2024.03.10NTTリーグワン2023-24 D1 第9節レポート(S東京ベイ 27ー31 トヨタV)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第9節
2024年3月9日(土)12:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 27ー31 トヨタヴェルブリッツ

苦境に立つ前年度王者。
それでも、やるしかない。前に進むしかない

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの江良颯選手。アーリーエントリーで加入し、この試合でリーグワン初出場

一体、どうしたというのか。昨季はホームスタジアムの『スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)』で17連勝をマークし、“えどりく不敗神話”を築くも、今季はここまでホストゲームで勝ち星なし。前年度王者はいま、苦境に立たされている。

成長過程にあったクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)にとって、かつて大きな壁となっていたのがトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)である。公式戦では2008-09シーズンでの勝利を最後に連敗。10年以上にわたって、苦汁を味わい続けてきた。

一筋の光明が差し込んだのは2022シーズンの第7節(2022年2月26日)。ここでS東京ベイは先発メンバーだったヘル・ウヴェが欠場し、代わってメンバー外だった青木祐樹が急きょ出場する。こういったアクシデントがあったものの、底力を発揮して宿敵に快勝。このシーズンは前年に続いてプレーオフトーナメントに進出し、3位という成績を残した。

トヨタV、東京サントリーサンゴリアス、そして埼玉パナソニックワイルドナイツ。それまで歯が立たなかった強敵を一つひとつ打ち崩し、昨季はついに頂点まで駆け上がったS東京ベイ。その飛躍のきっかけにもなったのが、22年2月のあの一戦だった。

過去4年の対戦成績は2勝2敗の五分。試合前の時点での順位はS東京ベイが6位、トヨタVは7位。プレーオフトーナメント進出を狙う上でどちらも負けられない今回の戦いで、S東京ベイはまたも勝利を逃してしまった。後半40分、トヨタVのボーデン・バレットがペナルティゴールを決め、スコアは31対20に。ここでS東京ベイの逆転勝ちは絶望的となった。

胸突き八丁の正念場での痛い敗北。進化という名の時計の針が、22年2月以前に戻されてしまったのか。いや、違う。両チームのヘッドコーチが「アームレスリングのようだった」と表現したこの試合。最後の最後、オレンジの意地と執念を見せつけた男たちがいたではないか。

これがリーグワン初キャップとなった大型ルーキーの江良颯は後半41分、ラストワンプレーでトライ。そして、今季公式戦初出場となる島田悠平が難しい角度ながらコンバージョンキックを成功。土壇場で得点を27まで伸ばし、7点差以内の負けで付与される勝ち点1をもぎとった。未来は、確実にある。

「『絶対に勝つ』、『フォワードを前に出し続ける』。そういう気持ちしかありませんでした。試合に出させていただく以上、ハードワークし続けるしかないと思って(グラウンドに)出ました。フィジカルが一番不安なところでもあったのですが、今日の試合をとおして、僕のこの体でも戦えるという自信につながりました」(江良)

「チームの状況は選手全員が分かっています。自分自身も緊張していたのですが、試合が始まるときには緊張も和らぎ、試合を楽しもうという気持ちになっていました。テーマにしていた一貫性という部分で反省点の多い試合になりましたが、最後にボーナスポイントの勝ち点1を取れたのは大きなプラスです。そこは意地でした」(島田)

勝負という無情な世界において、失望は足手まといにしかならない。やるしかない。前に、進むしかない。

(藤本かずまさ)

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフラン・ルディケ ヘッドコーチ(右)、立川理道キャプテン

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ

「アームレスリングのような、すごくいい戦いがお互いにできたと思います。前半は特に接戦でしたが、やるべきことはできていたと思います。重要な場面で相手にスコアされて、それがプレッシャーになるところがあったのですが、選手たちがギブアップせず、ストップせずに戦い続けてくれたことを褒めたいと思います。最後に勝ち点1を取れたことは、今後重要になってくると思います。次の横浜キヤノンイーグルス戦もショートウイークなのでしっかりと準備をして挑みたいと思います」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
立川理道キャプテン

「ゲームの全体的な感想は(フラン・ルディケ)ヘッドコーチと同じになってくるのですが、本当に大事な局面で自分たちがペースを握れなかったと思います。先週の(三菱重工相模原ダイナボアーズ戦の)反省もあって、イグジットのときに少し手こずることが多く、そこでなかなかペースに乗れなかったと思います。こうしたタフな試合が続いていくので、ここから学びを得て、また次に向かって進んでいくしかないですし、ここで下を向いてクヨクヨしている時間もないというのが正直なところ。これをしっかりと受け入れて、次に進んでいきたいと思います」

トヨタヴェルブリッツ

トヨタヴェルブリッツのベン・へリング ヘッドコーチ(右)、姫野和樹キャプテン

トヨタヴェルブリッツ
ベン・ヘリング ヘッドコーチ

「両チームともにショートウイークという中で、アームレスリングのような試合になりました。両チームともに疲れが見られた試合でした。また、気候の影響、風の変化もあった中、そうしたコンディションの下で選手たちは粘り強く戦ってくれました。クボタスピアーズ船橋・東京ベイも前半に非常にプレッシャーを掛けてきましたが、私たちはディフェンスで粘り強さを見せ、そして最終的に耐えることができたと思います」

トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹キャプテン

「先週、コベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)と試合をして、自分たちはなかなかうまくいかずに、これを許してはいけないということで、チームには厳しく言ってきました。厳しい言葉を言ってきましたが、今週1週間、一人ひとりが今までどおりではなく、もう1%、2%自分がやれることを増やしてほしいということをチームに求めてきました。それをチームの一人ひとりが実現してくれました。このエフォートに対して、本当に素晴らしく、誇りに思います。そしてその厳しさが、試合での自分たちのディフェンス、アタックにつながりました。そのメンタリティーが今後も必要になってくると考えています。そして、そのスタンダード、そのメンタリティーを引っ張っていくのは自分自身だと思っていますし、これからも一貫性を持ってやっていくことがチームにとって必要になってくると思います」

──次節の東京サントリーサンゴリアス戦に向けて。

「まずは自分たちにフォーカスすることです。先週、神戸Sにやられてしまって、一人ひとりが自分に向き合ってきたことが、すごくいい効果をもたらしたと思います。まずは自分たちのチームのプロセスにフォーカスしていきたいと思います」

──もう1%、2%やれることを増やすために、ご自身はどのように取り組んだのでしょうか?

「いっぱい練習しました。練習前に自主練習で、チームのみんながまだ来ていない状態ですが、自分がフォーカスすべきところ、自分に必要な課題に取り組みました。終わったあとも誰よりも最後まで残って練習しました。自宅に帰ってからも自分が何をすべきなのかをノートに書くなど、そういったことをやっていました」

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