NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(リーグ戦)第4節 カンファレンスB
2024年1月6日(土)14:30 熊谷スポーツ文化公園ラグビー場 (埼玉県)
埼玉パナソニックワイルドナイツ 43-27 トヨタヴェルブリッツ
“ワイルドナイツ劇場”で大逆転。それを呼び込んだのは松田力也の右足
松田力也の集中力とプライドが、勝利を呼び込んだ。
アーロン・スミスとボーデン・バレットが加入したトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)に対して序盤から劣勢となり、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)のディフェンスは次々に突破されてトライを許し続けた。失点のたびにハドルを組んだが、主導権を奪い返すことができない。
前半40分時点で5対27。3つのトライと3つのコンバージョンでも追い付かない点差に焦りも生まれた。だが、前半42分に松田がペナルティゴールを決めて3点を返し、8対27に点差を縮めて折り返した。
松田は「前半はかなりのプレッシャーを受けたし、僕自身のプレークオリティーも上がらずにチームに迷惑をかけてしまった。前半最後のペナルティゴールは、チームとしてトライを奪いに行きたかった中で、坂手淳史選手が冷静にショットを選択してくれた。結果的にはあの3点が大きかったと思う」と振り返った。
ゲームのポイントは、日本代表の松田とニュージーランド代表のボーデン・バレットのゲームコントロールとキックだった。「(ボーデン・バレットの)目線や多彩なキック、そして精度はさすがだなと思いました。トップレベルの選手とリーグワンでプレーできるのは本当にありがたいことだし、成長の機会になる。真似することはできないが自分らしさを発揮する上でヒントになる」(松田)。
後半、埼玉WKは堀江翔太、クレイグ・ミラーを投入して強度を加えると、一気に反撃に出た。ハーフタイムの修正によってトヨタVの攻撃の芽を摘むと敵陣でゲームを進めてトライを重ねていく。
そして、松田は勇気あるキックで得点を重ねていった。後半25分には小山大輝が同点のトライ、そして松田が逆転のコンバージョンをきっちりと蹴り込み、流れを完全につかんだ。後半は、ボーデン・バレットのキックが風の影響を受ける中で、松田は5本のコンバージョンを決めて勝利に貢献してみせた。
「逆転勝利はチームが一つになった証。前半は難しい展開ながらもみんなが前を向いて自分たちのラグビーを信じ続けることができた。この勝利を次へつなげていきたい」。松田とボーデン・バレットの“戦い”は、松田に軍配が上がった。
埼玉WKは前半に苦しみながらも後半の反撃で43対27の大逆転勝利。“ワイルドナイツ劇場”を演出したチームは勝ち点とともに確固たる自信をつかんだ。
(伊藤寿学)
埼玉パナソニックワイルドナイツ
埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督
「非常に素晴らしいラグビーのゲームを見せることができました。ファンのみなさんの期待に応えられたと思っています。トヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)がプランを立ててきて、それが効果的に機能したと感じています。自分たちは落ち着かない時間が続き、ペナルティから3点を奪われたりしてポイントが離れてしまった。後半は、しっかりと対応することができて、モメンタム(勢い)を奪い返して逆転に導くことができました」
──後半に野口竜司選手を投入して流れが変わった。
「みなさん、ご存じのとおり、野口選手は素晴らしい選手です。前半のゲーム状況と竹山晃暉選手のコンディション面を考慮して交代をしました。けが人がいる中でそのポジションに対応できる選手がいたのはチームの強さ。チーム内に柔軟性があるのは強みだと感じましたし、それが結果につながりました」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン
「試合前に地震被害の黙祷がありましたが、選手としてできることがあると考えていますので埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)、リーグワンとして支援ができればと考えています。
前半は相手のラグビーを受けてしまったと感じています。相手のキック、タックルで受けに回って後手になってしまいました。前半の内容は修正することがたくさんあると感じました。後半は『最初の10分を大事にしよう』と話してハーフタイムに修正をかけていきました。自分たちがここにいる意味とプライド、態度を示そうとゲームに戻りました。選手たちは修正してくれたので称えたいと思います。今後もこういう戦いが続いていくと思いますが、前半のようなラグビーをしていたら足元をすくわれるので修正して準備していかなければいけないですし、解決策を見つけていきたいと思います」
──アーロン・スミス選手、ボーデン・バレット選手への対策はどう考えていたのでしょうか?
