NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(交流戦) 第11節
2023年3月12日(日)14:30 相模原ギオンスタジアム (神奈川県)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 21-41 横浜キヤノンイーグルス
強風対策で出た経験の差
横浜Eが上回ったのは“遂行力”
三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)のホストスタジアムで行われたNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 初の“神奈川ダービー”は、横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)に軍配が上がった。
ハイパントが押し戻されるほどの強風の中、試合は前後半でまったく違う様相を見せた。
前半は風上の相模原DBのペース。序盤、横浜Eにスクラムで圧力を掛けられてターンオーバーを許すも、リンディ 真ダニエルの強烈なタックルを機に逆襲の狼煙を上げる。
相模原DBの公式戦では過去2番目に多い入場者数。マスクを着用しての声出し応援解禁後、初めての相模原ギオンスタジアムでのファンの声援も追い風に、相模原DBが3つのトライで21対5とリードして試合を折り返す。
しかし、この劣勢に横浜Eは慌てなかった。「風下の展開は覚悟していました。点差も少なかったので、挽回して自分たちの底力を見せようと意気込んで後半に向かいました」(ファフ・デクラーク)。
後半、横浜Eは5つのトライを奪うとともに相模原DBを零封し、ボーナスポイントも獲得した。ファフ・デクラークは「田村優と二人でキックを使って敵陣に入れましたし、エリアマネジメントもできました。キックしたあとに残り全員がしっかりチェイスし、プレスして、そこで相手を崩していくことがチーム力としてできました」と勝因を振り返る。
強風対策で経験の差が出た。横浜Eの梶村祐介キャプテンが「最近、前半に風下でプレーすることが続いていたので、焦りなどはあまりありませんでした」と口にする一方、相模原DBの岩村昂太キャプテンは「(強風に)僕らはアジャストしなければいけなかったですが、イグジットなどでうまくできなかったところがありました」と反省する。
しかし、「後半の失点の半分は風の影響、もう半分は自分たちのミスが原因」と相模原DBのマット・トゥームアが認めるように、勝敗を分けたのは風だけの理由ではない。相模原DBの1点ビハインドで迎えた後半20分、横浜Eがペナルティを冒した場面で相模原DBはショットではなくタッチキックを選択。敵陣22メートル内に入ったが、マイボールラインアウトを奪われた。
「このチャンスに得点できていたら、違う試合になっていた」(マット・トゥームア)
相模原DBのハーフ団は遂行力が足りなかったと口にする。その理由について、マット・トゥームアは少し考えたのち、「自分たちもラインアウトモールがうまくいっていましたが、相手も粘り強い守備をしましたし、ブレイクダウンでもすごくプレッシャーを掛けられました。遂行力が足りなかった一つの要因として、前半と比べると後半はブレイクダウンの質が落ちていたと思います」と口にした。
相模原DBの出はなをくじく、横浜Eの試合巧者ぶりも光った。「分析をした上で、オプションが豊富でない相手ランナーにボールが入ったところで、自分がその唯一のオプションを消しにいくということを意識しています。同じようなディフェンスのマインドセットでやっているジェシー・クリエルが内か外にいてくれたときには、自分としても飛び出してディフェンスしやすい」(ファフ・デクラーク)。
スクラムでも、成功率リーグ1位の横浜Eに対して後手に回った。相模原DBの細田隼都は「レフリングもありましたが、総じて、僕たちのいい形で組めませんでした。何が悪かったのか、試合の中で解決できずに苦しい状況を作ってしまいました。次の試合では、フロントローでコミュニケーションを取って、試合をしながらの対応を突き詰めていきたい」と話す。
負けはしたものの、前半の戦いは自信になるはずだ。そして新たな課題の発見もある。この学びは次の練習に生かされ、相模原DBは力をつけていく。
(宮本隆介)
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「前半と後半でまったく違う試合でした。風が大きく影響した試合だと思います。自分たちは前半、風をうまく使えて、横浜キヤノンイーグルスもまた後半、風をうまく使うことができたと思います」
──後半、風下だった部分で、逆転された原因は?
