NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第12節 カンファレンスA
2023年3月19日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 29-61 埼玉パナソニックワイルドナイツ
選手たちの心に火を着けたハーフタイムの檄。
王者を上回った後半の戦いにあった若手の奮闘
春の陽気に包まれた秩父宮ラグビー場で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 第12節。埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)が三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)に5トライ差をつけて勝利した。
一見、今季も盤石の強さを発揮している埼玉WKの“順当勝ち”だが、試合後半は相模原DBが21対12と得点で上回った。試合終盤で底力を見せつけてきた埼玉WKに対するこの結果は、“グッドルーザー”と言えるだろう。実際、試合後の埼玉WKのファンからは自チームと同じくらい大きな拍手が相模原DBに送られた。
ディフェンスの連動性を欠き、前半だけで前回対戦以上の失点を重ねた相模原DBが後半に立て直せた理由は、ハーフタイムのグレン・ディレーニー ヘッドコーチによる“檄”だったという。具体的な内容は明かされなかったが、選手の心に火を着けたことは間違いない。「ヘッドコーチの言葉で、自分たちのラグビーを取り戻そうというマインドに切り替わった」(佐藤弘樹)。
相模原DBはこの試合、これまで出場機会がない、あるいは少ない選手「ターボス」にチャンスが与えられた。後半はティモテ・タヴァレアとアーリーエントリーの中森隆太(立正大学)が初出場。
ティモテ・タヴァレアはジャッカルや、ブレイクダウンからの素早いピックで独走トライを奪う活躍。「フィールドに立つ価値があるということを見せなければいけないと考えています。チームとして後半、それを見せることができたと思うので、それを来週につなげられるように頑張りたいです」と今後の抱負を口にした。
中森もスクラムハーフとして残り5分の短い出場時間で、パスだけでなくランでも存在感を見せ、ゴールライン際の攻防を制す。「ラックサイドは常に狙っていて、スペースが空いたときに自分で行きました。トライを取り切れず、リーグワンのレベルはすごいと感じつつ、やれるなという自信はつきました」と胸を張る。
岩村昂太キャプテンに代わってスクラムハーフで初先発したルーキーの柴田凌光は、チームが劣勢の前半から埼玉WKのプレッシャーをいなすかのような落ち着いたプレーを見せる。スクラムに自信を持っていたであろう埼玉WKの裏をかくパスで数的優位を作って、奈良望がこの試合、相模原DB最初のトライを決める。「前のスクラムで同じような局面があったので狙っていました」と柴田。「若手がパワーを出さないと、上の人たちもこれから戦っていけないと思います。試合に出るからにはしっかりと役割を果たして、チームを盛り上げていきたいです」と頼もしい。
一方、埼玉WKも柴田と同じ23歳の福井翔大が初めてゲームキャプテンを務めた。「緊張しかなかった」という福井に対し、埼玉WKのロビー・ディーンズ監督は「選手としてはもちろん、これからはリーダーとして未来の選手たちをドライブしていく人になってもらいたい」と期待を寄せる。
グレン・ディレーニー ヘッドコーチも「約150年前に岩崎弥太郎氏が創業した三菱のバリューを使いながら、若い日本人をコアにしたチームを作り、成長させていきたい」と若手の育成に言及。
今年はラグビーのワールドカップイヤー。そして次回大会の2027年へ、若い選手たちが力をつけていく様にも注目だ。
(宮本隆介)
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「また前半と後半がまったく違う試合になりました。前半はチームの15人が試合に参加せずに見ていたような感じがしました。後半は自分たちのキャラクター、自分たちがずっと作り上げようとしてきたことがしっかり見えたと思います。後半のスタートでみんなが反応してくれたところがすごくよかった。前半は、自分たちのやりたいことがまったくできませんでした」
──今日、メンバー外選手の三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)での呼称である「ターボス」の選手も出たのですが、チームの厚みを増すためには、今日はどういう試合だったのでしょうか。ポジティブなところはありますか?
