NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン3 第10節
2023年3月12日(日)14:30 神戸総合運動公園ユニバー記念競技場 (兵庫県)
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪 43-26 クリタウォーターガッシュ昭島
チームのことを考え、つかんだファーストキャップ。
その思いは次の“ファーストキャップ”選手へ
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)は、第5節で勝ち点1しか取れなかったクリタウォーターガッシュ昭島に借りを返し、43対26で勝ち点5を積み重ねた。
RH大阪は後半36分、フッカーの選手を入れ替えた。スタートから出場していた島田久満と交代で入ったのは、坂本洋道。スタジアムの大型ビジョンと場内アナウンスで、坂本がファーストキャップであることが知らされると、スタンドからは温かい、大きな拍手が送られた。
アナウンスが流れたときには、すでにスクラムを組む準備をしていた坂本。グラウンドに入ったときのことをこう振り返っている。
「しっかり練習して対策も立てていたので、変に緊張せずにゲームに入れたと思います。緊張よりも、やっと公式戦に出場できる喜びのほうが強かった。アナウンスや拍手も聞こえていたので、『ここまでがんばってこられてよかった』と感じ、うれしかった」
坂本は、2020年に加入し、今季が3年目。1年目と2年目は、公式戦への出場機会を得ることができず、「悔しかった。自分が試合に出ないと本当に心から楽しいとは思えないし、チームのことより自分のことを考えてしまっていた」時期もあったという。
けれど、「やっぱり試合に出られない選手には、出られない選手の役割がある」と考えをあらためた。
「ラグビーが好きでも、続けられない人もいる。でも、自分はRH大阪の素晴らしい環境でラグビーをさせてもらっている。お世話になっている方もたくさんいる。そう考えたら、試合に出られないからと腐っている場合ではない。試合に出場する選手のために対戦相手の分析をしてトレーニングを行えば、出場メンバーが試合に勝ってくれる」
そうして自分のことだけでなく、チームのことを考えて前向きにトレーニングに取り組んできた結果、3年目にして念願のファーストキャップを獲得した。
もちろんこのファーストキャップは、「スタートライン」だ。
「2キャップ目、3キャップ目はあまり意識せず、チームの一人のフッカーの選手として役割を果たします。また、自分と同じように、まだファーストキャップを取れていない選手もいる。RH大阪の選手としてスポットライトが当たらないけれど出場メンバーのためにトレーニングしている気持ちが分かるぶん、そういう選手の背中を押したい。そのためにも、自分がもっと余裕を持てるよう、もっと経験を重ねていきたい」
ここまでのRH大阪の戦績は、試合に出場しない選手たちが出場メンバーを支えてきたからこそ。今季もリーグ戦は残すところ、あと4試合。ここまでの坂本と同じように公式戦には出ていなくてもチームを支えている選手たちも含め、RH大阪は、チーム全員でシーズン前に掲げた目標を勝ち取りに行く。
(前田カオリ)
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
マット・コベイン ヘッドコーチ
「試合結果に関しては、うれしく思います。クリタウォーターガッシュ昭島(以下、WG昭島)さんと前回試合をした際には負けていたので、もう一回、チームとして立て直し、今回の対戦では必ず、結果を残すことにこだわってやってきました。最終的にその結果が得られたのは、本当に良かったです。ゲームに関しては、前半は良かったと思います。セットピースのところでも点につなげることができました。しかし、後半は少し勢いがなくなってしまいました。WG昭島さんが良い判断をし、私たちのディフェンスのところをうまく狙ってきたと感じました。終盤は、もう一度勢いを取り戻すことができたので、良い形で試合を終えられました」
──後半に勢いを保てなかったことは、どういう部分に課題があるのでしょうか?
「試合映像を見直さないといけないと思っているので、いま『これが問題だった』と断言できませんが、やはり継続して規律面は意識しないといけません。また、ここ数週間ずっと言い続けていた『ベーシックを大切にしよう』ということも大切です。それぞれが自分に与えられた仕事をやり切る。例えば、タックルをしにいったのであれば、最後までやり切るなど、それらのことは継続して意識するべきだと考えています」
──これまでの戦績は、試合に出るメンバー以外の選手たちの頑張りもあるのではないでしょうか?
