NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン2 第14節
2025年5月10日(土)14:30 江東区夢の島競技場 (東京都)
清水建設江東ブルーシャークス vs 日野レッドドルフィンズ
清水建設江東ブルーシャークス(D2)

5月10日(土)、清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)は、日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)を江東区夢の島競技場に迎えて対戦する。両チームとも勝敗によってはD2/D3入替戦に回る可能性があり、最終節にして運命が分かれる大一番だ。
そんな中、江東BSは今季限りで現役を退く6選手を発表した。その一人が、8年間にわたりチームを支え続けた間藤郁也である。ラストマッチに向けた心境を尋ねると、「チームは来年も続くので、普段はあまり感じないですけど、今後にも関わる試合ということでプレッシャーを感じています。そして、この最後のタイミングで試合に出られることが、本当に幸せだと感じています」と話した。
江東BSに入団したのは、山梨学院大学在学中に行われた練習試合がきっかけだった。当時は主務だった現・仁木啓裕監督兼チームディレクターが、自ら車を運転して間藤を勧誘しに行ったという。「ディフェンスもしっかり行くし、良い選手だと思いました。チームの過渡期を支えてくれて、本当に頑張ってくれました」。その言葉は、8年間の貢献に対する確かな証だろう。
間藤がチームに加わった当初、江東BSの環境は決して恵まれたものではなかった。「グラウンドが半面しかなくて、とても驚きました。社会人チームですよ?!」と、笑いながら当時を振り返る。水しか出ない簡易シャワールームに、排水の悪い足元。食事は各自持参だった。そんな時代を、間藤は文句一つ言わず、プロップの位置で黙々とプレーで支え続けてきた。
いまでは立派なクラブハウスが建ち、人工芝の全面グラウンド、栄養士が作るビュッフェ形式の食事と、環境は大きく変わった。「リーグワンという舞台で、これだけフルタイムで働きながらD2で“戦える”チームになってきたことはうれしいですし、みんなで作り上げてきたこのチームを誇りに思います。正直、まさかここまで来られるなんて、入社したときには思っていませんでした」。レッドハリケーンズ大阪に勝ち、花園近鉄ライナーズを下した今季の戦いを語る言葉には、チームとともに歩んできた実感と誇りがにじんでいる。
そんな間藤を支え続けてきたのは、家族の存在だ。高校時代に出会い、人生の半分以上をともにしてきた妻は、地元・新潟に戻らずに東京でラグビーを続けたいという決断を、快く理解してくれた。そして、現在4歳になる子供は、いまでも練習に行こうとする父に泣きながらすがりつくという。
「ラグビーがない生活はまだ想像できない」としながらも、「ひとまずゆっくりして、家族と一緒に過ごしたいですね」と穏やかに語る。
感情を前面に出すタイプではない。地道に、誠実に、与えられた仕事を黙々とこなす。その姿勢こそが、江東BSをここまで導いてきた。この最終戦で間藤がチームへ贈る『最後のプレゼント』は、きっと特別な何かではなく、いつも通りのプレーだ。やるべきことをやる。それが、彼が選び続けたラグビーの美しさであり、信念なのだ。
「この8年間所属できたというのは、僕の人生の誇りですし、引退した後も『こんなすごいチームにいたんだよ』と胸を張って言えるような、そんなチームにこれからもどんどん成長していってほしいです」
この男の、最後のスクラムを、目に焼きつけたい。
(奥田明日美)