「スコッドをこの一年をとおして使わないといけないシーズンになると分かっていましたし、体を痛めて今節は休ませなければならない選手も何人かいました。鶴谷昌隆選手も長い間ずっとプレーしていたので、ハーフタイムでティモテ・タヴァレア選手と交代することはもともと考えていたことでした。ティム(ティモテ・タヴァレア)もいいパフォーマンスをしたと思います。コーチたちは、選手たちは何ができるのかを見なければなりません。ディビジョン1にいて学べることは毎週たくさんあります。いい学び、楽しい学びも、厳しい学びもあります。前半は厳しい学びを得たと思います。後半はいいところもありました。手を挙げた選手もキャラクターを見せてくれた選手もいました。自分もどのような結果でも、どんな日でもどんな学びがあるのかを見たいと思っています。今節はいろいろな学びが見えたと思います」
──ハーフタイムに、選手にどのようなことを伝えましたか。
「具体的には言いませんが、フォーカスを戻しました。自分たちが後半、何をしなければいけないのかを話して、そこで選手たちがまた集中できるようにしました。フォーカスさせる方法はいろいろあります。そのうちの一つの技を使いました。今日はいい方法を見つけられたと思います」
──ティモテ・タヴァレア選手と中森隆太選手のプレーはそれぞれどうでしたか?
「中森隆太選手は5分だけでしたが、初めてジャージーを着るチャンスでした。チームに入って努力を見せて、チャンスを自分でつかみ取りました。ティモテ・タヴァレア選手は後半、いい影響をたくさん与え、最後のトライでも自分のアスリートとしてのいいところ、フィジカルや負けず嫌いなところを見せられたと思います。長い間試合に出られなかった中で、チャンスがきたときにつかめたと思います」
──いいときの相模原DBはディフェンスもしっかりしていますが、今日の、特に前半を見ると結構ギャップがありました。メンバーのコンビネーションか、何かほかに、例えば相手が埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)だったなどの理由があるのでしょうか?
「自分もびっくりしました。自分たちがいつも見せているディフェンスではなかったと思います。ディフェンスで一番大事なのは、自分たちの役割が明確で、自分が両サイドとコミュニケーションをとって、ノミネーション(どの相手を見張っているのか)を話すことだと思います。この大きな舞台でプレッシャーが掛かる中、内向きになり、周りと話さずに個人でディフェンスをしていたところがあったと思います。自分たちのディフェンスで特に大事なのは、組織でディフェンスをすることです。一人で行くのではなくて、みんなで行くことができなかったことで、こういう結果になったと思います。とはいえ、自分たちのアグレッシブなディフェンス、ターンオーバーが取れるディフェンスも部分的には見えたと思います。この1週間をとおしての練習で、こういうパフォーマンスを出すような練習をしたわけではないと思いますが、大きい舞台でプレッシャーに負けた選手も何人かいたと思います」
──前半、タックルミスが非常に目立ったのですが、バックスラインがかなり気負って早く出る人と遅く出る人がいてギャップができたのかなという感じがしました。そのあたりについていかがでしょうか?
「おっしゃるとおりです。さきほども言ったとおり、コネクションのところでコミュニケーションがなかった。コネクションがないぶん、一人が上がって、そこにスピードの差ができていたと思います。そうならないよう今週、練習します」
──相手の埼玉WKとは1月7日の第3節にも対戦しています。今回は相手が稲垣啓太選手らを温存するかたちでやってきて、3トライ以上差をつけられてしまいました。埼玉WKの強さはどこにあるのか。今季全勝中のいまの埼玉WKには、どういうことをすれば勝てると思うか、ご意見をお聞かせください。
「埼玉WKは素晴らしいチームです。一番の強みは選手の層の厚さだと思います。誰が試合に出てもいいパフォーマンスを出せるところはロビー・ディーンズ監督をはじめ、スタッフの方々が作り上げてきた組織が素晴らしいからだと思います。ロビー・ディーンズ監督とは同じ地元で、クルセイダーズでやったことを自分の目で見ています。それを埼玉WKでも同じことができています。新たに高いレベルの若い日本人選手がどんどん入ってきて層を厚くしています。そこは自分たちも今後やっていきたいことですが、埼玉WKも自分たちのやり方があり、相模原DBも自分たちの会社のやり方があります。三菱は約150年前に岩崎弥太郎氏が創業し、自らのバリューを作り上げてきました。相模原DBも三菱にあるバリューを使いながら、若い日本人をコアにしたチームを作り、成長させていきたいと思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
鶴谷昌隆バイスキャプテン
「前半は自分たちの仕事がしっかりできなかった。相手にフォーカスしていた部分があって、自分たちの仕事ができないように自分たちを追い詰めていたと思います。自分たちのラグビーにしっかり集中することが三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)の戦い方だと思います。後半に入ってから、自分たちの仕事に対して、一人ひとりがしっかり役割を果たした部分が結果につながっていると思っています」
──悔しそうに見えます。どういうところが「もう少しできたのではないか」と思う点ですか?
