NTTジャパンラグビー リーグワン2025-26
ディビジョン1 第2節(リーグ戦)カンファレンスB
2025年12月20日(土)14:30 フクダ電子アリーナ (千葉県)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs リコーブラックラムズ東京
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1)
2023年5月19日、翌日に国立競技場でのプレーオフトーナメント決勝戦を控えた加藤一希のもとに一本のLINEが届いた。父親からだった。
「明日は頑張れよ。息子に言うことじゃないけど、死んでこい」
別の人物の言葉だったら、また違った感情が湧いていたかもしれない。しかし、自分のことを最もよく知る父親からのメッセージである。「そうか、死んでもいいんだ。それくらい大事な試合だよな」と、それは胸の内に違和感なく届いた。ガチガチに固まっていた加藤の肩から、ふっと力が抜けた──。
厳格な父はかつて、加藤がラグビーを続けることに難色を示していた。その理由を、加藤は今年の結婚披露宴で、父のスピーチをとおして初めて知った。
高校時代、加藤は左顔面の陥没骨折という重傷を負った。スポーツはおろか、生活にも支障をきたしかねない状況。それでも、加藤は絶対に“ラグビー”を手放そうとはしなかった。なぜならば、「ラグビーが好きだから」。
「これを失ったら、自分の中で相当大きなものがなくなるなと思って。どうすればいいんだろうって考えた結果、ラグビーを続ける選択をしました」
中部大学卒業後は宗像サニックスブルースに入団。チームが活動休止となり、選手としての道を閉ざされかけたが、2022年にクボタスピアーズ船橋・東京ベイに加入する。
それは、けがのリスクと常に向き合う競技である。息子が大好きなラグビーに打ち込む姿を前に、“反対することが父の責任”だと考えた。あの重傷を負ったときは、本当に血の気が引いた。本音を言えば、今でもそんな危険なスポーツは続けてほしくはない。でも、その息子も結婚し、支えてくれる妻がいる。自分の役目は全うした──。父はそう、スピーチで語った。
「死んでこい」
それはもちろん、額面どおりの意味ではない。そこには「好きなラグビーで精一杯生き抜け」というメッセージ。そして、そうした生き方を選択した息子を受け入れた、父としての覚悟が込められていたことに加藤は気づいた。
「あの『死んでこい』という言葉に、すごく愛を感じました。僕は本当に、すごくいいチームに拾ってもらったと思っています。『だからこそ恩返しをしなきゃいけないぞ』って、父からもずっと言われてきました。毎試合、死んでもいいくらいの覚悟でやらないといけない。そのくらいの熱量で向き合っています」
今季の開幕戦、加藤はスターターとしてピッチに立った。S東京ベイ入団後、開幕戦での先発出場はこれが初めてだった。続く今節、ホスト開幕戦となるリコーブラックラムズ東京戦でも加藤は1番を背負う。
「またスタートで選んでいただけたことは、素直にうれしいです。開幕戦と同じで、与えられた役割を一つひとつ、しっかり果たしていくだけだと思っています」
試合後に真っ先に「大丈夫か?けがはないか?」とLINEをくれる父は、今ではファンクラブに入会し、試合会場にはオレンジを基調とした出で立ちで応援に駆け付ける、筋金入りの“オレンジアーミー”である。
自分ではない誰かのために、人は生きる。だから加藤は、楕円球で人生を描く。
(藤本かずまさ)



