「まずは『神奈川ダービー』で大勢のファンのみなさんの前でプレーできたことをうれしく思います。選手たちもやりがいのある試合だったと思います。ファンの方々も素晴らしい試合を観ることができたと思うので、それはとてもうれしく思います。こういうハイレベルなラグビーをすればみなさんが来てくださることを証明できたと思うので、このようなチャンスをもっと多く作りたいと思います。
質問に戻ると、こんなに強い風の中の風下でどう対応するのかという学びが必要だったと思います。すぐに相手の陣地を取れるチャンスが何回かあったにもかかわらず、モノにできなかった。モールで相手を必死に止めて、自分たちが1回トライを取れたら流れが来ると思うときにも、なかなか取り切れなかった。そうしたことが大きかったかなと思います」
──後半のチームの遂行力の部分では、グレン・ディレーニー ヘッドコーチはかなり厳しい見方をされるのではないかと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
「バックフィールドやミスのところで改善しないといけないところはありますが、80分を通して見えたのは、みんなのハードワーク、そして必死に相手を止めようとする姿です。それが見えたのはうれしかったです。ディビジョン1に上がってどうやって上位チームに勝つのかをまだ学んでいるところなので、こういうタイトな試合からどのように次にいくのか。この旅の道のりには良いときも悪いときも両方あると思いますが、そこでどう学べるかが大事だと思います。前半のプレーを見て、私も誇りに思いました。自分たちのやりたいことができた前半だったと思うので、それをうれしく思います。今日、佐藤弘樹選手、坂本侑翼選手を出した理由も、相手のビッグキャリーを止めたいという思いがありました。それはうまくできたと思います。後半は、いま言ったように学ばなければならないところがあります。すなわち、どうやって試合の流れをコントロールするのか、どうやって自分たちが有利な立場に立つのか。毎週、こういう強いチームに対してどのように(流れを)断ち切るのかというところを学んでいって、経験を次につなげられるようにしたいと思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「まずは、『神奈川ダービー』ということで、たくさんのファンのみなさんの前でプレーできたことをうれしく思います。試合内容に関しては、強いチームに対して、チャンスのところでしっかり取り切るということが、われわれ三菱重工相模原ダイナボアーズにとって大切だと学びました。後半、チャンスがあったものの取り切れなかったところで流れをつかみ切れなかったので、そこは反省点、僕らの改善点として、これからまた成長していきたいと思います」
──後半、風下だった部分で、逆転された原因は?
「グレン・ディレーニー ヘッドコーチが言ったことにプラスして、風下なのに、簡単なペナルティでさらに自陣に入られてしまった、自陣から抜け出せなかったところがあったので、そこはディシプリン(規律)をもう一度見直していかなければいけないなと感じました。後半の原因はそこにあると思います」
──ピッチに立つ選手の体感として、前半から後半に変わったときに、「気象状況はかなり厳しいな」とか、「アジャストするのに時間がかかるな」とか、そういうことはありましたか?
「本当に風が強かったです。そこに僕らはアジャストしなければいけなかったのですが、バックスリーのところだったりイグジットのところがうまくできなかったところがありました」
──トライを取られたあとのキックオフは、基本的に再獲得するのを前提で短いボールを蹴ったのでしょうか?
「はい。試合前からそういうプランでいこうという話をしていて、遂行しました」
──後半18分くらいのところで、相手のコラプシング(スクラムやモールを故意に崩す反則)で、ショットを狙えそうな角度だったと思いますが、トライを取りにいこうとした理由は。
「モールでこちらが優位に立てていたところもありますし、試合の状況を見て(の判断)です。また、風が強かったこともあるので、われわれのうまくいっているところをしっかり使おうということで、モールでいきました」
──結果的にスコアが取れなかったというところで、どうすれば取れたか、振り返って思うことはありますか?
「実行力の部分だと思います。そこは映像をみて、何がダメだったのか、どうすればいいアタックができたのかをしっかりレビューして、改善していきたいと思います」
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「前半は風下で、思っていたよりも風が強くて、選手たちはリズムが違う、われわれのプレーではないことをやってしまいました。ああいう展開になると相手が勢いづいてくる。チームが成長したなと思うところは、後半はしっかりと自分たちがコントロールして、自分たちのスタイルのラグビーに戻せたところです。前半のゴタゴタを、前半の間に直せるぐらいの修正力を今後、身につけないとトップ4と戦うときには命取りになると思います。まずそこでチームとして成長していかないといけないし、経験の少ない選手もたくさんいます。経験のなさもそこにつながっていると思うので、今日は本当にいい経験だったと思います」
──ハーフタイムで選手たちが戻ってきたとき、どんなことをおっしゃったのでしょうか?
「怒らず、普通に何が原因でこうなっているのかというのを冷静に見て、できている選手とできていない選手がいたので、前半はもう過ぎたことなので忘れて、後半はどういうふうにして戦うか、どういうマインドセットをしなければならないかを伝えただけです。最初から後半のようなスマートなラグビーをしないと。フィジカルやメンタルも含めて、一貫性がまだ足りないので、埋めていかないといけないと思います」
──前回の静岡ブルーレヴズ戦を受けて、どんな一週間を過ごされたのでしょうか?
