2024.04.29NTTリーグワン2023-24 D3 第14節レポート(SA広島 30-38 日野RD)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン3 第14節
04.28 Sun 14:00 維新みらいふスタジアム (山口県)
マツダスカイアクティブズ広島 30-38 日野レッドドルフィンズ

「絶対に一体感が生まれる」。フォワード陣が
全精力を注いだスクラムが流れを一変させた

後半に入り、フォワードが奮起してスクラムで主導権を握った日野レッドドルフィンズ

マツダスカイアクティブズ広島(以下、SA広島)のホストゲームとして、山口県山口市維新みらいふスタジアムに日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)を迎えて行われた試合はお互いにトライを奪い合う激しい展開となった。最終的には日野RDが38対30で競り勝ち、今季10勝目。勝ち点を49に伸ばした。

ディビジョン3をすでに制している日野RDにとって、この試合で今季取り組んできたことへの真価が問われる場面があった。

14対13と日野RDが1点リードで折り返した後半6分、相手陣内10mライン付近からのマイボールラインアウトをキープすると最後は北島遥生が個人技を生かしてトライ。18対14とSA広島が逆転し、スタンドのファンも大歓声でSA広島を後押しする。

「最後の2試合はプレーオフトーナメントのつもりで臨む」(苑田右二ヘッドコーチ)と無敗での優勝に目標を置いたチームだったが、この試合に勝てば3位が確定し、D2/D3入替戦出場となるSA広島の気迫あふれるプレーに受け身となっていた。今季まだ一つもなかった“敗戦”という二文字がちらついていた。

この窮地に、プロップの船木頌介は「正直、スクラムはその時点まで良くはなかった。ほかの7人のフォワードは頑張ってくれていたんですが、僕のところでちょっとつまずいてしまっていた」と責任を感じていた。しかし、ここはもう一段ギアを上げるべき場面だと、船木は判断した。

「前半にできなかったことを後半ではやろう、とハーフタイムには決めていた」と集中力と運動量を上げた。船木は「相手を圧倒する気持ちを持って」前に出た。

そのフォワードの頑張りがチャンスを生んだ。相手陣深く、右タッチラインからのラインアウト。マイボールをキープした日野RDはサインプレーでこの日リーグワン初キャップの水間夢翔が密集の右サイドを突進。相手タックルを受けても簡単には倒れない水間の頑張りを起点に最後はラッシュを掛けて再逆転となるトライを後半13分にもぎ取る。

リーグワン初キャップの水間夢翔選手は、フィジカルなプレーで逆転のトライももぎとった

さらにその直後、SA広島のキックが10mラインに届かず日野RDボールのセンタースクラムとなったプレーで、日野RDのフォワードが勝利をたぐり寄せた。

「僕らがやっぱり前半にふがいない部分があった。なので、ここでフォワードが流れを変えられたら絶対に一体感が生まれると思って、このスクラムに全精力を注ぎ込みました」と船木。

並々ならぬ集中力で臨み、ガッチリ噛み合ったスクラムでこの日一番のプレッシャーを掛けた日野RDはそこからチャンスを生み出す。パスをつないで左サイドへ展開。そして絶妙な縦へのキックパスをインゴールで川井太貴が押さえて連続トライ。試合の流れをもう一度日野RDが奪い返すことに成功した瞬間だった。

日野RDは最終的に38対30で逃げ切り、無敗を継続させた。SA広島が見せた堅い守りからの反転攻勢、それを受けつつも日野RDが見せたD3優勝チームとしての矜恃。山口のラグビーファンの多くがリーグワンの魅力を存分に堪能して家路についたに違いない好ゲームだった。

(関谷智紀)

マツダスカイアクティブズ広島

マツダスカイアクティブズ広島の中居智昭ヘッドコーチ(左)、﨑口銀二朗キャプテン

マツダスカイアクティブズ広島
中居智昭ヘッドコーチ

「山口県での初のホストゲームということで、開催にあたりご尽力いただいた関係者の皆さま、観客を含めたサポーターの皆さまに感謝申し上げます。

試合は、チャンピオンチームである日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)さんにどれだけチャレンジできるかというところで、しっかりと勝つための準備をして挑みました。ゲームの流れの中で、日野RDさんが良い集中力を持った時間帯で連続トライを取り、われわれもしっかりと追ってはいたのですが、追いつくことができずに敗れる結果となりました。しかしながらわれわれがいま目指しているラグビーにおいて、ボールを持って前に出るところ、スペースにボールを運ぶというところがすごく見えたゲームだったかなと思います。

