NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第11節
2024年3月23日(土)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東京サントリーサンゴリアス 35-37 横浜キヤノンイーグルス
名勝負の背景にあった両チームの因縁。
味わった悔しさが次の名勝負への伏線に
まさに千両役者。日本代表で何度もプレッシャーの掛かるショットを決めてきた横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)の10番・田村優が、3月23日の東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)戦でも大仕事をやってのけた。
場面は、80分経過を告げるホーンが鳴ったあと。1点を追いかける横浜Eは、逆転のためのラストプレーとしてショットを選択する。田村自身が「外したら(プレーオフトーナメント争いから脱落して)シーズンが終わっていましたからね」と語るプレッシャーを跳ね除けての“逆転サヨナラペナルティゴール”を決め、横浜Eは最大25点差をひっくり返す大逆転勝利。トップ4争いに踏みとどまる上でも、大きな1勝となった。
この名勝負が生まれた要因には、両チームの“因縁”も振り返っておく必要がある。横浜Eの沢木敬介監督は東京SGの“元監督”であり、梶村祐介キャプテンを筆頭に横浜Eには“元サンゴリアス選手”が何人も在籍。特に、この試合で先発を務めた中村駿太、祝原涼介の二人は東京SGから横浜Eに移籍してきた最初のシーズンで、初の『古巣対決』だった。
中村駿太は「気合いが入らないわけがないじゃないですか!」と語り、試合前には沢木監督から「今週はやらないとな!」と発破を掛けられていたという。それだけに、劣勢を覆しての逆転劇に感慨も一入だった。
「本当にいい勝ち方をしたなと思います。試合終盤は東京SGが一番強い時間。そこでしっかりと逆転して勝利までもぎ取れたことはチームとしての成長を感じます」
さらに中村は、同じ2番(フッカー)で対峙した東京SGの堀越康介とのマッチアップで感じた自分自身の成長も明かす。
「(東京SG時代の)スクラム練習では康介を押せるシーンはあまりなかったので、康介からすると『今週はイケる』と思っていたはず。でも、今日はファーストスクラムからしっかりプレッシャーを掛けてペナルティを取れた。自分の成長を古巣のみんなに伝えられたかなと思います」
一方の堀越康介は「今日の負けは、途中でシンビンになったことも含め、キャプテンの自分の責任」と痛恨の表情を浮かべていた。その悔しさこそ、次の対戦機会では東京SGにとっては大きなモチベーションになるはず。こうして、名勝負は繰り返されるのだ。
(オグマナオト)
東京サントリーサンゴリアス
東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督
「非常に悔しい敗戦でした。前半は自分たちのプランどおりに戦えて35点というスコアでリードできましたが、後半で仕留め切れず、相手の勢いを止めるという部分では守りに入ってしまったというか、どんどん相手のペースに付き合わされていきました。これでトップ4の争いが非常に厳しいものになってきたので、今回の敗戦をしっかり学びにつなげて一戦一戦準備していきたいです」
──ハーフタイムで選手たちに伝えたことは何だったのでしょうか?
「前半は比較的、ゲームの主導権を握れていましたが、最後の5分ほどはシンプルなプレーができず、そこから相手に主導権を与えてしまった場面がありました。なので、そういうプレーをなくしていこうという話はしました。もう一度しっかりとシンプルなプレーを心掛ける必要性はあると思います」
──後半の無得点は想定外だったと思います。ベンチとして与えた指示は何かありますか?
「相手がボールの持ち方を変えてきたというか、中盤はモールを組んでそこからハイボールに展開するなど、前半とは少し違う攻め方をしてきました。そこに対して、われわれもまたハイボールで様子見をすることや、ハイボールの蹴り合いの中で結果的に相手ボールになるところがあったので、もっとモールに対しての対応を明確に指示できたかなと思います。選手がそういう対応をできなかったのはコーチボックスの責任であると思いますし、今回の学びだと思います」
東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン
「前半はほぼ僕たちのプランどおりで終わることができたんですが、後半の自分たちのプレーにはどこかスキがあったのかと思います。ただ、シーズンはどんどん進んでいきます。次は(前節終了時で)4位のコベルコ神戸スティーラーズ戦。すごく強いチームなので、そこにもう一度チャレンジャーとしてぶつかっていきたいです」
──点差をつけて後半に臨みましたが、そこから点差を詰められた要因は何だったのでしょうか?
「僕のイメージですけど、前半は僕たちがすごく我慢強くプレーをしていて、それがスコアにつながった印象があります。後半は逆に、相手が我慢強くアタックを継続してきたし、僕たちが中盤でペナルティをしてしまって、そこからモメンタムが相手に傾いたんじゃないかなと思います。後半は相手のほうが我慢強かった気がします」
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「先週、ああいう(試合終了間際に逆転される)負け方をして、今週こういうふうに(試合終了間際の逆転で)勝った。こういうところがラグビーの面白いところだと思います。今日の試合でいうと、前半のスタートは良かったものの、自分たちのミスで相手にチャンスを与えて前半は少し離されました。そのハーフタイムでみんなに話したのは、『チームのプライドのためにあきらめずにノーサイド後には全員がぶっ倒れるくらい走ってこい』ということ。今日はもう控えを含めてしっかりと強い意志を持ってプレーしてくれたと思います。
プレーオフトーナメントに行くために本当に1試合1試合が大事なので、今日はその第一関門を突破できたということ。次に向けてしっかりと準備をしていきたいですね」
──最後の田村優選手のショット選択は監督が指示されたものですか?
「いえ。もちろん、自分たちでも『ショットだ』と言っていましたが、優だってラグビーワールドカップのプレッシャーの中でボールを蹴ってきた選手。彼が『自信がある』と判断して蹴っていると思います。ラグビーワールドカップに比べたら、今日のショットなんて普段の練習と同じくらい(の感覚)なんじゃないですか?」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
「点差がついた状態(前半終了時で10対35)でもしっかり勝利できたことをうれしく思います。ただ、その中身を見ると自分たちのもろさというか、スコアしないといけない場面で逆に相手にスコアを許してしまうシチュエーションが多い。それは今日に限ったことではなく、現状の自分たちの弱みでもあります。今日の試合からも学んで、次のゲームではしっかり修正していきたいと思います。ただ、あそこから勝ちに持っていけたことは、チームとして一つの自信につながるところでもありました」
──今日のゲーム、良い形で後半の40分間を過ごせた要因は何だったのでしょうか?
「(前半は)スコアを取れそうなところまで行けるんですけど、フィニッシュまで持っていけなかった。ただ、過程の部分はそんなに悲観することはなかったと思っていました。フィニッシュするところの精度さえ上げればスコアにつながっていくと思っていたので、あの点数(25点差)だからといって、ネガティブな状態ではなかったです」