2026.03.21[釜石SW]崩れたキャリアと日常。“引退”の先で辿り着いたラグビーの豊かさ

NTTジャパンラグビー リーグワン2025-26
ディビジョン2 第5節
2026年3月22日(日)13:00 柏の葉公園総合競技場 (千葉県)
NECグリーンロケッツ東葛 vs 日本製鉄釜石シーウェイブス

日本製鉄釜石シーウェイブス(D2)

日本製鉄釜石シーウェイブスの山田裕介選手。「ラグビーができること自体が楽しいし、ありがたいと心から思います」

「もうラグビーはできないと思っていました」

トップリーグ・リーグワン通算50キャップに到達した山田裕介は、静かにそう語った。その言葉の裏には、想像を超える時間がある。

10代のころからU20日本代表、さらにジュニア・ジャパンにも選出されるなどキャリアは順調だった。しかし、確かな手ごたえをつかみ始めていた矢先、とある試合で受けた強い衝撃を境に、すべてが変わった。

頭が重い。視界がぼやける。言葉がうまく出てこない。当初は「そのうち治る」と思っていた。だが、状態は戻らなかった。

「普通に生活するのもしんどくなりました」

症状は日常を侵食していった。体を起こしているだけで強い頭痛に襲われ、外に出ることも難しくなり、やがて仕事にも行けなくなった。朝になるたびに体調不良を会社に伝え、欠勤する日々が続く。

「何が起きているのか、自分でも分からなかった」

数え切れないほどの病院を回った。それでも原因は分からない。周囲に説明しようとしても、うまく言葉にできない。理解されない感覚だけが積み重なっていった。

「誰にも分かってもらえない感覚が、一番キツかったです」

心も限界に近づいていた。やがて、うつ病と診断される。

ラグビーどころではない。生活そのものが崩れていった。それでも答えは見つからなかった。ようやく診断が下ったのが、当時まだ症例も少なかった脳脊髄液減少症。だがそのころには、すでにすべてを失いかけていた。

そして、引退を決断する。

「大好きだったラグビーから『離れたい』とすら感じていましたし、何より普通に生活できるようになりたかった」

孤独、焦燥、虚無感。あらゆる負の感情に襲われつつあった彼をつなぎ止めたのが御所実業高等学校時代の恩師・竹田寛行監督だ。

「ずっと気に掛けてくれていました。一人でも理解してくれる人がいるって、本当に大きくて。どん底の状況でしたけど、竹田監督に話せたところから『もう少しがんばってみよう』って思えるようになりました」

少しずつ回復していく中で、心にも変化が生まれていく。

もう一度やりたい──。

だが、その思いは簡単には前に進まなかった。再び壊れてしまうかもしれないという不安が、消えることはなかった。それでも、抑え切れなかった。

「やっぱりラグビーが好きなんだと気づいたんです」

発症から1年余り。自ら連絡を取り、再びグラウンドへ。シーズン中、ただ一人のために行われた入団テスト。以前のような力強さは戻り切っていない。それでも、もてるすべてを出し切り、再びチームの一員になった。

一度すべてを失いかけたからこそ分かる。当たり前にプレーできることの価値。仲間と同じ時間を過ごせることの意味。

「ラグビーができること自体が楽しいし、ありがたいと心から思います」

師、同僚、チームメート。多くの人に支えられて積み上げてきた時間。完全に回復し、辿り着いた50キャップ。その裏には言葉では語り切れない時間がある。

キャリアも、日常も、一度は崩れた。しかし、だからこそ見える景色がある。人とつながることの強さも、ラグビーがもたらす豊かさも、そのすべてを知っている。

もう、迷わない。

(髙橋拓磨)

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