特にコリジョン(接点)やディフェンスで受けに回ったところがあったので、そこを修正して次のゲームに挑みたいと思っております。

次のゲーム、クリタウォーターガッシュ昭島(以下、WG昭島)との試合は3位が決まる戦いで、競ったゲームになると思うのでしっかりと今まで積み上げた内容を出して、ぜひ勝利をつかみ取りたいと思っております。本日はありがとうございました」

──今日良かった点と反省すべき点、それぞれ教えてください。

「ボールを持って前に出る圧力の部分と、スペースへとボールを運ぶ能力の部分で全員の準備がとてもうまくつながったかなと思っています。

その中でなかなかスコアが取れなかった部分、自分たちのリズムが出なかった部分はラインアウトでした。ラインアウトでプレッシャーを受け、マイボールポゼッションというところでロストしてしまう部分が多かったので、しっかりそこの質を上げることでもっと良い自分たちの時間帯が増えるのではないかと思います。

最終節のWG昭島戦は本当に意地の張り合いの勝負になるので、ボールを持ってどちらが前に出るかという勝負を制していきたいと思います」

──後半20分にジャクソン・ピュー選手がイエローカードで10分間のシンビンとなりましたが、あの判定はやはり試合に影響がありましたか?

「そうですね。残り20分でしっかりと自分たちのリズムを作って、最後にスコアでの逆転を狙いにいこう、というところだったので、やはりそこで一人少ない10分間が生じたというのはチームとしては大きなダメージでした。

その(シンビンになった)プレーに関しても、最初はスクラムでちょっと受けに回って、アドバンテージが出て、その中でのチャレンジだったので本当に不要なペナルティだったかなと。ゲームがちょっと壊れてしまった要因の一つかなと思っています」

──ペナルティに関してはとても我慢されて、うまく日野RDのペナルティを誘発していたように感じましたが、その点はいかがでしょうか?

「得点のチャンスを含めて流れを手放すのがペナルティだと思っていますし、しっかりとペナルティについても意識してプレーすることでディフェンスから良いリズムができる。そういう意味ではすごく我慢強いディフェンスができるようになったと感じています。

日野RDさんはランアウトモールからのスコアも多いですし、その芽を摘むという意味でも今日はそういった得点機会というのをだいぶ減らせたと思います。

そういったディフェンスのシステムに関しても今回は試すチャンスがあったので、自分たちの中で次はどんなチャレンジができるのかをしっかりと選択して臨みたいと思います」

──ファンのみなさんも胸を熱くした内容だったと感じていますが、山口県での今季初の試合ということで、会場の雰囲気についてはどう感じましたか?

「たくさんのお客様に来ていただく中で選手たちはとても伸び伸びとプレーできたのではないかと思います。特にしんどい時間帯にしっかりと応援の力が届いてきました。やはり体を張るというところがラグビーの魅力ですから、そういうしんどい部分もしっかりとみなさんに見てもらい、共有しながら一緒にプレーできたところはとても良かったと感じています。

逆転したトライについてはまさにそうです。しっかり自分たちが用意していたサインプレーで綺麗にラインアウトからフェーズを重ねてトライを取ったところ。やはり逆転して会場も盛り上がりましたし、しっかりと自分たちが準備したものが成功したという点でチームもとても盛り上がりましたし、会場との一体感を感じたシーンだったと思います。

たくさんのお客さんの中でできるというのは、選手は幸せですね。これからも(山口県での開催を)継続していただきたいと思っています」

マツダスカイアクティブズ広島
﨑口銀二朗キャプテン

「本日はありがとうございました。試合のほうは、今日勝てば3位が決まるということで、勝つための準備をして臨んだのですが、試合の入りでトライを簡単に取られてしまいました。ただ、チームとしてしっかり準備している部分が出せて、そこまで崩れなかったことについては、自分たちとしても非常に成長を感じています。

シーズン序盤は大敗した相手に対して、少しは自分たちが積み上げてきたものを出すことができました。今日はロースコアにできたし、かなり良い試合運びができたとは思っています。

ただ、やはり勝ち切れなかったところ、ここはやはり自分たちはまだ力不足なところですので、次のWG昭島さんとの試合に向けて、小さな部分のクオリティーを厳しく求めていき、来週は勝ってリーグ戦を締めくくりたいと思います」

──今日の日野RD戦に向けてどんな準備をしてきたのでしょうか?