「このディビジョン3で優勝するためには、15人、23人だけでは達成することができません。チーム全員が貢献することによって達成できるものです。例えば、今回の試合では坂本洋道選手がファーストキャップを取れました。これは本当にうれしいことですし、本人の目標でもあったと思います。チャンスをつかむことができる選手は、やはり練習の中でディティールをちゃんとできている選手です。風邪を引いたり、けがをしたり、いつどこで何が起こるかわからないので、選手一人ひとり、チーム全員がディティールをちゃんとわかった状態で、その穴を埋め、仕事をやり切ることができる形であってほしいと思っています」
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
杉下暢キャプテン
「本当にタフなゲームだったと感じています。その中でも勝ち点5を獲得できたのは、チームとして成長したところだと感じています。前半は、入りはあまり良くなかったですが、良い形で終えることができました。後半の始めも良いプレーができていたものの、どこかでクリタウォーターガッシュ昭島さんに流れが行くタイミングがあるなと想定していたとおり、その流れが来ました。その流れを止めることができず、ズルズルと前回の対戦と同じような展開で、わずかな点差まで迫られてしまう時間がありました。そこは反省するべきところです。ただ、前回の試合は相手に勢いを持たれたとき、セットピースも崩れてしまって逆転されてしまいましたが、今回はスクラムとモールにはこちらに優位性がありました。チャンスがあれば、そこでどんどんプレッシャーを掛けてエリアを取って得点に結びつけようという話をして、それを有言実行することができました。それがこの結果につながったのかなと感じています」
──押される時間帯もあったが、落ち着いて試合を運んでいました。
「ディフェンスに回る時間が長くなることは、試合前から認識していました。しかし、相手のアタックの時間が長くなったとしても、どこかで必ずミスも起こるはず。ターンオーバーのチャンスは絶対に出てくると思っていました。チャンスがあればしっかりそこでプレッシャーを掛けてマイボールにし、そこから点を取りに行けば問題ない、という話をチーム内でしていました。チャンスを逃さずにパエア ミフィポセチ選手が良い判断でジャッカルをして、そこからスコアにつなげるシーンもありました。全員がしっかり共通認識を持っていたので、それが落ち着きにつながったのかと思います」
──今回の試合では、坂本洋道選手がファーストキャップになりました。
「シーズンは12試合と非常に長いので、常に同じプレーヤーで戦うのは不可能なこと。けがやコンディショニング不良も出てきます。自分にチャンスが回ってきたときのために、しっかり準備しておくよう、常日頃から全選手に伝えていました。今回は、坂本選手がそういう形でチャンスをつかみました。公式戦の中でしか得られない経験というのは絶対にあると思いますので、今日は5分間でしたけれども、学びは多かったと思います。それを今後に生かして、よりステップアップしていってほしいと思います」
クリタウォーターガッシュ昭島
クリタウォーターガッシュ昭島
ワイクリフ・パールー ヘッドコーチ
「観戦するという意味では、とても楽しい試合でした。選手たちを誇りに思っています。最後の10分で勝てるようなところまでもってこられたのも、良かったと感じています。もしかしたら最後は、少しイライラしたようなところもあったかもしれません。レフリーのコールで向こうが有利になるようなことも何かあったかもしれないと感じています。自分たちでもやっぱりミスが多く、今日は私たちの練習している方向で試合に持ってくいくことがとても難しい展開になりました。フラストレーションの溜まる試合でもありました」
──今日表現しきれなかったのは、どういう部分だったのでしょうか?
「特に最後の部分は、自分たちでコントロールできた部分がありましたが、キックチェイスでの横との連係で相手に取られてしまいました。勢いに乗り切れないところに加え、さらにレフリーのコールでも少し理解できないこともありました。両方のチームに対し、平等のコールをしていただければ良いのですが、今日は正直に言うとそうではなかったのではないかと感じています」
──敗れはしましたが、クリタウォーターガッシュ昭島らしさを出せた時間帯もあったのではないでしょうか?
「パスなど、練習どおりに行えている部分も多くありました。マインドセットのところでゲームに戻ることも理解できていました。今日できなかったのは、ゲームをコントロールすること。100%の努力をしてくれた選手を称えます」
クリタウォーターガッシュ昭島
石井洋介キャプテン
「まずは素晴らしい環境で試合をさせてもらい、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪さん、ありがとうございます。試合の総括としましては、自分たちの流れになりそうなタイミングで、自分たちがやってきたこと、やりたいことができずに自分たちのミスで流れに乗り切れなかったところが、最後に点差を詰められなかった要因だと感じています」
──二度のシンビンがあったが、グラウンド内ではいつもと違うような様子はあったのでしょうか?
「別にいつもと違うような感じはなかったです。ただ、自分たちが相手のアタックを受けているタイミングで二度のシンビンがあったのは、選手それぞれの中で少し、焦りはあったのかもしれません」
──今回の試合結果を受け、リーグ戦終盤に向け、どうしていきたいでしょうか?
「今回の対戦では、自分たちが組みたいスクラムは相手のプレッシャーを受けてしまってできませんでした。そこは、結果をこのようにしてしまった要因だったと思うので、修正していきたいと考えています。また、これまでのリーグ戦で、自分たちの強みも明確にすることができたと思いますので、今後の試合では、まず強みを出せるようなゲームにすることが大切です」