「前回はレフリングが合わなくて、それで選手たちが自分たちで崩れていってしまったと思います。それも含めてメンタルの一貫性が必要なので、一喜一憂しないで、しっかり一貫性のあるメンタルをもって対応していくことが大事だと思います」
──ボーナスポイントを獲得して3位に浮上したことをどう受け止めていらっしゃいますか。また、残り5試合となりました。昨季は最後のほうで少し負けてしまって、結果的にプレーオフに進めなかったのですが、1年経ってチームは成長していると思います。プレーオフへの手応えを教えてください。
「僕らは1試合1試合しっかり全力で戦って、1試合1試合成長していくことが、最終的にトップ4に入れるか入れないか、その結果に直結すると思うので、目の前の試合を大事に戦います。ただ、現状、3位という位置にいる力を持っているというのを、われわれも慢心ではないですが、自信にしなければいけない部分はあります。周りのファンの方々やメディアのみなさんに、『横浜キヤノンイーグルスって力があるな』と思わせなければならない部分もある。とはいえ、まだまだどん欲にチームとしてレベルアップしていかないと、最終的にわれわれのターゲットにしている位置には行けないと思うので、チーム全員で成長していけたらなと思います」
──3位であることが自信にはなっているということですか?
「それはそうですね。3位に入ってこられるくらいの戦いをしていないと、入ってこられないから。ただ、次が大事だと思うので、気を引き締めて戦いたいと思います」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
「沢木敬介監督が言ったように、前半40分のプレー選択で自分たちの現状の弱さが出てしまいました。後半、ある程度、点差がビハインドの中でしっかりボーナスポイントまで取りにいくことができたのはチームの成長を感じましたし、勝って反省して次に向かえるのは、今までの横浜キヤノンイーグルスにはあまりなくて、そういう意味では自信のつくゲームだったと思います。ただ、前半の過ごし方はチームとしてもっと反省すべきだと思いますし、自分たちはもっと上を目指しているので、どこと戦ってもやっていけるパフォーマンスをしっかりと自分たちで準備して臨んでいきたいと思います」
──前半、風下を選んだのはどういう経緯ですか?
「自分がコイントスに勝てませんでした」
──クラブとしては、風上を取って最初からリードしたかった?
「そうですね。できれば風上を取りたかったですが、最近、前半風下でプレーすることが続いていたので、そういう意味では、そこに対しての焦りなどはあまりありませんでした。ただ、風下の中でのプレー選択は今日、良くなかったかなと感じています」
──コイントスをしてから1時間ぐらいで、自分たちが組み立てたものの修正をどういうふうに共有したのですか?
「基本的には9番、10番の選手がコントロールするので、そこの選手としっかり話して、ある程度ボールを持とうという話はしていたのですが、それ以外のところで選手が少しパニックになってしまって、簡単に相手にボールを与えてしまったり、ペナルティを犯してしまったり、自分たちから相手に流れを渡してしまった。そういうプランニングのところはしっかり選手と話せていたので、問題なかったと思います」
──沢木敬介監督から、次の試合が大事である、残り1試合1試合全力で戦うというお話がありました。次の試合に向けては?
「ショートウィークで準備する期間も少し短くなるので、その中でしっかりと週明けから全員でいいスタートを切りたいと思います。クボタスピアーズ船橋・東京ベイさんに対してフィジカルのところでしっかり勝っていかないとゲームを進めていけないと思います。第2節では引き分けで終わっています。次の試合はしっかり勝ち切れるように、チーム全員で準備していきたいと思います」
──ピッチ上の選手たちは、勝ち点5を意識したのでしょうか?
「意識はしていました。スコアがビハインドのときは、『まずはスコアをしっかり積み重ねていこう」という話をしたのですが、少し点差が開いてからは、ハドルで『もう1個取りにいこう』と話して、しっかり意識していました」
──残り5試合、チームとしてどうしていきたいか、お考えをお聞かせください。
「昨季はこのくらいの時期からチームが少しまとまりを欠いて、実際にトップ4をつかめなかったので、チームとしてはここからまとまって、試合に出ているメンバーも、出ていないメンバーも、同じターゲットに向かって進んでいくことが大事。ピッチに立っている15人だけではなくて、チーム全員で試合に向けて準備していくことが重要だと思っています」