「特別にこの試合に向けて何かをしたというところはありません。自分たちがここまで1年間練習で積み上げてきたもののクオリティーのところ、例えばコミュニケーションやセットスピード、基本的なところを求めて注力してきました。

それがシーズン終盤にかけてチームとしても非常に成熟してきたと感じています。でも、そこで満足するのではなく、どんどん高いレベルを求めていこうといういい声が練習でも表れていて、それが試合でも表現できたと思います」

──ディビジョン3優勝の日野RDとは今季3度目の対戦でしたが内容は向上しているように見えました。成長具合など手ごたえはあったのでしょうか?

「本当に良い試合でした。以前は80分間受け続けた試合だったんですけれども、今日はこちらから仕掛けて前に出てという形も出し切れました。チームとして育ってきた成果だとも感じます」

──次週のWG昭島戦はどんな試合を見せたいと考えていますか?

「もう、本当にここまで取り組んで来たことをぶつけるだけ。あとはキックオフまでにいかに自信を深めて、勝つために試合に臨めるかどうかだと思っています」

日野レッドドルフィンズ

日野レッドドルフィンズの苑田右二ヘッドコーチ(左)、橋本法史バイスキャプテン

日野レッドドルフィンズ
苑田右二ヘッドコーチ

「山口県での開催となり、素晴らしいスタジアムで、マツダスカイアクティブズ広島(以下、SA広島)のみなさんがしっかり準備してくれて、素晴らしい環境で試合をできたことを感謝申し上げます。ありがとうございます。

われわれ日野RDは今シーズンあと2試合という状況でこの試合を迎えました。今週と来週はプレーオフトーナメントのつもりで取り組む中、『負けたら終わり』という意識付けをした試合で前半を1点差で折り返して後半に臨み、勝ち切れたことは非常に良かったと思います。

昇格が決まったあとの中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)戦でちょっとスイッチを切る場面もあったのですけれども、今日のSA広島戦で最後に逆転できたということは、われわれがその試合での学びを得て成長できている部分だと感じます。

良い部分も悪い部分もありましたが残りはあと1試合なので、最後は最高のゲームをして締めくくれるようみんなで結束し、今後の1週間を活動したいと思います。ありがとうございました」

──今季の試合の中で一番苦しい試合だったと感じますが、反省点はどこでしょうか?

「前半のペナルティ数が10個だったと思うんですが、ペナルティが多く試合がぶつ切れになって相手にもチャンスを多く与えてしまいました。さらにSA広島さんが風上だったのでテリトリーの部分でこちらが非常に苦しい場面が多くありました。

フェーズを重ねる中でちょっとした意思疎通のミスやスキルのミスなどもありましたし、アンラッキーな部分も中にはありましたので、そのあたりを改善していこうとハーフタイムにみんなで話をして対応しました。

各ポジションのリーダーを中心にこの1週間良い練習もできていましたし、試合の前の雰囲気もハーフタイムの雰囲気もリーダー中心にとても良かったです。後半については自分たちのプレーでつながりが持てればしっかり勝ち切れるとは思っていたので、それを体現してくれた選手たちのことは非常に心強く思いました。

先ほど述べた点をしっかりこの1週間で改善しながら自分たちの力を次の試合で100%発揮できるよう、練習から良い準備をしていきます」

──前半、特に守備のラインに穴が開き、そこをうまく突かれたシーンが多かったようにも感じましたがいかがでしょうか?

「そうですね。後半にも簡単にトライを取られるシーンがあったので、しっかりと自分たちのシステムに立ち返って修正しなければいけない。次の火曜日の練習からしっかりレビューをして、改善をして、より強いディフェンスを発揮していきたいと思います」

──「プレーオフトーナメントの準決勝のつもりで臨む」という試合でしたが、収穫はありましたか?