「前半、相模原DBの強みであるディフェンスで一人ひとりの仕事ができなかったところを私の中で悔しく感じています」
──そういうことについて試合の途中で周りに声掛けをしていたのですか?
「次に何をするかというフォーカスポイントは円陣の中で都度、話してはいましたけれど、自分のゲームキャプテンとしての、流れを変えるというところができなかったことに対して、自分自身に残念な気持ちがあります」
──ハーフタイムにグレン・ディレーニー ヘッドコーチから何を言われましたか?
「『しっかり自分たちの仕事にフォーカスしよう』ということです」
──今節の結果で10位になった受け止めと、次節の勝ち点1差の静岡ブルーレヴズとの対戦に向けて。
「ディビジョン1に上がったファーストシーズンなので、自分たちにできることをまずやることが大事だと思います。相手や自分たちの順位はあまり考えずに、一戦一戦、自分たちのラグビーをやるために、しっかり準備して戦っていきたいと思います」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督
「結果に満足しています。勝つためにここに来て、勝ち取れたことは本当によかったと感じています。前半はいいスタートを切れたと思いました。これから対戦する相手は必死で私たちに立ち向かってくるであろうけれども、それをさせないためにスタートからいい切り返しができたと思います。後半にかけて三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)さんが勢いづいてくるのは分かっていました。そこで決して点数を逆転させることはなかったのがよかったと思います。それは自分たちの力であって、前半のようにうまくいかなかったところもありますが、結果的に点数が動かなかったのでよかったと感じています。今節は6連戦の5戦目でいろいろな選手を使ってチームをマネジメントしなければいけないと考えていましたし、そのために何人か新たに起用させていただきました。次節はフィジカルなトヨタヴェルブリッツ戦です。相手が必死に来るのはもちろんですが、それに向けて準備していきたいと思います。中でも、フロントローの選手、ダニエル・ペレズ選手、島根一磨選手が素晴らしい試合をしてくれたことをうれしく感じています。また、マーク・アボット選手やヴァル アサエリ愛選手、そしてマリカ・コロインベテ選手は子どもが生まれてから復帰戦になったのですが、彼らがラグビーをする時間ができたということは、とてもよかったと感じています。さらに、新しい自分たちのキャプテン、福井翔大選手がいい仕事をしてくれたと感じています」
──福井選手にゲームキャプテンを任せることにした経緯と、実際に見ての評価はいかがでしょうか?
「私にとっては簡単な選択でした。福井選手自身、チームからリスペクトを勝ち取っているので、この試合はいいスタートを切れたのではないかと感じています。視野が広がるようになったと思いますし、チームを試合に向けて準備させるという部分においてどれだけ苦労するのかを学んでくれたと思います。選手としてはもちろん、これからはリーダーとして未来の選手たちをドライブしていく人になっていってもらいたいと望んでいます。選手として自分がやるべきことをやるということはあるのですが、リーダー、キャプテンとしてみんなの目が自分に向いてくる場面に向き合ったときに、どれだけ準備をして試合の場で結果を出せるかが問われると思います。そういう意味で今節はいい機会だったと思います。リーダーとしていいキャラクターをもっているとともに、いい先輩方がいるので、それを見習っていっていただきたいと思います。リスペクトを得ていることはもちろんですが、福井選手の正直なところはリーダーに必要な素質だと感じています。先ほど『緊張した』と言っていましたが、本当に緊張していたと感じています。それが一人の選手から一人のリーダーになる違いです。特にワールドクラスの選手たちがそろっているチームをリードすることは恐怖にも感じると思うのですが、それを正直に言える彼は素質があると感じています。キャプテンとしてやっていく中で、うまくいっているときは特に何も話す必要はないと思うのですが、例えば今節の後半のようにうまくいかなくなったときが自分の求められるときです。誰に話を持っていくか、どういう話をするかを迷わされたことは、今日得られた教訓だと考えています。それが成長する一つの糧になってほしいと思います」
──今日も松田力也選手がプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれました。松田選手は今日かなりコントロールもよかったと思いますがいかがでしょうか?
