NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント準々決勝
2025年5月18日(日)14:30 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs 東京サントリーサンゴリアス
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

5月11日、母の日。
ちょっと野暮な質問かなと思いつつ「何か贈り物はしましたか?」と聞いてみると、母親想いとして知られる彼は、柔らかい優しさを感じさせるトーンでこう答えた。
「ビューティー系のギフトセットと、『お母さんありがとう』のメッセージを添えた花束です」
「私も見習わないと」と返すと、「あなたもそうするべきですよ!」と笑いながらもどこか真剣に、そんなひと言を残した。
ラグビーワールドカップ2023フランス大会で負傷したマルコム・マークスは、昨季、母国・南アフリカからクボタスピアーズ・船橋・東京ベイの戦いを見つめていた。チームは6位と低迷。画面の中にあったのは、苦戦の渦の中でもがく、仲間たちの姿だった。
「それについて私が何かを言うのは難しいです。傍観者の立場から、あのとき何が起きていたかを推測するのは簡単かもしれません。でも、起きたことは起きたことですし、もう過去のことです。いまはプレーオフトーナメントという次の舞台に向けて、集中しています」
世界最高峰フッカーと呼ばれる彼がオレンジのジャージーに袖をとおすようになり、今年で5年の月日を数える。マークスにとって、スピアーズは「第二の故郷」であり、昨季は戦線から離れていたものの、「初日から温かく迎え入れてくれる、家族のようなクラブ」だと話す。
在籍したこの5年の間に、チームはアタック、ディフェンス、セットピースと、あらゆる面で着実にレベルアップを遂げているという。「そうした小さな成長の積み重ねが、大きな成功につながっている」。彼はそう、分析する。
次なる戦いはプレーオフトーナメント準々決勝の東京サントリーサンゴリアス戦。タフでハードな試合になることは想像に難くない。一発勝負のトーナメント。敗れればそこですべてが終わる非日常的な空間で、「チャレンジをどれだけ楽しめるか。そして自分たちのベストを尽くせるか」。そのための準備は、決して怠らない。
チームにとっては2シーズンぶりのプレーオフトーナメント進出となる。今季、好調な理由について話を向けると、「2023年と2024年、2025年と状況が大きく異なっているので、一つだけを特定するのは難しい」と前置きした上で、思いをそっと語った。
「全体がうまく機能していること、共通の目標に向かって努力していること、そしてみんながベストを尽くしていることだと思います。クラブ、家族、サポーターのために誇りをもってプレーし、全力を尽くすことが大切なのです」
丁寧に言葉をチョイスしながら、質問に真摯に対応するその姿勢からは、プロアスリートとしての意識の高さが静かに伝わってくる。その強さの根源にあるのは他者への思いやりと、視線を落とさず前を向き続ける揺るぎない意志。マークスはこの週末、仲間とともに“もう一つの家族”のために戦う。
(藤本かずまさ)