「D2への昇格が決まった直後のゲームで中国RRさんに引き分けましたが、その中でわれわれが学んだことはアタックのシステム、ディフェンスのシステムに改善点があるということ。また、そのあとのWG昭島さんとの試合で学んだことは、80分間一貫性を持ってフィニッシャーの選手たちもチームを勢い付けよう、という点。そのあたりを課題にして今日の試合に臨んだ部分があります。

今日は逆転された場面で控えの選手をどんどん投入したのですが、彼らがいい流れをチームに持ち込んでくれました。そういう点でもこの最後の2試合でわれわれは成長できていると思います。最終節に関しては、われわれが今シーズン取り組んできた内容について“やり切る”ことが一番重要。そこに集中して良い準備をしていきます」

──山口県で今季初、今季唯一のリーグワンの試合でした。前座試合では山口県の高校生による試合などもありましたが、日野RDさんから見て山口のラグビーの土壌はどう感じましたか?

「個人的なことなのですが、5年ほど前に山口高校が花園(全国高校大会)に出場したことがあったと思います。あのときには年に4、5回ほどコーチとしてここに来ておりまして、思い出深い場所です。

(ラグビーの試合では)年に1回しかこのスタジアムは使えない、という話も聞いておりましたので、われわれがエキサイティングなラグビーをすることで、普及にもつながると思いましたし、応援してくれるファンの人たちにラグビーの楽しさを伝えることができればいいなと思っていました。会場入りの際にスタジアムの様子を見たら、Jリーグのように人がたくさん並んでいてうれしく思いましたし、スタジアムも素晴らしい施設で『こういうところでラグビーをやりたいと思う子どもたちも多いと思う。われわれは子どもたちにそう感じてもらえるエキサイティングなラグビーをしよう』と試合前に話していました。非常に素晴らしい場所ですし、ラグビーが発展する要素はたくさんあると感じています」

日野レッドドルフィンズ
橋本法史バイスキャプテン

「まず山口の地でリーグワンの試合ができたこと、すごく良い雰囲気のスタジアムですし、スタジアムの天気も良くて、その中で試合をできたことをとてもうれしく思います。

苑田(右二)ヘッドコーチの言葉にもあったように、自分たちの中で残り2試合という位置付けというのはしっかりできていたので、いい準備ができたと思います。

試合に関してはちょっと自分たちのペースでは進められなかった部分も多々あったのですが、最後勝ち切れたところはすごく良かったと思います。まだもう1試合あるので、最終戦に向けて日野に帰って、またチームを練習から作り上げていきたいと思います。今日はありがとうございました」

──後半、先にSA広島にトライを取られ14対18と逆転されました。あの時間帯は今季の日野RDの真価が問われる時間帯だと感じていましたが、どのようにしのぎ、どのように逆転を狙っていったのでしょうか?

「アタックに関してはフォワードでもバックスでも自分たちのミスがなければ(スコアを)取り切れるという気持ちはあったので焦りは感じていませんでした。ただ、コンタクトの部分で相手の勢いに負けてしまうとズルズルいってしまうので、そこで基本に立ち返って、一人ひとりがやるべきこと、タックルだったらしっかり低く入る、アタックだったらボールを継続するといったことをハドル(円陣)の中で話しました。そこからその部分が少しずつ改善できてスコアにつながっていったのかなと思います」

──後半13分の逆転トライを奪う直前のプレーで、マイボールラインアウトから水間夢翔選手が密集の右サイドを突くというプレーがありました。あれはデザインされていたプレーだったのでしょうか?

「サインプレーの一つで、自分たちが思っていたような形ではなかったんですが、そこからスコアまで持っていけました。焦ることなくプレーできたのが良かったと思います」

──今季唯一の山口県での試合でしたが、雰囲気などいかがでしたか?

「ホテルからグラウンドに来る途中のバスから、本当にスタジアム周辺が盛り上がっているところが見えました。それを見たときに選手たちもかなりテンションが上がって、『リーグワンがこの地に来ることはすごく夢や意味があることだな』と感じました。試合でもエスコートキッズの子どもたちと一緒に入場した中で『山口のラグビーが盛り上がってほしい』というふうに思いました。試合もやりやすくて、とても良いグラウンドでした」

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