「いいパフォーマンスをしてくれたと考えています。100%のキックの成功率で、またチームのいい整備をしてくれて、勝利に導いてくれました。いい波が来ていたというのがあるのですが、彼がその波の一つに貢献してくれたと感じています。その中でも、山沢拓也選手に10番の経験をさせたこともすごくよかったと思っています。山沢選手は2番目の子どもが生まれるため、来週は不在です。ほかにも子どもが生まれる予定の選手もいて、今年は、チーム内で子どもが生まれる年だなと個人的に思っていますが、山沢選手にはチームを離れる前に10番の経験をさせられてよかったと感じています」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
福井翔大ゲームキャプテン
「試合の詳細はロビー・ディーンズ監督の言ったとおりです。後半は相手に勢いがあったし、僕らはいいスタートを切れましたが、新しいコンビネーションもあったりして難しいゲームになるかなとも思っていました。一人ひとりが自分の役割を持ってできた試合だったと思います。僕自身、キャプテンをやらせていただいて、すごくいいチームにいることをあらためて感じました。僕個人ももっとがんばっていきたいなという思いを得た試合でした」
──キャプテンとしていつもと違うようなことをしましたか?
「しなくていいというのは僕の中でも分かっていたし、それこそロビー・ディーンズ監督からメッセージをもらいましたし、『いつもどおりやれ』というのが自分の中でもあったのですが、どこか緊張するところがあったと思います。それだけです」
──自分自身のプレーについては、今までどおり非常に激しく運動量も積極性も出している感じが、最初から戦っているように見えましたが、そういうところは変わらずという感じだったのでしょうか?
「そうですね。それは僕自身も探り中なので、まだ言えないです」
──先ほど、キャプテンをやることによって、あらためてこのチームの素晴らしさを知ったとおっしゃいました。どういう部分でどう感じたのか、もう少し詳しく教えてください。
「これといってキャプテンらしいことを僕がしたわけではないですし、この1週間を通して各アタックリーダー、ディフェンスリーダーらがチームに対してポジティブなことを言ってくれたし、特にキャプテンらしいことはしていないです。チームが完成していたから、すごいチームだなとあらためて思いました」
──自分としては特別何もしていないと?
「ただ緊張していただけです」
──その中で、サテライト的なチームでキャプテンをやられたことはあります。そういうのとは全然違いますか?
「全然違いますね、本当に。まだ言葉でうまく表せないのですが、違いました」
──チーム内のキャラクターはなんとなく分かりますが、先輩のほかのキャプテンから、「キャプテンはこういうふうに」というようなアドバイスはなかったのでしょうか?
「『自分らしくやれよ』と言ってくれて。『なんならしゃべらなくていい』みたいな。そういう感じでしたね」
──でも、緊張はしましたか?
「しましたね」
──緊張はどう解決しましたか?
「してないです。試合でやっていくしかなかったです」
──そのまま試合に臨んだ。
「そうするしかないです」
──楽しめましたか?
「ぼちぼちですね」
──後半うまくいかなかったとき、どういうふうに改善していこうとされたのですか?
「僕らは誰も手を抜くというのはなかったと本当に思いますし、ただ、噛み合わなくて、ペナルティが増えて、そこから行かれた、うまくいかなくなったというのがあったと思います。だからそこを一歩引こうという話をしていました。僕らのベーシックなプレーを、ということは話しました」
──その結果はいかがでしたか?
「最後までうまくいったかと言われると、そんなこともなかったと思うので、そこは僕らがもっと上に上がれるところだと思います」