NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第9節
2024年3月9日(土)12:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs トヨタヴェルブリッツ
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスA)
決意新たに51キャップ目へ。
いぶし銀は何度倒れても立ちあがる
試合開始わずか5分で、海士広大はグラウンドから姿を消した。昨季、プレーオフトーナメント準決勝の東京サントリーサンゴリアス戦。相手のハイタックルを真っ正面から食らった海士は、KOされたボクサーのごとくその場にダウン。戦線離脱を余儀なくされ、約1週間後のプレーオフトーナメント決勝も欠場するに至った。
まさに痛恨の極み……、のはずである。だが、本人に当時を振り返ってもらうと、意外な言葉が返ってきた。
「(海士の代わりに入った)控えの紙森(陽太)が80分近く出場することになって、申し訳なく思いました。決勝戦も、出られなかった悔しさよりも、優勝したうれしさのほうが大きかったです。感動して、試合に出ていた選手たちよりも泣いてしまいました(苦笑)」
ポジションはスクラム最前線のプロップ。同志社大学を卒業後、2017年にクボタスピアーズ(当時)に入団し、同年にデビューを果たした。以後、コンスタントに試合を積み重ね、昨季は公式戦14試合にエントリー。特筆すべきは、その全試合で先発メンバーとして1番で出場したことである。
「優れたボールキャリーや速いランなどは、僕にはできません。ブレイクダウンではしっかりと相手を倒す、ディフェンスではタックルをしたあとにすぐに立ってディフェンスラインに入るなど、地味なところを評価していただいたと思います。(フラン・ルディケ)ヘッドコーチがそういった部分をちゃんと見てくれているというのは、とてもうれしいです」
今季は元ニュージーランド代表のデイン・コールズが入団。このデイン・コールズの存在も、進化の糧になっている。
「チーム練習が終わったあとに、(デイン・コールズが)プロップの選手たちを集めて、パスやブレイクダウンのスキルなどを教えてくれるんです。僕たちを鍛えてくれています。僕にはまだまだ伸びシロがあるということを実感しています」
今季で在籍7年目。前節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦ではトップリーグ・リーグワン通算50キャップに到達した。しかしながら、その節目になる試合で惜敗。今季、チームは逆境に立たされている。
「ただ、僕が入団した当初のクボタスピアーズは、リーグ下位でもがいていた時期にありました。僕たちはそういう苦しい時期を乗り越えて、優勝までたどり着いたんです。ここからどれだけ真価を発揮できるか。僕たちがこれまでやってきたことを確実に遂行していけば、いまのこの苦しい局面を乗り切れると思います」
「このチームが大好きなんです」と言って、海士は微笑んだ。仲間たちのために身を挺して戦ういぶし銀が、決意を新たにして51キャップ目に向かう。
(藤本かずまさ)
トヨタヴェルブリッツ(D1 カンファレンスB)
モルックでまとまり切り替えは完了。
今節は必勝を期し、プレーオフに望みをつなぐ
前節の敗戦により順位を7位に下げ、プレーオフトーナメント進出に黄信号が灯ったトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)。今節は6位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイとのプレーオフトーナメント出場へ生き残りをかけたサバイバルマッチに臨む。
思いがけない大敗だった。前節のコベルコ神戸スティーラーズ戦は後半に守備が崩壊してしまい、勝点1さえも上積みできずにタイムアップ。キャプテンの姫野和樹は「こんなことは許されない。何かを変えないと」と、チームに檄を飛ばした。
全員が危機感を持つ中で、姫野とは違うアプローチでチームのことを考えたのは、ベテランの彦坂圭克だった。暗く沈んだロッカールームで彦坂は、周囲の想像を超える行動を取った。
「モルックをやりました。今季はワンチームで何かをするということに取り組んでいて、メンバーを4つのチームに分けて対抗戦をやりました」
モルックとは、木製の棒を投げて同じく木製のピンを倒す、1996年にフィンランドで発祥したスポーツ。有名芸人がテレビで紹介したことで話題になり、誰でも手軽に出来ることで人気も出てきた。
「負けてしまったことは残念でしたけど、今回は特にショートウィークなので、切り替えがすごく大事になります。それに加えて、チームとしてのまとまりも大事なので、すぐにみんなでモルックをやることでまとまって、切り替えができたらいいなと思いながら楽しくやりました」
もちろん、試合の振り返りも十分にやって修正するべきポイントも話し合った。厳しさを出すところ、リラックスをさせるところ、ベテランならではの気遣いがそこにはあった。いま最もダメなことはチームがバラバラになってしまうことだと熟知している。
「僕自身の準備としては、まず自分のやれることだけに集中するということ。特にセットピースはフッカーとして重要になってくるので安定させること。そして前節はスクラムで最初に受けてしまったので、今節は1本目からしっかりと良いスクラムを組みたいですね」
メンタルや集中力さえ持続できれば、トヨタVは上位にいてもおかしくない実力を持っている。プレーオフトーナメントに進出するために、今節は必勝。ここで勢いに乗り、勝ち続けるしかない。
(齋藤孝一)