NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
ディビジョン1 第18節(リーグ戦)カンファレンスA
2025年5月10日(土)13:00 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東芝ブレイブルーパス東京 49-28 横浜キヤノンイーグルス
「良いラグビー人生でした」。チームを愛し、愛された“ミスター・イーグルス”のラストマッチ
東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)は5月10日、秩父宮ラグビー場で横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)に49対28で勝利し、レギュラーシーズン1位を確定させた。BL東京は24日のプレーオフトーナメント準決勝で、静岡ブルーレヴズ対コベルコ神戸スティーラーズの勝者と対戦する。
横浜Eのフランカー、嶋田直人は、現役最後の試合でも体を張り続けた。181cm/99kgの33歳は、3月7日に今季限りでの引退を発表。この日はゲームキャプテンとして出場していた。
前半12分に鋭いスティール(ジャッカル)で相手のペナルティを誘い、同40分にはトライ目前の相手選手に襲いかかり、得点を許さなかった。どちらも冷静な判断と熱い思いが共存する、嶋田らしい好プレーだった。
本来はフル出場を想定していたが、「肉離れしたから」(沢木敬介監督)後半21分に途中交代。グラウンドに深く礼をした嶋田の姿に、両チームのファンから万雷の拍手が送られた。
試合後、晴れやかな表情の嶋田はファンへの感謝を口にした。
「タオルを掲げてくれたり、名前を呼んでくれたり、自作のボードを作ってくれたり……。交代でグラウンドを出たときも、すごく大きな拍手をしてくれたので幸せでした。本当に『ありがとうございます』という気持ちです」
チームの調子が良いときも、悪いときも、嶋田はベストを尽くしてきた。南アフリカ代表でワールドカップ連覇に貢献したジェシー・クリエルは「嶋田は行動で示してくれて、末永くイーグルスの記憶に残る選手です。その貢献がいかに素晴らしいかを彼には伝えました」と熱っぽく語った。
嶋田は日本代表候補に選ばれた経験はあるがキャップ獲得には至らず、チームとしても在籍中に悲願の優勝には届かなかった。それでも、歩んできた道に後悔はない。
「悔しい思いもしましたけど、その悔しさが僕の今後の人生の力になると思います。良いラグビー人生でした」
チームを愛し、チームに愛された“ミスター・イーグルス”。言い訳をせず、妥協せずに自分とチームを高めてきた男は、最後まで全力を尽くし、さわやかにスパイクを脱いだ。
(安実剛士)
東芝ブレイブルーパス東京

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ
「選手たちのパフォーマンスを誇りに思います。横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)が良いチームだということは分かっていて、引退される嶋田直人選手が最後の試合ということでモチベーションもあると思っていました。そこを分かった上で自分たちは勝ち点5を取ろうと準備をしてきて、最終的にピッチで表現できたと思います。今日の試合も、今季によくあった流れでした。良い形で入って、そのあとはプレッシャーを掛け続けることができずに受けてしまい、最終的にしっかりと流れを取り返しました。信念が選手にあったと思います。ボーナスポイントを確定させた最後のトライが、今季の大半を『K9(東芝ブレイブルーパス東京ではノンメンバーを指す)』で過ごしてきた桑山聖生だったことをうれしく思います。リーグワンは非常に競争力が高くなっていて、毎週メンタルが試されるのですが、リーチ(マイケル)を含めたリーダーからノンメンバーまで全員で戦ってきた結果だと思います。レギュラーシーズン1位という結果を大切にしたいと思っています。『プレーオフ(トーナメント)があるから順位は関係ない……』ということではなくて、1位で終われたことをチームとしてかみしめたいです。プレーオフトーナメントに向けて道のりは続きますが、来週を休む権利を選手が勝ち取ってくれたので、リフレッシュして、プレーオフトーナメントでエキサイティングなラグビーをお見せできればと思います」
──昨季優勝して、選手の意識などでプラスになったことがあれば教えてください。
「大きな成長が見られたと思います。昨季は相手との力関係を考えてブレてしまったこともあったのですが、今季は全チームが『東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)を食うぞ』という気持ちで向かってくることに対して、苦しい展開でもあきらめずに、試合にしがみつき続けたのは成長だと思います。18試合、毎週タフでフィジカルでしたが、選手たちは困難に立ち向かってくれました。レギュラーシーズンが終わっても、まだまだ選手たちはハングリーです。トレーニングによって選手層の厚みも確立してきました。BL東京を背負って立つような、若い選手がこれから出てくると思います。昨季からの成長で言えば、コーチ陣も新たに変わりましたが、ポジティブな結果でした。また、観客はリーグ全体では微減と聞きましたが、BL東京では増えているので声援が力になっています」
──準決勝までの2週間をどのように使いますか。
「まずは個人ベースで治療などをしてもらい、チームとしては来週の木曜か金曜に集まってミーティングをして、準備をしていきます」
東芝ブレイブルーパス東京
リーチ マイケル キャプテン
「今日は雨にも関わらず、たくさんのファンが応援に来てくれて感謝しています。シーズンの第1節から第18節まで、鹿児島や札幌でも試合がありましたが、遠いところまでたくさんのファンが見に来てくれて感謝しています。ファミリーロード(試合後に選手がファンを見送るイベント)も最後でしたが、ファンの顔を覚えてきたので、最後に優勝してまたファンのみなさんと会いたいと思います。今日の試合は自分たちにフォーカスして、勝ち点5を取ろうと思ってやってきました。自分たちのディフェンスではタックルの精度をもっと上げないといけません。1位通過でリーグ戦が終わって、少しブレークを挟んで24日に秩父宮ラグビー場でプレーオフトーナメント準決勝があります。そこに向けて体をリフレッシュして、負けたら終わりのプレッシャーを感じながら準備していきます。次は負けたら終わりなので一生懸命やっていきたいと思います。レギュラーシーズンで18試合を戦ってきた積み重ねを、24日にすべてぶつけたいと思います」
