の瞬間を100%でやるというところにフォーカスした中、失点が続く時間帯ができてしまうというのは課題だと思います。
実行力であったり、クリティカルな瞬間をしっかりと自分たちのものにして、自分たちのゲームにしていくことであったりが大事だと思います。そこができるように、あと2節は僕たちにとって大事だということは分かっているので、しっかりと前を向いて、自分たちのラグビーができる時間帯をしっかり増やして、また次節、みなさんに良いラグビーを見せたいと思います」
──S東京ベイはフィジカルが強いチームですが、戦い方自体はオーソドックスだと思います。戦う上ではどのような難しさがあり、どう対抗しようとしたのか、聞かせてください。
「おっしゃるとおり、本当にシンプルで体が大きく、そのサイズを生かしてしっかりとボールキャリーのところで当たってくるので、僕たちは1対1というより、二人で一人を止めて対抗しようと思っていました。それが前半はできましたし、後半は少し下げられてからのところで押し込まれた部分もありましたが、基本的には止められている機会が多く、そこは次のゲームにつながる収穫になったと思います」