「みなさんが名前を知っている選手なので彼らのプレーをしっかりと分析してゲームに入りました。裏のスペースを使ってくるところ、9番の周りのアタックは理解していました。判断としてはディフェンスのタックルがパッシブ(受け身)になってしまったことで、ディフェンスラインが寄ってしまいました。さらにバック3のディフェンスやサポートの判断に対してプレッシャーを与えてしまったと感じています。それらによって相手の9番、10番を自由にさせてしまったと思います」
──ハーフタイムの指示はどういったものだったのでしょうか?
「メンタルの部分と、ディフェンスのノミネート(マークする選手をはっきりすること)が遅かったので、悪循環になってしまいました。そこを修正していきました。サポートが明確になってリズムが生まれてきました。ジャッジに対して声が挙がっていましたが、プレーに集中してアクションしようと伝えました」
──ご自身は堀江翔太選手との交代となりました。
「堀江選手が入ったことでもう1回、自信が生まれて、勢いが生まれました。リザーブの選手が違いを出してくれて、それぞれの選手たちが効果的に違いを生み出して好循環になったと思います」
トヨタヴェルブリッツ
トヨタヴェルブリッツ
ベン・ヘリング ヘッドコーチ
「前半と後半でまったく違うパフォーマンスのゲームになってしまった。トヨタVに関しては前半には良い形を見せて、ゲームプランを遂行することができたと思います。しかし、埼玉WKは経験のある強いチームで、プレッシャーを掛け返してくる、優勝経験のあるチームらしい戦いでした。トヨタVとしては前半のパフォーマンスを結果につなげることができず、非常に残念でした。この敗戦、特に最後の20分には大きな学びがあるので今後に生かしていきたいと思います」
トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹キャプテン
「トヨタVとしては残念な結果になりました。前半は強みである情熱やエナジーを出すことができて自分たちの土俵に引き込んで素晴らしいパフォーマンスができたと思います。埼玉WKのエナジーを奪うことができました。ただ、後半の40分はそれができず、埼玉WKは強いチームで後半に修正してくると分かっていましたが、自分たちの実力、地力の無さが出てしまった内容でした。多くの学びがありましたし、ポジティブな部分を見て、自信を失わずに次のゲームへ進んでいきたいと思います」
──前半と後半の違いは何だったのでしょうか?
「たくさんの要素があったと思います。前半は埼玉WKの陣地でゲームを進めることができましたが、後半は自陣での戦いになってしまった。修正力が足りなかったですし、キャプテンとして反省点です。その部分はアーロン・スミス、ボーデン・バレットと話して修正していきたいと思います。相手が良かったのと自分たちの甘さの両面がありますが、自分たち自身に焦点を当てて成長していきたいと思います」
──ハーフタイムはどんな指示があったのでしょうか?
「埼玉WKは後半に反撃をしてくるチーム。『後半はさらなるエナジーを持って戦っていこう』と話しました。内容は間違っていなかったが、それが実行できなかった。できた部分もあるので、前向きに捉えていきたいと思います」
──勝つために必要なことは何でしょうか?
「一貫性です。一貫性を持ってやり続けること。波を作らずにプロセスに集中すること。80分だけではなく日々の練習から一貫性を保つこと。この悔しさを忘れずに日々の練習に向かっていきたい」
──アーロン・スミス選手、ボーデン・バレット選手のチームへのフィット感はいかがでしょうか?
「彼らは素晴らしい選手でチームに良い影響を与えてくれています。コミュニケーション、連係を含めてチームには伸びシロがあると思っています。フィットしたときはトヨタVらしさと彼らの長所が発揮できています。伸びシロはあるので完成度をシャープにしていきたいと思います」