──最後のトライで勝ち点5が決まりましたが、どのような心境でしたか。
「今季をとおして、試合の最後までトライを狙いにいくというマインドをもってやっています。自分たちのためでもありますし、せっかく観に来てくれているファンのためにもアタックで強い意志を見せられればと思っています。最後にモールを組んで、キックでトライになったのは、マインドセットが良かったと思います」
──トップリーグ時代の2010~2011シーズン以来のレギュラーシーズン1位通過となりましたが、いかがですか。
「特に試合前から意識していなかったのですが、間違いなく『強い東芝が復活したな』と思っています。大事なのは上位にいることです。連覇が懸かっているので、次の試合に向けてしっかりやりたいと思います」
──1位通過と2位通過で違いはありますか。
「1位になると準決勝は土曜日で、2位の準決勝は日曜日なので、決勝に向けた準備が一日増えて、それだけリカバリーができるのが違いだと思います。プレーオフトーナメントに向けては酸素治療をしっかり毎日やって、リフレッシュして、治すところは治していきます。何よりもメンタルを鍛えてやりたいと思います。スイッチは切らずに準備したいと思います」
──負けたら終わりの準決勝に向けての準備について。
「どうやって強みを出すか、どうやって相手の強みを消すか……あとは規律です。昨季の優勝の経験があって、大学で優勝した選手もいますし、リッチー・モウンガもいるので、ゲームマネジメントをどうしていくかをしっかり話していきます。シンプルに自分たちの強みを出していくことが大事です」
横浜キヤノンイーグルス

横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「今季はなかなか思うような結果が出なくて、チームとして残念です。今日は嶋田(直人)の引退試合だったので、勝ってみんなで送り出そうとしたのですが、望んだ結果にはならず残念です。嶋田はこれから指導者の道に進むと思うので、負けた試合でも胴上げされるような監督になってもらえればと思います(笑)」
※注:この日の試合後に選手たちが沢木監督を胴上げ
──シーズン後半にけが人も出ましたが、チームとして息切れした要因はありますか。
「けが人はシーズンの中で出ることはあります。ただ、一年間しっかりと細部にこだわって、毎回毎回のトレーニングにもこだわって準備しないと、崩れるのは本当に早いと思います。そういう環境を作れなかった僕の責任です。昨季はけが人が出ても、代わりに出たメンバーが頑張って、チーム力がそんなに落ちることはなかったのですが、今季はうまくいかなかったですね」
──土永旭選手がデビューしましたが、いかがでしたか。
「ポテンシャルはもちろんあると思います。ただ、まだまだレベル的には全然足りないですし、ファフ・デクラークもいる環境の中で成長できれば、将来が楽しみだと思います」
──来季に向けてどういうところを改善しくのか教えてください。
「やっぱり、こだわりをもつこと。『勝つ』というのは難しくて、大概の勝利は細部に宿っていると思います。日頃から全員でこだわりをもってやるのがすごく大事だと僕は思うし、そういうこだわりを信じてやることが大事だと思います」
──今季の最終戦となりましたが、どんな意識で準備をしていたのか教えてください。
「イーグルスのラグビーをやろうということです。ミスを恐れてチャレンジしないのではなくて、しっかりイーグルスのラグビーにチャレンジしようという話をしてきました」
横浜キヤノンイーグルス
嶋田直人ゲームキャプテン
「目標としていたところに行けず、最後の試合に負けてしまって残念です。ただ、イーグルスらしさは随所に出せたと思います。来季、残るメンバーはもっと良い景色を見られる場所まで行けると思うので、僕はそれを応援したいと思います」
──今季を振り返っていかがでしょうか。
「今季はファイナルの舞台に立って優勝を目指そうということでスタートしたので、目標を達成できなかったことは残念です。ただ、勝負ごとなので、勝つこともあれば負けることもあります。チームメートはみんな一生懸命やっていましたし、手を抜いている選手もいませんでした。この悔しさを全員で来季、晴らしてくれればと思います」
──沢木敬介監督に学んだことで印象的なことがあれば教えてください。
「毎回の練習で100%を出す、そのための準備をしっかりする、こだわりをもつという細かいところです。どんな強度の練習でも自分たちのスタンダードでやろうというのは、沢木さんが来てから変わったところだと思います」
──引退試合となりましたが、一週間どんな準備をしたか教えてください。
「週の初めはあまり実感がなくて、今日の試合もそんなに実感はなかったのですが、最後に古川(聖人)選手と替わったときに『終わったんだな』と思いました」
沢木監督「80分出す予定だったんだけど、肉離れしたから(笑)」
嶋田「すみません(笑)」
──立命館大学から同期の庭井祐輔選手とは、どんな話をしましたか。
「朝、LINEをくれて『一緒に出られなくて残念だけど、楽しんで』と連絡をくれました。彼とは大学の18、19歳から一緒にやっているので、一緒に出られなくて残念でしたけど、『ずっと一緒にやってくれてありがとう』と伝えました」
──交代する際に大きな拍手でしたが、どんな思いでしたか。
「本当にたくさんの方に応援してもらってうれしかったですし、感謝しかないです。現役生活ではほとんど負けてきたので(笑)、キツいシーズンもありましたけど、3位になったシーズンもありましたし、2年連続でプレーオフトーナメントに出たこともあったので、良いキャリアを歩めたかなと思います。悔しい思いもしましたけど、その悔しさが僕の今後の人生の力になると思います。良いラグビー人生でした。これからは指導者の道に進もうと考えています。厳しくも、選手と一緒に成長していけるような指導者になれたらと思います」